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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
職場廃業編 ~”お前など何の役にも立たない”と解雇するなんて、ここが廃業になるけど大丈夫?~
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3-21.道化師との攻防(第三者視点)

 21.道化師との攻防(第三者視点)


 ついに、破滅の道化師が姿を現した。

 世界を制する最強の皇国が手を焼いている相手だ。

 絶対に油断はできない。


 道化師は看守室との境目で、おどけだポーズで問いかけてくる。

 ただしローガンの供述どおり、人間のほうは無言の笑顔で、

 声を発したのは杖の先についた人形の頭だ。

「オッカシイなあ。ナーンデあなた方がいるんですか?

 (あるじ)を守らなくて良いのカナ? それとも見捨てた?」


 彼の計算では、リベリアとクルティラも同行すると考えていたのだろう。

 この二人はアスティレアの護衛だから。

 クルティラが、道化師の重圧に負けず必死に答える。

「おあいにく様。信頼しているからこそ別行動が取れるのよ」

「”守る”というのが側にいることだと思ってらしたの?

 きっと守ったことも守られたこともないんですわね、お可哀そうに」

 リベリアもいつもの毒を吐くが、額には汗が浮かんでいる。


 道化師がローガンに古代装置を与えた目的はまだ不明だ。

 もちろん人造オパールを量産させることではないだろう。

 リベリア達が先ほどローガンが口走った言葉を聞いてわかったのは

 道化師はローガンに”革命を成功させろ”と命じていたことだ。


 最初はオパールの販売によって多額の資金を得ることで、

 国王より国に対する影響力を持たせようとしたのだろう。

 それに失敗したから武力で制圧するのか? そんな馬鹿な。

 そもそもローガンに国の実権を握らせて、

 道化師は一体何がしたいというのだ?


 めまぐるしく考えを巡らせる二人に、

 道化師、いや杖の先についた人形の頭は笑う。

「そうか、ヨカッター! やっぱり君たちは仲良し三人組ナンダネ!

 じゃあキミたちがここで死んでいるのを

 あの神霊女王はどんな顔してみるのかな?

 うーん、すっごく楽しみだネ?」

 リベリア達は一瞬恐怖で凍り付いたが、すぐに戦闘態勢に戻る。

 道化師もローガンも、ここで封じておかなくてはならない。

 そして持ちこたえなくては。絶対に。


 道化師は陽気な仕草でローガンたちにハッパをかける。

「さあ、もう一回! やってミヨー!」

 ローガン達は向かって来ようとしたが、困った顔で道化師を見る。

 床の兵士たちも、クルティラたちもバリアで守られているから

 どこを攻撃して良いか自分たちでは分からないのだ。


 道化師が一瞬、イラっとしたことをリベリアたちは感じた。

 しかしすぐに陽気な口調に戻って言う。

「じゃあこの会場を、もーっと楽しくしちゃうヨオ!」

 そう言って杖をかかげる。


 パキッ。四方の壁に大きな亀裂が走った。

 それはこの部屋だけでなく、看守室や独房の壁まで全てにだった。

 バキバキ音を立てながら、あっという間に割れ目が広がっていく。

 さらに床の大理石が大きくひび割れて、うねり始めた。

 怪我人たちが瓦礫に挟まれそうになっている。


 壁が全て取り払われて広くなった空間を

 バラバラになった石材が波打っているのだ。


 当然リベリアやクルティラもそのうねりで態勢が整えない。

 さらにこのように、バラバラのものが常に動いている状態では

 保護対象の位置を正確に認識することが難しいため、

 数多くのバリアを同時に維持するのが大変困難になってしまう。

 それが、道化師の狙いだったのだが。


 必死に怪我をした兵へのバリアを維持しつつ、リベリアは焦った。

 破滅の道化師は優れたメイナ使いというのは知っていた。

 それも”無限に生み出す者(フォンセターナス)”だというのも。


 しかし部屋を全て破壊し、貴族たちをそれぞれ空間で安定させ、

 さらに自分のバリアに重力を常にかけ続ける……

 ここまでメイナを扱う能力が高いとは。

 こんなことができるなんて、アスティレア並みではないか。


 最初は恐怖や驚きで叫び声をあげていた貴族たちは、

 自分たちが宙に浮いていることに気が付いた。

 しっかりと立っているつもりだが、足の下は空間なのだ。

 これなら、この状態でもどこでも行ける!


 そう思ったのもつかの間。


 仲間の肩を蹴って、クルティラが舞っているのが見えた。

 そう思った時には、彼らの武器を持った手にはナイフが刺さっていたのだ。

 ガチャンと音を立てて落ちる武器。

「痛いっ! いつの間に!」

「早え!」

 クルティラは貴族たちの状態が安定していることを瞬時に見抜き、

 ()()()()()()()()()()移動し、それぞれの武器を落としていったのだ。


 しかしそのナイフはまたすぐに抜け、クルティラめがけて飛んでくる。

 それを貴族を盾にしたり、瓦礫の陰にすばやく身を隠して避け切る。


 貴族の傷はまたボールが飛んで来て、赤黒い粘液で覆われる。

 クルティラがまた、別の部分に攻撃をする。

 その繰り返しだった。


「うーん、粘るナア。あれっ? もしかして死ニタクナイ?

 じゃあローガンは先に行って、先に国王をパーティにお誘いシテヨ」

 そう言って杖を両手で持ち、上に掲げる。


 ローガンはふわりと宙に浮き、瓦礫の壁の間をぬって進み

 リベリアを飛び越え、ドアを抜けて階段を駆け上がっていった。


 リベリアは叫んだ。

「クルティラ! 行ってください!」

 道化師がローガンのために作った動線を、そのままバリアで確保する。

 慌てた道化師がクルティラの行く先を塞ごうと瓦礫の破片を飛ばすが

 それを予期したリベリアのバリアが早かった。

 クルティラはバリアの壁を蹴り、大理石の破片を足場にしながらジャンプし

 ドアのところまで飛んでいく。

 そしてローガンを追いかけて階段を駆け上がる。


 それまで一貫して陽気なふるまいだった道化師が。初めて舌打ちをする。


 リベリアが残った。

「ここは絶対に通しませんわ」


 床はガラガラと崩れたままうねりをあげる。

 油断すると兵を巻き込み、すり潰しかねない。


 必死に兵士を守りながら、それぞれに新しいバリアを発生させる。

 リベリアの足元はおぼつかないため、

 何度も転倒し、打撲の傷も増えている。


「守ってるだけダネ、大丈夫カナ?

 体力が尽きたら終わりダヨー?」

「ええご心配なく、ここは守り一方で良いのです。

 それが私の仕事ですから」

 リベリアの髪は乱れ、頬にはぶつけてできた傷がついている。

 防御の全てを怪我した兵士に回しているのだ。


 道化師は床のうねりを強め、壁の破片を飛び回らせる。

 もう視界がよくわからなくなっていた。



 が、その時。

 それらがピタッと停止したのだ。



 しばらくそのまま止まった後、ゆっくりとそれぞれが

 元の位置に戻っていくではないか。

 それは逆回りの映像を見ているようだった。


 ゆっくりと、しかし正確に、

 壁や床など全ての物が元の形状を取り戻していく。


 そして壁と床は多少ひび割れているが、すでに元通りになっていた。

 空間には砂塵すら漂ってはいない。


 これが……”神霊女王の力”だ。


 リベリアは微笑む。

 人形の頭は醜く顔をゆがませて舌打ちする。


 入口からメイナの膨張が感じられ、オレンジ色の閃光が連続して打たれる。

 それは直撃するかに見えたが、すんでのところで道化師は飛び去った。


 神霊女王(アスティレア)皇国の守護者(ルークス)が到着したのだ。

 勝ち目が低いと判断したのか、破滅の道化師は完全に姿を消していた。


「リベリア!」

 安堵と疲労で倒れ込むリベリアに駆け寄るアスティレア。

 支えられ、息を整え、笑顔で顔をあげるリベリア。

「……やはり残って良かったですわ」

 おかげで兵は守られた。奴らの出鼻をくじくこともできた。

 そう思って涙ぐみながら、アスティレアは強くうなずく。


 リベリアは頬に手を当てて嬉しそうに続ける。

「だってあの後、聞き込みのついでに、

 一日10個限定の焼き菓子が買えましたから」


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