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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
王国崩壊編 ~せっかく貴方たちのために働いたのに国外追放とは、そんなに早く滅びたい?~

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☆番外編☆ 1:ロクタス王子の末路

番外編です。


本編未読でも大丈夫かと思われますが、

国外追放までの経緯は『断罪のアスティレア ~王国崩壊編~』

 ~せっかく貴方たちの国のために働いたのに国外追放とは、

  もともと有罪確定なのに、さらに罪を重ねて大丈夫?そんなに早く滅びたい?~

でお読みいただければ嬉しく思います。


よろしくお願いいたします。

 ☆番外編☆ 1:ロクタス王子の末路


 盗賊などの犯罪者を陰で援助して金品を得たり

 禁止されている古代装置を不正し、

 ”メイナ”と呼ばれる魔力のような超能力を不正使用することで

 国民を強権支配し、他国に対しても

 やりたい放題だったパルブス国の王族と貴族たち。


 しかし皇国から派遣されたメイナ技能士 アスティレアによって

 それらの罪は全て暴かれ、彼らは厳しく断罪されたのだった。


 その結果、この国は王制が廃止され、

 共和国として生まれ変わることになった。

 国王一家や関わった貴族たちは、

 刑に服し更正のための指導を受けた後、

 国に残るも国外に出るも自由となる。


 新生されたパルブス共和国の国民は少々不思議がった。

 あの国王や王子たちを、皇国はなぜ処刑しなかったのか。


 根っから傲慢で自分の利益しか考えない彼らが

 心を入れ替えて反省などするわけないのに。

 せめて長きにわたって牢屋に入れても良さそうなものを。


 その疑問に対する皇国の回答は

「国王を処刑し新たに国を作る手法は、歴史的に見ても

 次に生まれる政権の安定が難しくなる可能性が高く、

 周辺国に対する影響も少なくない」

 というものだった。


 そして最後に

「彼らにチャンスを与えるためでもある」

 と付け加えられていた。


 さんざん国王一家や貴族から虐げられていた者などは、

 はじめは納得しかねていたのだが、

 共和国がとてもスムーズに運営され、

 また生活が大幅に改善されることにより、

 これで良かったのだろう……と思うようになった。


 しかし時間の経過により、人々は皇国の真意に気が付き、

 驚き、そして深く納得するのだったが。


 ************


 王太子だった長男のロクタスは、

 国外移住の行き先を隣国のエギール国に定めた。

 元・貴族だった侍従がひとり、行く当てがなく困っていたため、

 ロクタスといれば自分も何か職を得られるかと思い付いてくる。


「あの後進的な国は以前、俺の知識や政治的な采配を絶賛していたからな」

 馬を走らせながらロクタスはニヤリとほくそ笑む。

 きっと国をあげて自分を歓迎し迎え入れてくれ、

 重要なポストを用意してくれるだろう。


 エギール国はパルブス国よりもさらに小さな国だ。

 のどかな田園風景が広がる、牧歌的で穏やかな雰囲気が漂っている。

 国民はみな粗野だが純朴で、家族を大切にし、

 年に一度の収穫祭を盛大に祝うお国柄だ。


「そういえば、前に来た時も収穫祭の直前だったな」

 ロクタスがそういうと、くっついてきた侍従は急に、

 はっ! と何かに気付いたかのような顔になった。

「……あの、やっぱりエギール国はおやめになったほうが……」

 ロクタスはすでに王子ではないが、敬語のままなのは

 もしロクタスが他国でそれなりの地位になった時には

 自分をまた侍従として使って欲しいと思っているからに過ぎない。

「なぜだ? まあ、そうだな。あんな小国に俺はもったいないか」

「……はい! そのとおりです! 

 もっと離れた、新しい国へ行かれたほうがよろしいかと!」

 本心を押し隠し、必死で別の国を勧める侍従。


 しかしロクタスは侍従の”もったいない”という評価に気を良くし

 余計にエギール国で熱烈に歓迎されるだろうと考えてしまったのだ。

 今回断罪された件で、王太子としてのプライドは粉微塵となった。

 だからこそ”あなたは偉い! 賢い!”と言われることに飢えていた。


 先進国や、パルブス国と同じくらいの国ではダメだ。

 あんな小国だったら、自分のような有能な人材が来たことに歓喜し、

 下にも置かないもてなしを受けるに違いない。

 そんな勝手な妄想に囚われてしまっていた。


「まあ、いいじゃないか。あの国のために行ってやろう」

 上機嫌で言うロクタスの横で馬を走らせながら、

 侍従は何も言わず顔を曇らせていた。

 そして直前まで自分だけでも行くのを止めようかと思い

 ずいぶんと悩んだが、元々優柔不断であり、

 他に行くところもないため、結局同行することにした。

 このため彼はのちのち、大変な後悔をすることになるのだが。


 ************


 二人がエギール国に到着すると、

 町並は相変わらずだったが、以前と何かが変わったような印象を受けた。

「気のせいか? 少し荒れているような気がするな」

 ロクタスが周囲を見渡しながら言うと、侍従も

「そうですね。もうちょっとノンビリした国でしたけど」

 市場に出回る野菜の種類も品数も少なく、その品質もイマイチだ。

 うろつく客も少なく、中には目つきの悪い者も含まれている。


 ロクタスはその様子を見て、ふんふん、と勝手に構想を練る。

「……なるほどね。なかなか困っているようだな」

 そういってニヤニヤする。これは俺の需要は高いな、と。

「まあ、これを立て直して欲しかったら、

 給与だけじゃなく支度金も必要だし、俺にふさわしい豪奢な家と、

 あと侍従と侍女も用意してもらわねばならないな」

「あっ! 私をその(かしら)にしてくださいよ! 」

 あわてて侍従が言う。そのために来たのだから。


 そうこうしているうちに、やっと王城に着いた。

 小さな国らしく、城もシンプルで簡素な造りだった。

 ここまでの道のりは、その質素な身なりのために、

 誰も元・パルブス国の王太子だとは気づかなかった。

 そのことに多少苛立ちながらも、門番に告げる。

「パルブス国の王太子 ロクタスが参ったと伝えろ」

 年老いた門番は不思議そうな顔をしながらも

 一応王太子だって言ってるしなあ、といった感じで敬礼をし

 他のものに伝言を伝えた。


 しばらくの間があり、ものすごい勢いで兵士が走ってくる。

 そして門番に対し、大きな声で尋ねる。

「ほ、本当に来たのか? あの、パルブスの……」

 それを聞きながら、ロクタスはニヤニヤしている。

 ”そうだろう、そうだろう。俺様が来てやったのだ。

 突然の傑人の登場に、さぞかし驚いただろう”

 そう思っていると、門番はこちらを指し示す。

 兵士はロクタスを驚いた顔でじっと見つめ、

 次に侍従を見て、またロクタスに視線を戻す。


 しばらくそのまま固まった後、

 最後まで何も言うことなく、走り去っていった。

「そんなに驚かなくてもいいのになあ?」

「……ええ」

 ご機嫌なロクタスに対し、侍従は不安が募るばかりだ。

 なぜなら、前回ここに訪れた時、ロクタスは……


 そんな侍従の様子に気付くことなく、ロクタスは呑気に呟く。

「慌てて歓迎の支度をしているのだろう。

 酒はともかく、料理は困るだろうなあ。

 事前に知らせてやれば良かったか」

 ノンキなことを言うロクタスを、侍従は困惑しながら見上げた。

 もしかして、自分が気にしすぎなのか? と。


 すると向こうから先ほどの兵が戻ってくる。

 何人か仲間を連れていた。

 そのうちの一人は兵ではなく、メイナ技能士のようだ。

「王の前にご案内する前に、手荷物を改めさせていただきます」

 そういってロクタスの安物のマントを取るように言い、

 腕や首回りなどを重点的にチェックしている。

 以前はそこに、たくさんのメイナ増幅器を付けていたから。


 ひとしきり調べたあと、兵たちとメイナ技能士はうなずきあう。

 そしてこちらに振り向いて言う。

「……通して良い。国王が広間でお待ちだ」

 ロクタスは眉をしかめる。

 こいつ、急に敬語を使うのを止めたのか?

 しかし兵はどんどん先に進むので、仕方なく侍従を引き連れて、

 その後をついて王城をどんどん進んでいった。


 広間に着くと、そこにはエギール国王がいた。

 宰相や近衛兵も大勢並んでいる。

 ロクタスはその前に進み出でて、軽く礼をし挨拶をする。

 しかし、誰も何も言わない。

 ”そんなに(かしこ)まることもないだろう”

 ロクタスがそう思っていると。


 エギール国王がようやく口を開いた。

「……何のためにこの国に来た?」

 ロクタスはイラつきながらも答える。

「別に大した用は無いが、ちょっと立ち寄っただけだ。

 でも国内を見るに、いろいろ問題点を抱えているようだな。

 俺の目から見ると、改善すべき点ばかりだ」

 今日、この国に着いたばかりだというのに、適当なことを言う。

 相手が”ぜひ、ご意見を伺いたい”というのを待っているのだ。


 しかしエギール国王の答えはロクタスが期待したものではなかった。

「黙れ。バカバカしい……。

 行政を誤り、人民に見放され、

 国を追われた者の言葉など何の価値があるのか」

 ロクタスは一瞬で頭に血が上った。

「あ、あれは皇国が勝手に、人民をそそのかしてやったことだ!」

 ロクタスが怒鳴ると、エギール国王は鼻で笑う。

「今さら虚言など要らぬわ。世界中が真相を知っておるぞ」

「その通りでございます。

 国家ぐるみで犯罪を行うなど、呆れるばかりです」

 宰相が言い、他の大臣もうなずく。


 国が無くなった理由については、もはや言い逃れできない。

 こうなったら、せめて自分にはまだ価値があると知らしめなくては。

 ロクタスは青筋を立てながらも言いつのる。

「王である父に従うしかなかったのだ。

 俺自身は本来、知識も豊かであり見識も備えている。

 次の国王としての教育を受け、政治的な手腕も確かだぞ。

 正しい王の下でなら、存分にこの才能を発揮できるはずだ!

 俺に交渉を任せれば……」

 馬鹿にされたまま引き下がるなど考えたくもなかった。

 しかし。


「”交渉”か。笑わせるな」

 エギール国王は怒りのこもった口調で言った。

「……お前がこの国で何をしたのか、忘れたのか?」

「はあ? 」

 何のことか分からないロクタスに対し、侍従は震えあがる。

 やはり、来てはいけなかったのだ!


 国王以外のものも、その目は燃えるような怒りを宿していた。

「以前お前が来た時に我が国を脅してきたな。

 今年取れた名産のブドウを半分寄越せと言って。

 それが出来ないようなら、メイナを使って国境沿いの防護壁を崩す、と。

 お前の交渉とはそのような類のものだ」

 ロクタスはすっかり忘れていた。

 往々にして加害者はすぐに()()()()を忘れるものだ。


「我々が難色を示していたら、お前は何をした?

 感謝祭の祭りのために作り上げた”太陽神の塔”に

 メイナを使って火を放ち、燃やし尽くしたのだ! 」

「あ、あんなの別に祭りの飾りじゃないか! 」

「あの時もそう言ったな。

 ”どうせ最終日に生贄(いけにえ)の鶏を入れて燃やすんだろ! ”と。

 しかし年一度の大切な祭りが穢された民の気持ちがお前に分かるか?」

「今でも民衆はお前のことを心から憎んでおりますぞ。

 ここまでこれたのは、その粗末なマントで素性がバレなったおかげに過ぎん」

「おかげで去年は大変な不作だった。

 それは全て、お前のせいだとみんな思っている」

「”太陽神の塔”自体はただの飾りかもしれん。

 しかしあれを失うことでさまざまな行事が実行不可能となり

 それに関連する店や職種は仕事を失った。

 どれだけ経済的な損失が出たか、知識も見識もあるなら分かるはずだ!」


 その場にいたエギール国のものが、いっせいにロクタスを責めだした。

 言いくるめようとしたが、なかなか言葉が出ない。

 自分は弁が立つはずなのに……そうロクタスが焦っていると。

「さすがに何も言い返せないだろう。理由が分かるか?」

 ロクタスはイライラしながら、無意識に右手を左手首に当てる。

「……そう、以前もそうだった。思い通りに話が運ばなかったり

 自分の要求が通らない時にはすぐに、メイナ(あの力)を使って脅してきたな」

 エギール王の言葉に、ロクタスははっとする。


 そうだ……そうか。

 自分が何でも言えたのは、メイナを使えたからだ。

 あの超能力が使えたからこそ、いつも圧倒的に有利だったのだ。


 近衛兵が嗤いながら言う。

「先ほどしっかり身体検査をしたが、まったくの丸腰だった

 神霊女王の裁きを受けたという話は本当だったな」

 ロクタスはあの日の屈辱や痛み、恐怖を思い出して顔面が蒼白になる。

 ジャスティティアの”天の槍”と呼ばれる、”メイナ断滅の刑”。

 それは光の矢のようにロクタスの身体に突き刺さり、

 強烈な痛みとともに、彼を二度とメイナを扱うことのできない体に変えたのだ。


 まずい、まずいぞ。

 ロクタスは今やっと、自分の真の状況を理解したのだ。

 そしてそれ以上に、自分が何者であるかに気付いた。

 メイナがなくては何もできない、使える知識も弁術も持たない男だと。


 刑に服している間に受けた更正のための教育など

 まるで心に響かなかった。適当に返事はしていたが、

 ずっと心の中では”俺は悪くない”そして

 ”それでも俺は高貴で有能な人間だ”と思っていた。


 でも、そうじゃなかった。

 したことが自分に返ってきて、やっと生まれた気持ちがあった。

 それは”後悔”という感情だった。


 しかし、もう遅い。遅すぎる。


 エギール国王の目は怒りだけでなく狂気を含んでいる。

「どうして我々が、ここに集まっているか分かるか?」

 その言葉を聞き、ロクタスはじりじりと後ずさった。

 侍従は泣いてうずくまる。


 国王は笑顔で言う。彼がロクタスの前で笑ったのは初めてだった。

「今年の収穫祭にピッタリの生贄が到着したからだ」

 ロクタスは絶叫する。


 しかし、それは誰にも届かなかった。


 ************


 そして後日、今年の収穫祭の最終日。


 例年は絞めた鶏が何羽も収められるが、

 今年はたったの()()だった。


 それは収穫祭の最中、市中を引きまわしにされ、

 石を投げられ、散々痛めつけられていたが、まだ息はあった。

 エギール国王は、国民の手を汚すことはさせたくなかったようで

 ボロボロの恰好をした他国の男がエギール国兵に命じられ、

 震えながら太陽神の塔に火を放っていた。

「だから言ったのに……もっと離れた国に行けって」

 そう呟きながら。


 その知らせを受け、パルブス共和国の人々は知ったのだ。

「彼らにチャンスを与えるためでもある」

 この言葉の”彼ら”が、元パルブス王家の人々や貴族を指すのではなく、

 彼らに深い恨みを持つ者たちを指し示しているということを。


 あの罪深く傲慢な奴らを、

 処刑などといった”王族”らしい死に方をさせてあげるほど

 皇国は甘くも優しくもないのだ。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおう、なかなか強烈な断罪劇です。 ただ、そりゃそうなるよねと納得でもありますね。
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