こんなはずでは
ももたろう。
♪ももたろさん、ももたろさん~・・・♪
鬼ヶ島の鬼を退治した桃太郎は意気揚々と故郷へと帰っていくのでした。
その帰路。
雉娘が立ち止まります。
「桃太郎さん、ここでお別れです」
「ああ、ご苦労さん、ありがとう」
「・・・はぁ?ありがとうだぁ?言葉だけで、簡単に済ませようなんて許さねぇからな」
「・・・・・・」
「契約書交わしたろ。ぶんどった財宝の2分の1をこちら側が受け取るって」
「そんな馬鹿な」
「契約書も見ずに、すぐ仲間にしようとしたのが、お前の運のツキだな」
「あ、小さい字で細かく書いていた・・・」
「とにかく、約束は約束だから、財宝半分貰っていくぜ」
「お前は雉じゃないっ!鷺だサギだ詐欺」
「ふふふ、元ご主人様、最高の褒め言葉ですわ」
次に猿男が、
「そろそろお暇します」
「そうか、世話になった」
「はーん!世話になっただとう。ワレこらっ!誠意みせんかい」
「・・・と言いますと?」
「この世は銭銭銭じゃあ・・・ぶんどった金貨ぜんぶよこしな」
「・・・それは」
「エテ公思うて舐めとんのかいワレっ!鬼征伐24時間休めない不法労働で出るとこ出て訴えるぞっ!きっ貴様!」
「・・・わかった」
「わかればよろしい。いつも現金ニコニコ払い」
「・・・銭ゲバ」
「最あんど高の褒め言葉サンクス」
そして村の手前で犬男も、
「桃太郎さん、お別れです」
「達者でな」
「くぅーん、私には妻、子ども、親兄弟がいます。皆ひもじい思いをして、稼ぎ頭の帰りを待っているのです」
「・・・そうか、ではこれをやろう銀貨10枚だ」
「・・・あんちゃん。ふざけるのも大概にしいや!こちとらタマはってんねんぞ!命の代価が、たったこれっぽっちか!アホンダラっ!いてこますぞ!」
「では、いかほど・・・」
「全部身ぐるみ、有り金ぜんぶよこしな」
「飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこのこと」
「わんわん、うれしい褒め言葉だわん、わんだふる」
「チッ!ケツの穴まで毟り取られた」
桃太郎は舌打ちをします。
しかし、言うて桃太郎は、今や鬼退治をした英雄なのです。
財宝なんてなくても問題ありません。
きっと、おじいさん、おばあさん、村人たちは手を叩いて喜んでくれるはずです。
ところが・・・。
「桃太郎、おめ、財宝はどうした?」
「供のあいつらにくれてやった」
「おめぇは馬鹿か」
「大馬鹿だ」
じじぃとばばぁが桃太郎をののしります。
挙句の果ては村長が、鬼退治の英雄を指さし。
「こいつは、鬼を倒したモンだが、鬼より強ええというこっちゃ、そんな大きすぎる力はきっと村に災いをもらたす。即刻でていけ!」
「桃太郎去ね」
「去ねよ」
村人たちは桃太郎を畏怖し、罵り石を容赦なく投げつけます。
彼は血まみれのまま茫然とします。
(俺は・・・俺は・・・何の為に)
桃太郎の頭上に角が現れます。
怒りで我を忘れた桃太郎は、己の本能に身を任せます。
村人たちは逃げまどいました。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
その村は一日にして壊滅したそうです。
そして一匹の鬼が鬼ヶ島の方へ消えて行ったそうな。
人って怖いからね。




