パワハラ上司の末路
やっている本人は分からないんですよね。
コロナ明け久しぶりの会社の飲み会、碇寛二は全く気乗りがしなかった。
それにはパワハラ上司の菰田佐喜夫の存在があった。
なので体調不良だの理由をつけて会をキャンセルしようかと思った。
しかし会の幹事である菰田に言おうとした瞬間、
「なあ、碇お前、出席にしといてやったぞ」
「えっ。俺、体調が・・・」
「てめー仮病ばっかつかってんじゃねーよ。この前だって・・・」
と、一年以上前の病欠した話を蒸し返す菰田、小10分の説教のあと、碇の出席が決まった。
彼は止む無く頷くしかなかった。
もはや碇は限界を迎えようとしていた。
常に胸の裏ポケットには辞表を忍ばせ、機会をうかがっていた。
そういうところまで彼は追い込まれていたのである。
そんな憂鬱な気分のまま碇は飲み会に参加した。
菰田の隣という最悪のポールポジションに位置し、彼はひたすら時間が経過することを祈った。
酒も入り、上機嫌な菰田は、同僚や上司の目の前で、碇を叱責しはじめる。
はじめは冗談ぽくかわしていたものの、菰田の目が座り、速射砲のように心踏みにじる言葉にまわりもドン引きしはじめた。
「なぁ菰田、お前はどうして、そんなに使えないんだ」
(なんで、人前でそんな事が言えるんだ)
「この前も失敗、前も前も、俺が助けてやっているからいいものの・・・おい、感謝しているか」
(それは、お前の失敗だろ。泥をかぶったのは俺の方だ)
「あん。答えてみろや。黙っていれば誰かが助けてくれると思っているのか」
(あ~もうやめてくれ)
ついに、碇は顔を菰田から背けた。
「てめ・・・」
菰田は碇の首に手をかけようとするが、
「まあまあ、酒の飲み過ぎですよ」
と、菰田は周りのみんなに諫められる。
「辞めちまえ、馬鹿野郎!」
KY菰田が言った瞬間、碇は裏ポケットにずっとしまってあった辞表を、彼の顔面に叩きつけ外へ飛び出した。
飲み会の席は急にしらけてしまう。
口々に言い過ぎだと非難された菰田は、バツが悪そうに先に帰る事にした。
その帰り道。
「おい!」
背後で声がした。
碇が血走った目で睨みつけている。
「碇・・・ちょっと言い過ぎたか・・・すまん」
碇はツカツカと菰田に迫って近づいて来る。
「ま・・・て」
ズブリ、わき腹に出刃包丁が押し込められる。
ぐるりと碇は怒りと殺意を持って凶器をねじる。
仰向けに菰田は倒れた。
彼の周りが鮮血の海と化す。
空を見た美しい星々が瞬いていた。
こうなる前に・・・。




