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断罪のアスティレア ~傲慢な王族や貴族、意地悪な令嬢、横暴な権力者、狡く卑怯な犯罪者は、みんなまとめて断罪します!~  作者: enth
組織解体編 ~”君は愚かでつまらない人間だ”なんて降格してきたけど、そのせいで組織が解体されるのは仕方ないわね?~
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5ー30 イクセル=シオ団 崩壊の始まり(第三者視点)

 5ー30 イクセル=シオ団 崩壊の始まり(第三者視点)


 二年と、半年前。


「ミューナ・ペクロでーす。よろしくお願いしまぁす!」

 ミューナは首を傾けながら、とびきりの笑顔で挨拶した。

 主導者や団員の間から、どよめきが起きる。


 田舎町にある商店の娘だったミューナは、

 親や親せきから”世界一可愛い”と言われながら育った。

「そのうち偉い人に見初められるだろうね」

 という言葉を、いつしか当然だと思うようになり、

 いつか王子様が自分を迎えに来るのを必然として待っていた。


 しかし町中ではとてもモテたが、

 ”偉い人”に出会う機会は全然ない。

 そこで焦ったミューナは、

 貴族と平民が一緒に行動する、と話題だった

 イクセル=シオ団に入団したのだ。


 あっという間にイクセル=シオ団のアイドルになったが、

 ミューナは出会った時からエルロムに夢中だった。

 ”男爵とはいえ貴族だし、この団ではナンバー2で高い地位だし。

 それにこんなにキレイで素敵な方、世界中探してもいないわ!”

 そう思い込んだミューナは、

 自分にふさわしい男をやっと見つけた、と大喜びだったのだが。


 エルロムはなかなか、自分を選んではくれない。

 ちやほやしてくる他の主導者や団員を同じく

 ワガママも聞いてくれるし、優しくしてくれるけど

 結婚の申し込みはおろか、恋人にさえしてはもらえない。


 そこで邪魔になりそうな若い娘は、イジメぬいて追い出した。

 悪いウワサを流したり、無実の罪を着せるなんて日常茶飯事。

 時には自分の親衛隊を使って恫喝したり、

 主導者の権限を行使してもらい、強制退団させていたのだ。


 最もムカつく存在だったエルロムの婚約者も、

 大事件になり大変なことにはなったが、

 なんとか()()ことに成功した。

 いまだに王妃がエルロムにまとわりつくのが腹立たしいが、

 ”しょせんオバサンじゃない。私の敵ではないわ。

 これであとは、私とエルロム様が結ばれるだけね”

 ……ミューナはそう思っていたのに。


 皇国から三人の娘が来たことにより、全てが崩れ去ったのだ。

 団員の関心や人気は根こそぎ彼女たちに奪われ、

 ミューナへの貢ぎ物(クォーツ)も激減してしまった。

 そのため、1級団員でいることが難しいと

 エルロムから警告を受けてしまったのだ。

 だから、あの三人からクォーツを盗んで納品しようとしたのに。


 ……こんなことになるなんて!!!


「はーい、皆さん、初級のミューナさんです!

 この人は1級から転落し、最初からやり直しでーす」

 団員たちの前で、主導者がおどけた声で宣言する。

 羞恥と悔しさで、ミューナは唇を噛む。


 別の主導者が、厳しい声で言う。

「こいつはタダの初級じゃないからな。

 ()()()は、数多くの試練を乗り越えなくてはならない」

 そして急にニヤリとわらい、ミューナを横目に言う。

「みんな、彼女にたくさんの仕事を与えてあげてくれ」


 そして、ミューナの地獄が始まった。

 それはかつて、エルロムの婚約者だった

 子爵令嬢ベルタが受けた仕打ちよりも激しいものだった。


 主導者は全員、皇国の命令により抑留されることになったが

「イクセル=シオ団の運営を急に停止すると

 一般団員の生活や収入にも影響が出てしまう!」

 とエルロムが必死に訴えたことにより、

 本部内での活動は許されることになった。


 いつものように遊べない。

 その鬱屈(うっくつ)や不満を晴らすかのように、

 主導者たちのミューナいびりは過熱していったのだ。


「今日は山でクォーツを探してこい!」

 主導者にそう言われ、ミューナは甘えた声で反論する。

「え、でもぉ、皇国の人が、

 ”クォーツはもう出来ない”って言ってたからぁ……」

 それを聞いた主導者は鼻で笑う。

「新しく出来ないってだけで、

 誰かが拾いこぼしたやつはあるかもしれないだろ?

 カゴがいっぱいになるまで帰ってくるな」

 そう言われて叩き出される。


「おーい、これ洗っておけよ」

「……なに、これ。……イヤッ! 臭いっ!」

 大量の洗濯物を覗き込んだ後、のけぞるミューナ。

 それは牛糞まみれの作業着だったのだ。

「おい、逃げるなよ! 真っ白になるまで手で洗えよ!」

 イヤイヤと後ずさるミューナ。

 しかし後ろから別の主導者が突き飛ばし、

 ミューナはその汚れの山に頭から突っ込んでしまう。


 悲鳴をあげるミューナを見て、

 ゲラゲラと笑い転げる主導者たち。

 しかも、よろよろと立ち上がるミューナが見たのは、

 かつて自分をチヤホヤした親衛隊が、

 主導者と一緒になって笑い転げている姿だったのだ。


 自分がしてきたことが、何倍にもなって返ってくる毎日。

 そして今日、ミューナの心はついに折れた。


 一日働きづめのミューナの肩を、一人の主導者が包み込む。

「今日も大変だったな。もう仕事は良いから、俺の部屋に来いよ。

 甘いものや酒が用意してあるからさ。少し休めよ」

 全然好みのタイプではなく、

 ミューナの中では補欠にもならない男だったが、

 久しぶりに救いの手がもたらされ、喜びでいっぱいになる。


 ”この人に気に入られたら、初級から上げてもらえるかも”

 そう思い、せいいっぱいの(こび)をみせてうなずく。


 しかし彼の部屋には、甘いものも酒もなかった。

「ちょ、ちょっとお! なにしてんのよう!」

 問答無用でドレスを脱がせようとする男にミューナは怒鳴り散らす。


癒しの花(サニータ・フロス)の仕事をするんだよ、お前」

「何のことよ?! もう! 汚い手で触らないでよ!」

 主導者は下品な笑い声を立てて言う。

「教えてやろうか? 隣国ではな、

 ”癒しの花”というのは、娼館で働く女のことなんだよ」


 あぜんとするミューナに、さらに追い打ちをかける言葉が続く。

「その首や頭に付けている蝶が、

 ”私を買ってくれ”という印なんだってさ」

 ストロベリーブロンドの髪を飾るカチューシャにも、

 そして首に巻かれたチョーカーにも蝶がついている。

 それらは彼女の宝物で、トレードマークだったのだが。

 エルロムがくれたのは、そんなアイテムだったのだ。


「……嘘よ」

 ショックでふるえるミューナに、男はとどめを刺す。

「主導者ならみんな知ってるよ? エルロム様がお前を

 みんなの”癒しの花”にする目的で階級を上げてきたってこと」


 そしてミューナに小さなクォーツが投げられる。

「拾えよ。俺が買ってやるよ」

 ミューナは顔を真っ赤にし、ベッドから立ち上がる。

 押さえつけようとした手を乱暴に手を振り払い叫んだ。

「皇国兵に言うわよ!」

 主導者の力が緩んだすきに、急いで逃げ出す。


 怒りと情けなさ、惨めさで涙が止まらない。

 もう、こんなとこにはいられない。

 自室で荷物をまとめる。

 親や親せきには見栄を張り、エルロム(貴族)に選ばれたと嘘をついていた。

 とても本当のことなど言えない。言えるわけがない。

 ……とにかく、隣の国まで逃げてみよう。

 皇国がイクセル=シオ団をなんとかしてくれたら、

 どさくさに紛れて帰ってこよう。


 ミューナはイクセル=シオ団を退団し、逃走することにしたのだ。

 自分がすでに、古城の恐ろしい”呪い”にかかっているとも知らずに。


 ************


「いいかい? 僕らの進退がかかっているんだ。

 絶対に手に入れなくてはならない」

 自室で、エルロムが主導者たちを集めて言う。

 アスティレアたちが見つけた巨大なクォーツ。

 あれを皇国に先んじて手に入れるための招集だった。


「巨大なクォーツを手に入れると、

 なんで捕まらないで済むんですか?」

 主導者のひとりが手をあげて尋ねる。

 エルロムは一瞬嫌な顔をしたが、すぐに笑顔に戻す。

 ここはうまく、彼らを扇動しなくてはならない。


「まず、あれは世界的に大変貴重なものだ。

 売れば値段はとんでもないくらい高価になるだろう。

 古城の権利が僕らにある以上、あれの所有権は僕らにある。

 皇国に横取りされるわけにはいかない」

 実際はそうではない。

 古城の使用権はあるが、そこにあるものはシュケル国のものだ。


 大金の話になり、主導者たちの目が輝いたことを確認し、

 エルロムは”嘘”を続ける。

「先にこちらが保有してしまえば、

 皇国はあれを手に入れるため、必死に交渉してくるだろう。

 奴らに高額で売りつけた上に、

 僕らの無罪と引き換えにもできるんだ」

 もちろん、これも間違いだ。

 皇国はどのような要求をされても、犯罪者を無罪にはしない。


 確かに魅力的だと思ってはいるが、

 まだどこか尻込みしている主導者たちに

 エルロムはダメ押しのように言う。

「……何より、そうすることを最高主導者様がお望みだ。

 あの人もまた、皇国に捕まりたくないのだろう。

 そうとう焦っておられるようだ」

 ザワザワと不安がる主導者たち。


「もし、逆らうなら。最高主導者様が保管している、

 君たちの”魂”がどうなってしまうか、僕にもわからないし、

 ……どうすることもできない」

 そう言って、悲し気にうつむく。


 恐怖を感じた彼らは、口々に叫ぶ。

「は、早く取りに行きましょう!」

「そうだ! 皇国に取られる前に!」

 上手く彼らを乗せたことに、

 エルロムは満足げな笑みを浮かべていた。


 ************


 みんなで次々と、エルロムの部屋の鏡から、

 鏡の間の天井につけられた鏡へと通り抜ける。


 そしてエルロムは、鏡の間の鏡を取り外すように指示を出す。

「これを持っていくんだ。

 そうすれば、どこからでもすぐに部屋に戻れるだろう?」

 万が一魔物に襲われても、ここに飛び込めば大丈夫だ、と。

 みんなは感心してうなずく。


 外しながら、主導者のひとりがエルロムに尋ねる。

「これって元々、城にあった鏡なんですよね?」

「そうだよ。側塔にあったものだ」

 この鏡は、城に出入りする全ての者を映してきたのだ。


 そんなみんなの作業を、ストルツはボーっと眺めていた。

 ストルツはあれから、他の仲間にも完全に無視されている。

 ”お前のせいで仲間が死んだのだ”

 そう責められているようで辛かった。

 クォーツの入った箱の暗証番号を皇国の女から聞き出して、

 自分がミューナに感謝されたいと思い、

 ”あの古城に行こう”と言い出したのはストルツだったから。


 エルロムの背後にいたストルツは

 必死に失点を回復しようと願い出る。

「俺も行きます。俺は魔物を見てるし、役に立つかと……」

「いいか、皇国は魔物を恐れ、16時までしか活動しない。

 その時刻になったら回収作業を始めるぞ。

 日没までの短時間が勝負だ」

 エルロムは皆に言う。


 ストルツは焦った。エルロム様にまで無視されるなんて……

 自分はもう、主導者からも落とされるかもしれない。

 それでも仕方なく、トボトボとみんなについていくしかなかった。


 第三の扉の鍵を開けると、夕焼けにそびえる古城が見えた。

 その荘厳さと美しさに全員が息をのみ、立ち止まる。


「さあ、行こう」

 エルロムが皆をうながす。

 そして彼らは、崩壊への道を駆け足で進んでいったのだ。


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