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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
学園廃校編 ~”お前など聖女にはなれない”と私を学校から追放したけど、廃校までのカウントダウンが短くなりますが大丈夫ですか?~
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2-18.裁判の始まり

  18.裁判の始まり


 地下施設より戻った私たちの報告を受け、皇国はすぐに動き出した。

 蜘蛛型妖魔の攻撃は広範囲に渡るため、

 今回、戦闘に持ち込まなかったのは正解だったが、

 そんなに時間があるわけではないことも明らかだ。


 古代兵器の故障後、妖魔の活動を抑制していたと思われる

 魔術師のブレスレットについての見解が、生物学研究所から来たのだ。

 ”長剣が蜘蛛の脳がある頭胸部まで貫通していた頃はまだ効果があったが、

 ここまで巨大化すると、もはや長剣は眼球のみに刺さっているだけだろう。

 あのブレスレットが集める陽のメイナだけで

 蜘蛛の妖魔が動き出すのを封じるのは、おそらく限界が近い”


 皇国は速やかにファリール国王へ連絡を取り、巨大な妖魔の生存を伝える。

 妖魔の対応は皇国が行う旨と、国民に避難指示を出してもらうよう依頼した。

 ファリール国はすぐ山への進入禁止令を出し、近隣住民に退避命令を出した。

 ただ国民がパニックにならないよう、妖魔の存在については控えておく。


 しかし着々と準備を進める私たちに、2つの残念な報告が届いた。


 ひとつは理事長の保護に失敗し、現在行方不明ということ。

 あのあと理事長は宿には戻らず、急に学園に泊まることに変更し、

 夕刻にはすでに、どこにも姿が見えなくなっていたそうだ。

 リベリアはショックを受けたが”長居はしない”という

 本人の弁を信じざるを得ない以上、仕方のないことだ。


 そしてもう一つも大問題だ。学園が避難を拒否しているのだ。

 ”この地は昔、ファリールから他民族が買い取った土地だ。

 ファリール国の法の及ぶところではない。

 皇国も侵入する権利は持たないし、

 これ以上は文化の干渉や侵略に値するのではないか”と。


 しかも教員や生徒には学園に残るよう指示しているのだ。

 これでは”強制捜査”として法的に手出しが出来ても、

 妖魔が暴れて被害が出る可能性を考えると容易に手が出せない。


「この期に及んで足掻くわね」

 リベリアが呆れたように言う。

「学園に行くしかありませんわね」

 私はうなずいて、皇国に”最終審理”の決定を知らせた。


 ************


 そして私たちは今、学園に来ている。

 あの退学宣告された日が、すでに懐かしいくらいだ。


 リベリアが他の教師に理事長のことを聞くと

 かなり困った顔で、あの後のことを教えてくれた。

 実は理事長は他の事務員にこう言っていたんだと。

「”こちらにいてはいけません”なんて、あの占い学の先生、

 私を妬んでいるのかしら。

 せっかく皇国と繋がりを持てる機会なのに」


 そして、この学園と皇国の関係を強めることが出来れば

 さらに自分の社会的な地位を上がると喜んでいたそうだ。

 リベリアは呆れを通り越して笑ってしまった。

「さすがは()()()()()子孫、ってとこですわね」



 私たちが講堂に入ると、そこには学園長だけでなく

 スタービル先生や、土曜の授業の仲間たち、クラスメイトまでいた。

 何のつもりで……と思っていたら、後ろから声をかけられた。

「もう一度、和解の協議をお願いしたい」

 そこにはファーラ侯爵令嬢の父、サペル宰相が立っていた。

 後ろにぞろぞろと、前回と同じく”犯罪者”たちの家族が現れる。


「私からもお願いしますよ。みんなうちの大切な生徒ですから」

 学園長が優しく言う。そういうことか。

 どうりで学園が、皇国からの”最終審理通達”を素直に受け入れたと思った。

 大事な金づる(彼女たち)についてだと思ったのかな。

 それにしては何か怪しいけど。


 サペル宰相に促され、ファーラ、ポエナ、パトリシアが前に出てくる。

 もちろん顔に広がる”盗人の証”は消えるわけもなく、

 口と鼻を布で覆い、さらに頭に深々とフードをかぶっている。

「本当に、申し訳ございませんでした」

 三人の娘が、練習したかのように声をそろえて言う。

 前回、一言も謝罪の言葉がないという私の指摘に応えたつもりだろう。


 私は三人に尋ねる。

「示談交渉される前に、まずはそれぞれの方がご自分の罪を

 正しくお認めになっていらっしゃるかどうかお聞かせ願えますか?」

 サペル宰相が慌てて答える。

「もちろんだ。君の衣服や私物を破損したことを……」

「いえご本人が、自分の罪状についての申告を証言願います」

 しばらく戸惑っていたが、最初に口火を切ったのはパトリシア子爵令嬢だった。

「あなたのドレスを破き、バッグにインクをかけました」

 ……。沈黙が続く。まあ、実際この子がしたのはそれくらいだろう。

「あら、それだけですか?」

 ……。まだ沈黙が続ける。

「そうだとしたら、和解どころではありませんね」

 私がそういうと、ポエナ伯爵令嬢が慌てたように

「あ、あの、聖盾会の前に悪い噂を流してしまって」

「ああ、あれも立派な名誉棄損ですね」

 とりあえずそう答えたけど、すっかり忘れてたわ。

 あれのおかげで有力な情報も効けたし。


 彼女たちの罪の申告はそこまでだった。私は呆れて首を振る。

 パトリシア子爵令嬢の父は顔を赤くして声を荒げる。

「他に何をしたというのだ!」

「”自分でおわかりのはずですが? 罪の意識すらないと?”」

 そう言って、私は教師の集まる場所を見る。

 これは退学の日に、プレサ主幹教諭から言われた言葉だ。

 あれ? でもその姿がどこにも見えない。いないの?


「ワタクシたちのような身分のものは知らず知らずのうちに

 他人に心苦しい思いをさせてしまうことがありますわ。

 どうそ、はっきりとおっしゃっていただけるかしら?」

 サペル侯爵夫人が、まるで私が妬みや嫉みで怒っているかのように言う。


 そうか、それなら言いますね。

「承知しました。現在、皇国がファーラ・サペルの罪状として

 証拠や証言を有し、立件しているものを述べます。

 先ほどの器物損壊罪や窃盗罪のほかに、イヤリングの件で偽証罪、

 私が飲酒や外泊などの校則違反を行ったという虚偽告訴罪、

 その虚偽を広めた名誉毀損罪、それから……」


 すでに顔面蒼白になっているサペル夫妻に、

 もっと恐ろしい事実を突きつける。

「最も重罪なのは、人を雇い、私を誘拐し暴行後に殺せと命令した、

 殺人罪における教唆の罪です。これは実行犯と同じ罪が課せられるため

 たとえ未遂であっても懲役は免れませんし、

 もしかするともっと重い刑罰が科せられるかもしれませんね」


 懲役より重い……死刑という言葉が浮かび、ファーラは絶叫する。

「嘘よ! 殺せなんて言ってないわ! 地獄を見せてやれって……」

「あら、死なないと地獄も天国も見れませんが?」

 リベリアが神官らしく答える。

「そうじゃなくて! 死ねとはいってないわよ!

 だいたい私は侯爵令嬢なのよ? なんで罰せられないといけないのよ!」


 クルティラが冷たく言い放つ。

「侯爵令嬢が世界の頂点であったとしても許されることではないわ。

 それにもし、身分が高い者が下の者に何をしても良いなら……」

 そしてファーラのドレスに視線を移して笑う。

 そこでわが身に起こった異変に気が付き、

 ファーラだけでなく、その父母や他の家族も戦慄する。

 ドレスにザックリ切られた跡があるのだ。

 気付かぬうちに出来た裂け目が。


 ひぃ! と叫んでしゃがみ込むファーラに、クルティラは言葉を続ける。

「……あなたたち、とっくに死んでるわ」

 おそらく自分たちよりもはるかに、身分でいえば私が上であること、

 クルティラはその護衛で、いつ消されてもおかしくないことに気付いたのだ。

 まあ皇国の誰も、そんな風には思ってないから殺したりしないのだが。


 もう何も言えない貴族の三家たちに私は言う。

「ファーラ・サペルとの示談は無理です。もうよろしいでしょうか」

「ま、待ってくれ。頼む。このとおりだ」

 サペル宰相が頭を下げる。やはり親心なのかと思いきや。

「あなた! おやめになって!」

「このままでは宰相の地位も、侯爵家という身分も失うんだぞ?!」

 ……ああ、そっちか。まあ娘が皇国の牢に収容されたらなあ。


 父親の言葉に、ファーラはガタガタと震えている。

「服役や死刑以外で頼む! 必ず全ての罪は償わせる!

 二度とこのようなことは起こさないよう見張りも付ける!」

 他の人々も、なんとかならないかと懇願してくる。

 ……そうか、それなら。


「では、罪を償う良い方法があります。 

 しかもそれなら”盗人の証”もどんどん薄くなっていきます」

 おお! と目を輝かせる人々。急に生気を取り戻すポエナとパトリシア。

「町は今、瘴気で溢れています。それを彼女たちが()()()()()()()

 どんどん綺麗にしていけば、罪も償われ、証も消えるのです」

 具体的に言えば、瘴気でドロドロになったものなどを

 綺麗に手洗いしてお掃除していくのだ。


 すぐに始めよう! という声に、

「肝心の本人が行動しなれば何もなりません。

 また、もし途中で断念したり、似たような事件を起こした時には……」

「い、いえ! 断念なんて! 痣が消えてもやります!」

 パトリシアが叫ぶ。横でポエナも、やっと見つけた希望の光を逃すまいと

「ちゃんと償いますから! もうしませんし!

 ね? ファーラ様もね?」


 ファーラは黙って震えて続けていた。泣いているのだ。

 長い沈黙の後に、小さくつぶやいた。

 それは確かに後悔を含んだ”気付き”の言葉だった。

「…………わ、ワタクシが……間違っていたの、ね……?」


 ************


 パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。


 静かな講堂に響き渡る一人の拍手。しらじらしい響きだ。

「いやあ、良かった。皆さん、しっかり罪を償ってくださいね。

 人は誰でも過ちを犯します。間違えない人なんていません。

 だから、失敗してもまたやり直せば良いのです」

 ものすごく教育者らしい、良いことを言っているようだが、

 彼が、彼の一族がしてきたことを考えたら心底胸が悪くなる言葉だった。


「アスティレアさんも、気が済みましたか?」

 嫌な言い方だ。さっきのは断罪でもなんでもない。


 彼の前に進み、私は答える。

「とんでもない。まだ、何も始まっておりませんわ」

 そう言う私にニコニコをした顔のままで

「おや? まだ何かありましたか」

 という。私が気が付く。

 この人、最初から自分に対する最終審理とわかっていたんだ。

 それなのにファーラたちを呼び寄せ協議させた。その理由は何故か。

 そしてプレサ主幹教諭はどこに?

 疑問を抱えつつ、私は宣言する。


「それでは開廷いたします」


 さあ、裁判の始まりだ。

「これから聖女および守護騎士、

 そしてあなたと、あなたの一族の犯した罪について審理を始めます」

 周囲の教師や生徒は息を飲むが、被告人は微動だにしない。


「まず、初代聖女と守護騎士は妖魔を倒してはいません」

 この言葉に、被告以外の全員から驚きの声が上がった。

 私は彼らに、伝説の真相を話し出した。


 聖女と守護騎士は、蜘蛛の妖魔に全く歯が立たなかったこと。

 またあの地下施設には”神”と呼ばれる大蛇が住んでおり、

 長年崇められていたため大量の”陽のメイナ”を蓄積していたこと。


 そして彼らは禁忌の古代装置を用いることで掃滅しようとしたが

 守護騎士は剣が扱えず、聖女はメイナの技能が無い。

 だから守護騎士の故郷のガルク国より、

 腕利きの兵士とその婚約者である魔術師を強制的に連行した。


 古代装置の長剣で妖魔に突き刺す役目を兵士に、

 長剣と対になる短剣を大蛇に突き刺す役目を魔術師にさせるために。

 そうすれば短剣から流れ込む陽のメイナは長剣に送信され、

 刺さった妖魔に流れ込み、消滅させることができるから。


 作戦はおおむね上手くいったが、

 何らかの事情で兵士は守護騎士に背中を槍で刺され殺されてしまった。

 魔術師についても、状況的におそらく大蛇の餌食になった。


 とりあえず倒したと思った聖女と守護騎士だが、

 陽のメイナが地下へと流れることにより、

 まだ妖魔に対する陽のメイナの注入が続いている、

 すなわち妖魔が生きていることに気が付いた。


 聖女と守護騎士は考えた。

 この場を誰にも掘り返されてはならない。

 そして妖魔が消滅するまで、陽のメイナを長剣に届けなければならない。


「だから私たち、陽のメイナを作り続けなきゃいけなかったのよ。

 だって、そのために作られた学園なんだから。

 そうですよね? 学園長」


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