【エピローグ】 英雄になる
破壊の神デスは跡形もなく消滅した。
そこには始めから何もなかったかのように、ただ荒野が広がっている。
「「「「うおおおおおおおおおおぉっ!」」」」
どこからともなく勝ちどきが上がる。
みんな勝利を喜んでいるようだ。
アーシェとティアがこちらへ走ってくるのが見えた。
どうやらアーシェはティアに癒やしてもらったようだ。
俺はほっと安心した。
「シスンー!」
「主様よ!」
俺はその声を耳にしながら、地面に身を任せた。
もう立っているのも限界だ。
俺は満足げに目を閉じた。
これが世界最強の【剣聖】、英雄が誕生した瞬間だったと、その場にいた冒険者が口々に言っていたらしい。
それを聞いたのは戦いが終わって一息ついてからだった。
***
あれから一ヶ月と少し経ち、王都は慌ただしかった。
魔族との戦争が回避されたとはいえ、世界を滅ぼしかねない破壊の神との戦いになったのだから。
その破壊の神を倒したのはひとりの【剣聖】だという話は各国で広まりつつあるそうだ。
各国のSランク冒険者がその証人なので、その信憑性は高いという話になっているらしい。
シヴァール王国ではウェイン王子がその戦いに参加し、名誉の戦死を遂げたことになっていた。
【勇者】の早すぎる死に、民は悲しみに暮れ涙したという。
そしてその仇を討つべく【剣聖】が立ち上がり、見事破壊の神を滅ぼしたと話に尾ヒレがついているようだ。
生き残った【拳聖】は多くは語らなかったようだ。
諸々の事後処理にグレンデルさんは追われているらしい。
辺境での戦いのあと一度イゴーリ村へ帰り、爺ちゃん達に報告をしてこの王都に帰ってきた俺達は、冒険者ギルドで近況を教えられた。
その時には辺境に出兵していた軍や冒険者も帰って来ていたので、俺の噂は結構広まっていた。
冒険者ギルドは大騒ぎだった。
「みんなシスンの噂で持ちきりね。何だか私も嬉しいわ」
「俺だけの力じゃないさ。アーシェやティア、エステルがいてくれたから倒せたんだ」
「でも私の声でシスンは立ち上がったのよねー」
アーシェが勝ち誇ったようにティアに視線を送る。
「あの状況でお主の声だけが届いたとは思えん。妾の方が近くにおったんじゃから、きっと妾の声が届いたんじゃろうな」
「違うわよ、間違いなく私の声よ」
「妾じゃというのに」
「お二人とも喧嘩は……」
エステルがオロオロして戸惑っていた。
「でもさ、本当にみんなの力があってこそだよ。俺は本当に【剣の試練】というパーティーを結成してよかったと思っているよ」
「謙遜するでない、主様よ。これで名実ともに主様が世界最強だと証明されたのぅ」
「やっぱりシスンは凄いです。しばらくはのんびり遺跡調査でもしたいですね」
「そうだな。デスや魔王がいなくても、魔物は街を襲う。俺達冒険者のやることはまだまだ多いぞ」
当面の間、グレンデルさんが多忙を極めるということで、俺達のパーティーの担当は、彼から副ギルド長に変わった。
その副ギルド長から三通の手紙を渡された。
二通はネスタの街から、もう一通は聞いたことのない街からだ。
ネスタの街から届いた手紙の差出人は、スコット達【希望の光】とミディールさん達【蒼天の竜】からだった。
労いの言葉と落ち着いたらネスタの街に遊びにこないかという誘いだった。
彼らは魔族との戦いに志願したらしいのだが、冒険者ギルドから戦力外だと却下されていたようだ。
「ネスタの街にも一度顔を出しましょ。スコット達にシスンがデスを倒した話を直接語りたいもの」
アーシェが俺の隣で手紙を一緒に見ながら言う。
「もう一通の手紙は誰からじゃ?」
「ああ、もう一通は……」
俺は封を破って便箋を取り出した。
旅芸人のメルティからだった。
エアの街で別れてから、メルティとその家族はまた別の街へと移動したようだ。
俺達が王都の冒険者ギルド所属になったことは知らないはずだったが、辺境での戦いの噂で俺の名が出た為、冒険者ギルドに問い合わせたようだ。
メルティを知らないティアとエステルにかいつまんで説明する。
「あ、今度王都に興行で来るって書いてあるわ」
「うん。新しい出し物があるって書いてあるな」
近々、王都にやって来るらしいので再会を楽しみにしていると書いてあった。
その時はティアとエステルも一緒に、今度は四人で見よう。
やっとだ……。
俺は誰もが認める英雄になれた。
ここまで長かったのか短かったのか、俺にもよくわからない。
その始まりが爺ちゃんに初めて剣術を教わった時からなら、長かったのかもしれない。
例えばそれがBランクパーティーだった【光輝ある剣】を追放された時点を始まりとすれば、短かったのかもしれない。
いや、むしろここから始まりのような気がする。
俺は爺ちゃんに教わった剣で破壊神デスを滅ぼし、世界を未曾有の危機から救った。
だけど世界にはまだ、俺の知らない地下迷宮や古代魔法文明の遺跡があるはずだ。
手強い魔物もいるかもしれない。
それに魔族の住む辺境では、四天王が死んだ今、以前の領主が街を治めているようだ。
彼らに人間と敵対する意思はないようだが、国同士が交流を持つにはまだまだ時間がかかるだろう。
いずれ共存できるようになればいいと思う。
かつて敵対していたエルフやドワーフが今共存できているのだから、不可能ではないはずだ。
その橋渡しができればいいなと、少なからず思う。
だから……もっともっと世界を見て回りたい。
俺のかけがえのない仲間達と。
「さてと、そろそろ次の依頼に出発するか」
「今日のは確か冒険者ギルド直通依頼だったわね」
「ええ、そうです。ルイサの大滝の裏側に地下迷宮が出現したようです。あの辺りは古代魔法文明時代のリオネス王国があった場所に近いと言われていますね」
「そうなのか?」
俺はティアに視線を向ける。
「そうじゃ、そうじゃ。思いだした。あの辺りにはリオネス王国の……妾の別荘があったのじゃ」
「面白そうじゃない。あなたの私物が出てきたりして、ね」
「おお! そうであれば嬉しいのぅ!」
「あの……冒険者ギルド直通の依頼なので、見つかった宝やアイテムは全て、残念ながらシヴァール王国か冒険者ギルドの所有になってしまいます」
「そ、そんな~! 嫌じゃ、嫌じゃ! 妾のものは妾のものじゃ!」
「仕方ないでしょ。冒険者ギルドの規則なんだから」
いつもの光景。
俺はそんな彼女達を微笑ましく眺めながら、
「黙ってればバレない。さあ、出発だ」
荷物を背負って足を前に踏み出した。
「えっ!? シスン、それは規則違反ですよ! 英雄と呼ばれる人がそんな……!」
「リーダーのシスンが言うなら、仕方ないわね。行くわよ、エステル」
「うむ。主様は話がわかっておる」
「ちょっ、アーシェさんにティアカパンさんまで!?」
王都アルングリームの西門をくぐった俺の後ろを、アーシェとティアが競うように追いかけてくる。
そこから遅れてエステルが慌てるように小走りでやって来る音が聞こえた。
英雄と呼ばれるようになった俺達が、いずれ語り継いでいかれるような冒険をたくさんしよう。
俺達は今、新しい一歩を踏み出した。
世界最強の剣聖 ~追放された俺は、幼馴染みと共に英雄になる~
――完――
読者の皆さま、ありがとうございます!
これにてこの物語は完結です!
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