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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
学園廃校編 ~”お前など聖女にはなれない”と私を学校から追放したけど、廃校までのカウントダウンが短くなりますが大丈夫ですか?~
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2-13.地下の番人

 13.地下の番人


 私はまず、ファリール国内へ出向いて情報を集めることにした。

 リベリアは様子を探るべく学園に残っていたが、

 クルティラは”気がかりがある”と言って同行してくれた。


 実際に調べてみると、確かに街中(まちなか)には、

 時折山の方角から霞のように淀んだ瘴気が流れ込んでくる。

 町の人も、学園が原因じゃないかとうすうす気が付いているようだ。


「第一ね、あの山って全然生き物がいないのよ。

 昔はいっぱい居たそうなんだけどねえ」

 商店を営むおばさんが言うと、その客のおじさんも首をかしげる。

「最初はさ、聖女様の近くは恐れ多いのかと思ったけど

 普通は逆だよなあ? 鳥とかリスとか寄ってくるもんじゃねえの?」


 ついでに街中にある、聖女が育ったという修道院を訪ねたが、

 そこでの対応は冷たいもので、何も情報は得られなかった。

 なんとなく彼女の話はタブーであるかのような雰囲気すら感じた。


 代わりに、その修道院に出入りしている農家の人々から

 意外な話を聞くことができた。

「あの聖女ってのは、ここにいた頃は全然優しくなんかなかったって話だよ。

 俺のおばあちゃんが、そのおばあちゃんに聞いたそうだ。

 野菜を持っていっても偉そうに”その辺に置いておけ”だって」


「そうそう。自分は特別な人間だっていつも言い張って、

 他の修道女の話なんて全然聞かなかったそうだねえ。

 あげく”私は修道女なんかにはならない!”っていって、

 修道院(ここ)を飛び出していったそうだよ」


「確かに他の修道女よりかは、解毒とかできたみてえだけど、

 実際に外に出てみれば、別にたいしたことないって思い知るわな。

 かなり貧しい生活してたはずなのに、

 それがいきなり、妖魔を退治して有名になっちまったって」


 特別意識と上昇思考の強い人間が、名声欲しさに危険な仕事に挑戦し

 うまく目的を達成できたということなのか。


 それにしても、腑に落ちないものがある。

 被害状況などを見るに、今回の蜘蛛の妖魔というのは、

 解毒がやっとの()()()()()と、

 剣も扱えない守護騎士が倒せる相手ではないのだ。


 その時、私とクルティラは目をあわせた。

 

 いろいろと()()()()()()()()()、私たちは商店街を抜け、路地裏に入る。

 こういうことは、早めに処理したほうが良いだろう。

 クルティラのいう気がかりって、これのことか。


「やっと見つけたよ。アンタがアスティレアってやつかあ?」

 私たちの後をずっと尾けていた男たちの一人が言う。

 見るからに狂暴そうなごろつきの集団だ。


「学校を追い出されたとこを捕まえるはずだってのに、

 いったいどこに居たんだよ? 学校の中にでも隠れてたのか?」

 皇国が私の潜伏先に、隣のガルク国を選んだ理由はそれだ。

 学園を少し下がったところの道に、

 彼らが潜んでいるのを見つけていたのだ。

 あのままファリール国内へ向かっていたら、

 なかなか面倒なことになっただろう。


 とりあえず何のこと? という顔をしてみるが、

「こいつですよ。間違いねえ」

 一人の男が指さして言った。なんで私のことを知ってるんだ? と思ったら、

 クルティラが目を細め、静かにつぶやいた。


「ああ。ファーラのところに来ていた商人……のフリをしていた奴ね。

 彼女に”新作の貴金属を入荷した”と言い、教室まで入ってきたでしょう。

 緑の上着、茶色の皮のズボン。商人なのに腰にダガー下げてて笑ったわ」

 それを聞き、私を指さしてた男は驚愕する。

「な! なんで、そんな! 覚えているのか?!」

 クルティラはその職業柄、人の顔を覚えたり、正体を分析するのが得意だ。

 そしてすでに彼女は”仕事道具”である金属の扇子を構えている。


 そう、彼女は冥府に招く貴婦人(インフェルドミナ)と呼ばれる皇国の元暗殺者だ。

 恐ろしいほどの威圧感に、ごろつきどもは慌てて自分の武器を構えようとするが。


 ほんの一瞬だった。彼女が動いたかな? というくらいの間で。


 彼らは全員、腕を押さえてしゃがみ込んでいた。

 腕から血が出ているのは、武器を持てないように深めに切られたからだ。

 しゃがみ込んでいるのは、逃げ出せないように足を切られたから。

 そこに皇国の警備兵たちが走り寄ってくる足音が聞こえる。


 いつ、どのようにしてやられたのか理解できずに呆然とする彼らに、

 クルティラが表情一つ変えずに言う。

「殺さないのは、依頼主が誰か、どんな計画だったか証言させるためよ。

 別に嘘をつく必要はないわ。何ひとつ隠さなければ良いだけ。

 もしその役割を果たせない時は、すぐに冥府(あちら)に送ってあげるわ」

 そして首をひねり、別に全員残す必要はないかしら、とつぶやく。

 彼らは心底震えあがった様子で、警備兵に取り押さえられながら、

「わかったから! 言うから! 人数が多いほうがいいだろ!」

 と叫びながら、連行されていった。


 ファリール国の兵などに捕まってしまったら、もみ消される恐れがある。

 あくまでも皇国の貴族に手を出した(とが)で、

 こちらで拘束しなくてはならなかったのだ。


 これで、良しと。

 それにしてもファーラ侯爵令嬢、罪状重ねるなあ。


 ************


 そんな()()を済ませ、私たちはとうとうここに来たのだ。


 礼拝堂の横にある、火竜が掘り起こして見つけた、地下施設への入り口だ。

 リベリアは休暇を取り、今日は合流している。

「あの学園はね、もう、最終日を迎えたセミのようですわ」

 ミミミミミ! と、最後の力を振り絞って暴れているようだと。

 私はスタービル先生や、真面目に頑張っていた一部の生徒を思い胸が痛んだ。

 でも、やらなくてはならない。


 そこは急な山の斜面にあるため徒歩では行けない。

 私たちは礼拝所付近から、皇国の用意した小さな飛竜に一人ずつ乗り、

 ひび割れた入り口へと降り立ったのだ。

 最初がクルティラ、次にリベリア、最後に私。

 穴に入り込むと、飛竜はどこかに飛んで行った。

 どこかに潜み、呼んだら戻ってくる手はずだ。



 亀裂から入り、中を見渡す。それなりに空気が動いているようだ。

 この施設は四角い年輪のように、

 いくつもの正方形が重なっている作りになっている。

 一番小さな真ん中の四角が”祈りを捧げる部屋”、

 すなわち妖魔を倒した場所だ。


 その最も外側にある大きな四角の右隅には”神の食事室”。

 学園が、陽の気を帯びた肉を落としている場所でもある。

 その肉がどうなっているのか、それがまず知りたかった。


 しかし中を進むと、思いのほか探索が難しいことが分かった。

 もともとはとてもシンプルな作りだったのに、

 今では壁が破壊され瓦礫が散らばったり、土砂で埋まったり

 まさに迷路のようになっていたのだ。

 おそらく蜘蛛の妖魔が侵入し、住み着いた時に壊れたのだろう。

 この堅牢な壁は、人間には壊すことはできないものだから。


「うーん”神の食事室”と”祈りを捧げる場所”にどうやって行くかな」

 私がそういうと、クルティラが

「神の食事室はここから近いのでは? 一番外側の四角の隅にあったのだし」

 という。そういえばそうだ。礼拝堂の近くのはずだしね。

 私たちは瓦礫を、私のメイナの力で浮遊させて動かしたりしながら

 なるべく方向を間違わないように進んだ。

 

 せまく暗い場所を静かに進むと、なんとなく息苦しく感じてくる。


 すると、あまり壊れていない通りに出ることが出来た。

 ここは歩きやすく、どんどん進める。自然と早足になってしまう。

 一回突き当りに出くわし、そこを曲がる。

 そのとたん。ピーンとつっぱる、あの気配が近づいてくる。

()()()()()()!」

 禁忌の古代装置だ! まぎれもなく、それの気配がする。


「では、妖魔が近くにいるのかしら?」 

 とクルティラが言い、私たちは足を止めて警戒した。

 聖女と守護騎士は妖魔を倒そうとした時、

 古代装置を使用した疑いが強いからだ。

「……ううん、妖魔の気配はゼロだね。それどころか……

 弱い陽のメイナの気も近くにあるの。おかしくない?」

 陽の気を放つ妖魔などあり得ない。どういうことなのだろう。


 私たちは緊張しつつ、再び前に進んだ。

 妙な圧迫感を感じる。


 右側の壁の下部は、ところどころ崩れて穴が開き、

 薄暗い闇の中、赤と黒のまだら模様の壁紙がかすかに見えている。

 うーん、蛇を信仰する一族の趣味って、独特だったのかな。


 そして次の角は、ちょうど右側の壁が崩れていた。

 ……何かの臭いが漂ってくる。

 そこを曲がった先には、広く開かれた場所があった。


 私たちはとうとう”神の食事室”にたどり着いたのだ。


 ************


 ここは肉を落とす場所ということもあり、ものすごく生臭かった。

 私はメイナで灯りを作り、天井あたりに浮かせて(とも)す。


 改めて見ると、ここは思った以上に何もなかった。

 肉の破片すらない。リベリアがいぶかしんで言う。

「最近はメイナ特待生がお休みされていて、陽転の授業もかなり減りましたが、

 先週はなんとか捧げることが出来たってお聞きましたのに……」

 それならば、メイナの陽転に使った肉が落ちているはずではないか。

 あるはずのものがない……ということは。


「妖魔が陽のメイナを帯びた肉を食べているということ?」

 リベリアが人差し指を頬に当て考える。

 それは考えられない。妖魔は陰の気を持つため、食そうともしないはずだ。

 じゃあ、ここに入り込んだ動物が食べているのだろうか。

 でも今のところ、虫を含めて生き物には遭遇していない。


 私は情報を得ようと周囲を歩き回ってみた。

 すると何かにつまづいてよろけ、壁の下方に倒れこむ。

「大丈夫? あら、女性用の靴だわ……」

 クルティラが私がつまづいた()()を拾い上げる。

 リベリアはその近くで何かを拾い上げている。

「こちらには小さなバッグがあるわ。手帳が中に……どうしたの?」


 二人はやっと、震えている私に気が付いた。


 私はすぐ立ち上がろうとして、壁に手をついたつもりだった。

 しかしそこは、例の”赤と黒のまだら模様の壁紙”がある個所だった。


 触れるとそれはひんやりしていて、わずかに弾力があったのだ。

 そして逆向きに撫でるとザラザラとした感触がある。

 つまり……(うろこ)だ。


「……これ、蛇の胴体だわ」

 私の言葉に、さすがの二人も息をのむ。

 そのタイミングで、壁のまだら模様は右から左へを流れる。

 蛇が移動しているのだ。


 胴の直径だけで1m近い。かなりの大蛇だ。

 私は思わずぞっとしてしまう。

 これが、彼らの”神”の正体なのか。


 右から左への流れがだんだん細くなっていく。

 そして高さが10cmくらいになったころ、

 私は蛇の尾に深く刺さった古代装置を見つけた。

「これだわ! 蛇の尾に刺さっていたのね!」

 

 私は追いかけるために壁の穴を急いでくぐる。

 刺さったままの古代装置は、ちょっと過ぎた先で止まっていた。

 蛇が急に停止したらしい。


 私は蛇の尾を踏まないように近づき、古代装置に触れる。

 ほとんど蛇の皮膚と同化したかのように固まっていたが、

 手持ちのナイフを使い、なんとか引き抜くことが出来た。

 それは、短剣のような形をした古代装置だった。


 よっこらしょ、と穴をくぐって戻ってくる。

「胴がこれなら、頭はどのくらい大きいんだろうねー」

 私がそう言うと、震える声でリベリアが答えた。

「正解を教えてくださるそうですわ」


 顔を上げると、私たちが侵入してきた場所から

 人間を軽く一飲(ひとの)みできるような巨大な蛇が、

 舌をひらひらとのぞかせながら顔を出したのだ。


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