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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
王国崩壊編 ~せっかく貴方たちのために働いたのに国外追放とは、そんなに早く滅びたい?~
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22.そして、私が断罪

 22.そして、私が断罪


 いよいよ判決の時が来たのだ。

 私は右手の手のひらを上にし”天秤”を生み出し、左手にとって掲げる。

 次に右手に金の錫杖を生み出し、それを本来の形である”剣”に変える。


 ルシオラ、腰から流れる幅の広いものは、リボンじゃないんだよ。

 これは、元祖ジャスティティアの”剣の鞘”だったんだよ。

 そして手首にあるのは腕輪なんかじゃない。目隠しだ。


 ちゃんとラティナ語を学び神記を読めばわかるけど

 さまざまな経緯により、元祖の神霊女王は法と証明のみで判ずるのではなく

 自身の目で事実を見て、それをもって判決を出すことにした、

 という古事の現れだ。

 その慣習があるから、私がここにいるというわけ。


 天秤は「正義」を推し量り、剣は「力」を行使するための大切な道具だ。

「剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力」と言われるように、

 正義と力は法の両輪だから。


 ************


 私は主文を言い渡す。

「被告人 パルブス国王族ならびに貴族全員に対し、

 その地位のはく奪ならびに全資産の没収、

 そしてメイナ断滅の刑と処す」


 悲鳴に近い声が、闘技場内をこだまする。

 それはそうだろう。文字通り何もかも失うだけではない。

 失ったうえに、()()()()()()いけないのだ。


 皇国での協議の段階では、死罪も考慮されていた。

 私の個人的な感情でも、国民への弾圧や、遺跡で会った遺児を思えば、

 彼らがしていたことはそれに相応しいと感じる。

 それに誇り高い王族であれば、

 地位をはく奪されるくらいなら毒をあおるだろう。


 しかしパルブス国王家はそうではない。もちろん死にたくないだろうが、

 彼らにとって命より大事な力を取り上げられたまま生かされることが

 きっと死ぬより辛いはずだ。

 貴族も、見下し嘲弄していた一般民として生活することは

 なまじの刑よりも過酷となるだろう。


「次に判決理由を述べます。

 被告人たちは長きにわたり、国際法で禁止されている古代装置を保持・使用した。

 またそれらを使用することで、メイナの(ことわり)に反する使い方をし

 国民や他国の者の権利を侵害し、不当な利益を得ていた。

 さらに盗賊などの犯罪者を保護・援助し、金品を得ていた。


 以上のことは、物的、または人的な証拠も十二分に揃っており

 また国王に関しては古代装置の所持と使用の現行犯である。


 被告人たちは、教唆罪、脅迫・強要罪、傷害罪、窃盗罪、横領罪、背任罪、

 犯人蔵匿そして証拠隠滅の罪、偽証罪、職権乱用罪に該当するため、

 これらに対し国際法、メイナの掟などが適用される。


 量刑を科す理由としては、これらによって生み出された損害や被害、

 精神的苦痛などに対する補填や慰謝料に相当させるためであり

 地位については、被告人たちは国際的な犯罪者であり、

 法的にも人道的にも、その資格を喪失するためである」


 貴族たちは、怒り狂ったり泣き叫んだり、ひたすら訴えてくる。

「俺たちは関係ないだろ!」

「私たちが何をしたっていうの?」

「罪のあるものだけを死刑にすればいいじゃないか!」


 その言葉に、私は詳しく説明してあげる。

「そうですか。まず盗賊の件ですが、

 国が関わっていたことを知っていた貴族はほとんどです。

 すでに盗品の中にあった美術品や貴金属が、

 あなた方がお持ちであるという物証を入手しています。

 いまごろ皇国の調査員が、皆さんのご自宅で

 さらなる証拠を大量に見つけていることでしょう」


 ものすごい悲鳴と共に、出口に向かおうとする貴族。

 しかしオレンジ色の光が出口まで伸び、彼らは恐怖で動きを止めた。

「裁判の最中だ。席へ戻られよ」

 先ほど”切るべきものは逃さず切る”と言ったルークスの言葉を思い出したのか

 貴族は震えて制止する。言葉もなくその場に座り込む者もいた。


「続けます。このような殺人や略奪における教唆罪は本来、

 実行犯と同じ量刑が課せられるべきなのですが、

 皆様、それをお望みでしょうか。

 実行犯である盗賊はすでに、一人残らず処刑されておりますが」

 ヒッという、息を吸い込む音が響く。


 実際、貴族に対しては、地位のはく奪と財産の喪失が妥当だろう。

「……盗賊と同じ刑罰をお望みの方がいらっしゃいましたら、

 いつでもお申し出ください」

 クルティラが扇を片手に一歩前に出て告げる。

 その冷徹な眼差しと物言いに、さっきまで騒いでいた人も目をそらす。


 私はひと息ついて、宣言する。

「では、これにて閉廷いたします」


 王家と貴族の間で、ふぅ、という息が漏れる。

 この後ここを出たら、資産を持てるだけ持って国外へ逃げよう。

 そして時期を見て戻ってきて……などと考えているのが手に取るようにわかる。


 残念でした。



「次は、刑の執行です」

 はあ?! というように全員が顔を上げた。

 ちょっと待ってくれ、早くないか? などと叫ぶ声が聞こえる。


 私は闘技場の上の空を見る。()()()はまだ、か。

 じゃあこっちが先だな。私は彼らに告げた。

「先に”メイナ断滅の刑”に処します」

 ルークスがマルミアドイズを再び抜く。みなはそちらに気を取られ震撼する。

 違うよ、それはあなたたちを守る剣だよ。


 私は右手の剣を正面で横一文字にし、祈りをささげた後、

 天高く、それをかかげた。


 ルシオラ、よく見ていてね。

 あなたが”恵みの光”と呼んでいたものの正体を。


 剣から白い光線が伸び、天を()く。

 すると、ものすごい速さで、細く長い光の筋が降りてきた。

 それは降ってくる、というより、何かをめがけて高速で飛んできていた。


 それが狙っていたもの。それは被告人である王族と貴族たちだった。

 彼らの全身にブスブスと突き刺さっていく。

 それは物質ではないため、血も出ず、キズさえできない。


 しかし相当の痛みを持っているため、

 彼らは泣き叫びながら転がりまわっている。

 メイナの不正使用をしていたものほど、刺さっている本数は多いため

 元国王をはじめ、元王子たちなどは刺さった光で覆われ、体が見えないほどだ。


 ジャスティティアの”天の槍”。

 メイナの秩序を乱すものに下される刑罰だ。


 判決で述べた「メイナ断滅の刑」とはこれのことだ。

 滅多にこれを課せられるものが現れないためあまり知られていないが

 この刑に処されたものは、その名の通り、

 自身が保有するメイナによって痛みと苦しみを味わうことになる。

 さらに恐ろしいのが、二度とメイナを扱えなくなるだけでなく

 除霊などの、他者からのメイナ技能も受けられなくなるのだ。

 今後はおびえて暮らすか、呪魔に取りつかれたまま暮らすかの二択となる。


 降りそそぐ光の槍は、王族や貴族たちが白く染まっても降りやまない。

 そうだろう、あまりにも罪を重ねすぎた。

 耳を塞ぎたくなるような叫喚は続く。


 見開いた目や大きく叫んだ口の中にまで光の槍は刺さり、

 彼らは逃げ場のない痛みに悶絶している。


 ルーカスがときおり、マルミアドイズを円を描くように振り

 彼らの上空に円盤状の光の輪を作る。

 それは傘となって槍を遮断し、

 痛みで気がおかしくなりそうな彼らに一時の救いをもたらす。

 彼らの精神的に限界が来たと分かっても、

 私ではこれを止めることはできないから。


 強すぎる、個人が行使するにはあまりにも強大過ぎる力。

 本来の姿の時はさらに歯止めが効かない。

 一国を滅ぼすことさえ可能なその力は、

 相手と状況を厳しく考慮しても、

 周囲に与える影響はどうしても過剰になってしまう。



 ……やっと、全ての槍が振り尽きた。


 はぁはぁと荒々しい息遣いやうめき声、

 まだ痛みが残っているのか、すすり泣く声が闘技場に響き渡る。

 誰も動くことは出来ないし、何も言えない。



 そんな中、彼らに追い打ちをかけるように、もう一つの刑が執行された。

「その地位のはく奪ならびに全資産の没収」


 皇国は、能力も志も無いものに支配権を与えない。


 天候は何ひとつ変化が無いのに、何か重く恐ろしい気配を上空に感じ、

 空気がピリピリと緊張しているのが、私だけでなく万人に分かる。

 これが皇族の力だ。皇太子が近くまで来ているのだ。


 ルークスはいつものような朗らかさで、お、来るな、と軽く言う。

 そういうもんじゃないでしょ、あれは。と、私が苦笑いした瞬間。


 ものすごい爆音とともに地面が揺れた。

 外で多数の絶叫が聞こえる。彼らの言葉をよく聞くと……

「城に! 城に稲妻が刺さったあ!」

 雷が落ちたのではない。高温の光るギザギザとした巨大な稲妻が

 城のてっぺんから地面まで突き刺さったのだ。

 

 そのエネルギーの凄まじさにより、城のほとんどは一瞬で溶解し

 離れた部分も燃え盛り、倒壊していく。

 皇族のみが扱うことが出来る”神剣カラドボルグ”が使用されたのだ。


 ”カラドボルグの(いかづち)”。

 これは皇国の宣戦布告と()()()制裁、そして制圧したことを表す。

 これをくらった国は、もうおしまいだ。


 私はそれを告げ、さらに付け加える。

「城内の者はすでに避難済みです」

 どうでも良いといわんばかりに、誰も顔を上げない。

「美術品や財産となるものも退避してあります」

 するとほとんどのものが嬉しそうに顔をあげた。

 私は失望し、また悲しくなった。

 もう、あなたたちのものじゃないけどね。


 彼らは、決して変わらないのだ。


 ************


 長い沈黙の後、ボロボロの国王がポツリとつぶやく。

「……最初から、皇国の手のひらの上だったわけだな。

 まずはその女と商人を遣わし、皇国のメイナ技能士の話を余に吹き込み、

 次にそちらの女を使って王妃に翡翠で取り入らせ、

 そしてお前がやってきて、国を助ける名目で探りまわった、ということか」


「否定はしませんが、結末はそちらが選べたのです。

 私が来たのは事実をこの目で見て、情状酌量の余地はあるか、

 反省や更正の意思はあるかを見極めるためでした。

 もし古代装置の使用が100年以上に渡る慣習であり(くつがえ)しにくかったなど

 理由をお伺いでき、改正してくだされば、と思っていました。

 しかし国民に対するメイナの不当使用や盗賊を教唆していた件で、

 すでにこの刑罰は避けられなかったと思われます」


 ロクタスが呻きながら頭を抱える。

 しかし真っ赤な顔をしたガルスは私をにらみつけ、

 ちくしょう、せめて、と言いながら剣の柄に手をかけようと……


「やめておけ。もっと過酷な結末を迎えるぞ」

 ルークスが諭す。

「ジャスティティアの姿でいる時に剣を向けると、全ての武器は砂と化す。

 そしてその者が王族ならば、王の資格なしと神に判断され、

 王家の保有する全てのものが砂に変わる。

 武器だけではない。城も……王族もだ」

 そう、一年前の、あの国のように。


 王妃が悲鳴をあげ、横に座るロクタスがガルスに飛び掛かる。

 しかしその前にガルスは、言葉にならない叫びをあげ剣から手を遠ざけていた。

 ルークスの言葉を聞き、国王がはっと顔を上げる。

「一年ほど前に聞いた噂があった。

 一瞬にして砂に沈んだ王国があったと。もしや……」

 私は頷く。

 それに至るまでにはいろいろあったのだが、説明も言い訳もしない。

 もう、あんな悲劇を起こしてはいけない。


 そして私はみなに教えてあげる。

「ルークスは最初から、私を守るためにこの場に来たわけではありません。

 ()()()()()()()()()()にいるのです」

 武器を使わせない、暴動を起こさせない、裁判の進行を妨げない。

 追い込まれた人間はパニックを起こすが、そうなると私の力で制圧しなくてはいけない。


 私の力は、強大だ。そして中途半端を許さず”絶対的”だ。

 裁判開始時のように、ガベルを打っただけでも国土が揺れるのだ。

 被告人だけでなく、この国や人民に対する影響は計り知れない。

 でもルークスの超人的な力や、畏怖を感じさせる振る舞いによって

 私が力を行使することなく、それらを未然に防いでくれていたのだ。



 一年前のあの日。相手が進んで招いた事態とはいえ、

 私は崩れ行く砂の中で号泣していた。


 ルークスは私をマントで包み込み抱きしめ、誓ってくれたのだ。

 大丈夫だ。これからは俺が。

()()()()()()()()()()()()()


 私は未だかつて、こんな深くて寛容な愛の言葉を知らない。

 しかも、それを完遂できる実力を備えた者の言葉だ。


 そして、最強の(たて)(ほこ)も私の側にいてくれる。


「それでは閉廷します」

 そう宣言すると、私は三人に振り返り、礼をする。


 頷くクルティラ。微笑むリベリア。

 こちらに手を指し伸ばすルークス。

 その手を取りながら、心から感謝する。


 彼らのおかげて私はこれからも思う存分、断罪できるのだ。


次回で完結となります。

最後まで、どうぞ宜しくお願い致します。

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