異世界帰り道
異世界で平和をもたらした主人公は・・・。
俺、藤丸喜一は、ひょんなことから異世界転生を果たし、この度、仲間とともに魔王ゾルべを打倒した。
かねてより、相棒である勝利の女神ニケにより、魔王打倒の暁には、神御業である現世転生の儀より元の世界に帰れるという契約が結ばれている。
黄金の髪をたなびかせて、俺の愛しい女神は決断を迫った。
「さあ、キイチ、魔王討伐の宿願は果たされました。あなたの望みを・・・」
「俺は・・・」
「この世界にとどまって、私と共に生きるのも選択肢のひとつ」
「俺は・・・」
「それはあなたの自由なのです」
「俺は、げん・・・せ」
「キイチ!」
女神はギロリと俺を睨んだ。
「・・・すまない、ニケ・・・」
「ああ、とんだ間違いの選択をしようしている、あなた・・・私は神だから心が読めるのよ」
「・・・でしょうね。ずっと俺の心が筒抜けだったもん・・・だったら」
「・・・だったら何?あなたっ!女神の私より、観そびれた某スパイアニメが観たいって、どういう了見なのですか」
「・・・だって、見たいから」
「ニケ、激オコぷんぷん丸っ!」
「だって、しょうがないじゃないか」
「愛より勝るものはないのよ。ここにいればずっと幸せなのよ」
「ニケ、男は時として譲れないものがある」
「たかが、アニメに、ええ顔して言うな」
「ジャパニーズ、アニメーションを侮るなっ!」
「私はあなたを愛しているの」
「俺だって!だけど悔いだけは残したくない」
「ぐぬぬぬ」
「むむむむ」
俺は一歩も譲る気はない。
この為に艱難辛苦を乗り越えて魔王討伐をしたのだ。
退かぬ媚びぬ顧みぬだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ニケは見る見る涙目になる。
俺はいたたまれなくなった。
「・・・なあ完結まで観たら戻ってきてもいいから」
「なにその上から目線・・・あなたってバカね、奇跡なんて2度も起こらないのよ」
「それでも俺は・・・」
「わーったわよ」
ニケは神の錫杖を構える。
「この者の御霊をあるべき場所へ還せ」
一振りすると、俺の身体が薄れていく。
「ありがとう」
「バカ・・・本当に馬鹿っ」
彼女は涙を浮かべ別れを告げた。
唇が動く。
「何」
(サヨナラ)
ぽとりニケの瞳から大粒の涙がこぼれた。
◇◇◇
喜一の視界から女神ニケの姿が消えた瞬間だった。
彼の肉体意識記憶がすべて消えてしまう。
ソウダッタ・・・オレハ・・・シンデイタ。
刹那、その事実だけが彼の脳裏に焼きついた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
そして、現世に彼はいない。
そんなに甘くない。