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合流そして……

 肩で息をしながら、俺はただひたすらに荒野を走った。

 後ろを振り返る余裕すらない。

 これほど疲れたのは爺ちゃんの修行以来だろう。

 しばらく走ると、追いかける魔族の声は聞こえなくなっていた。

 もう諦めてくれたのだろうか。


「休憩したいが、万が一に備えてもう少し距離を稼がないと。それにアーシェ達は無事に街を出られたのだろうか……」


 俺は疲労感に苛まれながら足を踏み出すが、体勢を崩して倒れてしまう。

 頭がぼーっとする……。

 …………。



 ***



 目を開くと、すぐ目の前にアーシェの顔があった。


「あ! よかった、気がついたわ!」


 俺は意識を失っていたのか……。

 アーシェに膝枕されていた。

 すぐに起き上がろうとするが、体のダルさはまだ残っていた。


「アーシェ……」

「無理しちゃ駄目よ。ティアに治癒してもらったけれど、まだ疲れが残っているみたいなんだから」


 俺はアーシェの厚意に甘えることにし、頭を柔らかい膝の上に再び落ち着けた。

 首を動かして横を見やるとエステルが野営の準備をしてくれている。

 俺に気づくと駆け寄って来た。


「シスン! 大丈夫ですか!」

「ああ……」

「よかったぁ……」


 エステルはその場に腰を落として、ふぅと息を吐いた。

 みんなに心配をかけたみたいだな。


「ティアは……?」

「付近の魔物(モンスター)を片付けに行ってるわ」

「ここにいた魔物(モンスター)はティアカパンさんが一掃してくれたんですよ」

「そうか……」


 夜になると、俺の体はすっかり回復して元通りになった。

 ティアも戻って来ている。


「主様がそこまで疲弊するとは、追ってきた魔族はそれほどの数じゃったか」


 ティアは俺が追手の魔族相手に戦ったせいで、疲れたと思っているんだろう。

 俺はおそらく《星河剣聖(せいがけんせい)》の連続使用による疲労だろうと伝えた。


 アーシェ達は俺がビョルゲルンを斬って、観客席にいた魔族達が騒ぎ出した混乱に乗じて上手く街を出たようだった。

 向かったのは俺が出た門とは別の門だったらしいが、エステルが謎解きして門を開けたらしい。

 やはりエステルにしたら簡単な謎解きだったか。


 これで四天王を二人倒した。

 残るは魔王と四天王が二人だが、距離的に魔王が封印されている場所の方が近い。

 明日の朝にはそこに向かうことにしよう。

 幸い魔族の追手の姿は見えない。

 もう諦めたのだろうか。


「魔王や四天王のこともあるが、実は気になっていることがあるんだ」

「どうしたの?」


 俺はアルダンとシリウスの関係について話した。

 彼らは元は一人の魔族だった。

 五十年前に魔王と戦い、その結果八つの触手に分かれた。

 俺はそこから更に考えていた。

 もしかしてアンドレイもその内の一人ではなかったのかと……。

 アンドレイとシリウスは仲間だったことから予想したのだ。


 しかし、そうなると触手の数が合わない。

 俺はアンドレイとの戦いを思い返す。

 ヤツの口から飛び出した触手は斬り落とした。

 その後、動かなかったのであれは死んだのだろうと思う。

 腕から伸びた二本触手は、俺が握りつぶした。

 俺はアンドレイ戦で三つの触手を殺した。


 だけど、アルダンは何と言っていた?

 

『二本目と三本目と四本目は、五本目と行動を共にしていたようなんだけど、先日同時に死んでしまったようだね。その理由まではわからないけれど、戦って死んだのなら相手は相当な手練れだろうね』


 二本目、三本目、四本目はアンドレイだと思う。

 これが、五本目と行動を共にしていたのなら、それがシリウスってことになるが……。

 シリウスは六本目の再生能力持ちがそれのはず……。

 アンドレイと行動を共にしていた五本目……魅了能力持ちを俺は見ていない。

 それとも、俺が気づかない内に五本目の存在を見逃していたのか?


 一本目の触手 強さ1 ポム オーク面の門番

 二本目の触手 強さ2 アンドレイ? 死亡

 三本目の触手 強さ4 アンドレイ? 死亡

 四本目の触手 強さ8 アンドレイ? 死亡

 五本目の触手 強さ16 ? 魅了能力持ち

 六本目の触手 強さ32 シリウス 再生能力持ち

 七本目の触手 強さ64 アルダン 抵抗派のリーダー

 八本目の触手 強さ128 デス


 俺はまとまりのない仮説をアーシェ達に話す。

 ティアやエステルはその時点でパーティーにいなかったので、特に口を挟んでくることはなかった。


「それならアルダンは信用ならないわね。だって、アンドレイと同一人物ってことでしょ?」


 アーシェはアンドレイやシリウスと元々は一人の魔族だったアルダンに不信感を募らせている。

 ただアルダンは五十年の間に人格が生まれて、それぞれに個性が出たとも言っていたな。

 アンドレイやシリウスが悪だから、アルダンも悪と決めつけていいのかどうか。

 アルダンがいなければ、エドマンドのところに辿り着けなかったわけだし……。


「そもそも、どうしてアルダンは五十年前に魔王と戦ったんだろう」

「そんなにおかしいでしょうか? 人間も国同士で争うこともありますし、この辺境の街を見ましたが人間の街と変わりません。住んでいるのが魔族か人間かの違いだけです」

「……そうかも知れないが、何か引っかかるんだ」


 アーシェがアルダンを警戒した方がいいと言い、その夜は眠ることにした。




 翌朝、俺達は魔王が封印されているという北東に向けて出発した。

 アルダンの話では三日ほどの距離だという。

 そのとおり、丁度三日目の昼に祠らしき場所に辿り着いた。


「待っていたよ、シスン」

「アルダン……! 先に来ていたのか」


 そこにいたのはアルダンと抵抗派の魔族とおぼしき五十人ほどの魔族だった。


「ペイペイマンは討てたのか?」

「すまない。僕達が北の街に着いた時には、ヤツはいなかったんだ」

「どういうことだ?」

「街に残った魔族に聞いたら、その二日前に何人かの部下を引き連れて街を発ったらしいんだ。その目的はわからないんだけれど。僕は中立派の魔族を千人、ペイペイマンの捜索と東の街バランに向かわせた」


 ペイペイマンが部下を連れて……?


「まさか、お父さんのところに向かったんじゃ!?」

「そうか! アルダン、確かペイペイマンはバジルさんを味方に引き入れようとしているって言っていたな?」

「うん。……なるほど、そうかも知れないね」

「大変よ、シスン! お父さんが危ないわ!」

「でも、仮にそうだとしても、今からじゃ間に合わないよ。そこはバジルに任せるしかないんじゃないかな。バジルが噂どおりの強さなら、そう易々とペイペイマンに屈することはないはずだよ」


 アーシェがアルダンを睨みつける。

 バジルさんが心配だ。

 しかし、アルダンの言うように今からペイペイマンに追いつくのは難しいだろう。


「どうするんだい、シスン? このまま魔王を討ちに行くのか、それともバジルを助けに向かうのか」

「アルダンはどうする?」

「僕達はシスンに同行するよ」

「理由は?」

「僕達だけじゃ魔王に勝てないからさ。正直、エドマンドを倒したシスンの力をあてにしているからね」


 嘘をついているようには見えないが、アーシェは疑いの眼差しを向けている。


「魔王が復活するまでどのくらいの猶予があるかわかるか?」

「いやあ、そこまではわからないね。一ヶ月後かも知れないし……三日後かも知れない」


 ……どうすればいい?

 俺が頭を悩ませていると、ドゴーンと突然祠が爆散した。


「何だ!?」


 俺達は祠のあった方に目をやって身構えた。

 辺りには砂煙が立ちこめていた。

 中立派の魔族は萎縮したように震え上がっていた。

 何かいる……のか?


「シスン。復活はたった今……だったようだね」


 アルダンが目を見開いて言った。

 その声は若干震えているように感じた。


「みんな、注意しろ! 魔王だ!」


 俺はアーシェ達に檄を飛ばす。

 しかし、反応は薄かった。

 振り返ると、エステルは腰が抜けたようにその場にぺたんと尻をつけ、ティアも固まったまま動かない。

 そして、アーシェでさえ口を開いたまま動けずにいた。


 その場にいた俺以外の全員が、魔王が復活したその圧に飲まれていた。


 砂煙が収まり、そこには一人の男が立っていた。

 人間のような彫りの深い顔立ちに、角が一本生えている。

 その体には漆黒の鎧を纏い、左手には鞘に収められたままの剣を握っている。

 まるで人間の冒険者のようだ。


「余の復活にしては、あまり歓迎されていないようだな」


 魔王は低い声で言った。


「これが、魔王なのか?」


 俺はアルダンに尋ねた。

 しかし、アルダンは頷くに留まった。


「何だ貴様は……人間か?」


 魔王は俺の方を見て、訝しむように言った。

 その瞬間、魔王は俺に右手を向けると魔法を放った。


「《ファイアストーム》」

「はああっ!」


 魔王が無詠唱で使ったのは《ファイアストーム》だった。

 俺は反射的に同じ魔法で相殺する。

 それを見た魔王は眉をピクリと動かすと、右手で鞘から剣を抜き放った。


「冒険者か! あの忌々しい冒険者どもを思いださせるっ! 死ぬがいい!」


 直後、魔王が俺の眼前まで迫っていた。

 早いっ!


 俺は《剣閃結界(けんせんけっかい)》で防いだ。

 剣を弾かれた魔王が、後ろに跳んだように見えた。

 だが、衝撃は背後から襲った。


「ぐっ……!」


 俺と背中を合わせていたのはアーシェだった。

 アーシェの背中がぶつかった衝撃だったようだ。


「アーシェ!?」


 アーシェの腹に魔王の蹴りが食い込んでいた。

 いつの間に背後に回った……!?

 苦悶の表情を浮かべるアーシェは、その場に膝をついた。


「男を庇ったか。中々いい反応だ。見えていたのか?」


 魔王をは裏拳でアーシェを吹っ飛ばした。

 アーシェは近くの岩に激突した。


「アーシェェェェェッ!」


 俺は叫ぶが、魔王は既に攻撃の動作に入っていた。

 その右腕に俺の横から伸びた触手が巻き付いて制止する。


「させないよ!」


 その隙に俺はアーシェの元へと走った。

 アーシェはまだ立ち上がらない。

 それは魔王の尋常じゃない力を示していた。

 アーシェほどの冒険者が手も足も出ない!?

 実際、俺も魔王の動きが読めなかった。


「アーシェ大丈夫か! アーシェ!」


 俺はアーシェを抱き起こした。


「シスン……。私は……だいじょ……うぶ」

「ティアーッ!」


 ティアは浮遊魔法でエステルと一緒にこちらに向かっていた。


「妾が治癒する! 主様、あいつはとんでもなく危険じゃぞ!」


 ティアがアーシェに《エクスヒール》をかけながら、俺に言う。

 これが……魔王か!

 五十年前に爺ちゃんが戦って封印したらしいが……なるほど若い時の爺ちゃん以上の強さか……。


 その視線の先では、アルダンと魔王が対峙している。


「まだ生きていたのか?」

「生憎しぶといタチでね」

「しかし、以前ほどの力を持たない貴様が、余に勝てると思うか?」

「僕だけじゃないさ」

「あの人間の冒険者か? 期待するな、あれでは余に勝てん」

「なっ……! あああああああああああああっ!」


 言って魔王はアルダンの触手を握りつぶした。

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