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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
学園廃校編 ~”お前など聖女にはなれない”と私を学校から追放したけど、廃校までのカウントダウンが短くなりますが大丈夫ですか?~
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2-19.三つの失敗

  19.三つの失敗


 聖女と守護騎士は、妖魔を倒してなんていなかった。

 危険な作業は他の二人にやらせた上、

 彼らを捨て駒に自分たちの手柄としたのだ。


 それがバレないように、

 そして妖魔がいつか消滅してくれること願って

 学園を設立し、生徒に陽のメイナを生成させ、地下へと送り続けた。


「でもそれはメイナの特性を知らなすぎる、稚拙なアイディアです。

 この手段だと、まず大蛇が食べ、次に長剣に送られ、

 そしてやっと妖魔に届くことになります。

 しかし何らかの理由で大蛇がすぐに食べない場合は肉は腐り、負の気に戻ります。

 すると妖魔に送られるのは負のメイナなのです」


 まずメイナの気が、いつまでも同じ特性であると考えたことが失敗の始まりだ。

 全てのものは流転する。

 変化を計算に入れないのはあり得ない。


「さらに”陽と陰”というのは常に(つい)になっています。

 陽のメイナを地中に長時間放置するということは、

 他方から陰を集めることに他なりません。全てはバランスなのです。

 そもそも蜘蛛の妖魔がこの地に惹かれたのは、

 巨大な陽の気を持つ大蛇の”神”の存在があったからです」


 陽の気は”良いものだから在っても大丈夫”と思ったのも敗因のひとつ。

 妖魔が陰の気を持つから悪いイメージがあるけど、

 そもそも陰陽に善悪はない。


 失敗その1。メイナについて知らな過ぎたこと。

 そして知ろうとしなかったこと。



「そして次に、何十年経ってもこのシステムの見直しをしなかったことです。

 地中がどうなっているか、確かめもしなかった。

 陽のメイナの吸収量が減ったことを、

 妖魔が弱体化、もしくは消滅したと思ったのでは?

 残念でした、古代装置が壊れていただけです」

 ブレスレットで吸収できる陽の気は、ずっと少ないから。


 失敗その2。PDCAサイクルの、Plan(計画)とDo(実行)までやって、

 Check(測定・評価)とAction(対策・改善)を怠ったこと。



「まあ、最近は金儲けに忙しくて

 こっちはおろそかになっていたようですね」

 私がそういうと、学園長は嗤った。

「君は誤解しているようだ。何の話をしているのかな?

 私も理事長も、親から仕事を引き継いだだけですよ。

 言われたとおりに、運営しただけです。何も、知らなかった」


 学園長がこちらを向き、首を横に振る。

「それに君は、商売や経済というものを分かっていない。

 伝説を(あきな)いの道具にするというのは、

 しょせんそういうものだ。

 信じた者、楽しんだ者が幸せなのだ。それでいいじゃないか」


 学園長はおどけた調子で続ける。

「それがダメというなら、伝説や神話のある観光地で

 よく売られているような土産物もダメだろう?

 君は土産物屋に”実在した事実を証明しろ”というのかね?

 相手は答えるだろう。

 ”だったら買うな。信じる奴が買ってくれる”と。

 虚構でお金を稼ぐことは、別に犯罪でも何でもないのだよ」


 私は呆れて答える。そんな詭弁が通じるものか。

「あら虚構、つまり”嘘”を販売することはもちろん犯罪ですわ。

 ただの井戸水を薬だと売るのは詐欺罪ですから。

 それに今回の起訴内容は別に、

 ”聖女と守護騎士が妖魔を倒したと虚偽の申告をしたこと”でも、

 ”聖女伝説を利用して学園を運営したこと”でもありませんから。

 どうぞご安心してください」

「……じゃあ、何かね?」

「恐喝罪を筆頭に従犯、といいますか証拠隠滅罪などいろいろありますが

 最も重いのが……殺人罪ですね」


 私の言葉に教師や生徒が息をのむ。

 学園長はゆっくりと私の前に来て、無表情のまま私の目をじっと見つめる。

 ”目が悪く、視力を自分のメイナで補正していると言っていた”あの目で。

「誰が、誰を、殺したのです?」

 私は目を逸らさずに答える。

「蛇を”神”と崇める灰髪赤目の一族が、聖女と守護騎士の子孫を殺しました」


 講堂を悲鳴のような声が響き渡る。一人の先生が叫ぶ。

「そ、それはどういうことですか? いつの話でしょう?」

「聖女と守護騎士の伝説が生まれてからずっと、現在までの話です」

 訳が分からなく混乱する人々とは裏腹に、学園長は微動だにしない。

 私を探るように見ている。どこまで、知っているのか、と。

 では、教えてあげよう。


「まず聖女と守護騎士の伝説には、彼ら二人の他に、

 実際に妖魔に長剣を刺した兵士と、

 大蛇に短剣を刺してメイナを送った魔術師が隠されていました。

 しかし実際はもう一人、登場人物がいたのです」

 学園長はそこでハハッと笑った。

 なんだ、全部知っていたのか、という笑いだ。


「そもそもおかしいですよね。なぜ聖女と守護騎士は、

 妖魔の住み着く地下施設へと頻繁(ひんぱん)に出入りできたのです?

 その構造についても、詳しく知っていた理由は?

 ……それは、案内人がいたからです。

 その施設を作った、大蛇を崇める一族が」


 協力の理由は、仲間を殺された仇を討ってほしかったのか、

 それとも金銭で雇われたのかはわからない。

 それでも一族の協力が無ければ、討伐も、

 そしてその後の学園創立も成り立たないのだ。


「あの施設の設計図を手に入れてわかりました。

 妖魔の棲みついた”祈りを捧げる場所”は下に降りる階段への入り口から

 ”神の食事室”は大蛇に供物を投げ入れる穴から、

 どちらも上から眺めることができるのです。

 だから案内で同行したその人は、

 ”神の食事室”で魔術師が大蛇に短剣を刺したことを

 ”祈りを捧げる場所”の兵士たちに伝えることができたのでしょう」


「まるで見ていたかのように言うじゃないか。

 それとも想像力が豊かなのかな?」


 ちょっとイライラしてきたようだ。私は笑顔で返す。

「いえいえ、現実主義なので、空想するのは苦手なほうです。

 やっぱ証拠(エビデンス)が大事ですね」

 学園長はとうとう堪え切れずに怒鳴った。

「あんな大昔の話だぞ! なんの証拠が残っていたというのだ!」

「そうですねえ。いろいろありますが。

 まず現場にも状況がわかるものが残されていましたよね?

 だからこそ、灰髪赤目の一族と聖女と守護騎士は、

 あの場に誰も立ち入らせることなく封じたんですよね」


「……」

「それから前理事長のダイイング・メッセージ」

「何だとおっ!? 嘘をつくな、そんなものあるわけがない!」

「え? どうしてあるわけがないと言い切れるのですか?

 普通”へえ、書き置きあったのか”じゃないでしょうか」

「……急に消えたと言われている。そんなもの残せるわけがない」

「そうですね、消えた時点では残せません。

 ダイイング・メッセージを書いたのは、消えた後です」


 そういって私は手帳を出した。

 あの”神の食事室”で靴やバッグとともに拾ったものだ。

 私は手帳に書かれた文字を読み上げる。とても乱れた文字だ。

「わた、しをここに落としたのはアヴァル学園ちょ、う。

 ずっと脅されて、た 理由は聖女も騎士も人殺し」

 それを聞いた学園長はクソッと吐き捨てる。

 まさかそんなものを残していたとは。

 しかも拾う者がいるとは思わなかったのだろう。

 神の食事室に侵入して、生きて帰ってくる者がいるとは。


 アヴァルとは学園長の苗字だが、これは前・学園長を指している。

 つまり父親の悪事が露呈したのだ。


「あの礼拝堂の秘密を知っているのは、()()()()()()()()よね、きっと」

 学園長はまさか、というように顔をこちらに向ける。

「あの肉を落とす穴は元々、後から作られたダミーだと分かっていました。

 肉が落とせるのがやっとの、小さな穴ですから。

 本物の供物を捧げる穴は、礼拝堂のもっと別の場所にありましたね。

 そう、祭壇の下に。こちらは本当に大きな穴で、人間を楽に放り込めます」

 いなくなる直前、前理事長の叫びは”はなして! はなして!”だったのだ。


「いつの間に……しかしあの日、お前たちは……」

 私はくすっと笑う。

 なんで視察ごときに、皇国の守護神(ルークス)が来たと思ったのだ。

「私とルークスは()()()()ですから」


 学園長は、私たちの動向ばかり気にしていたが、

 あの日学園には、多くの兵が訪れていたではないか。

 彼らがただのお供で来るわけがない。

 あの周囲を、火竜とは別ルートで来た、

 気配を消せる上級のメイナ技能士がわんさか仕事していたのだ。

 ……そうでなければもうちょっと、二人の時間を楽しめたのに。


 それに火竜の見つけた入り口をわざわざ利用したのは、

 祭壇の仕掛けをこちらが知っていることを隠すためだ。

 もし動かしたりしたら、学園長はすぐ気が付いてしまうだろう。

 ここは現場保存ということで、ノータッチでいくことにしたのだ。


「”祈りを捧げる場所”は完全にしっかり埋め立ててあったから

 入るのにちょっと手間取ったけどね」

 唖然とする学園長は、額に手を当て苦し気に聞いてきた。

「なぜ、そこまで手の込んだことをした。

 皇国はいつから、どうして、この学園に目をつけたのだ?

 まさか、ここまで……」


 学園に送られてきたのが若い娘(わたし)だったから、

 大したことないと油断したのだろう。

 でも皇国が動くときは万事用意周到であり、

 私が派遣されるときは、すでに有罪が決定している時だ。



 失敗その3、があったね。


 それは、皇国を(あなど)ったこと、だ。


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