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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
職場廃業編 ~”お前など何の役にも立たない”と解雇するなんて、ここが廃業になるけど大丈夫?~
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3-20.ローガンの革命(第三者視点)

 20.ローガンの革命(第三者視点)


「ここで分かれましょう」

 クルティラの言葉に、うなずくリベリア。

 ここはデセルタ国の城門の前だ。



 ソフィー救助のため、馬で駆けていくアスティレアを見送った後、

 表情を不安な面持ちに変え、リベリアはつぶやいた。

「……どうか、ご無事で」

 離れるのは心配だが、それでも白昼の誘拐劇に対する違和感が収まらない。

 クルティラも同様だった。人差し指をあごに当て考え込む。

「道化師の目的は何かしら」

 一番の謎は、道化師がローガンになぜ古代装置を無償で与えたのか、だ。


 二人は少しでも手がかりを得ようと、

 誘拐の現場に居合わせた人に聞き込みを開始した。

 やはり御者が道化の恰好をしていたのは間違いないようだ。


 しかし街中では大した情報は得られず、

 やはり古代装置かローガンの側にいたほうが良さそうだと判断し

 城までやって来たのだ。


 そしてリベリアは城周辺の探索(サーチ)をするために残り、

 クルティラは先に城内へと向かうことにした。


 城壁沿いを歩きだしたリベリアは、辺りを見渡す。

 城の周辺は緑も多い。その光景は平穏そのものに見えた。

 ”静かだわ……いつも、こんな感じなのかしら”


 すると向こうから、見回りをしているらしいデセルタ国兵に出くわす。

「あれ?! 皇国のメイナ技能士さんは……」

「ええ、彼女は東の採掘所へ行ったわ。私たちは残ることにしたの」

 彼は怪訝な顔になったが、

「まあ将軍様にも行っていただいたので大丈夫ですよね」

 その言葉にリベリア達は違和感を感じる。

 一般的にみれば、民間人による民間人の誘拐に、

 皇国の将軍が出向いたことになる。

 ”破滅の道化師”のことを、デセルタ国の人々は知らないのだ。


「デセルタ国の要請で? ルークス様が?」

「そりゃそうですよ、巨大な妖魔の出現ですからね」

 それを聞き、リベリアは目を見開く。

「巨大な妖魔ですって?! その情報って……」

「いや、それが出所は確認中なんです。

 町に駐在していたデセルタ国の兵士が、

 元・採掘所の人から聞いたって話なんですが。

 いろいろ不明な点が多くて。

 まあ()()()()でしたら、皆さん戻ってくるでしょう」


 違う。それではきっと遅いのだ。

 リベリアは白シギを呼び、皇国の調査員に指令を出す。

「緊急通達よ。それも”コードJ”。目的・対象は不明。

 全ての皇国兵に城を中心に厳重な警備に当たらせて」

 破滅の道化師を表すjesterのJ。

 これは特殊コードの一種で、破滅の道化師に対する警戒を呼び掛けるものだ。


 緊急通達と聞いて、それまでノンキな顔をしていた兵は凍り付く。

 リベリアは手短に伝える。

「城内と城外を厳重警戒するように、すぐに連絡してください。

 おそらく国家的な危機にさらされています」

 生まれて初めてそんな恐ろしいことを聞いた兵は震えあがる。

「わわわ、わかりました。 でもどうしましょう。

 城の周囲って平和だから、あんまり兵士がいないんですよ!

 今まで特に攻めてくる者もいなかったから。

 ……とにかく、みんなに伝えます!」

 慌てて仲間の所へと走り出すデセルタ国兵と分かれ、

 リベリアも城壁沿いを急いで戻り、城の内部へと向かって走る。



 中に入ると、人が全くいないのだ。見張りも侍女さえも。

 すでにクルティラもいない。

 リベリアは勘づく。これはもう、始まっているわね。

 おそらくルーカス様がここを出るのと同時に()()()()したのだろう。


 無為に走り回る時間は無い。リベリアは手を組み合わせて祈り始めた。

 これは探索(サーチ)しているのだ。怪我人を探すために。

 おそらく敵も、そこにいるのだ。


 ************


 その数分前。

 先に入ったクルティラは、誰もいないフロアを駆けていく。


 戻ってリベリアに”異常”を知らせている時間はない。

 彼女(クルティラ)はかすかに漂っている、

 嗅ぎなれた臭いに気が付いたからだ。

 ……これは血の匂いだ。それも大量の。

 地下へと続く階段から、血の匂いが強く流れてくるのが分かる。


「ローガンたちが拘束されている地下牢ね」

 少し降りると、血だらけの兵士がよろよろと昇ってくるのが見えた。

 そして彼は顔をあげ、クルティラを見つけて叫ぶ。

「来てはダメです! お逃げ下さい!

 ローガン達が何か見知らぬ武器を持ち、脱走を企てました!

 すでに牢屋も看守室も抜け、下のフロアまでやってきています!

 彼らはあまりにも強く、抑えられません!

 逃げて、みなに知らせてください!」


 クルティラはうなずき、指笛を細く高く響き渡らせる。

 少し間をおいて、どこからか鳥の鳴き声が聞こえる。

 後は連絡用の白シギが、皇国兵に”ここで異常事態発生”を知らせてくれるだろう。

 このために、いろいろな場所に白シギを配置しているのだ。

「これで大丈夫」

 そういって階段を下りる。慌てた兵士が止めようとするのを

「ありがとう、私は大丈夫よ。早く治療を」

 といってすり抜ける。


 階段を下りた先は、ドアが開け放たれていた。

 中をそっと覗くと、かなり広いフロアだった。

 机や観葉植物などが破壊されたものが散乱し、大理石の床は血まみれだった。


 倒れている看守たちは、みな体のどこかを切られており出血もひどかった。

 後から応援に駆け付けたと思われる兵も倒れており

 それぞれがうめき声をあげている。


 立っているのはローガンとその仲間の貴族たちだけ。

 その全員が、異様な姿をしていた。


 まず貴族たちが手にしているのは、古代装置で制御された剣だった。

 肩に古代装置の本体がつけており、

 そこから伸縮するアームが二の腕から下まで保護しながら伸び、

 手に持った長剣へとつながっている。

 遠目で見れば、片腕だけが肥大した怪物のようだ。


 貴族たちは大興奮で、手にした武器を見つめたりブンブン振っている。

「これ、すげえよ! 勝手に軽々と切ってくれるんだぜ!」

「最強だよ、俺たち!」

「これさえあれば無敵ですね、ローガン様!」


 そのローガンは背中に大きな装置を背負い、両腕にみなと同じアームが伸び、

 両手共に”ハルパー”と呼ばれる、刀身が鎌のように湾曲した刀がついている。

 そしてそれ以外にも、背中の装置本体からは上下に4本のアームが伸びており、

 それぞれが違った刀を持っているのだ。


 合計6本の刀を自分の周囲に広げ、ローガンはニヤニヤと笑っている。


 そして転がっている看守の一人の足を踏み、

 痛みに声をあげるその喉元に剣を突きつけた。

 急に憎々し気な表情に変え、吐き出すようにつぶやく。

「よくもお前らのような下等な奴が、俺を牢屋に閉じ込めてくれたな。

 こっちがちょっと油断してりゃ、調子に乗りやがって」

 そういったかと思うと、また狂ったような笑みを浮かべる。

「俺を誰だと思っているんだ? ははは」

 明らかに情緒がおかしい。


「あの国王(ジジイ)め、ちょっと涙を見せただけで簡単だったな。

 ”1人で考えさせてくれ”と頼んだら見張りも減らしてくれたよ。

 だから()()()も難なく忍び込めて、俺たちを解放するだけじゃなく、

 こんな良いものまでくれたんだ」

 やはり道化師が牢に現れ、ローガン達を脱走させていたのだ。


「俺はさあ、こんな間抜けに捕まったことが情けなくて泣けただけだぜ?

 誰が反省だの後悔だのすんだよ? するわけねえだろ。

 ほんっと馬鹿ばっかだよ、この国は」

 そして顔を上げ、急にほうけたような表情で宙をみつめた。

「でも、()()()は言った。俺には才能があるって。

 天才だと、俺の本当の実力をわかってくれていた……

 ……そうだ、あいつは急げって言ってたな。

 あの皇国の将軍が出てったら、すぐにこの”革命”を成功させろって」

 そう言って、今度は鬼の形相に代わり、踏みつけた兵士を見つめる。

 そして大きく剣をふりかぶって叫ぶ。

「”新しい国王”を牢に入れたことを、死をもって償えっ!」


 しかしローガンの剣は看守には届かなかった。

 振り上げた剣はそのまま、後ろに落ちて大きな音を立て、

 ローガン自身もバランスを崩して倒れそうになっていた。


「痛ってえええ! なんだあ?!」


 ローガンの指に、細いナイフが深々と刺さっている。

 これでは剣を掴む力がどうしても入らない。

 そして重心をかけていた足のふくらはぎにも同じくナイフが刺さっている。


 冥府に招く貴婦人(インフェルドミナ)は何本同時に投げようと、決して的を外さない。

 そして冷たく言い放つ。

「緊急性を考慮し、重ねての古代装置の使用や国家反逆罪など数多くの罪により

 ローガンおよびその共犯者の刑を執行いたします」


 ローガンの顔が醜くゆがむ。

「皇国の女か?! 何故だ? 採掘所に行ったんじゃないのか」

 道化師は、そこまで計画を話していたようだ。


 ローガンが仲間に行けと命じる。が、誰も動かない。

 彼だけではない、他の者もそのほどんどがしゃがみ込んでいる。

「痛いっ! 抜けないぞ、これ!」

「うわあ足が! 痛いよお、ちくしょう」

 全員が、足を刺されているのだ。

 恐ろしいことに足の甲が床に串刺しにされている。


 彼らの武器はあくまでも、腕に特化しているだけだ。

 近づきさえしなければダメージも受けない上に、

 腕以外の部分、特に下半身はまるで無防備だった。


 何か道具を手にしたときは、利点だけに注目せず、

 それの持つ弱点のフォローも考慮しなくてはいけない。

 それが出来ない彼らには、過ぎたアイテムだったのだ。


「残念でした。あなたたちの計画はそこまでよ」

 その言葉にローガンが絶叫する。

「嘘だろお! 始めたばかりだぞ!」

 彼は目を血走らせて周囲を見る。そうだ、人質だ。

 まだ怪我をしていないほうの腕の剣を、看守に向けた。

「武器を捨てろ。そこを退け。さもなくば……」

「……つくづく見下げた男。”下等な奴”って自己紹介だったのね」

 クルティラの煽りに激昂したローガンは、見せしめに一人切り殺すことにする。

 どうせ人質など、たくさん床に転がってるんだ。


「うるせえ! お前のせいでこいつは死ぬんだ!」

 勢いよく突き刺した剣は、カツン! と堅い音で弾き返され、

 その反動でローガンは転倒してしまう。

「?!」

 目を剥いて驚くローガン達。


「どんなに良い道具を持っても、

 使う者がサルでは木の棒よりも無力ですわ」

 皇国でも屈指の神官、リベリアがすでに来ていたのだ。

 すでに床の看守たち周辺には、

 ドラゴンの炎も通さない最強のバリアが張ってある。


 同時に美しい文様が広がり、癒しと回復の波動が流れていく。

 傷が塞がり、血液を回復させる。

 ……倒れていた看守たちの顔色がだんだん戻ってきた。

 良かった、今のところ死者はいないようだ。安堵するリベリア。

「こちらに残って正解でしたわ」


 そもそも”人質になりうる者”が敵の近くにいる状態で

 やみくもに攻撃するわけがないのだ。

 リベリアの到着を確認したからこそ、直接手が出せたのである。


 たとえ古代装置を与えられようと、

 ローガンたちなど二人には手も足も出なかった。

 すでにクルティラは彼らを独房に戻すべくカギを探し出し

 リベリアは怪我人の回復に集中している。


「なんだよお。なんでだよ」

 足を固定された痛みで泣きわめく貴族たちと

 あまりにも短い天下に絶望するローガン。


 その時。


 空気が一瞬で重く変わった。

 クルティラとリベリアがはっ! と顔をあげる。


 貴族の足を固定していたナイフが自然と上へと抜け去り、回転した後、

 いっせいにクルティラたちへと飛んできたのだ!

 もちろん彼女たちにもバリアが張ってあるため、それは弾き落されたが

 二人の顔面は蒼白になっている。


 それだけではない。

 丸いボールがどこからか、ローガン達に向けて発射されたのだ。

 それは彼らの傷の部分に命中し、パシャンと水風船のように弾けた。

 中から赤黒い粘着質の液体がドロリと流れ出て傷を覆う。

 そして彼らの傷の上で盛り上がり、ドクドクと波打っている。


「うわあっ! なんだよこれ! ……あれ?」

「……すっげえ! 全然痛くないぞ」

「治った! 歩けるぞ!」


 彼らの傷はみるみる塞がり、痛みも感じないようだ。

 すっかり動きが戻っており、ブンブンと刀を振り回して喜んでいる。


「ヤッター! 良かったネ! それじゃパーティを続けヨウ!」

 フロアの最奥、看守室に続くドアから、ひょこんと現れたのは。


 さしもの最強の盾と矛も、恐怖のあまり動けなくなる。


 陽気な口調、軽快な仕草、ふざけた衣装。

 そして心の奥底を芯から凍らせるような、凄まじい殺気と怨念。


 ついに、破滅の道化師が現れたのだ。


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