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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
学園廃校編 ~”お前など聖女にはなれない”と私を学校から追放したけど、廃校までのカウントダウンが短くなりますが大丈夫ですか?~
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2-9.礼拝堂に隠されたもの

 9.礼拝堂に隠されたもの


 ルークスが急遽、この学園に視察に来た理由は、

 皇国において聖女の件についての再調査計画が発足したためだ。

 私が送った中間報告により、不可思議な点があまりに多いことと

 ファリール国内で増加している瘴気との因果関係が強いと判断されたのだ。


 学園長はその報を受けて、とても驚いたそうだが

「生徒に何かあったら大変ですから」

 といつものニコニコ笑顔で、全面的に協力することを約束してくれた。


「しかし一点問題があるのです。

 あの場所の地中まで調査するとなると、

 一度、礼拝堂を取り壊すことになりますが……」

 ルークスの補佐官が慌てて言い添える。

「もちろん解体や再建築にかかる費用は、

 皇国がご用意させていただきます」


 学園長はハハハと明るく笑い、

「それは心強いですが、問題はそれだけではありません。

 この山は元々、ある一族が所有する土地なんです」

「あの、蛇を神と信仰していた一族の、ですか?」

「はい。大昔にファリール国から正式に買い取ったそうです。

 彼らはファリール国民とも長年うまくやっていたのですが

 あの妖魔のせいでこの地を追われることになりました。

 ですが土地の権利を手放したわけではなかったので

 事件解決後、聖女と守護騎士が直接その一族の族長に依頼し

 この土地を借り受け、学園や礼拝堂を建てたというわけなんです」


 はああ。なるほど。私は話に割り込んだ。

「追われた一族にどうやって、連絡を取ったんでしょうか」

 学園長はなぜかちょっとムッとしたように答えた。

「追われたと言っても、彼らに非はありません。

 この山から完全には離れず、隣のガルク国で隠れていたのです」

 なるほど。妖魔が去ったと聞き、戻ってきたのかもしれないな。


 学園長は、手元に用意していた書類を広げた。

「これが、契約書です」


 書面には、すでに結婚していた聖女と守護騎士の名前と、

 一族の長のものと思える名前が連なっており、

 その内容は無償・無期限で貸し出す旨と。えええ?!

「そうなんです。

 ”神の神殿をこれ以上、一部でも取り壊すことは禁じる”とあります。

 彼らにとっては、たとえ一度妖魔に住み着かれようと

 神が住まう、神聖な場所なのでしょう」

 それで、あんな中途半端な建築なのか。

 まあ、信仰心を無下にするわけにはいかないよね。


 補佐官が頷いて、学園長に問いかけた。

「承知しました。それではこの土地を相続した方と相談しながら進めます。

 その方に連絡は取れますでしょうか」


 学園長は、ふう、とため息をつき、首を横に振った。

「それが一番の問題なのです。すでに何十年も連絡が取れておらず

 その一族全員、行方も知れません。

 こういう場合、どうしたら良いのでしょうか?」

 困った顔でこちらに聞いてくる。補佐官は冷静に返す。

「もちろん法的に、勝手に作業を進めることはできません。

 とりあえず、皇国で行方を追うとします。

 手がかりになる情報をできるだけ多くお願いいたします」

「わかりました。後ほど書面でお届けします」


 長く連絡が取れていないとは。

 法的に、勝手に土地や建物に手を出すわけにはいかない以上、

 皇国の力を使って探し出すしかないのか。


 うーん、なんかスムーズに進まないなあ。

 私はルークスと火竜に乗り、彼を礼拝堂へと案内した。


 ************


「ここか。ずいぶんと小さいな」

 ルークスが全体を見まわして言う。

 私たちを降ろした火竜サラマンディアはずっと周囲を警戒している。

 何か感じるところがあるのだろう。

 バサバサと飛びながら、礼拝堂の裏、

 山側の急な斜面を掘っているようだが

 妖魔の気配は全くなかった。遊んでいるだけなのかな?


 私は学園長に借りた鍵で中に入る。

 メイナで灯りを作り出し、ふわっと高い位置に浮かべる。

 室内が見えるが、いつもと違って、どことなく不気味だった。

「ここが、例の作業場か」

 ルークスに頼んで、台座を動かしてもらう。

 それは先生がおっしゃったとおり、簡単に横にズレた。


「ん? なにこれ」

 穴は、思ったものとは違っていた。

 ”神の食事室”まで続く、深く暗い穴を想像していたのに

 それは単なる『縦長の床下収納』とでもいうような、

 ちょっと深めの、円柱型の容器がはめ込んであるだけのものだった。

 つまり、この容器に肉をためて、後から捨てるって形?


 この”隠し床下収納”を前に、私たちはしばし黙り込む。


 ルークスはそれを見つめながら言った。

「君の先生は”穴が開いている”と言ったのだろう?

 これについて人に語る時に、そう説明するだろうか」

 確かに。穴とは言わないな。


「第一、ずいぶんと新しい。それも急いで作ったようだな」

 ルークスは小さなナイフを取り出し、容器のふちに差し込み力を入れる。

 ボコン、という音がして、簡単に外れた。

 容器はただ、はめ込まれていただけだったのだ。私はつぶやく。

「本当に急ごしらえだ」

 ルークスはそれをずずず、と引き抜いて、横に置く。


 そこにあったのは、最初に想像したとおりの穴だった。

 深くて、覗いても真っ黒で。

 試しに小石を落とすと、間があいてから床に転がる音が聞こえた。

「7、8mはあるな」

 落下時間でルークスが推測する。

 二人とも穴を見つめる。ときおり生暖かい風が吹いてくる。

 ここに妖魔の気配はないが、とても禍々しい。


 しばらく見つめ、考えていたが、ルークスが立ち上がって言う。

「今日はここまでだな」

「うん。そうだね」

 容器を元のようにはめ込み、台座も戻す。


 外に出て鍵を閉める。誰も忍び込んではいけない。絶対に。

 穴を隠すということは、想像が当たっているということだ。

 そして皇国の視察にあわせて、こんな仕掛けをしたのは誰か。

 それが出来るのは学園内で一人しかいない。



 私はルークスに告げた。ニヤリと笑いながら。

()()()()()()()()()()()()しか、ないね」

 ルークスは仕方ないな、というように笑って応える。

「分かった。皇国に戻り次第、そちらの手続きを進める」

 皇国はしばらくの間、表向きは相続人を探しているフリをするのだ。

 おそらく相続人など探しても見つからないだろう。

 あれは単なる”時間稼ぎ”だ。


 ルークスが火竜を呼び、二人で乗る。

 いったん飛び立ったが、振り返って驚く。

「見て!」

 先ほど火竜が掘っていた山の側面に、

 割れた石壁の一部がむき出しになっていた。



 私たちは、地中深くに作られた、

 蛇の神の神殿への侵入口を見つけたのだ。



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