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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
王国崩壊編 ~せっかく貴方たちのために働いたのに国外追放とは、そんなに早く滅びたい?~
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19.国王

 19.国王


 さあ、どう出る?


 開始から今まで国王は、左右に兵を従えて、

 舞台の奥の暗い場所に座っていた。

 わざとそのあたりに大きな陰を作ることで、

 こちらからはよく見えないようにしているつもりだったのだろうが

 私たち三人は、最初から彼しか気にしていなかった。


 これまでのパルブス国滞在で、国王に会ったことは一度もなかった。

「国王は下賤の者にはお会いにならない」

 と言われ、それっきり。


 今日、初めて見るその姿は、太った体を大仰なマントで身を包み、

 わざわざここに運ばせたと思われる豪華な椅子に座っている。

 そして、国王の左腕には()()()()()()の”増幅器”。


「このような振る舞い、わが国に対する不敬罪などではないのか?」

 そう言う国王に対し、私は片手を頬に当て、笑顔で答える。

「あら? (わたくし)が何かいたしましたか?

 先ほどグラナト王子がおっしゃったように、

 私ごとき、この国の方々に比べればたいした力を持たないゆえ、

 皆さまに何かできるとは到底思えませんが」


 国王は皮肉にフン、と笑う。

「まあ良い。お前の力は良く分かった。もう十分だ」

 彼は、私がアピールのために力を誇示したのだと考えているようだ。

 

 やっと国王に会えた。

 力を見て警戒され、逃げ出されたら面倒だなとは思ったけど

 切迫している国の状況を考えても、その可能性は限りなく低い。


 力を持つものが、とても困っている状況で、何を欲しがるか。


「……お前も、……持っているのか?」

 国王が尋ねてきた。

 自分と同じく、私が”古代装置”を持ってると思ってるのか。

 よし、カマをかけてみよう。現行犯逮捕がベストだしね。

「私は()()()()()()()持ってはおりませんわ」

「そんなわけはない。先ほど素晴らしい力を見せたろう。真実を言え」

「何をでしょうか? 私が何を持っていると?」

 国王は押し黙った。そして考えている。


 グラナトたちは、その様子を交互にみている。

 国王が私の力を評価していることを感じ、

 貴族全員の攻撃的な雰囲気が立ち消えていた。

 それくらいこの国で、この国王の立場は強いのだ。


 つまり国王の力は、貴族全員の力を束ねたものを越えているのだろう。


「……よし、わかった。

 お前をわが国のメイナ技能士として迎えよう」

 そうか。まずは手元に置いて様子をみる作戦か。


 私は力を見せれば、必ず”かかる”とわかっていた。

 金を得たものはさらなる大金を。

 美貌を望むものはさらなる美を。

 そして、力を得たものはより強大な力を欲するものだ。

 困っているならなおさらに。

 これまで全て”力”で解決してきた者は、それ以外の解決方法を知らないから。


「いいえ、私はこの国の役には立てませんので」

 私が誘いを断ると、話の読めないグラナトが乱入してくる。

 自分たちのメイナは効かない上、武力でもダメと分かり焦ったが

 父上の言う通り、こいつを味方にすればパルブス国は安泰だ!

 そう考えたのかもしれない。

「さっきの条件はウソだ。お前の本気を試しただけだ」

 そういって、急にニヤニヤと媚びをうってくる。

 これはこれで気持ち悪いな。

 

 グラナトは芝居がかった動きで両手を広げて叫ぶ。

「ホントだぞ。宝石やドレスを用意しようと、みなで話していたのだ。

 それだけじゃない、好きなものを何でも買ってやろう。

 それに……そうだ、誰かの男爵の養女にしてやるよ。

 これでお前も貴族の仲間入りだ! 嬉しいだろう?」


 私は笑顔で固辞する。

「お断りします。()()()()()()()()()()()()()()()


 すると国王が、本当に”とんでもない”こと言ったのだ。

「では、王族ではどうか。それでも不服と申すか?」

 さすがに私は驚愕する。

 つまり王子のうちの誰かの妃にしてやる、ということだ。

 想像以上に国王が力を欲しているのが伝わってくる。

 いいぞ。この調子だ。


 それを聞いた三人の息子は、

 勝手に話を進める国王に抗議するかと思いきや

 ロクタスとガルスはまんざらでもない様子でうなずいている。

 彼らも力に目がくらんでいるのだろう。


 人よりワンテンポ遅れて状況を理解したグラナトが急に活気づき、

 ものすごい笑顔で私の前まで走ってきた。

「お、俺がふさわしいだろう! 俺がメイナ事務官長だぞ!

 ピッタリじゃないか? なあ俺の……」

 うわあ、最悪だ。極刑よりキツイぞ、それは。


「いいえ結構です。私すでに婚約しておりますので」

 不快の余り、食い気味に断ってしまった。


 一瞬の沈黙のうち、国王よりも先にまずグラナトが吠えた。

「はあああ? な、なんて言ったあ? お前が婚約……」

「はい、そうです。結婚する相手がすでに決まっております」

 クルティラとリベリアも頷くのを見て、しばし放心する王子。


 国王が不快そうに、それ以上に不思議そうに問いてくる。

「それでは、なぜ……」

「お前バカじゃねえの? 王子のほうが良いに決まってんだろ?

 そんなのどうにでもなる! 黙って従えよ!」

 グラナトが怒鳴る。まさか国王の弁を遮るとは思わなかった。


 私は本題に入りたいのに。ここでもアホに翻弄されるとは。

 グラナトは私の目の前で騒ぎまくる。

(バリアのおかげで私に掴みかかれない。リベリアに感謝)

「ドレスをいくらでも買ってやるんだぞ! 指輪やネックレスもだ!

 遊んで暮らせるんだぞ、いい話じゃないか」

 さっきまで身を粉にして働けといっていた奴が、何をほざく。


 私が首を横に振り、彼を無視し国王に向かってはっきり言った。

「私より弱いものには従えません」

 さあ、挑発に乗るか。……そして。

 国王の右手が、左腕に伸びる。よし! かかった!


 と思いきや、グラナトがバリアに張り付き、ものすごい形相で叫んだ。

「……なんだと、お前! 馬鹿にしやがって!」

 あ、弱いって、自分に言われたと思ったんだ。まあ、弱いよね貴方。

 歯をむき出しに悔しがったあと、父親に振り返って叫ぶ。

「父上、思い知らせてやってくださいっ!」

 お、結果オーライだ。


 グラナトは私に向きなおし、いつものニヤニヤの狂ったバージョンを見せ

「いいか、お前だけじゃない。

 後でお前の婚約者も連れてきて、お前の目の前でズタズタにしてやるからな。

 パルブス国王子を選ばなかったことを死ぬほど後悔させてやる。

 惨めで悲惨な死に方をすればいいっ!」

 リベリアが困った顔でクスッと笑い、惨めで悲惨って……とつぶやく。


 クルティラがはっ! と上空を見上げる。うん、私も気が付いてる。

「お前らなに上見てんだよっ! 聞けよ!

 やっぱ殺すんじゃなく、一生奴隷にしてやるからな!

 そ、それから相手の男は一本ずつ指を……」


 その時だった。天井のバリアにピキッと亀裂が入る。

 慌てて多くの貴族が、両手を使って補強しようとするが間にあわない。

 バリア全体が一瞬、オレンジ色の光で包まれ、

 ブワン! と音を立て消滅した。


 火竜サラマンディアが翼をバッサバッサとはためかせ、垂直に降りてくる。

 絶妙な(ほんとに妙な)タイミングで、ルークスが到着したのだ。


 サラマンディアから飛び降り、場にそぐわない明るい笑顔で

「遅れてすまない!」

 というと、闘技場全体によく通る声で宣告する。

「俺は皇国将軍 ルークス・フォルティアスだ」

 その宣言に全員が息をのみ、続いて歓声が響き渡る。

 恐怖より、かの有名な”皇国の守護者”を始めて見る興奮が(まさ)ったのだ。


 ルークスはそんな彼らに対し、名剣マルミアドイズをかかげて宣言する。

「全員、武器をしまえ。そして手の届かない場所へ離せ。

 もし、こちらに向けようとするものがいれば俺は容赦はしない」

 貴族は一転、この侵入者に対し抵抗の意志を持ちかけるが、

 彼の赤い制服や風貌、何よりもかかげる剣を見て動きを止めた。


「あの制服に勲章、本当に皇国の将星だ!」

「あれが……マルミアドイズ?! うわあ、始めて見た!」

 ざわざわと騒ぎ出す貴族たち。

 国王を見ると、顔色が真っ青に変わっている。

 よほど皇国の兵には会いたくなかったらしい。

 それも、よりによって皇国の将軍とは。


 そしてルークスは私の前に立ち、

 アワアワしながら後ずさりで去ろうとするグラナトに対し言い放つ。

「それで、俺の指をどうするというのだ?」

 バリア越しに聞こえていたのか。


 グラナトは大慌てで否定する。

「ち、違う! おま、あなたではない! こいつの婚約者の話だ」

 ルークスは少し顔をしかめたあと、静かに告げる。

「俺がその婚約者だ。

 アスティリアを”こいつ”と呼ぶのはやめて頂きたい」

 闘技場が混乱の渦に飲み込まれる。

 グラナトはショックで口を開けたまま固まっていた。


 国王が焦ったように叫ぶ。

「今日の謁見は皇国の者を呼ばないといったではないか!

 余を、わが国を欺いたのか!」

 私は平然と答える。

()()()()()()()()()()()()()()()()()と記したはずです。

 彼は代理人でも弁護役でもありません」

 そしてルークスを見上げ、

「”補佐官数名を連れて行く”ともお伝えしたはずです。

 今日の彼は軍人ではなく、私の補佐官ですから」

「ば、馬鹿をいうなあ! なんで将軍を補佐官に……」

 叫ぶグラナトに対し、ルークスがはっきりと言い切る。

「それは俺が当事者だからだ。今日は騎士として貴殿と会見する。

 妻となる者が受けた侮辱を、このまま看過するわけにはいかないからだ」


 はああああ……と声を漏らしながら、ガタガタ震えるグラナト。

「返答次第によっては、これを投げることなるだろう」

 と、手袋をした右手の甲を相手に見せる。

 リベリアが横に顔を向けながら、

「ドラゴンと小虫の決闘。見ごたえありませんわね」

 とささやく。

 やめなよ、小虫に悪いから。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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