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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
職場廃業編 ~”お前など何の役にも立たない”と解雇するなんて、ここが廃業になるけど大丈夫?~
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3-10.元・婚約者の暴挙

 10.元・婚約者の暴挙


「東西の採掘所でただの岩石だったものが、

 南の加工所に来るときはオパールになっているのですから

 どう考えても北の検分所に古代装置があるはずなのですが」

 リベリアがつぶやく。そうなんだよね。

 そこで古代装置を使って、不正にオパールを製造しているのだろう。

 それはわかってはいるのだが。


 北の検分所は、もともとローガンの家の別荘があったところだ。

 山深く、なかなかの景勝地だそうだ。

 そこには、選ばれた人間しか滞在していない。

 しかも滞在するのは”これは”という岩石が出た時だけだ。


 リベリアは例の”職場の安全確認”という名目だったから

 それなりに丁寧に扱われ、あっさりと案内されたそうだ。

 検分する場所だけでなく、搬入口や加工所への搬出口まで

 全て見ることが出来たんだって。


 私に対しては失礼極まりなかった。

 ちょうど岩石が届く日を狙って行ったのだが、

 現場で指示する役目の貴族に、

「作業現場を確認させていただきます」

 といったら鼻で笑われ、

「お前が見て何がわかるの?」

 と無視された。


 皇国の証書を提示し国王の依頼だといっても

「はあ? お前が? ……めんどくせえなあ」

 他の貴族に呼ばれたと思ったら

「このへん掃除しといて。グズグズするな、手早くな」

 とほうきとちりとりを渡される始末。

 私は調査で来ていますと言っても

「何をするかはこっちが決めるんだよ。

 派遣されてきた人間が仕事に文句を言うな!」

 と叱られる始末だった。彼らは全然分かってなかったのだ。


 最初はめんどくさいな~と思っていたけど

 それを何度も繰り返し見るうちに、

 彼らの強烈なコンプレックスが感じられ、少し哀れに思えたのだ。

 ローガンをはじめ全員、見下されることに強い劣等感があるらしい。


 私に可哀そうな生き物を見る目で見られているとは知らずに

 彼らの強圧的な態度と戦ったり受け流したりしながら

 いろんな場所をチェックしたのだが……

 古代装置の気配など、一度もしなかったのだ。


 もしあれば、私にはわかるのだ。

 髪の毛一本だけ引っ張られるような、そんな嫌な感じ。

 ゾッとするような不快さを感じるだろうから。


 ************


 結局、古代装置についての情報集めは

 内部を動きやすいカイルとリベリアに任せて

 私は採掘所の”吸血モグラ”を退治するために動くことにする。

 クルティラは、彼らが闇ルートでの売買を始めるかどうか監視だ。



 人件費などが跳ね上がり、焦ったローガンたちは

 より多くの利益を早く上げようと思ったらしい。

 案の定、北の検分所から送られてくるオパールの量が

 なんと10倍近くに増えたのだ。

 ローガンいわく”大きな鉱脈を見つけた”とのことだが

 そう都合よくいくわけがないだろう。

 でも彼らは、不正がバレるよりも収入を減らしたくないのだ。


 とりあえず加工所での仕事が10倍に増えたことにより、

 ソフィーに対する引き留めも熱が入ったものになっていた。

 ブリアンナをなんとか引きはがし、

 クリスをつかって彼女を懐柔しようとしてきたのだ。

 ……なんと愚かな。


「本当に辞めるの?」

 今日も元婚約者のクリスは、ソフィーに近づいてきて説得する。

 私は変装して作業所に潜入していたため、止めることができないでいた。


「はい辞めます。すみません、作業の邪魔しないでください」

「いつまで怒っているつもり? やきもちも過ぎると可愛くないよ?

 いい加減、素直になりなよ」

 イライラしては良い作業が出来ないと思ったのか、

 ソフィーはいったん工具を置き、クリスを睨みつけて言う。


「そちらこそ、いつまで私にかまうつもりですか?

 もうご縁は切れています。二度と話しかけないでください」

 クリスは心底驚いた顔をする。何度言っても伝わらないのだ。

 自分の母親が”もう知りませんよ”というのを本気にしないように

 ソフィーが自分から離れるなどあり得ないと思っているようだ。


 そうでなければ、ブリアンナへの指輪を

 彼女に作らせるような真似できないだろう。

 それ以前にも、クリスは何度もソフィーを裏切ってきた。


 ソフィーとの約束をすっぽかしてブリアンナの買い物に付き合ったり

 ここの創立記念日のパーティーでも

「だって今日の主役の妹だから」

 というイマイチよくわからない理由で、婚約者のソフィーではなく

 ブリアンナをエスコートして出席したそうだ。


 私や他の友人がクリスを非難しても

「まあ、仕事でもお世話になっているお方の妹さんだし」

 と、理解を示していた。寛容だなあ。


 クリスは眉を八の字にして、困った顔を作る。

 いつも困った時には、ソフィーはすぐに助けてくれたのだろう。

「え? なんでそんなこと言うの?

 僕のことまだ好きなんでしょ? だから戻ってくれたんでしょ?」

 ソフィーはふぅ、とため息をついて首を横に振る。


「あなたは前から、私の仕事も、私の仕事に対する気持ちも

 全然理解してくれなかったね。

 いつも興味なさげて、話も聞いてくれなくて。

 ……私はやりかけの仕事が気になったからイヤイヤ戻ってきたの。

 嫉妬など元からしていませんし、どうでも良いです!」

 クリスはショックで固まる。私も驚いたし、

 ソフィー自身も驚いているようだった。


「元から……嫉妬なんてしてない?

 そんな……いつも僕らを見て妬いてるんだと思ってたのに。

 ブリアンナに取られて泣いてたんじゃなかったの?」

 こいつ! 嫉妬されたくてわざとやってたのか!


 ソフィーは自分の胸に片手を当てて、放心している。そして。

「寂しいし、約束を破られるのは腹が立ったけど、

 今思えば貴方のこと、嫉妬するような対象ではなかったのかも」

 やはりクリスに対しては、家族のような気持ちだったのだろう。

「まあ、あんな形で婚約破棄にされたのは、

 情けなくて、腹が立って泣けたけどね。

 なんで私、()()()()と婚約してたんだろうって思って」


 ふふっと笑って立ち上がる。

 泣きそうなクリスはソフィーの肩に手を置こうとし、振り払われる。

「というわけで、もう私にかまわないでください

 早く完成して辞めたいというのが、私の素直な気持ちです」

 真っ直ぐに目を見て言い放つ。

 そして、すとん、と席に座って、作業を開始しようとした。

 その時。


 顔を真っ赤にしたクリスが、テーブルの上の宝石箱を取り上げた。

 そして何を思ったか窓の外に放り投げる。

 ソフィーが悲鳴を上げ、その他の職人たちも総立ちになる。

 私は窓まで走っていく。


 真っ赤な顔で息を切らせながらクリスは叫ぶ。

「これで当分は完成しないな。ざまあみろ! それにっ!」

 すっかり頭に血が上っているクリスは、

 おそらく言ってはいけない情報を暴露する。

「新しい製造所の話だって無くなるんだぞ、後悔するなよっ!」

 と口走り、走り去っていく。


 立ち上がって窓まで行こうとしたソフィーは、

 結局歩けず床に座り込み、泣き崩れてしまう。

 代わりに私が窓枠を飛び越えて外に出る。

 今は身バレを気にしている場合ではない。


 そして宝石箱が落ちたと思われるあたりを探す。


 ……見つけた。


 背中でソフィーが声をあげて泣いているのを聞きながら

 私は呆然(ぼうぜん)とそれを拾い上げた。


 オパールがはりめぐらされた繊細なその作品は、

 欠け1つなく、その場に整然と置かれていたのだった。


 ************


 壁を叩くものすごい衝撃音とともに、カイルがつぶやく。

「なんてことを。あの男……ただでは済まさない」

 こぶしを壁に押し付けたまま、怒りに震えている。

 あの場にいなかったってことは、カイルではないのか。

 窓から放り投げられた宝石箱を守ったのは。


 あの後、私はすぐにソフィーのところに戻り、

 宝石箱の無事を知らせた。

 最初は信じられない! という顔で眺めまわしていたが

 本当にどこも壊れていないことを確認すると、

 そのままフニャーと脱力してしまったのだ。


 ソフィーの涙は嬉し泣きに代わり、

 ずっと宝石箱を抱きしめていた。

 他の職人もまずは安堵で胸をなでおろしたが、

 次に来るのは底なしの怒りだ。


「職人が心血注いで作っているものを、

 完成間近で破壊するその精神。とんでもなく腐った男だな」

 カイルが吐き捨てるように言うと、多くの職人たちがうなずく。


 駆け付けたカイルはその話を聞いて激怒。

 すぐにローガン達管理職に厳重抗議を行い、

 クリスに対する加工所への立ち入りを禁じさせ、

 ソフィーの作業中は自分が警備する旨を通達した。


 最初は難色を示していたローガンだが、

「職人が時間をかけて作った製品を故意に破壊した件、

 国王様やギルドがお聞きになったらどう思われるでしょうか」

 というと、しぶしぶ要求をのんだ。


 やっと落ち着いたソフィーは、

 念のため完成まで側にいるというカイルに対し

「ご迷惑おかけして申し訳ありません」

 と言った。そして素直な彼女らしく

「でも嬉しいです。すごく、安心できます」

 カイルはソフィーにだけに見せる優しい笑顔で言う。


「あなたのことは守ると決めていました。最初から」


 ************


 机に向き直り、黙々と作業を開始したソフィーを見守りつつ

 私は作業所の隅にカイルに呼ばれた。

「ねー、最初からって……」

 さっきの話を突っ込もうと思ったら、遮るようにカイルが言う。


「新しい製造所の話が立ち消えになりました。

 建設予定地を所有していた貴族が急に断ってきたのです。

 ローガンが金を使って、裏で手をまわしたようです」

 ……やはりさっきのクリスの話は本当だったか。

 あのローガンが手をこまねいて見守るとは思ってなかったけどね。

「で? 次は?」

 カイルは薄く笑う。まあ”皇国を舐めるな”といったところだろう。


 そっちはカイルに任せて、私は私の仕事を進めるかな。

 私がじゃあね、といいかけると、カイルは手でそれを制した。

「古代装置を手に入れたと思われる時期と、

 それをもたらした相手についての情報を得ました」

 私は目を見開く。やった! 大収穫じゃん。


 大喜びの私に対して、カイルの表情は重たい。

 私はハッとする。

「時期は二年前の春です。そして相手についてわかっていることは……」

 手元のメモを見ながら、カイルは相手の特徴を読み上げる。


「カードのジョーカーのような姿。

 ロバの耳のような飾りがついた帽子。

 宴席で滑稽な芝居やジャグリング、そして奇術を披露したそうです。

 それはまるで……」

 もはや私は固まって声も出ない。

 もたらされた情報は最悪のものだった。


「まるで……宮廷道化師のようだった、と」


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