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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
王国崩壊編 ~せっかく貴方たちのために働いたのに国外追放とは、そんなに早く滅びたい?~
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☆番外編☆ 2:ガルス王子の最後

番外編です。


本編未読でも大丈夫かと思われますが、

ガルム王子が国外追放されるまでの経緯は

『断罪のアスティレア ~王国崩壊編~』

 ~せっかく貴方たちの国のために働いたのに国外追放とは、

  もともと有罪確定なのに、さらに罪を重ねて大丈夫?そんなに早く滅びたい?~

を読んでいただけると幸いです。


本編を読む時間がもったいない方へ。

彼の一族は民衆を虐げ、犯罪に加担し、大変な悪事を行いました。

それでも死刑にはならなかったのですが、

こちらで真の断罪を受けることになります。


どうぞ、よろしくお願いいたします。

 ☆番外編☆ 2:ガルス王子の最後


 パルブス国の元・王太子ロクタスが

 エギール国で”生贄の仕事”を立派にこなしているころ、

 その弟ガルスは、遠く離れたテリム国までやってきていた。


 それは別に、誰かの報復を恐れたからというわけではない。

 テリム国は幅広く砂漠に面しており、

 常に魔獣や妖魔の危険にさらされているため

 積極的に傭兵を雇い入れている国だったからだ。


 さらにこの国は、その働きによってはどんどん地位や報酬を与えるという

 ”剣の腕に覚えがある者”にとっては好条件の国だった。


 つまりガルスは未だに、自分の実力はパルブス国で一番だと思っていたのだ。

 実際はメイナという魔力が使えるように、増幅器を大量につけ

 攻撃力も防御力もその力でカバーしていたからに過ぎなかったが

「多少アイテムで補強はしていたけど、実力もあるから大丈夫だ」

 などと言い、周囲か遠まわしに止めても、

「増幅器をつけなくても、俺は誰にも負けたことなかったんだぞ」

 と身体を反らして威張っていた。


 それはそうだろう。ガルスが言った

「稽古にならないから、本気でかかってこい」

 という言葉を本気にし、うっかり彼を打ち負かしてしまった兵士は

 翌朝どころかその晩には姿を消していた。

 おそらくガルスに始末されたのだろう。

 その話はすぐに兵士の間で広がったため、

 誰もガルスに勝とうとはしなかっただけなのだ。


 そして面倒な鍛錬や修行など一切行わず、

 兵法や戦術も全く学ぼうともしなかった。

 考えることが苦手な彼にとっては、むしろ剣術以上に不得手だったから。


 しかし彼の一番の問題は、立場を利用した兵士いじめだった。

 兵に対して威張り散らすだけでなく

 なんでも言うことを聞く、逆らわないオモチャとして兵を扱っていたのだ。


 だから彼を恨む者は山ほどいるが、そのほとんどは

 現在はパルブス共和国となった国内に住まう、元・兵士たちだった。

 彼らはガルムが国を出ていったことを知り、苦々しく思い、

 処刑して欲しかったのに、と嘆くものも多かったのだが。


 ************


「うーむ。数多くの戦歴がある、と……」

 テリム国の兵隊長が、ガルムを上から下まで眺めてつぶやく。

 ぜひ傭兵として自分を雇え、と売り込んだところ

 人手不足ということもあってすぐに面接にこぎつけることができたのだ。


 それなりに背は高くがっしりとした体格のため、強そうにも見える。

 しかし、どう見ても戦いを知る者の気迫や所作を感じないのだ。

 首をかしげる兵隊長に、それでもガルスは”俺は強い”と言い張ったが

 元・王子ということは伏せていた。


 それは別に非難や迫害を恐れたのではなく、その方がカッコいいと思ったからだ。

 ”どこから来たのからわからない戦士だが、

 いざ魔獣相手に戦ってみると最強だった。

 彼をよく調べてみると、今は亡き王国の元・王子だったのだ!

 すぐに軍のトップとして雇用され、その国の姫をもらい受け……”

 ガルスは頭の中でそのような筋書きを作り、独りでニヤニヤしていた。


 先ほど城内で見かけたテリム国の姫は、

 戦士を優遇する国の姫らしく、鎧をまとった迫力のある美女だった。

 長い金の髪をなびかせ、緑の瞳は挑発的にこちらを見下し、

 それでいてどこか悪戯っぽい笑みを浮かべる赤い唇が悩ましかった。


 その姿をガルムがぼーっと眺めていると、他の兵士たちが

「この国では身分ではなく、強い者に全てが与えられるからな。

 一番上の姫だけでなく二番目の姫も、平民出の戦士と結婚したんだ。

 あの美しいライラ姫もきっと、強い戦士を選ぶだろうって噂だぞ」

 などと話しているのが聞こえたのだ。


 妄想にふけるガルスに対し、彼の戦歴が書かれた紙を見て

 面接していた兵隊長は思わず噴き出した。

 今まで倒した魔獣の名前が異常に立派過ぎるのだ。

「ディダーラだって? 何人で倒した?」

 ガルスは目をそらし、ぼぞっと答える。

「……独りで、だ」

 ディダーラは人間をひとくちで飲み込めるほど巨大な妖魔だ。

 一般の兵士がそう簡単に倒せるものではない。


 兵隊長は呆れたが、ガルスは嘘はついていなかった。

 ただしディダーラをたった一人で倒したのは、

 ”皇国の守護者”とよばれるルークスだ。

 ガルムは自分の兵をおとりにして、さっさと逃げただけだった。


 兵隊長は、こんな嘘つきの面談は時間の無駄だと思い、

「うちで雇うことはできない。他をあたってくれ」

 そう言って席を立った。

 ガルムはあわてて立ち上がり、

「な、なんで戦わせてもみないのに不合格なんだよっ!」

 と怒鳴る。まさか自分ほどのものが落とされるとは思ってなかったのだ。


 当然門前払いになるはすだったが、しかし。

「お待ちください。彼をうちの隊に入れたいのですが」

 陰で面接を見守っていたらしい男が前に出てきたのだ。

 砂漠の砂避けのためのフェイスガードをつけているため顔は見えないが

 年はガルクとそんなに変わらない、まだ若い男だった。

「ええっ?! いま、なんと!」

 驚く兵隊長を連れて、その男はふたたび裏手へと戻っていった。

 しばらくの間、兵隊長のみが戻ってくる。

「……採用だ。お前を”砂漠の鷹”のチームに入れる」

「ヒヒヒ、そうだろうそうだろう。

 見る目がある奴にゃ分かるんだよ、俺の強さが」

 そう笑うガルクを冷ややかな目で見ながら、兵隊長は言った。

「さっさと手続きを済ませて兵舎へ向かえ」

 ガルクが上機嫌で部屋を出ていくと、

 代わりに事務手続きの係の男が部屋に入ってきた。

「さっき採用された男の装備ですが、どのレベルでご用意しますか?」

 面接で分かった相手のレベルに合わせた道具を用意するのだ。

 兵隊長は変な笑いを浮かべて言った。

「使い古しのもので充分だ。……破棄寸前のもので良い」


 ************


「”砂漠の鷹”は、歴戦の戦士が集う最強のチームなんだってな」

 夕食時、ガルムは上機嫌で他の兵士に尋ねている。

「ああ、そうだよ。全員ものすごく強いんだ。

 でもそれだけじゃなくて、仲間想いで優しい人ばかりだよ」

 そんな言葉にガルムは、自分はツイてると喜んでいた。

 このチームですぐにトップになれば、

 あっという間に予定通り、姫の婿に選ばれそうだ。


 翌日すぐに初の任務で、砂漠に向かうことになった。

 通常の新入りはまず、兵舎近くの訓練所でさまざまな研修を受けるのだが

 ガルムに関しては隊長が

「この男には必要ない」

 と断ったそうで、すぐに実戦の運びになったのだ。


 幼いころから練習が大嫌いだったガルムは大喜びだった。

 ”やっぱ見る人が見ればわかるんだな、

 俺から溢れ出る強者のオーラは隠しきれないのか……”などと思い、ほくそ笑む。


 しかも出立直前に、なんとあのライラ姫が現れたのだ。

 どうしましたか? と兵に尋ねられた姫は、顔をほんのり赤らめ

「……別に。通りがかっただけです」

 とつぶやく。そして、すねたような顔でぷい、と横を向いた。

 兵はなんだかニヤニヤしている。


 ガルムの心は一気に沸き立った。もう目をつけられたのか、俺は! 

 この妖艶でかつ、可愛らしい美女に。


 ガルムたちのチームが出立するのを、

 ライラ姫はどこか切ない目で見送っている。

 ガルムは手を振ってあげようかと思ったが、

 自分が安く見える行動は慎もうと思い、ぐっとこらえた。


 代わりに姫の前を横切る際に、いったん馬を停止させた。

 そしてわざとらしく、自分の持っていた手布を落とす。


 パルブス国にいたころ、モテる兵士がそうしていたからだ。

 それを女の子たちが我先にと争って拾い、

 手に入れることができた娘は、それをぎゅっと抱きしめながら

「お帰りをお待ちしています!」

 などと叫んでいたっけ。


 そんな回想にふけっていたら、後ろの兵士が怒鳴ってくる。

「おい! さっさと進め!」

 仕方ない……。ガルムは返事もせず、

 姫の様子を見ながらゆっくりと馬を進めた。


 ライラ姫は手布をちらっと一瞥したが、

 眉をひそめた後、そのまま後ろを向いて去っていった。

 どこからか来た犬が、手布をくわえて走っていくのが見える。

 思惑が外れたガルムは呆然と、犬の後ろ姿を眺めていた。


 ************


「何やってんだ! まだ準備が終わってないのか!」

「おいおい、そんなこともできないのか、役立たずめ」

 ガルムは新入りとして、こき使われていた。

 仮設で作られたトイレの掃除や物資の運搬、

 食事の準備をさせられたかと思えば、

 いきなり見張りに行けと命じられた。

 腹をすかして戻ってきたら、残っていたのは残飯のみ。

 肉などひとつも残っていなかった。


 ひとり悔し涙を流しながら、

「何が仲間想いで優しい奴らだよ! クズばっかじゃねえか!」

 と悪態をついていた。

「俺があの姫の夫として軍に君臨したら、全員死にそうな前線に送ってやらあ」

 そう思いながらギリギリと歯を食いしばる。


 チャンスは4日めにやってきた。

 魔獣の襲来を告げる見張りの声が響き渡る。

 自分の実力を見せる時が来たのだ。

 ガルムは兵長や先輩などの指示を聞かずに飛び出していった。


 見張りの指し示す方向にいたのはサンドワームだった。

「なんだよ……しかもたった3匹かよ」

 サンドワームなんて、もう何回も倒した……のを見たことある。

 ガルムは腕を組み、パルブス国の兵士が倒すのを見ていただけだ。


 もっと見せ場を作れる魔獣が良かったが、

 これ以上あいつらにデカい顔させないためにも

 俺が鮮やかに瞬殺してやるか。


 腰に刺した剣を抜き、ガルムは歩き出す。

「おい、ちょっと! 危ないぞお前!」

 見張りの声を聞き、ガルムから思わず笑みがこぼれる。

 そうそう、それで良い。最初は俺を見くびって心配してろ。

 だが次は、俺の雄姿に()()()()()になりやがれ!


 ガルムはサンドワーム3匹の中央まで走り込み、

「うおおおおおおおお!」

 威勢の良い掛け声をあげて、サンドワームに切りかかる。

 真横に回転させ、まとめて切ろうと思ったらしい。


 しかし、最初の1匹に剣が当たった時点で見事に跳ね返され、

 ぶざまに転倒し、砂の中に顔面から突っ込んでしまう。

「……ぶはあ!」

 起き上がり、乱暴に顔に着いた砂を払うと、

 ガルムはじっと剣を見つめた。

「嘘だろ……」


 今までと、全然違う。メイナが使えないと、ここまで違うのか。

 剣は何の属性も帯びることが無く、切れ味も鈍いままだ。


 皇国に捕らえられ、更正のための指導を受けたりしたが

 もちろん反省も後悔もするわけがなく、

 毎日、適当な返事をして過ごしていた。


 武器をふたたび持てたのは出立する時だ。

 最低限の金銭や荷物は皇国が用意してくれたのだが、

 剣にいたってはなぜか、元々ガルムが使っていた極上品を返してくれたのだ。

 その時はなにも不思議に思わなかったが、今は分かる。


 皇国は、こうなることが分かっていたのだ。

 剣が変わったのではない、お前の実力が無いのだ、と実感させるために。

 メイナという魔力無しでは、弱く、何もできない人間なのだ、と。


 顔をあげると、サンドワームたちがすでに自分を包囲していた。

「う、うわあああああ!」

 ガルムが叫ぶと、離れた場所でどっと笑い声がする。

 ガルムは頭に血が上り、彼らに叫んだ。

「見てないで助けろよ!」

 兵長が前に進み出て大声で言う。

「勝手にサンドワームの中に飛び込むから、

 そいつらと顔見知りなのかと思ったよ」

 チームの皆が一斉にまた笑い声をあげる。

「いやー、最初のすっ転びから()()()()()で動けなかったよ」

 見張り役が言う。他の者も笑っている。


 キリキリキリキリという嫌な音を立てながら

 サンドワームが足を延ばしてくる。

 それを必死に剣で弾きながら、ガルムは叫んだ。

「人殺し! お前らみんな人殺しだ!」

 すると滑るように兵長がかけてきて、

 3匹を順番に、鮮やかに切り裂いていく。

 ガルムの剣よりはるかに安価そうな、どこにでもある普通の剣だった。

 でも圧倒的に腕が違う。

 サンドワームの弱点といわれる、甲殻の隙間を狙って切っていた。


 周囲に散らばるサンドワームの死骸。

 ガルムは震える。そうだ、俺がこんな風に倒したかったのに。


 兵長は座り込むガルムの前に立ち、ゆっくりとフェイスガードを取る。

 筋肉質な体に対して、その顔はどこかの国の王子のように品があり、整っていた。

 黒い髪に浅黒い肌、鼻筋が通り、切れ長の目は鋭くも美しい。

 そして頬に大きな傷がある。


 ガルムは一瞬目を細め、そして今度は目を見開いた。

「……お前は、オーウェン!」

 パルブス国でガルムの直属だった兵士だ。

 かなりの実力があったため、とにかく人気が高かった。

 女の子たちが手布を取り合ったのも彼だ。

 だからガルムは彼が目障りで仕方なかった。

 精鋭と呼ばれる彼の隊員たちも大嫌いだった。

 この国で強いと褒めたたえられるのは、自分だけでないとダメだから。


 パルブス国の辺境にあった、妖魔が大量に巣くう絶壁の古城。

 そこにオーウェンの隊を送り込んだ後、

 すかさず、その城に続く橋を破壊したのだ。

 城の窓から崩れゆく橋を見て、オーウェンたちは悟った。

 ガルムに騙されたことを。


「お前……死んだのかと思っていたのに……」

「まあ、あの状況で生き残るほうが難しかったな。

 おかげで仲間もだいぶ失った」

 そう言って、周囲に集まってきた兵に目をやる。

「ま、まさか……」


 ガルムはろくに顔など覚えていなかったが、

 彼らはオーウェンの部下として所属していた者たちだった。

「お久しぶりです。元・王子」

 ガルムは羞恥と怒りで赤くなった。

 こいつら、最初から俺のことを知っていたのだ。

 知っていて入隊させ、わざとここに連れて来たのだ。


 それは何故なのか……と考え、理由を思いついた瞬間。

「うわああああああああ」

 ガルムは大声をあげて逃げ出した。

 砂に足を取られながら、彼らからなるべく離れようと走り出す。


 しかし、その足に。

 バシュッ! という音とともに、深紅の矢が刺さった。

「痛ってええええ!」

 転がりまわるガルムを馬で見下ろしたのは。

「オーウェン、このクズ男、まだ生かしておいたの?」

 太陽の陽を浴びて金の髪をきらめかせながら、

 ライラ姫はオーウェンに向き直る。

「な、なんで……」


 ガルムの言葉に続けるように、近づいてきたオーウェンが尋ねる。

「なぜここに来た? ライラ」

 いきなりの呼び捨てに驚いていたが、それ以上の事が起きた。

 ライラ姫は馬から飛び降りると、オーウェンの首に飛びついた。

「言ったはずよ。あたしは3日も会えないのは嫌なの」

 そういってオーウェンの頬を両手で包み込み、口づけをする。

 あまりにも情熱的なその姿に、ガルムは痛みも忘れて見入ってしまう。

 他の兵士はこんなのには慣れっこのようで

 だから早く帰らないとって言ったのに、などと言っている。


 ライラ姫はガルムに向き直り、汚いもの見るような目で言った。

「お父様に頼んで、パルブス国に攻め入ってもらおうとしたのを

 ”パルブス国民が可哀そうだから”と止めたのはオーウェンよ。

 お前だけに復讐できる機会に恵まれて良かったわ」

 ガルムは慌てて叫ぶ。

「違う! 違うんだ! あれは任務だった!

 橋が壊れたのは不幸な事故だったんだ! 本当だあ!」

 オーウェンは鼻で笑った。

「その辺の調べはすでについている。

 あの状況で、もうダメかという時に、皇国の救援が来たのだ。

 我々は事情を話し、国には帰らないことを理解してもらった。

 そしてそのままこの国へ傭兵として流れてきたのだ」

 そういって、ライラ姫の横を抜け、片足をついてガルムの顔を見る。


「それに、復讐とはあの件だけではない。

 そもそもあの国で、俺がお前なんかの側にいた理由は……」

 ガルムがガタガタとふるえている。

「ユーリク・ダルフムを覚えているか?」

 ガルムは黙って首を横に振る。オーウェンはかすかに笑う。

「そうだろうな。いちいち虐殺した兵の名なんて覚えてないよな。

 ユーリクは俺の幼馴染だ。根っから真面目で誠実な奴だった。

 あの日”稽古にならないから、本気でかかってこい”という

 お前の言葉を真に受けたせいで……あいつはどうなった?」

 ガルムの脳裏に、雷のように記憶が蘇ってくる。

 ユーリクに打ち負かされて、プライドが傷ついたガルムは

 ”お怪我はありませんでしたか?”と様子を見に来た彼を

 メイナを使って池で溺死させたのだ。

 そして侍従に命じて遺体を始末させたことまで思い出す。


「側にいる間はなかなか証拠を見つけることが出来なかった。

 でも、お前が最低の人間であることは実感できたし

 間違いなくお前が何かしたのは間違いない、と確証持てたんだ」

 言い返したくても、自分をぐるりと見下ろす顔を見ていると、

 何も言えなかった。

「国が崩壊して、やっと証言を得ることが出来た。

 殺害を見ていた者や、遺体を始末した侍従からも」


 その時、砂がグルグルと緩やかに渦を巻き始める。

 ライラ姫がはっ! という顔で深紅の弓を構える。

「……やっと来たか。俺はずっと、これを待っていた。

 サンドワームの死骸が撒き餌になったな」

 そう言ってオーウェンは、ガルムの足を掴み、

 渦の中央近くへと引きずっていく。


 その場にガルムを置くと、ガルムの体を踏み台にし、

 強く蹴り上げて、渦の外側へと遠く高くジャンプした。


 ガルムも必死に中心から逃れようとするが、

 そこからでは巻き込む流れの方が強く、なかなか進むことが出来ない。

 すると渦の中央から触手が何本も伸びてきた。

 ガルムは恐怖で絶叫する。


「それは妖獣サルラックの触手だ。

 巨大な体を砂漠の地下に埋め、触手(これ)を伸ばしてエサを捕らえる。

 安心しろ。サルラックは、捕らえたエサを殺さない」

 ガルムの動きが止まる。そ、そうなのか? 殺さないのか?

「神経毒で麻痺させて、体内に備蓄しておくのだ。

 砂漠ではいつ、次のエサにありつけるかわからないからな」

 そうオーウェンが言った時には、ガルムはすでに触手でグルグル巻きになっていた。

「意識は残り、苦しみも感じるが、サルラックは()()()()()()()()()ぞ」

 死刑だったら、その痛みなど瞬間だったろう。

 サルラックの体内で保存食として生かされたなら、

 それは永遠に感じるほどの苦しみを味わうのだ。


 ガルムは必死に謝罪の言葉を繰り返す。許してくれ! 俺が悪かった!

「あの世で皆に、その言葉を言えばいい。

 誰も聞いてはくれないと思うがな」

 ガルムはとうとう、大きく開かれたサルラックの口の中へと沈んでいった。

 その口は砂の中へと沈んでいき……

 やがて砂漠は何事もなかったかのように静まり返る。



 ライラ姫がオーウェンの顔を見上げて言う。

「……これで、気持ちの区切りはつけられた?」

「ああ」

 その言葉に、ライラ姫は顔をほころばせる。

 ”気持ちの区切りがつくまでは”と、ライラ姫の求婚を断っていたのだ。

「いったん、国に帰るよ。君も一緒に行かないか?

 会わせたい人、見せたい景色、食べさせたい料理があるんだ」

 返事の代わりに、ライラ姫はもう一度オーウェンに飛びついた。


 ************


 一時帰国した彼らの口から、パルブス国の元・一般兵たちは

 ガルムの無惨な最期を知った。

 多くの元兵士が溜飲を下げ、あの悪夢のような日々に、

 心の底から終わりを告げることができたのだった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい末路ですね。 こいつらの場合はメイナも他人のものを掠め取っていたものですから。 人の力や手柄を取る奴は最低です。 そして、犬を褒め讃えたいw
感想一覧
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