未来-フル-本屋 私、未来から単身赴任でこちらに来ています。お買い上げありがとうございます。
私の作品は未来永劫残り続ける。そんな証拠を見つけました。今のうちにお買いいただいた方がよろしいですよ。あらっ、そういえば私の本の発売は来月でした。それまでお待ちください。
ちょっと毒味のショートショート。
味見をよろしくお願いします。
私は、将来の大作家だ。既にデビュー作は、校閲中である。いくつかの書き直し箇所が申し渡されているが、出版までのスケジュールが今更止まることはない。
今は、編集者と出版社の会議室を借りて打ち合わせと言うか校閲で引っかかったところの対応を話し合って帰る途中だ。
昨日までなかったプレハブのような建物にネオンでキラキラ飾られた看板の文字が目に入った。
「未来-フル-本屋」
作家デビュー目前の私は、勿論本屋に興味がある。店内のポップや平積みの本を確認するだけでもワクワクするのだ。そう、ポップには私の本の題名が描かれ、平積みの棚には何十冊も積み上げられているそんな将来を思い描く。サイン会の案内ポスターも貼ってある。そんな未来は、もうすぐだ。
「今晩は。」
中に入ると店員が一人だけだった。ハードカバーの本ばかりで、専門書と思えるようなタイトルの本も数多く揃っていた。が、私は、その本棚に貼ってあるポップに目を奪われてしまった。
「今晩は。本日は、どのような本をお探しですか」
「いやっ、何か目当ての本があるわけではないのだが、ねえ君。」
「はい。何でございましょう。」
「あのポップなんだが、記入ミスじゃないか?」
「いいえ、間違っておりませんが、漢字の使い方の間違いか何かですか?」
「いやいや、発売日のことだよ。〇〇年〇月発売って来月じゃないか。」
「ですから、間違ってなどございません。この本屋は未来の古本を扱っている本屋なのですから。」
私は、ポップのある棚に行くと置いてある本を片っ端から確認していった。するとあった。来月か再来月出るはずの私の本。まだ校閲中でゲラさえできていない本がそこにあった。確かに、表紙は少し色あせているがきれいな状態を保っていた。
(本当なんだ。じゃあ、私の本は未来まで読み継がれている名作なのか。それなら、ここの本を手に入れれば未来の技術が手に入って、私は苦労せずに大金持ちになれるんじゃないか)
私は、金もうけにつながりそうな本を探し回り、15万円分の本を買った。
「有難うございました。」
良かった。これで目標達成だ。未来に影響を決して与えることのない駄作以外持ってこれないからなかなか目標額に届かなくて大変だったんだ。これでようやく単身赴任は終了だ。
お土産くらい買って帰っても罰は当たらないだろう。
今後連載も頑張ろうと思います。