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しかし、家事と銃の腕は必ずしも比例せずに。

 メイドに聞きたいことは山ほどあるが、今は街の方が優先だ。墜落した際の被害なんかもあるだろうし。


 私が急いで街へ駆けつけると、ドラゴンの死体を中心に人混みができていた。


「あ、領主様。ドラゴンのことなんですが……」

「把握している。やったのはうちの者だからな」

「えぇ!?」


 人混みを掻き分け掻き分け、中央にて宣言した。


「皆のもの注目! このはぐれドラゴンは無事討伐された! よって、只今より街の修復作業を行う! ドラゴンによる被害を受けた者は後ほど私の屋敷まで来い! 報告書の作成、修復費用の負担を行う。手分けしていくぞ!」

「領主様、その前の一つ質問がー!」

「なんだ?」

「その……ドラゴンを倒したのってどなたなんですか?」

「それは「はいはーい! 私でーす」

「「「おおおぉおおおお!!!」」」


 住民が沸いた。何やら胴上げが行われている。人混みの上から幾度となく跳ねている彼女に、思わずため息をついてしまったのは仕方ないだろう。やれやれ。


 その後、ドラゴンの死体は全て換金し、被害を受けた者たちに還元した。そして、余った分は全てたった一人の功労者へ送った。


「街を救ってくれてありがとう。このお金は君のものだ。これでメイドの仕事をする必要も無いぞ」

「いえ、いりません」

「え?」

「いりません、と言ったのです。そのお金は全てグレイさんが持っていてください。私はメイドを続けます。というか、まだ始まってすら無いですけど。分かったらさっさとそのお金は仕舞ってください。さて、まずは屋敷の掃除からですねー」

「あ……」


 ……なんとも不思議な奴だ。だがこれで一つ分かったことがある。こいつは宗教勧誘でも何でも無いってことだ。勧誘目的ならば胴上げをされていたあの時にでも宣伝すれば効果は抜群だったろう。ドラゴンも倒せるようになるぞ。と文句を添えてな。また、金目的ならばドラゴン討伐の金を受け取らないのはおかしな話だ。よって、私はこのメイドを信用することにした。まぁ、メイドとしての腕はまだ見せてもらっていないが。用心棒としてでも十分だろう。何せ、ドラゴンを一撃で仕留めたんだからな。


「この金は、メイドのために取っておくか」


 もし、こいつが病気になった時の医者代なんかに使ってやろう。


-------


「グレイさーん、紅茶を淹れて参りました〜!」

「おぉ、メイドか。入っていいぞ」

「失礼しまーす」


 私は天花寺ちよ、16歳。花の女子高生……ではなく貴族のお屋敷のメイドです。多忙なグレイさんのために紅茶を淹れてあげられる、できるメイドなのです。って、わぁっ!?


「主人の頭に紅茶をぶちまける、ふむ。念のため言い訳を聞いておこう」

「す、すみませんでしたぁあああああああ!!」


 前言撤回、もしかするとポンコツメイドかも知れません。とほほ……


「……なんなんだその謝罪方法は」

「私の故郷に伝わりし最大級の謝意を示す、ジャパニーズDOGEZAでございます」

「ドゲザ……? まぁ謝意は伝わったから、急いでタオルを持ってきてくれないか……」

「はい、直ちに!」


 疾風の如く部屋を飛び出し、タオルをキャッチ。これまた神速でグレイさんまでお届け。やはり、優秀なメイドなのでは!?


「メイド。どうして干す前の濡れたタオルを持ってきたのか、さぁ。弁明を聞こうじゃないか?」

「あぁあああああ!? ごめんなさい、ごめんなさい〜!!」


 再びDOGEZAを敢行し、今度こそ乾いたタオルを持ってきました。まだ髪がベタベタするようで、仕切りに毛先をいじっていました。なんか、前髪気にする女子みたいですね。


 今度こそ乾いたタオルをお持ちし、私は紅茶香る部屋を後にしました。


-------


 メイドを拾って、スナイパーライフルとやらでドラゴンを討伐したのはもう昨日のこと。今日は、昨日の被害などをまとめた書類を作らねばならない。昼食までに進めておこうと仕事に手をつけ始めたは良いものの、メイドに紅茶をぶちまけられたのが先程。彼女は、しょぼんとした後ろ姿で出ていった。


 全ての行動に悪意が無いのは確かなんだが、如何せん空回り気味なのが否めない。タオルとか、持ってくる時に濡れていることくらい気づかなかったのか。


「まぁ、いいさ。気持ちが伝わってくるだけで私は十分嬉しい」


 紅茶を無駄にしたことは少し怒っているがな、と小声で付け加えておく。幸いにも書類たちは無傷なので、許してやるとしよう。


 言い忘れていたが、私は領主である。ただし田舎の。紅茶の茶葉を特産品に据えた政策を検討している。


 王都へのアクセスも悪くなく、程よく田舎、と言った感じである。領民との仲は普通。良くも悪くも普通の領主をやっているからな。


「……まぁ、だから出世できないんだが」


 いつまでも普通なままじゃ何の結果も残せない。死ぬまでに時代に爪痕を残したい。私の小さな野望である。


「よし、取り敢えず昼食までに書類は片付けるぞ!」


 まだ、ほのかに紅茶が香る部屋で、私はペンを手に取った。


-------


 なんとか書類仕事を片付けられたので、昼食は何を作ろうか、と思っていると、厨房からフワッといい香りが漂っていた。何事かと顔を出してみれば、メイドが料理を作っていた。


「あ、グレイさん。勝手に食糧をお借りしちゃいました。お席でお待ちください。すぐにお持ちしますから」

「……何を作っているんだ?」

「それは出てからのお楽しみですよ♪」


 邪魔するわけにも行かないので、言われた通りに席につく。少し待っていると、皿に盛り付けられた料理が運ばれてきた。


「これはなんだ?」

「パスタです。今朝取った鶏肉を味付けしたものをトッピングしてあります」

「へぇ、かなり美味しそうに出来てるじゃないか。いただくよ」


 まずは麺を一口。うん、美味い。さすが、うちの領地で獲れた小麦。火の入りが甘い気もするが、まぁ申し分ないだろう。では、今度は鶏肉の方を……


「辛ぁっ!? おいメイド、お前何を入れた!」

「あ、そのですね……普通の香辛料なんですが、入れる際に容器をひっくり返してしまいまして……」

「何してんだ……ってあぁ、辛い! メイド、水をくれ、出来るだけ早く!」

「は、はい!」


 なんだこの辛さは。舌が焼けるように熱い。取り敢えず麺を食べて軽減させているが、やはり飲料でリセットせねば。


「こちらお水ですっ!」

「ぷはぁ、はぁ、はぁ、助かった。メイド、お前次は気をつけろよ。私はこいつを食べるから、水を多めに用意してくれ」

「え、いや、無理して食べなくても良いですよ。また別に作ります……」

「その必要はない。せっかく、メイドが初めて作ってくれた料理なんだ。捨てるなんて、出来るわけないだろう?」

「グレイさん……分かりました。すぐに用意します!」

「あぁ、頼んだ」


 私は、鶏肉(激辛)と対峙する。残っている鶏肉は三つ。まずは、小さめの奴から確実に仕留めるっ━━


「やっぱ辛ぁっ!?」

「お水です!」

「ありがとう」


 舌を焼くような熱。それを即座に水で相殺。この料理は、決して不味い訳ではない。ただ(激辛)なだけだ。私はこの程度の試練には負けない!



━━そして、私は全ての鶏肉(激辛)を食すことに成功した。相殺に使った麺や水もちょうど尽きた頃だ。


「はぁ、はぁ、私はやりきったぞ!」

「さすがグレイさん。まさか本当に全部食べ切るなんて」

「……メイド、夕食の時は、くれぐれも気をつけろよ」

「はい!」


 声音は明るいが、どこか落ち込んでいるようだ。ドラゴン討伐以外は失敗続きだからな。俺もまさか、この短時間でこうも事故が起こるなんて予想だにしなかった。だが、一人でつまらない暮らしをしていた時より遥かに面白い。私は、このメイドを雇って間違いではなかったと思う。


 でも、ひとつだけ物申したいことがある。


「ところでメイド」

「何ですか?」

「いい加減、背中にある物騒なもんをしまえぇえええ!」


 背にスナイパーライフルを担ぐメイドは、ペロっと舌を出してあざとく笑って見せた。

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