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世界最強 前編

「大きいな」

「ドラゴンなんてもんじゃないわ」


 アーシェの言うとおりだ。

 その体高や横幅はドラゴンを十匹並べたくらいあった。

 あれで完全体じゃないってんだから頭が痛い。


「こっちも打って出るようじゃのぅ」


 ティアの言葉に振り返ると、各国の軍勢は戸惑っているが何組かの冒険者のパーティーは前進を開始していた。


「あやつらアレを見て本気で戦う気かの? 自ら命を捨てるようなものじゃぞ」

「ティアカパンさん、さっきから怖いことばかり言わないでください」


 俺は精神世界での出来事を三人には話してある。

 特にティアにとっては受け入れがたい事実であっただろうが、「そうか」とだけつぶやいて俺の説明を黙って聞いていた。


 俺は右手に握っている封印剣シスンを見た。

 何代か前の【剣聖(ソードマスター)】が使っていた剣だ。

 剣の神の力も僅かだが付与されているらしい。

 時を経て魔王の手に渡ったが、この剣があったからこそ破壊の神デスへの奇襲が成功したのだそうだ。

 でなければ本来の力を発揮する前とはいえ、不意打ちだったとはいえ、破壊の神デスに深刻なダメージは与えられないのだという。


 俺達は破壊の神デスに向かって歩みを進める。

 破壊の神デスは荒野を飲み込むように前進している。

 まるで行く手を阻む者は容赦しないと言わんばかりに、大きな岩や朽ちた木を踏み潰す。

 いや、触手に触れた瞬間に粉々に散っていくようにも見えた。


「主様よ。妾はここで準備する」


 ティアが足を止めた。


古代魔法(ハイエンシェント)か?」

「うむ。妾を最強と言わしめた最大の魔法を放つ。しかし、それにはちと準備が必要なのじゃ」


 ティアが言うのだから、きっと途轍もない威力の魔法なのだろう。

 あの破壊の神デスにどこまで通じるかわからないが、試す価値はある。


「わかった。頼んだぞ」

「うむ、頼まれた。主様よ、素直に聞いてくれると思わんが、倒せないと思ったら逃げてくれるか」


 剣の神も言っていたが、俺が逃げたらもうあれを倒せる者はいない。

 ティアもわかっているはずだ。

 アーシェと同じように、俺が世界最強だと信じてくれているのだから。

 その俺が勝てなかったら世界が終わると。


「ティア。俺は勝つ。だから、その魔法で俺に力を貸してくれ」


 俺はティアに背を向けて前に踏み出した。

 後ろからはティアが呪文の詠唱を開始したのが聞こえてくる。

 俺はその声援を感じながら、一歩一歩前に進んで行く。


「エステルはここまでだ。これ以上進むと巻き添えを食らうかもしれない」

「あ、あたしもシスンと行きます!」


 エステルの声は震えていた。

 彼女のレベルなら破壊の神デスに対峙しただけでも失神しかねない。

 怖いはずだ。

 逃げ出したいはずだ。

 なのにここまで気を張ってくれている……。


「あたしは戦力にならないかもしれないですけれど、シスンの盾くらいには役に立てます!」

「エステル……あなたもシスンを死なせたくないのね。でもそれは私やティアも同じよ」

「エステルにはちゃんと役割がある。戦いが始まったらここで状況を確認して欲しい。ここからなら、後方のバジルさんにもすぐ伝達できる。俺はエステルの知識や観察力を誰よりも信頼しているからな」


 俺が言い聞かせるようにエステルの肩を叩くと、彼女は俺の目を見たまま頷いた。

 エステルをその場に残し、俺はアーシェと二人で歩き出した。

 俺のすぐ隣にアーシェが並ぶ。


「アーシェ、怖いか?」

「……私が? まさか。私は世界最強のシスンの隣を歩くと決めた時から、何も怖くないわ」


 あのアーシェでさえ、若干声は震えている。

 それほどの敵なのだ。


「ねぇ、シスン。策はあるの?」

「……これといってはないな。俺の持てる力全てを出し切る。それしかない」

「もぅ……シスンらしいわね。私はどうすればいいかしら?」

「いつもどおりで頼む」

「わかったわ……いつもどおりね」


 剣の神が目星をつけた戦士達。

 ティアのように永い眠りについていた者達は、世界各地で目覚めているという。

 剣の神が最後の力を振り絞り、目覚めさせたのだ。

 その者達が今どこで何をしているかはわからない。

 この場に駆けつけた冒険者の中にいるかもしれない。


 その数は百人にも及ぶらしい。

 ひとりひとりの名前は覚えてはいないが、ティア以外に俺の知った名もあった。

 アーシェだ。


 この時代に生まれた者の中で、剣の神が目をつけたのは俺とアーシェだったという。

 もっとも、剣の神の当初の考えでは、アーシェを【拳聖(フィストマスター)】に、俺を【勇者(ブレイブ)】になるように画策していたらしい。


 つまり、俺もアーシェも剣の神が望んだとおりにはいかなかったようだ。

 剣の神は未完成だと言っていた。

 確かに俺とアーシェは未完成かもしれないけれど……。

 アーシェとなら、そしてティアやエステルと一緒なら、俺達【剣の試練(トライアル)】は必ず成し遂げることができると思う。


「主様! あやつらが邪魔だ!」


 詠唱が完成したらしいティアが声を張り上げた。

 ティアが邪魔だと言ったのは、破壊の神デスと戦っているウェイン王子達だ。

 このままでは魔法の巻き添えを食らうだろう。


「わかった。俺が何とかする。行くぞ、アーシェ!」

「ええ!」


 俺とアーシェが駆け出した。

 ウェイン王子達の後方から魔法を放っていたマリーさんとすれ違う。

 視線が交錯する。


「シスンさん!?」

「マリーさん、今から特大の攻撃魔法を浴びせます! 射程範囲に入らないように気をつけてください!」


 俺はそのままウェイン王子の元へ走る。

 その両脇にはアルスさんとカルスさんがいる。

 その隣には鍛えられた肉体で蹴りを繰り出す青年がいた。

 あれが【拳聖(フィストマスター)】か。


「ウェイン王子! 離れてください! 魔法を撃ち込みます!」


 俺の声にアルスさんが振り返った。


「【剣聖(ソードマスター)】か! いいところに来た! お前もスキルで攻撃しろ!」

「その前に魔法を撃ちます!」


 苛立ったようにカルスさんも振り返る。


「いいから先にスキルを放て! 今王子が攻撃を叩き込んでいる! それに合わせるんだ!」


 それを聞いてアーシェが舌打ちする。


「言うことを聞いてくれそうにないわね。どうするの?」

「仕方ない。俺も参戦する!」


 俺は足に力を溜めると、四つ目の鍵まで一気に開けた。

 そして、地面を蹴った。


「ティア! 少しだけ待ってくれ!」


 俺はティアの返事を聞かずに、全力で駆ける。


「行きます! はあああああああああああああっ!」


 《乱れ斬り》で目の前の触手に斬りかかる。

 しかし、この斬撃では斬り落とすのは無理だと即座に判断する。

 想像以上に堅いっ!

 ウェイン王子や【拳聖(フィストマスター)】もスキルで攻撃しているのだろうが、触手を断つまでは至っていなかった。


 ならば、これしかないだろう。

 俺は剣を大きく振り上げると、


「これで! どうだああああああぁあああぁあああぁっ!」


 【剣聖(ソードマスター)】最大のスキル、《星河剣聖(せいがけんせい)》を放った。

 確かな手応えとともに目の前の触手を斬った。


「くっ……! これが【剣聖(ソードマスター)】のスキルか!?」


 ウェイン王子が驚きと悔しさがない交ぜになったような表情で言った。


「ウェイン王子! 後方から特大の魔法を撃ち込みます! 今すぐ離れてください!」

「お前のスキルで触手を一本仕留めたのだぞ! この好機を活かさなくてどうするのだ! アルス、カルス! お前達も攻撃を加えるんだ! 今がその時だ!」


 ウェイン王子が今が好機だと思っている。

 確かに今まで苦戦した触手を俺が《星河剣聖》で斬った。

 だからと言って、畳みかけるにはまだ早い。


「ウェイン王子! こいつには再生能力があります! 深追いは危険です! 一旦下がって……!」

「そんなことは我々も承知だ! 触手を斬れるのがお前だけだと思わぬことだ! 既に王子が二本斬り落とされたが、再生したのを確認している!」


 ウェイン王子は触手を斬っていたのか。

 そうか、四天王のペイペイマンとバランを倒したというだけはあるな。

 だが、こいつは桁が違う。


 その時、鞭のようにしなった触手がウェイン王子達を打ちつけた。

 ウェイン王子達は飛ばされて地面に叩きつけられた。

 俺はそれが十分射程外だろうと判断し、後方で魔法待機中のティアに向けてありったけの声で叫んだ。


「ティア! 今だっ! ぶっ放せぇぇぇぇっ!」


 それを待っていたかのように、ティアの銀髪がふわっとなびいた。

 今ティアの体中に溢れんばかりの魔力が凝縮されているのがわかる。

 両手を前に突き出したティアは、その魔力を放出した。


 俺のすぐ横を膨大な魔力の渦が通り過ぎた。

 これが……古代魔法(ハイエンシェント)

 ティアの持つ最大の魔法か!

 そのあまりの風圧に俺は思わず片目を瞑る。


 ドン、という重厚な響きの方に目を向けると、破壊の神デスの触手に繋がる胴体に大きな風穴が空いている。


「これは! はっ、やるではないか! 今だ! トドメを刺すぞ!」


 ウェイン王子が勝利を確信して、剣を振り上げて斬りかかった。


「駄目です! ウェイン王子、下がってください!」


 俺の声に耳を貸そうともしないウェイン王子は、再生を開始した箇所にスキルを放つ。


「俺が倒す! 俺がっ……!」

「王子お止めください!」


 ティア最大の魔法でも再生能力の前では、こうなってしまうか……!

 ウェイン王子の攻撃よりも再生の速度が上回っていることに気づいたアルスさんとカルスさんが、必死に止めようとする。


「ええい! 離せ、アルス!」


 しかしウェイン王子を止めるのは二人の実力的に無理があった。

 二人を剥がして投げ飛ばすと、ウェイン王子は再び剣を振り上げた。


「【剣聖(ソードマスター)】ぁぁぁっ! 頼むから王子を止めてくれ!」


 アルスの叫びも虚しく、ウェイン王子はデスに触れた瞬間体の内部から魔法を受けたかのように爆散した。


「王子ぃぃぃぃぃっ!」


 膝をついてそれを見るアルスとカルスの前に、ウェイン王子だった肉片が落ちる。


「アルス、先に行く!」

「くっ……俺も行くぞ!」


 カルスが立ち上がり剣を振り上げながらデスに向かっていった。

 アルスもそれに続いた。

 ウェイン王子のあとを追うように双子は呆気なく死んだ。


 それを呆然と見ていた【拳聖(フィストマスター)】が触手に巻き付かれている。


「今、助ける!」


 俺はその触手に《星河剣聖》を放った。

 触手から開放された【拳聖(フィストマスター)】を、俺は離れた距離まで蹴り飛ばした。


 ウェイン王子の死を目の当たりにした【拳聖(フィストマスター)】は、完全に戦意を喪失していた。

 あれじゃあ、もう戦えない。

 俺はエステルに視線を送ると、彼女は理解したようで【拳聖(フィストマスター)】を後方へ避難させるべく動き出した。


「シスン! あの再生能力がある限り、同じことの繰り返しです! だったらその再生能力を持っている触手を先に倒してしまえば!」


 エステルが教えてくれるが、どれがどの触手かなんて見当がつかないぞ……。


「うっ……!」


 俺の膝ががくんと力をなくしたように地面についた。


「シスン!」


 アーシェが駆け寄って支えてくれる。


「シスン、大丈夫なの!?」

「《星河剣聖》を連続使用した反動だ……大丈夫。立てるよ」


 既に《星河剣聖》を二度使ってしまっている。

 俺の体力がごそっと持って行かれた感覚だ。

 この疲れやダルさはティアの《エクスヒール》でも治らない。


 その時、続々と冒険者パーティーが参戦してきた。


「……え? これは……?」

「後ろにいた冒険者達が追いついてきたようですね。彼らは魔族との戦いに備えて選ばれたSランクの冒険者です。中には志願して参加したAランクの冒険者もいますが」


 いつの間にかマリーさんが俺の傍まで来ていた。


「主様、すぐに癒やすぞ」

「待ってくれティア。あの魔法あと何発撃てるんだ?」

「残った魔力を考えればあと一回が限度じゃな。しかも、他の魔法を使う魔力はなくなる」


 ティアの魔法は効いている。

 温存しておいた方がいいだろう。


「あとで頼むかもしれない。他の魔法は使わなくていいから、それまで機を窺ってくれ」

「しかし主様の体力が……!」

「俺のは《ヒール》で治らない……え?」


 俺は視界に捉えたものに気をとられた。

 参戦した冒険者の中に見知った顔があったからだ。

 オイゲン、エマ、ソフィアの三人だ。

 マリーさんは志願したAランクの冒険者も参加していると言っていたが、彼らの実力では自ら死を選ぶようなものだ。

 どうしてここに……!


 【光輝ある剣(グリッターソード)】のリーダーであるベルナルドの姿はない。

 ベルナルドは前に王都で見かけたが、別行動でもしているのだろうか。

 しかし、俺はすぐに異変に気づいた。

 先頭を歩いているオイゲンの口調がおかしかったのだ。


「おお、あれこそ私の半身です! さあ、今こそひとつに! あなた達も来なさい!」

「はい」

「はい……です」


 オイゲンがエマとソフィアを伴って、触手をうねらせている破壊の神デスに向かって歩いて行った。


「おい、オイゲン! それに近づくな! そいつはもう思考しているかどうかさえわからないんだぞ!」


 俺が叫ぶが、オイゲン達は歩みを止めない。

 追いかけようとするが、足が痺れていて歩くので精一杯だ。

 間に合わない!


 そして三人は触手に触れると、ウェイン王子のように飛び散った。

 その瞬間、破壊の神デスは失っていた触手を瞬時に再生し、一回り大きくなった。


「な、何だ!?」

「また大きくなったわ! 一体何なの!?」

「ここにいては巻き込まれます! 一旦下がりましょう!」


 俺達は大きく距離をとった。

 走れない俺はアーシェに肩を貸してもらう。

 ティアが浮遊の魔法を使おうとしたが、俺が止めさせた。

 破壊の神デスはさっきまでは四本の触手しかなかった。

 だが、今やその触手は八本になっている。

 何が起こったんだ……!


 俺の脳裏を直前のオイゲンの口調が掠めた。


『おお、あれこそ私の半身です! さあ、今こそひとつに! あなた達も来なさい!』


 聞き覚えのある口調……。

 それに破壊の神デスを半身と呼んだ……。

 まさか……そうなのか……!?


 俺は結論に達した。

 そうか、俺がエアの街で仕留め損ねたアンドレイはオイゲンを宿主にしていたのか……!


 破壊の神デスは完全体になってしまったのだ。

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