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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
王国崩壊編 ~せっかく貴方たちのために働いたのに国外追放とは、そんなに早く滅びたい?~
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18.開廷(途中 第三者視点)

 18.開廷(途中 第三者視点)


 いよいよ裁判が始まった。私は背を伸ばし正面を向いて礼をする。


 とはいえ、呑気な彼らは未だに、

 これが自分たちに対する断罪裁判だとは気づいていないようだ。

 何かを企んでいるのがバレバレなほど、

 闘技場は異常な興奮に包まれている。


 通常、裁判は、被告人の確認や起訴状の朗読などを行う”冒頭手続き”から

 証拠の提示や法律的問題を提示する”審理”へ、

 そして”評議”によって刑を確定し、最後に”判決”を出すものだ。


 しかし今回の件はすでに”評議”まで終了している。

 だから判決を伝えてさっさと帰っても良いのだが。

 さすがにそれだと彼らも納得できないだろうし、

 何よりも他国や国民の理解が追い付かないかもしれない。


 そのため、起訴状を朗読して犯した罪を明らかにし

 まあ一応、最終陳述として、

 向こうの言い分みたいなのを聞いてあげることになっている。

 まあ、謝ったり反省するどころか、罪を認めさえしないだろうけどね。

 だから証拠の提示や、どんな法律に触れるも説明してあげる。

 そして、判決だ。これがちょっとやっかいな面もあるのだが。


 私を先頭に、右斜め後ろにクルティラ、左斜め後ろにリベリアが立っている。

 正面にある、普段は表彰する時に使っていると思われる舞台に

 グラナトが格好つけながら登場した。久しぶりに見たな、あのアホ面。

 貴族たちから一斉に拍手や歓声がおこる。

 どうやら、今日の仕切りを任されているらしい。


 グラナトは一つ咳ばらいをし、大声を張り上げる。

「今日は本来、アスティリア・クラティオがこちらの発言を誤解し、

 大事な任務を放り出した上、国から勝手に出国した件に対し

 謝罪と賠償を求めるつもりだった。

 しかし! 寛大かつ温情ある我々パルブス国王族と貴族は

 今回の件を深く(とが)めることなく、彼女を(ゆる)す所存である」


 想像以上の言葉に、私たちは絶句し固まってしまった。

 グラナトはどうだ、といわんばかりの表情で、言葉を続ける。

「ただし、だ。この我々の慈悲深い処置に対し、

 お前は今後、誠心誠意を尽くし、貴族のために身を粉にして働け。

 まあ最低限、生活ができるくらいの金はやる。

 もっと給与をあげてほしいと願うなら、それは貢献しだいだな」


 さあ喜べ! というように、ニヤニヤ顔で見下してきた。

 アスティリアはため息をつく。最後までアホを貫くのか。

 いや、彼だけではない。これがこの国なのだ。


 そもそも皇国やアスティリアへの不敬罪など、

 彼らの本来の罪に比べれば軽微なものだ。

 刑罰としては慰謝料をとるだけだが、

 どのみち彼らはもうすぐ無一文になる。


 そして併合罪の場合、犯した罪のうち、

 最も重い量刑がもし”死刑”だった場合は他の刑罰など意味がない。

 ……もうほっといて、本旨に入ろうかな。


 しかしルークスが来るのが遅れている。

 彼がいなくてももちろん進行できるが、いささか不安は残るし

 そもそも彼もグラナトに騎士として謁見したいと言っていたしなあ。


 まあ、進めるか。


「……私と皇国に対する罪についての答弁は、

 それが最終ということでよろしいでしょうか」

「はあ? 何言ってんのお前。

 皇国をダシにして、良い待遇狙ってんの?」

 ニヤニヤしながらグラナトは続ける。

「お前なんてうちの国じゃたいしたことないんだよ。調子に乗るなよ」


 貴族たちはワクワクしながら、グラナトを凝視している。

 この状況で私ではなくグラナトを見ているということは、

 何かの合図を待っているのだろう。

 おそらく、私たちに対する攻撃だ。


 背後でクルティラとリベリアが、かすかに動くのを感じた。


 ************


 闘技場の周りには兵で埋め尽くされていた。

 貴族はみな、メイナ要員として闘技場内にいるため

 外にいるのは一般国民ばかりだ。


 だから兵の中には、街中の妖魔退治や呪病の治療などで、

 家族がアスティリアの世話になった者が多かった。

 そして王族や貴族が良からぬことを企んでいるのも、

 漏れてくる彼らの会話で知っている。


 三人の入場を絶対に止めたいと思い、密かに警告したが

 当の本人たちは遊びに行くような気軽さで

 大丈夫、大丈夫、と進んでいってしまったのだ。


「心配だなあ」

 と空を見上げる兵たち。

 すると闘技場の上空にとんでもないものを見つけてしまったのだ。

「火竜だ!」

 ルーカスが火竜で、闘技場上空に到着した姿だった。

 あまりにも目立つ火竜サラマンディアを見て、周囲の兵士が慌て始める。

 しかしディダーラやティンダウルフの大群の件で

 多くの兵が彼を見知っていたため、攻撃態勢を取るどころか

 皆で手を振り始め”降りてきてほしい”と信号を出したのだ。


 サラマンディアは旋回し、ゆっくりと闘技場外に着地する。

「あの時はありがとうございました!」

 みなが口々に礼を言う中、メイナ監査官や役人も駆け寄ってくる。

「皇国の方ですよね?!

 この中に皇国のメイナ技能士の子がいるのです!」

「ああ、知ってる。それで来たのだ」


 兵の全員がほっとする。彼が来たならもう大丈夫だ。でも。

「急いでください。彼女が危ないんです!」

「いろいろお世話になったから助けてあげたいけど、

 王家と貴族はメイナを最大出力にして待ち構えていて」

 みんなが口々に貴族たちの危険性や邪悪さを訴えるが

 ルークスはうんうん頷きながら聞いており、イマイチ緊張感が無い。

「まあ彼女は大丈夫だろう」

「えええええ! いや、でも」


 心配じゃないのか? そう思いつつも、兵たちは道を開けようとするが。

「いや、それは不要だ。君たちに規律を違反させることはできない」

「でも……」

「大丈夫だ。上から入れば良い」

 いや上は、と言おうとするが、彼もさっき上空でバリアは見たはずだ。

 彼なら、きっと。

 サラマンディアに飛び乗る彼に、他の兵がさらに言葉をかける。

「それに武装しているヤツも大勢いるんです! メイナ技能士さんは……」

 ルークスは笑って返した。

「それも心配ない。彼女は最強の(たて)(ほこ)を装備しているからな」


 ************


 最初から、相手の考えは分かっていた。

 永年、周辺諸国よりも王家の力が(まさ)っていたことで栄えた国だ。

 いざとなれば、必ず”力”で押してくるだろうと。

 そして、その”力”を過信していることも。


「本来、あなた自身の罪は不敬罪くらいだったのにね。

 暴行罪や傷害罪の未遂でも、罪を重ねない方がいいんじゃない?」

 私の言葉にカッとなったグラナトが手を挙げ、叫ぶ。

「全員! 始めろっ!」

 ウオーーー!という歓声が聞こえ、観覧席の貴族たちが動いた。


 ふーん、これが合図か。で? 何が起こるの?

 顔を赤くしたまま、グラナトは手を挙げ続ける。

 

 周囲は騒がしいが、私たちに対しては()()()()()()()


 クルティラは暑そうに扇子であおぎ、

 リベリアは床を歩く蟻をヒマそうに眺めている。

 私もすることないので毛先の枝毛を探し出した。


 ……………………。次第にザワザワする貴族たち。


「おいっ! お前ら早くやれよっ!」

 私たちの様子に苛立ったのか、グラナトが怒鳴る。

 しかし焦ったような、泣きそうな声が貴族たちから返ってきたのだ。

「やってます! やってるんですけど!」

「あれ? なんでだよ……」

「ちょっと、なんなの? もう!」

 貴族たちの声を聞き、グラナトは慌てて自分でも試すが……

 私たちに()()()()()()()ことに目を丸くする。


 かんしゃくを起こしたガルスが剣の柄をつかもうとした瞬間。

「痛ってえ!」

 と叫んで彼はその手を押さえた。()()()血も流れている。

 その他の、武器を持って立とうとした者たちも手や腕を押さえる。

 この広い闘技場においても、冥府に招く貴婦人(インフェルドミナ)に死角なし。

 殺意はもちろん、低レベルな人間の怒気など隠せるものではない。


 そして彼らは気付く。

 私達の周りにある、美しい文様が透かしみえる、薄いバリアを。

 バリアは厚さではない。質だ。

 リベリアの張ったものなら最上級。

 たとえメイナを帯びた千の矢だろうと、

 ドラゴンの炎だろうと、何一つ通すことはない。


 もう良いかな? それでは仕上げだ。

 グラナトのマネをし軽く手を挙げ、にこやかに私は言い放つ。

「全員! お返ししますっ!」


 ガシャン! バタン! ガツン!

 ものすごい音が、ほとんど同時に響き渡った。


 私を転ばそうとした伯爵は座席から転がり落ち、

 腕をひねろうとした宰相は腕がねじれ、

 顔に石を当てようとした貴婦人には顔面中央に石が。


 国外追放を言い渡され、退場する際も同じことをされたけど

 その時はだいぶ手加減してあげたのに。

 でも今回は”自分がやろうとしたこと”がそのまんま、

 自分に跳ね返るようにしたのだ。”リバース”という技能で。

 ”メイナの女王”にはそんなの、造作もないことだからね。


 闘技場はたちまち阿鼻叫喚となった。

 悲鳴や怒号に混じって、痛い痛い! と叫ぶ声が響き渡る。


 背中を強く打って転がりまわる者や鼻血が止まらないもの、

 地面に付いた顔が引きはがせず、もがき苦しむものなどで溢れかえる。

 

 そして、騒ぎが徐々に収まっていった。


 みんな、動かないし喋らない。

 それは痛みが無くなったのではなく、

 とてつもない恐怖を感じているのだ。

 ……私に対して。


 みな怯えた表情を浮かべ、化け物を見るような視線をこちらに向けている。

 私は()()()を思い出し、胸の痛みを感じて目を伏せた。


 貴族たちから少しずつ、さざ波のように声が漏れ始める。

 自分たちがやろうとしたことが、全員同時に、そのまま返って来た。

 この人数に対し、同時にそんなことができるなんて……という思いと、

 喧嘩をしかけた自分たちが、この先どんな目にあわされるか危惧しているのだ。

 その証拠に、この場を逃げようとする者も出始めたが

 残念でした、全ての扉は開かないようにしてあります。


 やっと自分たちの状況を理解したかな?


 ひとり、いまだに理解していない人物がいた。

「今なら許してやるっ! これを解けぇ!」

 床に這いつくばってジタバタしている。私をそうしようとしてたのか。

「メイナも武力も無しで話が出来ますか?」

「分かったよっ! 分かったから!」

 私が解除すると、フウフウ言いながら座り込むグラナト。

 さあ、本旨を進めよう、私がそう思った時。

 

「このような振る舞い、誰が許した?

 皇国のメイナ技能士よ」

 やっと真打登場だ。


 この大騒ぎの中、相手の中で一人だけ冷静を保ち、

 メイナも使わなかった男がいた。


 パルブス国王だ。


 私はこの時を待っていた。


最後までお読みいただきありがとうございました。


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