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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
王国崩壊編 ~せっかく貴方たちのために働いたのに国外追放とは、そんなに早く滅びたい?~
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23.パルブスのその後




 23.エピローグ


 この姿(ジャスティティア)のまま外に出るのは、更なる混乱を招くため

 私はいつもの茶髪・茶目に戻っておいた。


 外に出ると、すでに皇国の兵がいろんな場所で行動していた。

 率いる皇国の中将は、打ち合わせ通り、兵を国の外域で待機させ、

 ルークスが火竜で闘技場に入場したことを確認後、進軍したのだ。


 また国内にあらかじめ潜伏していた皇国調査団は先んじて、

 国王や貴族たちが闘技場へ向かうと同時に、

 パルブス国の協力者とともに、

 城内の避難指示と荷物の運び出しを行っていた。

(もちろん今日までに、できることは全て進めていた)

 そして入ってきた皇国兵たちを要所まですぐに先導したため、

 全てが流れるようにスムーズだったそうだ。


 通常ならばこの事態、皇国がパルブス国に侵略したかのようだが、

 今回はパルブス国がいろいろ自爆してくれたこともあり、

 事情を知る近隣諸国からすれば

「皇国遅かったな。よく我慢したな」

 と思っているだろう。


 盗賊団の件も、以前から噂になっていたようだし、

 なによりパルブス国は他国に対して高圧的であり、

 メイナを武器にした恐喝まがいの強引な外交を行ってきたので、

 この顛末を多くの国々が願っていたようだ。


 あらためて城を見ると、

 ”カラドボルグの(いかづち)”が刺さった形跡が生々しく

 ごうごうと燃えさかり、ところどころ崩れ落ちていく姿が見える。


 それはパルブス()()の最後の姿だった。


 ************


 そして、慌ただしく数日が経った。


 この国は新しく、王制ではなく”共和国”として建立する。

 何事も皆で相談して決定し、富も責務も平等に分配するのだ。

 皮肉なことだが、パルブス国の王族や貴族はこれまで、

 ほとんどの職務を下の者に投げ出し、日々遊んで暮らしていたため、

 実務的な意味では、そんなに何かが変わることなく運営できるようだ。


 もちろん皇国も軌道に乗るまで、運営・経済など様々な面で補佐するが

 新しく良い国を作り上げていくのはこの国の国民だ。

 とても真面目で働き者の国民性だから、きっと大丈夫だろう。


 今日、私たちは最後の確認に街中まで来ていた。

 ぶんぶんと手を振ると、顔なじみの役人さんが手を上げて応えてくれる。

「いやあ、忙しくなりますね」

 そういう顔は晴れやかで、幸福感に満ちている。

「事務的な手続きだけで事が進行するなんて夢のようです」

 それはめちゃくちゃ当たり前のことだが、これまでは何回も頭を下げたり

 先に根回ししたり、ご機嫌をうかがったり、

 くだらないことで時間や体力を大きく奪われていたのだ。


「それに予算もしっかりとられていると知り安心しました」

 行政は金の捻出が課題となるが、今回は王家や貴族から徴収された

 莫大な慰謝料と賠償金、違反金があるから大丈夫だ。


 それら王族や貴族の持っていた資産はまず、

 貨幣は盗賊団の被害に関するものに当てられ、

 パルブス国内だけでなく他国の被害者や

 もちろん遺跡で会った遺児にも分配され、

 彼らは安定した生活を保障される。

 あの子たちは大丈夫だと、必死で逃がしたであろう亡き両親に伝えたい。


 莫大な美術品や貴金属は売られ(盗品は返却し)、共和国の予算となる。

 国民の生活を向上させるものや、

 共和国建立に伴う資金として活用されるのだ。


 城の跡には共和国の施設が立ち並ぶことになる。

 来週には早くも、皇国の建築家や技術者が入国し、

 その都市計画を進めることが決まっている。


 役人さんと話した後、メイナ監査官にも会えた。

「君にはなんて言ったらよいかわからないな。

 ありがとうの以上の言葉が必要だ」

 そう言って笑った。そして楽しそうに、今後の職務について話し出す。


 王族や貴族は自国の一般民を会うことなく連行されていったため

 彼はまだ、(ジャスティティア)のこと知らない。ただ、私が皇国の兵を招いたと思っているのだ。

 だからまだ、気さくに接してくれている。

 私はちょっと寂しくなった。

 きっと次に会う時は、こんな風には話してくれないだろう。


 きちんと能力や才能を持つものが正しく評価され、

 たくさん活躍できる国になると良いね。きっと。……絶対。


 ************


 そして、王族と貴族たちはどうなったか。


 まずは拘留され、罪状の再確認と更正のための指導を個々で行う。

 自分たちが得ていたものが、本来どのようなものであったか、

 誰がどんな気持ちで貯めたお金だったのか、

 盗賊に殺された商隊の男には、帰りを待つ家族がいたこと。

 酪農家は自分たちを囮に、

 子どもを火の手と盗賊から守って亡くなったこと。


 想像力の欠如は多くの犯罪を生み出すものだ。

 被害者たちの実情を知ることで、

 かなりの貴族が後悔や反省の念を持つようになった。


 その後、彼らには最低限の荷物や、個人的なもの(遺品や思い出の品など)

 多少の金銭などを保有することを許される。

 まだ幼い子どもに対しては、親とともに国に残り

 一般市民としてだが教育を受けたり、生活の支援を受けることが保証された。

 そのため幼い子どもを持つ親は、名を変えて国に残ることを選ぶ者もいた。

 もちろん親は何かしらの仕事をみつけて、働かなくてはならない。


 また下級貴族の中には、盗品の分け前ももらう立場になく、

 下級貴族だと王族や公爵家などから虐げられていて、

 さらに平民に対してそんなに酷い扱いをしてこなかった者も

 同様に国に残り、平民としての生活を躊躇なく選んだ。


 それ以外の王族・貴族はほとんど国外へと出て行った。

 どこかの国の王族が国賓として受け入れてくれるだろうと

 楽観的な者もいたが、現実はそうではない。

 かつてパルブス国の王族・貴族だったと知られれば、

 間違いなく拒絶されるだろう。

 おそらく彼らは遠い異国の地で、

 平民として必死に働くより生きる術はないのだ。



 これはよく知らぬ力を、知識が曖昧なまま使った者の末路だ。


 メイナは決して”不思議な力”などではない。

 そもそも一定の規則性やルールを持たない”力”などあり得ない。

 磁力をはじめ、さまざまな物理法則だってそうだ。

 パルブス国は”メイナの秩序”をあらかじめ深く理解しておくべきだった。


 もし無知のまま使用すれば、予期せぬ恐ろしい結果を招いてしまう。

 私が何度か使ったように、極の流れを反転させる”リバース”を食らったり

(だから普通のメイナ技能士なら、絶対メイナで直接攻撃なんてしない)

 パルブス国が陽のメイナを人為的にため込んだばかりに

 町中には陰の気があふれ妖魔や呪霊を呼び寄せてしまったり。


 そして何よりパルブス国は、メイナをただの権力の道具として扱った。

 これが最大の失敗である。

 メイナの特性でもある公明正大さや正義に反した使い方は、

 世界の(ことわり)を乱し、自身も他も滅ぼすことになるのだ。


 だからこのような力は、普段は決して安易に使ったりしない。


 それは神官でもあるリベリアも同様で、

 たとえ指の切り傷を見せて治癒をせがんだとしても

「塩で殺菌いたしますわ」と言われるだけだろう。


 クルティラも基本的には、死刑執行の判決が出ている者に

 逮捕に強く抵抗され、かつ攻撃された場合しか、その技を使わない。


 ルークスをはじめ皇国の騎士たちもまず、メイナなしで訓練する。

 メイナを使用した技は、充分に剣技を習得してからだ。

 戦いの最中も、決してメイナ頼りでは戦わない。


 特異な力は、人間の本質ではないのだ。

 私の尋常ではない力も、私の本質ではない。

 力に溺れることも、力にすがることもせず、

 私は私の目で事実を見て、法や人道に基づいて判断していくのだ。


 ************


 メイナ監査官と別れ、そんなことを考えてながら歩いていると、

 ルークスが山ほどのパン・パティヤを抱えているのが見えた。

 見知らぬパルブス国兵さんに囲まれている。

「こんなので、あの時のお礼になるとは思えませんが」

 そう言ってさらに持ってくる兵士さん。

「そんなことはない! これは実に優れた食べ物だ。

 片手ですぐに食べられ、味のバリエーションも多い。

 そしてどれもが素晴らしくうまい。

 これを頂くことが出来て俺は本当に嬉しいよ」

 そう言い笑顔で、もう一つ食べるルークス。

 歓喜の笑みを浮かべる兵隊さんたちをみて、私は本当に安心した。


 共和国の兵士さんになることを、どう受け取るか不安だったけど

 この分だと、前向きに受けていてくれそうだな、と思った。


 これから子どもの保護活動や、

 盗賊対策などの治安維持も進んでいくだろう。

 他の国との関係性も、皇国の橋渡しもあり回復は早そうだ。


 楽しそうに話す彼らをそのままに、私は城の跡に向かった。


 ************


「お疲れさまでした」

 私が手を上げて挨拶すると、

 皇国の皇太子サフィラスは黒い霊獣カクタンに乗ったまま軽く頷いた。


 パルブス国にカラドボルグを使ったのは彼だ。

 黒い髪、黒い目。とても整った顔立ちだが、

 視線の鋭さで誰もが威圧されてしまう。私はなんてことないけどね。


 そもそも皇太子はまったく感情を表さない。

 押さえているのではなく、そもそも無感情なのだ。

 知性と理性のみを持ち、合理的で、限りなく公益性を最優先に考える。

 個人の好みや利益などまるで興味がなく、

 世界の秩序と発展のみを基軸に行動する。

 それが皇族であり、皇太子はもっともそれに特化した男だ。


 価値基準がお互い似ているところがあるのと

 また性格的に私は女性として扱う必要が無いこともあり、

 私たちは同士というか、友人関係のようなつながりで結ばれている。


「今回はつつがなく済んだようだな」

 おそらく一年前の件を気にしてくれているのだろう。

 私は笑顔で返す。もう大丈夫だから。

「ルークスがいてくれたしね。リベリアと、クルティラも」


 サフィラスは頷き、そうか、とつぶやいた。

 そして彼はさっと顔を上げ、霊獣を浮上させながら、

「視察も済ませた。俺は皇国に戻る」

 と言う。皇太子は忙しいのだ。

 そして、遠いところを見ている目で言った。

「しかしまだまだだぞ。これからだ」

 私は見送りながら頷く。そうだ、これからだよ。


 この世は、見逃されている罪、発覚していない罪で溢れている。


 私には、次に断罪すべき者が待っているのだ。


 【王国崩壊編 終わり】


読んでくださった方々に、本当に感謝いたします。

ありがとうございます。

皆様の周りの理不尽な物事が、スカッと断罪されますようにお祈り申し上げます。

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