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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
職場廃業編 ~”お前など何の役にも立たない”と解雇するなんて、ここが廃業になるけど大丈夫?~
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3-16.道化師の誘い(第三者視点)

 16.道化師の誘い(第三者視点)


 ローガンは糸が切れた人形のように放心していた。

 彼の全ての計画が(つい)えたのだ。

 古代装置と知りながら使用し、宝石を偽装販売した罪は重い。

 公爵家嫡男といえども、かなりの刑罰は免れないだろう。


 主犯とされた他の貴族たちは、自分に都合の良い言い訳したり、

 ローガンに全ての責任を被せようとした。

 言われるままにやっていた、などという理屈は通じるわけもなく

 彼らも間違いなく、皇国に連行され刑罰を受けるだろう。


 クリスのような下っ端は、古代装置の存在を知らさせないまま、

 ”どうやっているかは知らないけど、

  ローガンはオパールを見つけるのが上手いらしい”

 くらいの情報しか持たないため、共犯扱いからは逃れることができた。

 しかし全くの無実とはいかず、

 何にどのくらい関与しているか明らかになるまで、

 自宅謹慎を言い渡されていた。



 尋問を受けた後、帰宅したクリスは、自室で頭を抱えて震えていた。

 ブリアンナと結婚して公爵家と繋がりが出来ることで、

 地位もお金も手に入れるはずだったのに。

 例の婚約披露パーティでの大失態ですっかり破談になった上、

 公爵家からは多額の慰謝料を請求されている状態だった。

 しかもローガンが捕まったことで、自分も犯罪者になるかもしれないのだ。


 自分の人生の余りにもひどい転落ぶりを、いつものように責任転嫁する。

 ”ローガン様、頼りにしていたのに。

 自分を誘惑したブリアンナも悪い。

 ……いや、あいつが来てから全てがおかしくなったんだ!

 あいつが国王に連れられ製造所に来て、

 視察と称して俺たちにいろいろ口を出してきて。

 ……最後にはソフィーを連れ去ろうとしている”


 クリスは憎しみのこもった目で顔を上げる。

 ”何もかも奪われてなるものか。それだけは阻止してやる”


 ふと、窓の外に誰かいるのに気が付く。

 ”誰だ? こんな時間に。

  そして……何を笑っている?”


 ************


 厳重な警備が敷かれた部屋で、国王やアスティレアたちの前で

 ローガンは古代装置をを入手した時の話をした。


 それはファンタスティックとも、悪夢のようともいえるものだった。



 ”あれは二年くらい前。

  あのつまらない鉱山にある別荘は、俺たちのたまり場だった。

  この国の泥臭さや地味臭さが好きになれず、

  かといって他の国には”山師の子孫”だって、

  馬鹿にされているような気がして出ていく気にもなれなかった。


  いつものように浴びるように飲んで、みんな酔いつぶれたころ、

  気が付くと誰かが呼んだのか、一人の道化師が芸を披露していた。

  たまに道化師や女、楽師なんかを、金で雇って呼びつけてたからな。

  別に驚きはしなかったが。


  そいつはカードの、ジョーカーのような姿をしていた。

  左右にロバの耳の飾りがついた、顔だけ出せるマスクを頭からかぶり

  首回りと腰回りに、ギザギザした飾りをぐるっとつけたタイツ姿。

  宮廷道化師っていうんだってな、後から知ったよ。


  道化師だから顔は真っ白に塗られていて、唇は太く赤く、常に笑顔だ。

  目は、周りだけじゃなくて全て真っ黒だった。

  まるで大きな黒い丸が二つ並んでるみたいに。

  なんとなく愛嬌のある、ユニークな顔だった。


  でも、芸のほうは全然ダメだったね。

  下手糞なアクロバットやジャグリングで、()()()()()()()()だった。


  ただ腹話術だけはめちゃくちゃ上手だったよ。

  そいつはいつも、片手に長い杖を持っていたんだが、

  その先っぽには、道化師と同じ顔した人形の頭がついているんだ。

  よく出来ているカラクリで、その頭だけの人形はよく(しゃべ)

  表情も笑ったり、怒ったり変わるんだ。すごかったな。


  それでそいつがダメな芸をするたびに、

  杖の先についている人形の頭が、ダメ出しをしたり突っ込みをいれるんだ。

  自分は何一つ言わずに、あたふたと惨めに動き回るんだけど

  その情けない動きに合わせて、人形の頭がボロクソに言って笑わせるんだ。

 「おいおい、お前はホントにダメな奴だなあ。使えない奴め」

  自分の道具に言われるんだぜ?

  俺は一人でその滑稽な姿に大笑いしていた。


  しばらくすると、いきなり手品を披露し始めた。

  ……まあ、宮廷道化師では定番の芸だな。

  どこからか黒い箱を出し、中身が空なのを確かめさせる。


  その時、杖の先の人形の頭がいきなり言ったんだ。

 「こいつは本当にダメだが、この国の奴らもほんとにバカばかりだ」

  もちろん俺は頭にきて立ち上がった。すると人形の頭は言う。

 「だって、目の前のお宝を見て見ぬふりしてるんだぞ?

  ここは本当は、宝の山なのに」


  そういって、その辺に転がった採掘した小さな石を拾い、箱に入れたんだ。

  しばらく下手な踊りを踊った後、箱を俺の前に向けたんだ。

  タイミングよく箱が勝手に開いたら……

  中にはオパールに変わった石が入っていたんだ。

 「ここの石は全部、こんなに綺麗でお洒落な石なんだぜ?

  この箱に入れて……そうだな、この山の土深くにでも埋めておけ。

  そうすりゃ土のメイナ吸って、オパールの出来上がり~」


  最初は全然信じちゃいなかった。

  でも、何回試しても、ちゃんと石はオパールになったんだ。


  俺の酔いは醒めてきた。そして道化師に尋ねる。

 「これって違法じゃないのか?」

  人形の頭は笑った。

 「誰がそれを知る? 誰が取り締まるというのだ?

  みんな無能ばかりじゃないか。

  皇国の奴らなんてみな、中央で偉そうにしているだけさ。

  自分のことばかり。世界のことなどまるで興味がないのさ」


  俺はその箱を言い値で買うといった。

  しかし道化の返事は、金などいらない、だった。

  こんな宝の山と、俺の才能がもったいない、と言ってくれた。

  だからどんどん使ってくれ。使わないと損だぞ、使う方が自然だ。

  そういって人形の頭は高笑いした。


  だんだん薄れていく意識の中、その笑い声と、

  杖を持っている道化師が首を横に振っているのが目に入った。

  どっちが真意なんだ? 使えというのか。使うなというのか。

  そう思いながら、すっかり眠ってしまったんだ。


  次の朝、目が覚めて、自分の都合の良い夢を見たんだと思った。


  でも、あったんだ。

  目の前に、あの黒い箱が”


 ************


 典型的な彼らの作戦だった。

 宮廷道化師の恰好をして近づき、

 古代装置を”便利な道具”だと言い、

 無知で欲深い人々にそれを使わせる。


 重い鎖につながれたローガンは涙を流していた。

「本当にこの国が、みなに憧れられるような

 格好良くてお洒落な国になると思ったんだ。

 変えたかったんだ。国も、自分も。

 俺には才能があるって思いたかったんだ」


 デセルタ国王は皇国に慈悲を乞いたい気持ちでいっぱいだったが

 罪の重さを知る以上、必死にそれを堪えていた。

 国王が顔を覆いながら諭すようにいう。

「お主には確かに才能があったぞ、ローガン。

 まだ小さい頃から、多くの子どもを集めて上手に遊んでいた。

 お前は確かに、人に指示する才能はあったのじゃ。

 それを正しいことに使えば、どんな大物になったことか」


 アスティレアが国王の前に進み出て言う。

「私は今まで正直”破滅の道化師”に対して恐れを感じていましたが、

 でも今は違います。激しい怒りを感じています。

 道化師さえ現れなければ、彼はここまで道を踏み外すことはなかったのに」

 うなずく、リベリアとクルティラ。


「道化師を捕らえ、古代兵器を使わせるに至るまでの工程を吐かせます。

 もし精神的なコントロールを行っていたなら、

 情状を大きく考慮される可能性があります」

 少しでもローガンの裁判が有利に働くように。


 静かに涙を流してうなずく国王と、泣き崩れるローガンを前に

 アスティレアたちは道化師の確保を固く決意していた。


 そんな彼女たちの想いは、あとでローガン自身に粉々にされるのだが。


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