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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
学園廃校編 ~”お前など聖女にはなれない”と私を学校から追放したけど、廃校までのカウントダウンが短くなりますが大丈夫ですか?~
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2-23.後日譚

 23.後日譚


 私は元・学園の東屋からファリール国を見下ろす。


 伝説の真相は瞬く間に、世界中へと広まっていった。

 聖女などいなかった。

 いたのは、詐欺師であり殺人者だったと。


 そして長い間、本当に倒せる者が現れるまで、

 妖魔の活動を封じ込めていたのは兵士と魔術師だった。

 それを知った人々は(いきどお)り、涙し、そして深く感謝した。


 しかし彼らが望んだのはそんな”名声”なんてものではなく

 きっと二人で共に生きる未来だったろう。

 私は一抹の虚しさを感じてしまう。


 地位や名声を望むことは決して悪いことではない。

 より良く生きようとする表れでもあるから。

 でもそれは正当な手段を用い、自力で手に入れなければならないものだ。

 初代聖女が消えた理由はわからないが、

 お互いを見張るために好きでもない男と結婚し

 さらには脅され続ける彼女の生活が不幸だったのは、間違いないだろう。



 あれから数日が経った。

 被告が死亡したことにより、公訴棄却の決定が行われた。

 学園長があの場から逃げたこと、その後大蛇に食べられたのは

 公的には私とルークスの責任だ。

 それなりの懲戒処分を受けることになるが、私も彼も気にはしていない。


 あの後、理事長に対する殺人未遂以外にも、

 学園長には多くの余罪があることが明らかになり

 かなりの重刑、おそらく死刑もまぬがれなかったと思われる。

 しかしそれ以上に、最後の大蛇の振る舞いを見るに

 あれが”神”の選んだ判決だと思えて仕方がないのだ。



 学園はもちろん廃校となる。皇国の制裁を受けたことだけでなく

 聖女と守護騎士が妖魔を倒していなかったどころか

 残酷な殺人者だったことが露呈され、

 もはや生徒も教師も事務員も、誰もここに残るわけがなかった。


 理事長については、法的には恐喝されていた被害者でもある。

 その恐喝の理由となった”初代聖女と守護騎士の非道な行い”についても

 本人の犯行ではないうえ、本人の罪としてはまあ

 ”虚偽の広告を行った”とされるくらいだろう。


 しかし皇国からの罰則はその程度だが、

 彼女を待ち受けているのはもっと悲惨な運命だった。

「聖女と言う触れ込みだったから入学したのにお金を返せ」

 などと、卒業生を含む多くの者から訴えられたのだ。

 入学金や授業料を返還するため、資産はむしろマイナスだろう。


 それ以上に彼女にとっての本当の地獄は、名声を失ったことだった。

 子どもの頃から”聖女の末裔”ともてはやされ、

 注目されたり特別扱いをされてきたのだ。

 学園長の一族から真実を知らされた後、もし良心が痛むのなら

 いくらでも事実に向き合い、真実を公表しなくとも、

 理事長を固辞することや聖女伝説を看板から降ろすことはできたはずだ。

 でも、それはできなかった。

 甘い蜜を吸えなくなるのは嫌だったから。


 結局今の事態は、自分の選んだ結果だ。

 見下され嘲笑されるのに耐えられるわけがなく、

 理事長は逃げるようにどこかへ去っていった。

 おそらく一生隠れ住むことになるだろう。


「まあ、もともと先祖の功績で多大な恩恵を受けていたわけですから、

 先祖の罪過で損害をこうむるのは仕方のないことですわ」

 リベリアが言うと、クルティラもうなずく。

「そもそも先祖とはいえ、自分の業績でもないもので

 褒賞を得ようとするのが浅ましいわ」

 ”偽聖女たち”にとって、

 名声と言うのがそれくらい魅力的なものなのだろう。


 強い者に流されがちだったエセンタ事務長は、

 蜘蛛の妖魔にプレサ主幹教諭が殺されるのを見てから、

 ショックで呆けたように過ごしていた。


 しかし彼女も、私の退学処分に関する虚偽告訴罪を犯しているため、

 当然処罰を受けることになる。もちろん懲戒免職処分で退職金も出ない。

 もう学校関連だけでなく、仕事を探すのは難しいだろう。

 信用というのは一度失うと、元には簡単には戻らないのだ。



 ファーラたちはその後、せっせと町の浄化に励んでいるようだ。

 私が隠れて見に行くと、ポエナ伯爵令嬢がフウフウ言いながら

 壁についた汚れをこすり落としていた。

 簡素な服に、顔を隠すためのほっかむりが可愛らしい。


「ここも瘴気でドロドロですわ……落ちない……」

「これお使いになって。まずはこの粉をまいて汚れになじませて……」

 なんとパトリシア子爵令嬢が意気揚々と仕切っている。

 その顔には”盗人の証”はほとんど消えている。

 以前”たとえ証が消えてもやります!”という宣言を実行しているのだ。


 その横で黙々とファーラ侯爵令嬢がデッキブラシで通りを磨いている。

 形だけかと思いきや、見事に腰の入ったブラシさばきで

 あっという間に穢れを落とし、最後にザバァと水をかけ流す。

「ふう。こちらはこれでよろしくてよ」

 額の汗を拭きながら上げた顔が、妙に美しく見えた。


 イジメや意地悪などと言う言葉は、事実を隠す良くない面がある。

 本人たちにはその自覚がないだけで、

 それぞれ罪状が付く立派な”犯罪”だ。


 私の誘拐未遂事件に関しても、

 ファーラは何も考えずに”地獄をみせてやれ”と言ったのだろう。

 その抽象的な言葉を、相手がどう受け取るか想像できずに。


 彼女たちは知るべきことを知り、変わることが出来るだろう。

 汚れにまみれてはいるが、とても楽しそうに作業する三人。

 私にその姿は見られたくないだろうと思い、

 そっとその場を去ることにした。



 その他の貴族の学生たちの被害はそうでもなかった。

 もともと付加価値をつけることを求めて入学する学園だったため

 自国に戻り、別の学校を探したり、趣味や習い事を探すだけだろう。



 問題は教師と、特待生として入学した一般市民の学生だ。

 ファリール国内にいるスタービル先生に会いに行くと、

 まずは退学を阻止できなかったことを謝罪された。

 任務で来ていただけだから大丈夫だというと、

 そういう問題ではないから、と首を横に振った。


「あなたの退学の後、学園長に憤りを感じていたの。

 言い返せて、ちょっとスッキリしたわ。

 組織や伝統が間違っていることって、意外にあるのよね」

 以前のオドオドした感じは薄れ、健やかに笑う先生がそこにいた。


 今後については、私たちも知らなかった展開になっていて驚いた。

「あの跡地にね、学校が建つの。

 ファリール国と、残った先生とで話し合ったのよ。

 この国はもっと、メイナについて知らなくてはならないって」


 メイナについて学ぶ学校ができることになったというのだ。

 あの場には寮などのまだ使える施設も多く残り、

 人材もたくさんいる。そして残っていた生徒のほとんどは特待生で

 メイナの扱いが得意な子、技術を身につけたい子ばかりだ。

 まさにうってつけの案だと言えよう。


 もちろんいわくのある場になってしまい、ケチもついたが

 本気で学びたい者の障害になるほどではない。

 ここの卒業生は呪病の治癒や退魔など、

 なにかしらの技能を身につけて巣立っていくことになる。

 ”聖女”の肩書なんてものよりも、ずっと生産的だ。


 開校に向けての設備工事や新たな人材確保等、

 皇国が全面的にサポートするそうだ。

 きっとメイナについての知識をきちんと広めるのに

 うってつけの場所になるだろう。


 ************


「まだ、そのお店って残ってるんだね」

 私の問いにクルティラはうなずく。

 今日、私たちは兵士の血族の家に、彼の遺した剣を持っていくのだ。

 あの現場を掘り起こして見つけられたのはこの剣だけだった。

 残念ながら魔術師のブレスレットは焼け崩れてしまったようだ。


「ああ、ここですわ」

 リベリアが見つけた看板を見上げる。”ノックス&ディエサ”。

 ノックスは夜、ディエサは昼の意味だったね。


 そんなに大きな店ではないが、客が賑わい活気がある。

 中に入り声をかけると、金髪碧眼の爽やかな男性が出てくる。

「ああ! わざわざありがとうございます!」

 (ノックス)の血縁だが、明るい光に満ちた人だった。

 おそらく兵士もこんな陽気な人物だったのだろう。


「おいヒエムス! これ見てみろよ。どうだ、立派なもんだろう」

 奥から出て来た子どもと思われる、彼そっくりの男の子に言う。

 彼は憧れと興奮が混ざった表情で剣を見ている。

「妖魔を一撃で押さえたんだよ。強くてカッコいい剣士だったんだね」

 私がそういうと、自分が誉められたかのように顔を赤くして照れる。


 そしてしばらく剣を眺めたあと、

「……持っても良い?」

 と私と父親に尋ねる。一瞬迷ったが、父親はうなずく。

 兵士がこの場にいても、きっと”もちろん”と言ったろう。

「この子は剣士になりたいっていってるんですよ

 まあ、親のひいき目ですが、なかなかの才能があるみたいで」

 そういって笑う父親。

 少年は剣をかかげるが、重くてよろけてしまう。店内に笑い声が響く。


 すると店の入り口から涼やかで甘い声が聞こえる。

「その剣は、なあに?」

 そこには長い黒髪を背に垂らし、

 黒曜石をはめ込んだような瞳の、美しい少女が立っていた。

「アエスタ!」

 剣を横に両手で持ち、少年が駆け寄る。

 そして一生懸命、この剣について彼女に説明している。

 (ヒエムス)(アエスタ)

 ガルク国の命名はいつでもシンプルだ。


 客の誰かがつぶやく。

「あれがアエスタか。魔力が使えるって本当かい?」

 店で働くおばさんが、違う、違うと手を振り笑って答える。

「嫌ねえ、ちがうわよ。魔力じゃなくてメイナってやつね」

「ふーん、そうか。……それにしても綺麗な子だなあ」

「ええ本当だよ。大人になったらきっと、

 見たことないほど美しい娘になるだろうねえ」


 ヒエムスは再び剣を構える。その剣を見上げる二人。

 彼らを眺めながら、私は父親に告げる。

「あの学園の跡地には、また学校が出来るんです。

 メイナについてきちんと学び、その技術を身につける学校が」


 新しい学校の名前はアウローラ(夜明け)学園っていうんです。

 それは(ノックス)(ディエサ)の間に生まれる時間帯だ。



 ************


 私たちは彼らに別れを告げ、そのまま次の仕事に向かった。

 休んでいる暇はないのだ。理不尽に苦しむ人を救うために。


 この世界に隠された罪を暴き、私は断罪を続けていこう。


                【学園廃校編 終わり】

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