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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
王国崩壊編 ~せっかく貴方たちのために働いたのに国外追放とは、そんなに早く滅びたい?~
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21.審理(第三者視点)

 21.審理(第三者視点)


 アスティレアの姿が幻術である、と暴こうとしたが、

 それをすでにルークスが知っていたことにより、

 グラナトとルシオラの小さな計略はまるで意味を成さないものとなった。


 しばし唖然としたあと、すっかり興ざめし、

 不貞腐れ横を向くルシオラ。

 グラナトのなんだよそれ……という泣き声が聞こえる。


「もう良い、もう良いであろう!」

 とうとう国王がじれったそうに口を挟んだ。

「息子は謝罪した。この国も皇国の声明によって名誉を失った。

 慰謝料が必要なら用意する。なんなら息子も皇国に連行するがよい。

 これで充分だろう、将軍どのよ。もう、帰国されてはどうか」

 息子を犠牲にしてまでも、とにかく切り上げたいのだ。


 ぽかん、と口を開けてそれを聞いていたグラナドは、

「父上っ!」

 と泣き声で叫ぶ。そんな我が子をみて苦々しく

「お前が余計なことさえしなければ……」

 と国王は言い捨てた。それを聞き、顔を覆い

 うなだれるグラナト。


「お待ちください国王。これからが本旨です」

 アスティリアがはっきりと国王に告げた。

「私への侮辱など、そもそも大した問題ではありません」

 動揺し、思わず立ち上がった国王がわめいた。

「待て、それ以外の話はする必要が無い。今回の謁見は終了だ!」


 アスティレアは厳しい声で続ける。

「パルブス国の王族ならびに貴族が、

 盗賊を援護し、物資や金銭を受け取っていた件に関する多数の国家的犯罪。

 その左腕にある、古代装置フラントルを使用した罪。

 そしてメイナを法に反する使い方をした罪について、審理します」



 静まり返った後、ざわつく貴族たち。

 国王は右手を左腕の”増幅器”、いや”本体”に手を伸ばす。

 古代装置フラントルの本体は、小さな腕輪だったのだ。


 あの古い寺院の壁に描かれた、独特の装具を身につけた指導者たち。

 彼らの最も上位にいると思える描写の人物の手に、

 増幅器と同じものがあった。

 まさにそれこそが、古代装置の本体だ。


 どうして貴族たちが何個も、無骨なデザインの増幅器をつけているのか。

 それは本体の存在を覆い隠すためだったのだ。

 増幅器をわざわざ本体に似せて作らせ、貴族全員に身につけさせることで

 国王が変わった形の本体をつけていたとしても目立たないで済む。


 そして皇国からの監査が入った時は、国外に出ていれば良い。

 まさか本体が持ち運べるものだとは思わないから。


「先ほど、本体の出力を切り替えましたね。

 これで本体の在り処と、使用者が確定いたしました。

 何より不正使用の現行犯です」


 先ほどの騒動の前、アスティレアが”自分よりも弱いものには従えない”

 と宣言した時に、国王は右腕の本体の出力を切り替えていたのだ。

 中継機を全て壊さなかったのもこのためだ。

 メイナの流れが切り替えにより、より人工的に集まることを確認できるように。


 額に青筋を浮かべて怒る国王。すでに開き直っていた。

「何を言う! 昔からメイナは王家のものだ!

 それに、盗賊の件も知らん。

 そもそも皇国の定めた法など守る義理はない!」

 追い込まれ逆切れする国王は、フン! と鼻で笑い、

 横目でルークスを見る。


 アスティレアが強気なのは、ルークスが付いているからだと考え、

 こちらに交渉相手を変えることにする。

「皇国を味方につけて、こちらを脅すつもりか。メイナ技能士め。

 ……将軍どのよ、我々はただ、城に帰りたいだけだ。

 それを阻止する権利をお持ちかな?

 そして無視した場合、将星どのは無抵抗の者たちを切るつもりか?」


 ルークスは軽くあしらう。そんな言葉は脅しにもならない。

 踏んでいる場数が違うのだ。

「俺が刀を抜く基準は”抵抗するか・無抵抗か”ではないな。

 切る理由あれば、必ず切る。そして決して逃がすことはない」

 相手にされず悔しそうな国王は苦々し気に言葉を続ける。

「その娘の言いなりなのか。マルミアドイズの後継者ともあろう者が」


 それを聞き、フッと笑うルークス。

「彼女の言いなりになるというのも面白そうだが、

 俺がここにいるのはそんな理由ではない」

 そもそもルークスは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 武器をしまえというのが誰のためであるのか、彼らはまだ解ってないのだ。


 アスティレアが続ける。

「盗賊の件も、もちろん数多くの物証、人証があります。

 公爵家といえばお分かりですね?」

 はっ! と驚く国王。

 そして闘技場のどこからか叫び声が聞こえる。公爵の声だ。


 国王は真っ赤な顔で震える。

 小娘なんぞに、罪を追及されたくないのだ。

「だいたい皇国に何の権利があるというのだ!」

「もちろん、全てに直接的な権利があるわけではありませんが、

 パルブス国は国際法に背いた罰を受ける必要があり、

 被害を受けた者に対し、賠償しなくてはいけません」

 アスティリアが当然のことをいうが、パルブス国王は納得しない。

「それを強要する権利があるというのか?

 それにメイナだ。これを誰がどう使おうと勝手ではないか。

 誰に権利がある? 誰に裁ける? 笑わせるな」


 沈黙のあと、頷くアスティレア。

 とうとう、時が来たのだ。

「メイナに関して、私には罰する権利があります。なぜなら」

 彼女の合図に、リベリアが荷物から法衣を取り出し、

 アスティレアにまとわせる。


「白の法衣?!」

 国王だけでなく、貴族たちも驚愕する。

 それは世界において、最高裁判事のみがまとうことが出来る色なのだ。


 法衣の黒は、何者にも染まらないことを表す色。

 しかし多少の色がついていても分かりにくいことがある。

 白は、本当の意味で”何事にも染まっていない”証明となる色だ。


 アスティレアは法衣を整え、静かに言葉を続ける。

「……なぜなら、全てのメイナは私のものあり、

 私の定めた法によって用いられなくてはならないからです」


 そして笑顔でルシオラのほうに向き直る。

「せっかく用意してくださったのですから、使わせていただきますね」

 と言って笑顔で、ルシオラの用意した”魔法が強制解除される石”に触れた。


 淡い光とともに、たちまち解ける幻術。


 ************


 そこに現れたのは、ジャスティティアその人だった。

 流れるように波打つ濃い黄金の髪。

 宇宙を模したような煌めくキラキラと光る瑠璃色の瞳。

 肌は真白くなめらかで、唇は赤くつややかな宝石のようだった。


 髪や目の色、肌色などは変わったが、

 顔や体形が変わったわけではない。

 しかし常に発光しているような眩しさに包まれており、

 それは女王というよりも、女神そのものだった。


 貴族たちは立ち上がり、大騒ぎしている。

 グラナトが代表するかのように叫んだ。

「な、なんでジャスティティアそっくりなんだ?」

()()の子孫だからじゃないですか? そもそも実在の人なんだし」

 話すとルーカスの言う通り、アスティレアのまんまだ。

 しかし見た目に関しては、何が”別にたいした違いはない”だ。

 皆がそう心の中でつっこんでいた。


 国王がフラフラとよろめきながらアスティレアを責める。

「なぜ姿を……最初からその姿で来て……くださっていれば……」

「この国の実情を見て、判断しないといけないから。

 それにこの本来の姿は、いまいち実務向きじゃないんだよね」

 天使のごとき神々しい姿で、ごく普通の町娘のように話す。

 見ているものはなんだか混乱してしまう。


 そばで呆然としていたルシオラがはっと気づき、自分のドレスを見下ろす。

 そのあと狂おしいほどの羞恥に囚われた。

 自分の金髪など、この黄金の髪に比べれば、ただの黄色い糸だ。

 本人の前で、私は何をやっていたのだろう。

 本人に対し、私は何をやらかしてしまったのだろう。


 彼女はジャスティティアを尊敬していた訳ではない。

 その証拠に、一度も様をつけて呼んだことはなかったのだ。

 しかし実際に前にすると、自分がいかに思い上がっていたのかが身に染みた。


 ルシオラは恥ずかしさのあまり、髪をまとめ、

 ドレスを体に巻き付けて、奥へと走り去っていった。


 ************


「では、始めましょう」

 アスティリアが三人に告げる。

 膝を折り、重心を低くするルークス、リベリア、クルティラ。


 大変なことになったぞ! どうするんだ! だれの責任だ……

 すっかり慌てた国王や王子、貴族が互いを責め、騒ぎ始める。

 収拾がつかないほど叫び、ここから出ようとする者さえいた。


 すると手をかかげ、こぶしを掲げるアスティレア。

 グォン、グォン……グォン。

 どこからか”ガベル”を打つ音が鳴り響くのと同時に、

 ものすごい縦揺れの地震が国全土を襲う。


 これが、神霊女王の力だ。


 黙り込む闘技場の罪人たちを前に、粛々と通告する。

「お静かに」

 そう。最初から断罪は決まっていた。


「では、判決を言い渡します」


最後までお読みいただきありがとうございました。

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