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地下牢での邂逅

 これは想定外だった。

 まさか、男と女で収容される地下牢が別の場所だったなんて。


「アーシェ達は大丈夫かな」


 オーク面に地下牢へと連れて来られた俺達は、そこでまて別の魔族に引き渡された。

 そして、地下へと進んで行くと道が二つに分かれていて、そこで男と女に分けられたのだ。

 新たな魔族に引き渡され俺は左の道に、アーシェ達は別の魔族によって右の道に連れて行かれた。


「それにしても、結構な数が捕えられているんだな」


 俺が入れられた地下牢には多くの魔族が収容されていた。

 おそらく、門番の会話から彼らは抵抗派の魔族なのだろうと判断できた。

 俺が中に入れられた時は彼らの視線が突き刺さったが、すぐに興味をなくしたように以降は注目を浴びることはなかった。


 地下牢の中は魔法の明かりが照らされていて、思ったほど暗くはない。

 鉄格子から近いじめじめと湿った床に、俺は所在なげに腰を下ろした。

 鉄格子の外には見張りはいない。

 少し離れたところに階段があり、そこを上った先に扉が見える。

 入る時はそこに見張りの魔族が五人いたのを確認している。


 結局、二本角は仲間だったのかどうかわからない。

 とりあえず、この状況から先に進まなければいけない。



 ***



 進展がないまま、三日が過ぎた。

 この地下牢には百人ほどの魔族がいる。

 その見た目は魔物(モンスター)に近い容姿の者から、人間の顔に角が生えた者まで様々だ。

 バジルさんそっくりのミノタウロスみたいなのもいた。

 実際に会話して声を聞かなければ、見分けがつきにくい。

 ごく少数だが、人間のような顔立ちで角もない魔族もいた。

 その数は一割にも満たなかったが、これで俺達だけがこの辺境で浮くということはなさそうだ。

 それには少し安堵した。


 鉄格子は力ずくで開けることは簡単だ。

 しかし、それを実行すれば街は混乱することは目に見えていた。

 この街にどれほどの魔族がいるかわからないが、その全てを敵に回すのは得策ではない。

 相手を傷つけずに倒すのは困難を極めるだろう。


 他の魔族の話では、ここ以外にもいくつか地下牢があり、多くの魔族が捕えられているそうだ。

 見張りがここにやって来るのは朝と夕方、一日二回の食事を運んでくる時だけだった。


「退屈かい?」


 不意に俺に声をかけてきたのは、見た目はゴブリンのような魔族だった。

 奥の方からのそっと立ち上がって、こちらに歩いて来たと思ったら俺の隣に座った。


「そっちから話しかけてくるなんて珍しいな」


 俺はゴブリン風の魔族に向かって言った。

 ここにいる魔族は俺から話しかけることはあっても、向こうから話してくることは今まで一度もなかった。

 俺が人間だと気づかれたのかと思ったが、そうではないらしい。

 彼らは俺が敵か味方かの判断がついていないのだ。

 しかし、どうして今になってこのゴブリン風の魔族は俺に近づいて来たんだ?


「僕の名前はアルダン。君は?」

「シスンだ」

「……シスン。君は人間だね?」


 アルダンにあっさり見透かされて、俺は警戒した。


「安心して。僕は敵じゃない。ポムが連れて来たということは、ひょっとしてお仲間かな?」

「……何だって?」

「僕は魔王復活に反対している抵抗派のリーダーなんだ」


 こいつ……いきなり素性を語り出したが、本当なのか!?

 ……信用していいのか?

 どういうことなんだ……。


「お前が抵抗派のリーダー? どうしてこんなところに?」

「ふふっ。それは四天王に煙たがれているからだろうね」

「……ポムってのは誰のことだ?」

「この街の門番をしているオークに似た男だよ。彼も抵抗派なんだ」

「え……あいつが……?」


 あのオーク面が抵抗派だって?

 じゃあ、バジルさんの仲間ってそのポムっていうオーク面のことだったのか……?


「ちょっと待て。どうしてそのポムが俺をここに連れて来たってわかるんだ? アルダンはこの地下牢にいたんだろ? おかしいじゃないか」

「ふふっ。僕らは特殊な魔族でね。自分の一部がどこにいるのか、大体わかるんだ」

「一部って……なんだ?」

「こういうことさ」


 アルダンが口を開けると、その中から触手が飛び出してきた。

 俺は思わず身構えるが、攻撃の意思はないと判断して構えを解いた。


「ふふっ。驚かしてごめんよ。この体……魔物(モンスター)のゴブリンはただの宿主で、本体はこれさ」


 触手がうねうねと動いて、俺の手の甲をぺちぺちと叩いた。


「触手の魔族……?」

「そう」


 触手の魔族……。

 俺はアンドレイや、バジルさんから聞いた両親を殺した触手の魔族を思いだした。

 あいつらと同じ系統なのか……?


「僕の体は今は事情があって八つに分かれているんだ。そしてその八つの体はお互いに相手の生死や、大体の居場所を把握できたりするんだ」


 そんな魔族もいるのか……。

 本当に多種多様だな。

 と言うことは、ポムの本体も触手なのか……。


「そうなのか。それでポムがこの地下牢に俺を連れて来たってわかったのか」

「そういうことだよ。ポムが連れて来たってことは、僕達の味方のはずだからね」

「そうなんだな……。てっきり、二本角のやつが仲間だと思ったが……」

「ふふっ。あいつはガチガチの魔王崇拝者だよ。ポムは頭がいいから、残りの二人の話を都合のいいように誘導したんだろうね」


 なるほど。

 そうだったのか。

 ポムの言動からして、真っ先に仲間候補から除外してしまっていたな……。

 そう言えば、武器も取り上げられなかった。

 普通、牢に閉じ込めるなら武器や防具は押収されると思っていたが、俺達は誰も装備を外せとは言われなかった。

 その為、そのままここに入れられたのだ。


「じゃあ、アルダンはバジルさんの仲間なんだな?」

「バジル……? ああ……昔の四天王マグダレーナの息子か。僕は彼に会ったことはないんだ。君はバジルの仲間か?」

「……そうだ」

「警戒しなくていいよ。ポムは抵抗派の別のグループとも接触しているからね。おそらくポムの知っているグループが、バジルの仲間……つまり君の仲間なんだろう」


 バジルさんとアルダンは直接の面識はないのか。

 しかし、同じ抵抗派か。

 まぁバジルさんは中立派というのが正しいかも知れないが。


「でもバジルさんの仲間とポムが知り合いで、そのポムとアルダンが仲間なら……。アルダンはバジルさんの仲間ってことじゃないのか?」

「同じ考えを持っているということでは、そうかも知れないね。ところでシスンは何をしにこの街へ?」

「今の四天王と魔王を討つ為だ。人間との戦争を回避するにはそれしかない」

「……そういうことか。シスンは人間にしては強いね」

「え?」

「周りを見てごらん?」


 アルダンに促されて周りを見ると、魔族達は俺達の様子を遠目に窺っているように見えた。

 しかしどこか刺激しないように、遠慮がちにだ。


「みんな君に怯えている。本能でわかるんだろうね。シスンの強さが。レベルなら100は越えているかな?」

「……ああ」

「戦力としてはそれでは足りないな」

「何の話だ?」

「だから、四天王と魔王を討つんだろ?」

「そういうことか。心配するな仲間が三人向こうの地下牢にいる。内二人は100を越えている」


 もし、アルダンが俺達の実力を過小評価して行動を渋っているのなら、ここは正直に伝えた方がいいだろう。

 案の定、俺のレベルを聞いてアルダンの触手がまるで踊るようにくねくねと動いた。


「いいね。合格だ。僕と手を組まないかい? 僕も戦争なんかしたくない。だから、魔王と四天王を一緒に討とう」


 ここにいても仕方がない。

 俺達が王都を発ってから既に二十日だ。

 各国の軍が辺境に到着するまで、残り二十日ほどか。

 もう半分が過ぎてしまっている。

 アルダンの言葉を信じるなら、こいつは抵抗派のリーダーだ。

 それなら街の情勢や地理にも詳しいだろう。

 ここは協力してみるか。


「わかった。宜しく頼む」


 俺は触手と握手を交した。

 何だか変な感じだ。

 アーシェが見たら卒倒するかも知れない。


「ところで、ここからどうやって出るんだ? 俺が斬ろうか?」

「それは大事になりすぎる。まぁ、見てて」


 アルダンは触手を鉄格子の鍵穴に近づける。

 するとその先端から更に細い触手が伸びて、鍵穴にするりと入った。

 カチャ、という音とともに鉄格子の扉が解錠された。


「凄いな。何でもっと早く出なかったんだ?」

「決まっているだろ。僕だけじゃエドマンドを倒せないからだよ」


 アルダンの実力はハッキリとはわからないが、抵抗派のリーダーだというからには腕は立つのだろう。

 四天王のエドマンドというやつは余程強いのだろうか。

 俺という協力者……戦力を得たことで行動の決意が固まったか?


「他の魔族はどうするんだ?」

「今の段階ではここにいた方が安全だと思う。僕達がエドマンドを倒してこの街を制圧したあとに解放しよう」

「わかった。あの扉の先にいる見張りはどうする? 倒したら俺達が地下牢から抜け出したことが露見するぞ?」

「気絶させて牢に放り込んでおけばいい。次の食事の時間まで時間は稼げるだろう」

「なるほど」


 さっき夕食が済んだばかりなので、次の食事は明日の朝だ。

 俺達は階段を音を立てずに静かに上った。

 そしてアルダンが解錠して、俺が剣を抜きつつ勢いよく扉を開け放った。


「ぐべっ!」


 扉にもたれていたのだろうか、ひとりの魔族がすっころんだ。

 そいつも含めて五人。

 俺は瞬時にスキルを発動した。

 《残影剣(ざんえいけん)》が作り出した幻の剣撃に惑わされる見張り達。

 その隙に、俺は素早く彼らを昏倒させた。


「流石だね。レベル100越えは嘘じゃないみたいだね」

「おい、信じてなかったのか?」

「強そうだなと思ったけど、正直100は越えてないと思ったよ。気を悪くしたなら謝るよ」

「いや、別にいいさ。こいつらを牢に入れるんだな?」

「そうだね。他の見張りに気づかれないように済ませよう」


 俺達は気絶している見張りの魔族五人を地下牢に入れて施錠した。

 もちろん階段の先にある扉も施錠してある。

 次に向かうのはアーシェ達が囚われている方の地下牢だ。


「構造は男の方と同じか?」

「多分ね。僕も行ったことがないからよく知らないけれど」


 全く同じ造りだった。

 俺達は見張りを気絶させると、同じ要領で扉を開けて階段を駆け下りた。


「シスン! 助けに来てくれたのね!」

「主様よ、妾は信じておったぞ!」


 アーシェとティアは鉄格子を掴んで歓喜の声を上げた。

 まぁ、この二人なら俺がいなくても脱出くらいは容易かっただろうな。

 アーシェが力ずくで鉄格子をひん曲げたり、それこそティアなら解錠の魔法なんかもあるはずだ。

 エステルだって《解錠》スキルを持っているし……。

 あれ……エステルは?


「エステル! シスンが来てくれたわよ!」

「お主……いつまでもいじけとらんで、さっさと立たんか」

「あぅ……」


 地下牢に放り込まれてエステルは絶望していたらしい。

 アーシェとティアが慰めていたようだ。

 エステルらしいと言えばそうだが、今はここから出るのが先決だ。


「みんな、外に出るぞ!」


 見張りを牢に入れて施錠する。

 これでしばらくは時間を稼げるはずだ。


「主様よ、このゴブリンは何じゃ?」

「シスンったら、まさかゴブリンをテイムしたの!? 凄いじゃない!」

「お二人とも……、このゴブリンおかしくありません?」


 アルダンが口を開けると中から触手出てきて、お辞儀をするように下を向いた。



「「「ぎゃああぁあああぁあああぁっ!」」」



 アーシェ、ティア、エステルは揃って叫んだ。

 地下牢内に叫び声が木霊する。

 エステルに至っては気を失ってしまった。


「ごめんなさい。そんなに驚くとは思っていなくて……」

「な、なななな何なのよ!? シスン、説明して!」

「……妾も心臓が止まると思ったぞ。何じゃ、こいつは?」


 俺はエステルを抱き上げながら、何て説明しようか思案していると、代わりにアルダンが自己紹介をして自らの目的までをかいつまんで語った。


「…………というわけで、僕は皆さんと一緒に行動することになりました」

「そういうことだ。みんな驚かせてすまない」

「そ、そうなのね」

「ううむ。まさかこの街での初めての仲間が触手の魔族とはのぅ。しかし、この触手どこかで見覚えがあるのぅ」

「そうなのか?」

「うむ。だが、思い出せん……」


 ティアが腕を組んで難しい顔をしている。

 おっと、ここで時間を潰している場合じゃない。

 アルダンにエドマンドがいる場所まで案内してもらわないと。


「アルダン、早くここを出よう」

「わかりました。ついてきてください」


 俺達は地下牢から脱出したのだった。

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