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見てるだけで良かったの

作者: 清香

 眼鏡男子に萌える話しを書いてみたい。と思いましたが、上手く伝わったでしょうか? 平凡⁉︎な日常と長年の両片思いが伝わると嬉しいです。

 何故?こんな人生を送らなきゃいけなかったのかしら…


 目が覚めたら見覚えのある天井が高かった。身体が熱くて頭が痛い。喉も痛くて声がかすれて音にならない。私、どうして生きているのかしら?バルコニーから突き落とされた位ではきっと死なないのね。ボゥっと薄目を開けると、枕元から叫び声が聞こえ、耳が痛い。


『カトリーナ様が目を覚ましました。お医者様と奥様をお呼びして下さい!』メリメばぁやの落ち着いた声が先程叫んだと思われる侍女に向けて指示を出してます。アレ⁉︎メリメばぁやは昨年引退して息子さんの居る田舎へ帰った筈じゃ無かったかしら?私が死に掛けたから呼び戻されたのかしら?


 お医者様が来て診察している処に両親が来ました。…みんな若返ってませんか?…お医者様が両親に『熱はまだ引きませんが、峠は越えました。もう安心しても大丈夫ですよ。』と話して部屋を出て行きました。冷たい水で絞ったタオルをお母様が額に乗せて、幼な子にする様に優しく頭を撫でてくれます。こんな事は婚約が決まる前以来ですね。私はまたウトウトと眠りに落ちて行きました。


 次に目を覚ました時、自分の手が小さい事や、ベッドや家具が大きい事に気付きました。そして覚えているみんなが若い。水差しから白湯を飲ませてもらって喉の渇きを癒すと、メリメばぁやに『あのね、私はなんで寝込んでいるの?』と聞いてみました。甲高い声はどう聞いても幼く、頭ではしっかり考えて発言しているつもりが、声にすると辿々しくなります。『カトリーナ様は洗礼の儀で出掛けた教会で噴水に突き飛ばされて、寒い中ずぶ濡れになってしまい、熱を出してしまったのです。直ぐにカトリーナ様を突き飛ばした狼藉者は神兵に捕まり、親を呼び出して叱られてます。今後は近寄れない様に誓約書を交わしましたからご安心下さいね。』と、話してくれましたが、プンプンした口調が珍しいです。


 『私、3歳の洗礼したの?覚えてない…無事に済んだのかしら?』涙声になったのは仕方有りません。学問の加護が今回も貰えたのでしょうか?洗礼で受ける加護によって将来がほぼ決まって来るので、何の加護を貰えたのか不安に成りました。シクシクと泣き出した私の元へお母様が来てくれました。お母様が司祭様に聞いた話しでは、私は『主神様と緑の精霊様のご加護』を頂けたらしいです。ただ、『話したい事があるからまた祈りに来なさい。と主神様から告げられた。』と私はニコニコと司祭様にナイショバナシをしたそうです。全然覚えてません。主神様の加護を頂けた上にまた会う約束を貰えて上機嫌だったそうです。


 私はカトリーナ・ド・モンゴメリィ。お父様はヨーゼフ・ド・モンゴメリィ公爵で、お母様はアリスティア・ド・モンゴメリィです。そして、お姉様のエリザベス・ド・モンゴメリィ。私が身代わりにしてしまった⁉︎お姉様です。あのたった一度の我儘が諸悪の根源だったのです。


 時渡りをする前。私はバルコニーから突き落とされました。『お前が素直に嫁いでいれば、俺は愛するエリザベスとこの家を盛り立てて行けたのに。』と睨み付けられながら。


 二人姉妹の我が家はお姉様に婿入りしてもらって跡を継ぎ、私は他家に嫁いで行く筈でした。私は政略結婚で決められた婚約でした。その私の婚約者がお姉様を好きになってしまったので、私に辛く当たるのです。10年近く耐えましたが、ドンドン酷くなる婚約者の態度に、これが嫁いでからもずっと続くと思うと我慢出来なくなり、思いあぐねてお父様に相談したのが婚約解消でした。でも、姉様と違い政略結婚だった為に上手く行かず、揉めた末に婚約者の交換の話しにまでになってしまったのです。そう打診されたお姉様の婚約者の方が納得いかない。と我が家を訪れ、激情に駆られて私を突き落としたのでした。せめて後半年我慢して、姉様の結婚を祝ってから修道院に駆け込めば良かったのでしょう。でも、あの時の私は、後一日でも耐えられない程追い詰められていたのですが…


 ベッドに寝たまま前回を思い出してみて、ゾッとしました。私を噴水に突き飛ばした子供は、お姉様の婚約者の従者だったのです。伯爵家か子爵家か覚えてませんが、姉様と一緒に居ると何時も睨んで来る眼が同じでした。今回はまだただの取り巻きだったらしいので、直接、あの方に繋がりませんが、前回の記憶のある私には恐怖でしかありません。婚約が決まるのはまだ先ですが、私の婚約に関しては私の気持ちを優先してもらえる様に、お父様を取り込まねば。いろいろ考えた結果、前回の私はお姉様の真似をして過ごしてましたが、今回はお母様を模範とします。お父様好みの娘になって、『私、お父様のお嫁さんになる!』作戦です。きっと前回のような家重視の婚約者は出来ない筈です。


 そこまで考えて、司祭様の話しを思い出しました。教会に行って主神様とお話しをしなくてはいけません。きっと時渡りをした件です。その為にも早く元気にならなくてはいけませんね。お腹に優しいスープには私の嫌いな野菜がいっぱい入ってますが、我慢して食べます。お母様とメリメばぁやが褒めてくれました。


 5日後には普通の食事になり、みんなと食べたくて食堂に行こうとしましたが、ベッドから立てませんでした。すっかり筋肉が落ちて立て無いのです。仕方なくメリメばぁやに抱っこされましたが、これでは赤ちゃんでは無いですか?


 でも、しょげているだけでは問題は解決しません。毎日、絵本を読んでくれる3歳上のエリザベス姉様に頼んで、部屋の中を手を繋いで歩いてもらう事から始めました。…毎日同じ絵本を読み聞かせられて飽きたとかでは無いですよ?例え全文きっちり暗記してしまっているとしても、姉様の声を聞くだけだ楽しいのですから。


 以前と同じぐらいに独りで歩ける様になり、再び教会に行けたのは2ヶ月後でした。礼拝堂に跪いて手を組み、主神様にお祈りを捧げます。『体調が戻りました。ありがとうございます。時渡りをした前回の生で私は何を間違えてしまったのでしょうか?』声には出さないので、側から見れば洗礼を受けに来た3歳の幼な子が熱心にお祈りして偉いね。と微笑まれる光景なのでしょう。


 スッと静けさに包まれました。主神様がいらした様です。『カトリーナ、良く来てくれたね。前回の生で苦しんでいた時に、私に嫁ぎたい。と漏らした事を覚えているかい?』お父様にも相談する勇気が無かった頃。それでも辛いのは変わりなくて、此処で修道院に入って主神様にお仕え出来たら幸せかも。と呟いた事が有りました。『はい。このままノワール様に嫁いで一生虐げられて暮らしたく無い。修道女にして頂けたら幸せかも。と考えた事が有ります。』と答えました。修道女は主神様に嫁いだとみなされる為、結婚出来ないのです。


 私の懺悔の内容が気になり、私の気配を感じて下さっていたので、バルコニーから突き落とされた時に時渡りをさせた。と告げられました。洗礼の時は時渡りをした事で、前回の加護を引き継いでいるから別の加護を追加したよ。と伝えたかったそうですが、まだ覚醒していなかったので、後でまた話しにおいでね。となったそうです。前回の学問の神様のご加護があるから暗記出来たのかしら?前回の生では、学問の神様のご加護が心の支えでした。ノワール様に嫁がないで済んだら、城で文官として働くつもりで勉強していたのです。


 主神様との時間は外と隔絶されているそうで、私と主神様の話している時間を含めたお祈りの時間はそんなには長く無かったみたいです。メリメばぁやと司祭様にお礼を伝えて教会を出ると、丁度お茶会を終えたお母様が馬車から降りて来る処でした。時間を合わせて迎えに来てくれたそうです。お母様も司祭様にお礼を伝えてお布施を贈られてました。メリメばぁやが持って来なかったのはこういう訳だったのですね。


 夕飯の時にお母様から教会での話しを聞かれたので、主神様から学問の神様のご加護を頂けた話しと、何か辛い事があったら、『主神様の元に嫁いでおいで。』と言ってくれた話しをしました。3歳の私は『主神様のお嫁さんになる。』という事だけを喜んでいる素振りで話しましたよ。お母様は笑ってましたが、お父様は引き攣ってましたね。現実的に修道女になるなんて一言も言いませんとも。


 私の3歳はこれ以外何事も無く穏やかに過ぎて行きました。学問の神様のご加護が有る。という建前の元、絵本から始まり、家の図書室の本を読みまくりました。と同時に、緑の精霊の加護を使って庭師のジョンと花壇の手入れをして遊んだり、お母様や姉様と一緒に刺繍や、マナーを学んだりして過ごし、5歳になりました。エリザベス姉様は8歳です。…前回はこの年に婚約者が決まりました。


 同じ公爵家の次男の方から婚約者は探されたそうです。そして、前回と同じクロード様に決まりました。ユグラシル公爵家は武門の家柄で、文門の我が家の守り刀になってくれるそうです。学園でもエリザベス姉様と仲良く、幼くしてベストカップルと噂されているそうです。前回の私はこんなに幸せなお二人を引き裂いたのか!と眩暈がしました。学年が違うのと、ノワール様に振り回されて周りが見えなかったせいで気付けなかったのです。


 今回は姉様だけに婚約が決まりました。私はフリーです。多分、主神様のお嫁さん発言が良い仕事をしていますね。私も出来る事なら相思相愛の方に嫁ぎたいです。主神様以外に現れなかったら…主神様のお陰で生き直している人生ですから、それも有りでしょうね。


 そして6歳になり、私も入園しました。クラスでのホームルームが終わり、講堂で待っている家族と共に帰る為向かっていると、声高に話す集団が目に入りました。クロード様に庇われる様に立つエリザベス姉様と、更にその前に立ち、苦笑顔の両親。それに言い募る3人の親子⁉︎ 近寄るべきか入り口で悩んでいる処をクロード様に見つかり、視線で隠れる様に促されました。咄嗟に横を歩いていた方の陰に隠れて横にそれて迂回し、少し離れた処からお父様の正面に立ちました。


 私を見つけたお父様はその方との会話⁉︎を切り上げて出口に顔を向けました。エリザベス姉様とクロード様が素早く私を回収して馬車に向かいました。馬車で先程の話しを聞いたのですが、私にも婚約の話しが来ているそうです。ガリレウス侯爵家のノワール様から。名前を聞いただけで顔色が悪くなり、身体の震えが止まりません。冗談ではありません。私はこの人から逃げる為に皆を不幸に落としたのです。この3年間でお母様に良く似た雰囲気に育った私はお父様のお気に入りです。エリザベス姉様にクロード様を選んだ時の様に、家柄で無く人を見て選ぶ。と宣言されたお父様は、私にも学園で素敵な人と出逢うのを待って下さると決められたのです。そんなお父様ですから、私の態度からもノワール様は有り得ない。と考えた様で、『彼以外で見つけようね。』とおっしゃいました。


 幸い、ノワール様とはクラスが分かれてますが、『おかしな事をされない様に、迂闊に近付いてはダメだよ。』と注意されました。私も彼は拒絶します。前回のトラウマがあり基本的に男子は苦手です。…クロード様も怖いですが、常に姉様が居てくれるので、間に姉様が居ればなんとかなるレベルです。


 緑の精霊が居るので、不審者が居ても蔓で縛ってもらえる様になりました。私は目立たずひっそりと過ごしているつもりですが、お母様譲りのかんばせと公爵家という看板は輝いている様で、婚約者の居ない私は美味しい存在だそうです。ノワール様も怖いのですが…声を掛けて来る男子から逃げ回っては涙ぐんでいる事の多い私を見かねて、とうとうクロード様の妹のミッチェル様が私の護衛をする!と宣言されて、ミッチェル様のグループに入れられてしまいました。


 彼女達のグループは武の一門なので行動量が凄まじく、私は付いて行けませんでした。ミッチェル様に『基本的に体力の無理があるのでもっとゆっくり移動してもらえませんか?』とお願いすると、驚かれましたが幾分緩やかにして頂けました。常に走り回る速さでお淑やかに歩くのも不可能ですし、学園内を走り回るなんて恥ずかしくて無理です。体力も保ちません。


 ユグラシル公爵家から、『どう教育してもミッチェルはお淑やかにならず困っていたので、カトリーナ様の影響で良い方に変わり喜んでいます。これからもよろしくお願いしますね。』と礼状をもらってしまい、両親にも相談して『此方こそ、ミッチェル様のおかげで、健やかに学園で勉学に励む事が出来て、大変感謝しております。このまま、ミッチェル様のご厚情に甘えてご一緒させて頂けると嬉しく思います。』とお返事させて頂きました。


 この学園は初等科4年、中等科5年、高等科6年に分かれています。女性は16歳で、男性は18歳で成人とみなされるので、高等科に入ると、結婚妊娠を理由にみなし卒業される方も出て来ます。


 取り敢えず、初等科の4年は事件も無く穏やかに過ごせました。ミッチェル様のお陰です。そして、中等科の新学期が始まりました。中等科からは放課後の倶楽部活動があるのですが、ミッチェル様達は騎士見習いの倶楽部に入るそうです。私は文官見習いです。セレナ様とマルゴット様が一緒です。この4年間で出来たお友達です。此方は毎日の活動では無いので、お休みの日は図書室で自習して姉様を待っています。その図書室にあの方がいらっしゃいました。


 学園は6歳から21歳迄の学生が使う為、2階建で大きい建物です。絵本から専門書まで網羅していて、本の置き場所に依りなんとなく住み分けがされてますが、私はノワール様に会いたく無いのと、絵本からはとっくに卒業していたので、上の学年の方が自習に使うコーナーを使っていました。


 サラサラの銀髪に涼やかな碧い瞳。その瞳を隠す眼鏡まで素敵です。何時も同じ席で静かに本を読んだり勉強をなさっている姿をこっそり覗き見るのが、私の密やかな幸せでした。何年生なのか、何処の方なのか、お名前すら知りません。斜め後ろからそっと見てはほっこりしていました。


 4年生になり、いつもの様に図書室に向かう私にノワール様が近付いて来ました。何時もミッチェル様達が追い払ってくれていたのでもう諦めたものと油断していました。『今日は邪魔が入らなそうだな。いい加減わがままは辞めて、俺の婚約者になれ。カトリーナは一生俺の言うままに俺と暮らせば良いんだよ。』と詰め寄って来ます。『嫌よ!何度でも言うわ。なんで好きでもないのに私に付き纏うの?私はあなたが嫌いですし、何度もお断りしております。なんで嫌いな相手と居たくない。と伝える事がわがままで済ませられるのか理解出来ません。』と言い切って逃げ出しました。


 ミッチェル様に言われている様に『ミッチェル様、助けて!』と大声で叫びました。恥ずかしいですが、ノワール様に捕まってしまうよりマシです。案の定、ノワール様に腕を掴まれ、引きずられてしまいましたが、私の声を聞いた誰かが伝えてくれたらしく、ミッチェル様達が助けに駆け付けてくれました。ノワール様は先生に捕まり、連れて行かれました。私はミッチェル様達に抱えられてユグラシル公爵家の馬車に乗り、姉様を待たずに先に家に帰りました。


 夕飯の時に騒動を伝え聞いて心配していた姉様から話しを聞いた両親に事の顛末を話し、メリメばぁやに湿布してもらった青黒い痣の付いた手首を見せました。今までも付き纏われた事はありましたがミッチェル様達のお陰で何事も無く過ごしていたので、今日の暴挙には私も怯えてしまってます。


 お父様から学園に連絡してもらったので今日は休みます。ミッチェル様にはお姉様がクロード様を通して伝えて下さるそうです。ガリレウス侯爵家にはお父様が厳重注意して下さいました。8年前の入園式の時も、エリザベス姉様の美しさを褒めまくっていたのに、今更何故、私に固執するのか理解出来ません。…ガリレウス家としては、モンゴメリィ家と繋がりたいだけなのでしょうが、それにしてもノワール様が怖いです。


 ノワール様は1週間の謹慎処分となり、会わずに済んで、私はホッとしました。昨日の分のノートをセレナ様が写させてくれる事になり、放課後の図書室に二人で向かいます。カリカリと私のペンの音が響く中、セレナ様は図書室の本を読んでます。やっと終わったのでセレナ様にお礼を言って、待っていてくれた姉様と馬車に向かいます。セレナ様には今週末のお休みにカフェでパフェをご馳走する約束をして、お礼に代える事にしました。


 クロード様とエリザベス姉様はお二人とも生徒会に入ってます。今回の事態に、生徒会へ入らないか?と誘われました。でも、私は文官見習い倶楽部の活動がありますし、生徒会に興味がある訳でも無いのでご辞退しました。普段はミッチェル様達と一緒ですし、倶楽部活動の時はセレナ様やマルゴット様が一緒です。たまたま図書室に行く途中の通路で一人の時を狙われましたが、基本的に私は誰かと一緒なのです。


 一番大切な事は、放課後の図書室であの方を見られなくなるのを避けたい。と言う思いです。


 お父様から執務室に呼び出されています。ノワール様を近付けない為にも、私に婚約者を決めるのでしょう。明日のセレナ様との外出の話しもしませんといけないので、素直に執務室に向かいます。トントントンと3回、軽くノックして、『カトリーナですが宜しいですか?』と声を掛けます。当然のように『お入り』とお父様の声がします。


 机の上にはやはり、書類が何冊か積み上がってます。『カトリーナに来た見合い相手で、今までに婚約者を持たなかった嫡男が此方。婚約者候補は居るが、今はフリーな嫡男は此方だ。取り敢えず、ザッと中を見て、振り分けておくれ。』お父様が嫌そうに二つの山を寄越してきました。此れ以外は爵位が低いか、本人や背景に問題有りで弾いた。とおっしゃいました。


 4歳上のサムソン公爵家ミハエル様。3歳上のデフォルト侯爵家のザービス様、同じく、テルアビ伯爵家のヨーク様。2歳上のモントリオ公爵家のフィリップ様。1歳上のラムスデン侯爵家のデビッド様。この方はセレナ様のお兄様です。


 ミハエル様には婚約者がいらしたそうですが、学園での交友関係で問題があり破棄されたそうで、私を望んでいらっしゃるそうです。でも、小さい頃からのお付き合いで関係を築けなかった理由が分からないので、あまり選びたく有りません。


 姉様の同級生のお二人は婚約者を持たずフリーだそうです。家柄は良く、ご両親も素敵な方だそうですが、ご本人は女性の友人が多いそうです。姉様に伺った処、お薦めしないと言うか、クロード様と逆の性格なので近付きたく無いそうです。


 フィリップ様は文門の方で穏やかな方だそうです。お父様の仕事上の付き合いで来た話しとの事です。姉様も学年が違うせいかご存知無いそうです。お母様はピアノの演奏を聞いた事があるそうです。


 デビッド様はセレナ様のお兄様で何度かお話しした事があります。優しいイメージはありますが、セレナ様のお兄様と言う印象が強いです。お見合いの話しは横に置いて、明日、セレナ様とカフェに出掛ける話しをしました。それとなく、デビッド様のお話しを伺って来ましょう。と伝えました。


 実は、メリメばぁやへの贈り物も選んで来ようと思っていたので、付き添いには警護の意味も有り侍従をお願いしました。待ち合わせの場所に着くと既にセレナ様が来ていました。…セレナ様の付き添いはデビッド様でした。昨日の今日で視線が彷徨ってしまったのは仕方ないと思います。セレナ様も『侍従と来る予定だったのに無理矢理兄が付いて来たのよ!』とご機嫌斜めっぽいです。


 気を取り直してカフェに向かい、予定通りにパフェを満喫しました。私とセレナ様が並んで座り、デビッド様は向かいに座りました。侍従がカウンターに座って此方を見てます。私は極力セレナ様を見ながらお話しをしました。でもちらっと見ると毎回目が合うのです。うーん、顔が熱いです。私が困っているのを楽しんでいる様に感じたのはセレナ様も一緒の様で、デビッド様を怒ってくれました。


 お詫びに。と言ってお茶代を払って先に出てしまわれたので慌てましたが、侍従に『雑貨屋さんに付き合ってもらって、お揃いの何かを贈っては?』とアドバイスされたので、この後の予定をセレナ様に聞くと、付き合ってもらえる事になりました。侍従はお店の外で警護すると言って、入口で立っています。デビッド様はセレナ様に止められてましたが、女の子ばかりの店内に入って来て、素早く出て行かれました。この店は可愛い物ばかりを扱うので、男性には恥ずかしいのです。


 セレナ様と楽しく買い物をして、お揃いのペンを買って贈らせて頂きました。メリメばぁやには可愛い過ぎると笑われそうですが、マグカップを買いました。ホッと一息つく時に使って、私を思い出してもらえたら嬉しい。と選びました。前回と同じで、腰が痛い。と聞いたのです。このまま、息子さんから誘われたら、我が家を辞めてお孫さんと楽しく暮らす方を選ぶと思います。


 デビッド様はセレナ様がいらっしゃるので、幾分心易いかと思いますが、好ましいかな?ぐらいにしかまだ思えません。全然知らないフィリップ様がどう言う方なのか知ってから考えても良いでしょうか?とお父様に伺うと、翌週に出会の場を設定して頂く事になりました。


 学園に行き、セレナ様と二人でマルゴット様にもお揃いのペンを渡しました。此方は二人で買った物です。一緒にお出掛けしたと聞いて、私もお誘い頂けたら嬉しかった。と拗ねた振りをなさったので、次回は3人で行きましょうね。と話していると、ミッチェル様まで話しに加わって来て大騒ぎになりかけましたよ。先生がちょうどいらしたので良かった。


 倶楽部のない放課後、セレナ様に送られて図書室に行き、何時もの席に座り自習を始めました。でも、あの方はいらっしゃいませんでした。先週の騒ぎからお見掛けしていないので、ガッカリしましたが、仕方ありません。迎えにいらしたエリザベス姉様と一緒に帰宅しました。


 馬車の中で今日のザービス様とヨーク様のお話しを姉様から聞きました。やはり、数人の友人に囲まれてハーレムみたいだった。と額に皺が寄ってます。私は笑いながら姉様の額を撫でて伸ばしました。クロード様はずっと姉様一筋の方なので、余計に許せないのでしょう。


 今週は一度も図書室の君に会えず終わってしまいました。明日はお父様に連れられてピアノのコンサートに行きます。フィリップ様が出演なさるそうです。趣味の手習いとおっしゃる割には極めていらっしゃる様です。


 私はあの方の瞳の色の、深いエメラルドグリーンのドレスを選んでコンサートに行きました。なんとなく、あの方に会えないかな?と思ったのです。前から4列目の中央の席に案内されました。私の前にピアノが有り、目の前で演奏が聴ける特等席です。流石お父様!と座って演奏を待ちました。


 お父様がもらったパンフレットを覗くと、何回かフィリップ様の名前があります。楽団と演奏したり、ピアノソロが有ったりと演奏も工夫されている様です。次はフィリップ様。と舞台を眺めていると、あの方が登場しました。正面を向いてお辞儀した後ピアノに向かって座った横顔は、図書室のあの方の横顔です。綺麗なピアノの音に耳を傾けていましたが、何故か目の前が歪んでいます。お父様がソッとハンカチを渡して下さって、私は自分が泣いている事に気付きました。


 『演奏が素敵で、琴線に触れた様ですね。』と泣き笑いの顔でお父様にハンカチを返すと、『カトリーナがこんなに感情を揺らすとは思わなかったよ。』と微笑まれました。演奏は当然素敵でしたが、何よりずっと会えなかった図書室の君に会えた事が嬉しかったのです。私はフィリップ様が好きなのですね。自覚しました。


 『楽屋に行くなら花束を用意してあるけど?』とお父様に聞かれましたが、今の私の顔は泣いてお化粧が剥がれています。『この顔では恥ずかしいです。』と言うと、『そう思ったからどうするか聞いたのだよ。ではパウダールームで直してもらってから行こうか。』と連れて行かれました。


 薄化粧に直してもらって、お父様から渡された花束を抱えて、楽屋に辿り着きました。私は一方的に知ってますが、フィリップ様は如何なのでしょうか?どうお声を掛ければ良いのか分からず、お父様の後ろで隠れる様に立っていると、お父様に前に押し出されてしまいました。『あの!今日は素敵な演奏をありがとうございました。これ、宜しければもらって下さい!』と勢い良く花束を突き出してしまいました。


 『済まないね。フィリップ君。普段のカトリーナはもっとお淑やかな筈なんだが、今日は君の演奏に舞い上がっているようだ。』お父様がフォローしてくれてますが、私は恥ずかしくて穴を掘って埋まってしまいたいです。フィリップ様は『カトリーナ様は放課後の図書室で良く見掛けてますから、普段の彼女は知っています。私の拙い演奏にこんなに感激してくれたなんて、その方が嬉しいですからお気になさらないで下さい。』と優しくおっしゃいます。


 楽屋にはモントリオ公爵様もいらしていて、お父様と何か話していました。私は憧れの君が目の前に居る。と言う状態に慣れず、固まったままでしたが、フィリップ様が優しく話し掛けて下さるので徐々に図書室での話しをしていました。私がフィリップ様に気付いたのは中等科に上がってからでしたが、フィリップ様は私が初等科の頃から見ていて下さったそうです。姉様が迎えに来るまでミッチェル様達と勉強していた初等科時代。小さいのに周囲を気遣って小声で友に教える姿を見て、可愛い子が居る。と調べたそうです。だから婚約の申し込みもしたし、私の視界に入る様に位置取りをしていた。と打ち明けられて驚きました。


 翌週の休みに婚約を交わす事に決まりました。大々的に婚約式を行うのは先になりますが、両家の間では確定したそうです。前回の生では考えられない事です。早速、教会にご報告にあがりました。久し振りに主神様が降りて来られました。フィリップ様との話しをすると、主神様が選んだ縁だと伝えられました。『私の嫁に来てもらう事も考えたけど、その前に人間の嫁になる可能性を奪うのはフェアじゃ無いし、あの子の魂が輝いていたからね。』とおっしゃる笑顔を見て、こんなに愛されて良いのかしら?と今回の幸運を悩んでしまいました。


 主神様が顔付きを改めて、ノワールの事だけど。と話し始めました。前回の生でも彼はカトリーナを選んだのだが、何故か拗れてしまって、素直に愛を告げられなかった。原因はクロードの従者の横槍だった。彼もカトリーナを好きになったが身分差が有り、望めなかった。その歪んだ感情がノワールに向かい、『カトリーナ様は私の主人のクロード様をお好きなのだ。相手にされず可哀想だな。』と嘘を吹き込んだそうです。あの歪んだ魂は今世でも絶望を抱いたままだったから、咄嗟に手に入らないカトリーナを憎んで噴水に突き落としたのだろう。とおっしゃいます。


 前回の真相を知らされましたが、かと言って、フィリップ様を諦めてノワール様を選ぶなんて出来ません。私の心が死んでしまいます。主神様も『そんな事をする必要は無いよ。だいたい、フィリップを探して来た私の苦労を考えてくれ給え。』と笑ってます。私が幸せなら、ノワールも大丈夫だろうから、フィリップと幸せになりなさい。とおっしゃって主神様は帰られました。


 倶楽部の無い日はフィリップ様が高等科から中等科の教室まで私を迎えに来て下さいます。今まで通り、姉様が来るまで図書室で勉強をしています。二人で居るだけで幸せです。ミッチェル様達やセレナ様、マルゴット様も温かい目で見てくれます。とっても恥ずかしいです。


 ミッチェル様は何故かミハエル様とお付き合いを始めたそうです。私の婚約が決まってしまい、私もエリザベス様と同じで一途な方だったのですね。と呟いていたそうです。そして、エリザベス姉様一筋のクロード様の話しを聞いて、ならば、クロード様の妹のミッチェル様も同じ性格では?と興味を持たれたそうです。しかも何故か我が家経由でミッチェル様を申し込まれたそうで、話しを伺ったお父様が微妙な表情でユグラシル公爵様に話しを持って行ったそうです。


 『正直なところ、お転婆なミッチェルにカトリーナ様の矯正が加わった処で、良縁は諦めていたのだよ。サムソン公爵に悪い噂は聞かないし、ミハエル君ならミッチェルの手綱を取ってくれそうだから、我が家は喜んでいるよ。』とおっしゃったそうです。そして顔合わせをされたミッチェル様もミハエル様と気が合った様です。


 セレナ様から聞いたのですが、私がフィリップ様と婚約した話しを聞いて落ち込んだデビッド様をマルゴット様が支えてくれたそうです。『えっ?もしかして、一緒に出掛けたかったのは、私達じゃ無くて、デビッド様でしたの?』と大声を上げてしまいました。教室で叫んだので、マルゴット様にも聞こえてしまい、メッとされてしまいました。


 『まだ妹の友人でしか無いけど、強敵が消えたから私頑張るの!セレナ様、私がお姉様になれる様に力を貸して下さいませ!』と宣言されるマルゴット様の凛々しさに、セレナ様と二人で抱きついてしまいました。…マルゴット様に『気付かなかったとは言え、辛い想いをさせてしまってごめんなさい。』とひっそりと謝ると、『良いのよ。デビッド様にカトリーナ様との話しを聞いて、私、自分の気持ちに気付いたのだから。それまでは私もセレナ様の格好良いお兄様って括りだったもの。』と笑ってます。『私達、自分の気持ちに鈍感コンビなのかしら?』って笑って終わりにしました。


 そうそう。デビッド様がまだだから、セレナ様も?と思ってましたが、幼い頃から婚約者が居るそうです。なんと8歳も上でもう文官として城で働いているそうです。倶楽部に月一で話しを聞かせに来てくれる若い文官様が、やけにセレナ様と親し気にされていると思ってましたが?話しを聞くと、迫ったのはセレナ様の方で、今はまだ仮婚約者扱いなのだそうです。でも、今では諦めたそうで、両家共本婚約で良いんじゃ無いか⁉︎と言う扱いだそうです。5歳に押し切られる13歳。でもロリ扱いされたく無いから、せめて、高等部に上がる迄は仮で。と言う約束なのだそうです。セレナ様は『16歳の誕生日に式をあげるのが夢なのですが、お休みでは無いので。その日に届けを出す事で手を打ちますわ。』とニコニコ顔です。『招待しますから、予定を空けておいてね。』とも宣言されました。


 意外と言うか、貴族の結婚なんて歳の差は気にしない物と言われますが、それは成人を過ぎた後と言う事なのですね。身近過ぎてドキドキしてしまいました。私は2歳しか離れてませんから想像が難しいですが、主神様が相手なら…うん。ドキドキします。


 今回の人生は幸せになりなさい。と主神様が与えて下さった人生なので、私にイージーモードなのかもしれません。でも、誠実に生きる。と言う事は決して簡単では無いと思います。今までの幸せを胡座をかかずにこれからも誠実に頑張る。そう決意した14歳の秋でした。


 前回は後1年で人生が終わりましたが、今回は更に続いて行く筈です。前回も私だけが間違えたのでは無いと判りました。ノワール様が姉様を誉めて私を虐げるので、姉様の真似をして来ましたが、その所為で、私がクロード様を慕っていると勘違いされて、更にノワール様から虐げられていた。とか、クロード様にまで『姉と入れ替わりたい程横恋慕するのか⁉︎』と誤解された上に逆ギレされて突き落とされるとか。考えてみれば、私達は皆、クロード様の従者の犠牲者なのでは無いでしょうか?


 そう言えばあの従者を学園で見掛けませんでした。クロード様の取り巻きにも居ない様です。エリザベス姉様に、『私の洗礼式の時に私を噴水に突き飛ばした男の子を見掛けませんねぇ。』と何気ない振りで聞いた事が有りましたが、それを聞いたお父様が、『アレは廃嫡されて遠い親戚に養子に出された筈だから、学園には通えないだろう。』と答えてくれました。男爵だか騎士爵だかに養子入りさせたのでお許し下さい。と親が頭を下げに来たそうです。私は熱にうなされていて生死を彷徨っていた頃だそうで、『二度と顔を見せるな!』と追い返したそうです。


 入園する迄はあの子の方が怖かったのに、入園式でのノワール様の騒ぎで忘れていました。クロード様も学園に入る前の取り巻き候補?の子供の事など気にも掛けていないでしょうから、話題に上がる事も有りません。皆に忘れさられているのですから、立派なざまぁ。って事なのでしょうね。


 エリザベス姉様は、クロード様が18歳になったので結婚しました。クロード兄様が我が家に婿入りして来ました。エリザベス姉様は当主補として仕事をするかもしれないので、高等科を卒業するつもりだそうです。なので、赤ちゃんが来た時は休学して、家で学び、単位を取得して卒業出来る様に届けを出しました。


 セレナ様は宣言通り、16歳の誕生日に届けを出したそうです。次のお休みの日に盛大に披露宴を開いて下さいました。私はフィリップ様のエスコートで出席してお祝いを述べました。マルゴット様はデビッド様の隣りで家族席に着いてます。幸せな空気が二倍詰まっている様に見えますね。


 私も来年、フィリップ様が18歳になったら結婚します。既にお部屋を頂いています。荷物も少しずつ運んでいて、時々、お義母様に呼ばれてお泊まりしています。フィリップ様には弟さんしか居ないので、娘が欲しかったお義母様にはとても可愛いがられています。


 3歳の時、主神様に『精一杯今回の生を生き抜く。』と約束した様に、誠実に、真摯に生きています。多少の辛い事など、前回を思えば大した事ではありません。優しい人達に囲まれて一歩ずつ幸せを重ねていく毎日です。そして、ありがとうの気持ちを忘れずに生きて行こう。と再認しました。

 文官を目指すお淑やかな女の子に事件やアクションは不要と思うのですが、如何でしょうか? 話しを膨らませたかったのですが、まとまらなくなり、削ったので、唐突に終わってしまってごめんなさいです。

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