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夏の自販機

 なんて日だ(笑)。


 連日35℃越えの猛暑日。

 高校2年生の早紀は、部活帰りに喉が渇いたので、タバコ屋の自販機へと立ち寄った。


(どれにしようかなっと)


 カラカラの喉を潤すには、サイダーでしょっと、彼女はポチッとボタンを押した。


 ガタン。


 商品が落ちる音がする。

 早紀は腰をおろし取り出し口からジュースを取り出そうとするが、空っぽだった。

 取り出し口に手を伸ばして確認してみるもスカスカである。

 だけど、上にある商品が落ちてくる部分が膨らんでいて、それが手にあたり感触があった。

 彼女は熱いアスファルトにタオルを置いて膝をつき、取り出し口を覗き込んだ。

 確かに、頭のキャップが見えている。

 じんわり。

 額に汗をかきつつ、


(よいしょ)


 と、早紀は手を奥に伸ばす。

 右手でキャップを摘まむと、引っ張り出そうとするが、うまくいかない。

 全身に汗をかき、膝が動いてタオルから離れ火傷しそうに熱い。


(何やってんだ、あたし)


 と、思いつつ、諦めようかとも思ったが、がぶ飲みしたい欲求と、もったいない精神が働き、なんとかゲットしようと足掻いてみる。


「あ」


 思わず、彼女は声にだした。

 変な角度で右手が機械に挟まり抜けなくなったのだ。

 毛穴から噴き出す汗、汗、汗。


「助けてください」


 早紀は助けを求めるが、人通りはなく、タバコ屋のおばちゃんはテレビに夢中で気がつかない。

 変な姿勢なので頭にも血がのぼって来て、痛くて暑くて気持ち悪くて仕方ない。


(なんて日だ)


「なんて日だっ!」


 早紀はつい叫ぶ。


「犬嶋?」


 声がした。

 この声は憧れの今井先輩だ。

 意識朦朧の中、とんでもない醜態を見られた恥ずかしさで、彼女は卒倒しそうだった。


「なんて日だっ!」


 再び叫ぶ。


「待ってろ」


 今井は早紀の右腕をとり、ゆっくりと自販機から離す。

 想い人にレスキューされる、嬉し恥ずかしや。


「なんて日だ・・・」


 早紀は羞恥で顔を両手で隠す。

 そんな彼女に今井は耳元で囁いた。


「そんな事ない。今日は俺、お前に告ろうと決心していたんだ。だけど、言えなかった。でも、会えた。これは運命なんだ。犬嶋、俺はお前が好きだ付き合ってくれ」


 今井は思わず早紀をお姫様だっこする。


「なんて日だ!」




 暑い日には気をつけませう。

 こうなると、なんでもアリだな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 古人曰く、禍福は糾える縄の如し。 幸と不幸の入れ替わりが激しくてドラマチックですね。 自販機に腕が引っかかって熱中症になりかかったのは不運でしたが、憧れの先輩から告白して貰えたのは幸運でし…
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