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第3話 リヴィエラの頼み

 その晩、俺たちは旧都でも古い歴史を持つ高級ホテルに泊まっていた。


「え、えっと……本当によろしいのですか、兄様?」


 リヴィエラはその豪華さに困惑していた。


「ああ。今日一日で随分と蓄えられたからな」


 だが、これだけの部屋を取っても懐は全く痛まない。


 ゲームでは蜂の巣から蜂蜜が二つか三つ採集できて、一つ辺り約5000シエルで売れる。

 しかし、この世界では蜂の巣丸ごと持ち帰ってしまえば、ゲームの値段よりも遥かに高額で売り飛ばせるのだ。


「コツさえ掴めばこれが一番稼げるな」


 デストロイ・ビーの労働者は、女王が生存している限り、どれほど距離が空こうと蜜を生産し続ける。

 つまり、デストロイ・ビーの蜂の巣は、無限に蜂蜜を生み出す金の卵を産むニワトリなのだ。


 俺が女王を討伐しなかったもう一つの理由がこれだ。

 群れの女王を討伐してしまえば、持ち帰った巣は一瞬で無価値な木くずになってしまう。


 さて、今回持ち帰った巣にはかなりの値が付いた。

 蜂の巣一個で20万シエル。それが10個で200万シエル。基本的に1シエル=1円なので、とんでもない儲けを一日で達成したことになる。


 無策で突っ込めばあっという間に毒針を突き刺されて、蜂たちにむさぼり尽くされる危険な作業だが、対策さえ立てれば極めて実入りの良い採集だ。

 これだから〝養蜂〟は止められない。


「これもリヴィエラのおかげだな」

「え……?」


 リヴィエラが不思議そうな表情を浮かべる。


「毒が中和できたのも、リヴィエラの加護があったからだ」


 俺はそっと彼女の頭を撫でる。


「いつかリヴィエラに返せれば良いのだが」


 俺の加護があれば、誰かに加護を分け与える事も出来るはずだが、その方法が分からないのだ。

 ゲームでも、ジークが実際に加護を与えるシーンは描写されていなかった。

 ゆくゆくは加護を分け与える方法を見付けて、リヴィエラに加護を返したい。


「さて、この金で今すぐ帝都に戻っても良いんだが、それよりもまず装備を整える必要があるな」


 オルトとの対峙は避けられないだろうし、帝都までの道中を安全に進むためにも万全の準備をしたい。


「それに……」


 ちらりとリヴィエラの方を見る。


「えっと……どうされましたか?」


 リヴィエラの身体にあった傷は完全に治癒した。

 しかし、衣服の方はボロボロのままだ。

 それは俺も同様なのだが、おかげで受付の時にかなり訝しむような目で見られた。


 人間らしい生活を歩むためにも、明日は衣服や装備などを整えるべきだろう。

 俺としてもリヴィエラにいつまでもみすぼらしい格好をさせるわけにはいかない。


「明日、服を買いに行こうか?」

「えっ……そ、そんな。そこまでお世話になるわけには……私はこの服で十分です」


 慌てたようにリヴィエラが遠慮した。


「十分じゃないさ。その格好で外を出歩くのは嫌だろう?」

「そ、そんなことありません。私は何もしてないのに、兄様にこんなに良くしてもらって。贅沢なんて言っていられません」


 なるほど、彼女はそんなことを気にしていたのか。

 だが彼女はまだ幼い。そんなことを気にする必要は無いのだ。それに……


「リヴィエラは今まで散々酷い目に遭ったんだ。だから、これから遠慮無く俺に甘えてくれ。そうでないとあの日、君が崖から落ちるのをただ見ていただけの自分が許せそうにない」

「そんな、兄様達が気に病む必要は……」

「とにかく、これは決定事項だ。リヴィエラは年下なんだから遠慮無く甘やかされてなさい」


 俺はそっとリヴィエラの頭を撫でる。


「……ありがとうございます、兄様。私、兄様と出会えて本当に良かったです」


 それは俺のセリフだ。


 原作で彼女は壮絶な目に遭った。その時の胸糞の悪さは今でも鮮明に思い出せる。

 それが妹のように思っていたリヴィエラだったことは衝撃だったが、俺はそんな彼女を救うことが出来た。

 プレイヤーとしての俺と、ジークとしての俺は心底、今の状況を喜んでいる。


「あの……それでしたら、一つ頼みごとをしてもよろしいでしょうか?」


 その後、リヴィエラが控えめに尋ねてきた。


 どうやら早速、リヴィエラが俺に甘えてくれるようだ。

 原作で不幸になった分、こうして彼女に何かしてあげられるのはとても嬉しい。


「もちろんだ。何でも言ってくれて良いぞ」

「そ、それでは……」


 リヴィエラがもじもじし始める。

 きっと、改まって頼み事をするのを恥ずかしがっているのだろう。

 可愛い妹だ。妹じゃないけど。


「その……お風呂に入れて欲しいです」

「……………………………………は?」


 俺は絶句した。

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