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魔族の門番

すみません。

予約投稿漏れていたので今投稿しました!

 バジルさんの言ったとおり、三日目の昼に辺境の街に辿り着いた。


「あれがエドマンドの街か」


 ここから見る感じでは大きな門と、その付近に何人かの人影が見える。

 俺達は岩陰からその様子を窺っていた。


「バジルさんの話では、街の中は魔族しかいないそうだ」

「どうするんですか? それじゃあ、あたし達が近づいたら人間が攻めて来たと勘違いされるんじゃ……」

「堂々としてればよいじゃろう。幸い、妾達人間と近い容姿の者もおるんじゃろ?」

「うん。お婆ちゃんみたいな見た目の魔族もいるはずよ」

「だけど、マグダレーナさんは元々角が生えていたんだろ?」


 角なしの人間型なんているんだろうか。

 俺の頭に以前戦ったシリウスが浮かんだ。

 あいつは兜を被ってたから、角はなかったはずだ。

 だけど顔が見えなかったからな……うーん。


「悩んでいても街に入らんことには先に進めんじゃろう。四天王や魔王の情報も集めねばならんし」

「ティアの言う通りよ。行きましょ」


 この二人は恐れというものを知らないらしい。

 人間だとバレれば、街全体が敵に回る場合もある。

 一応、戦闘になることも想定しておくか。

 だけど、魔族と言っても普通に生活している者を斬るつもりはない。

 戦闘になったら俺が退路を確保して逃げるのが前提だ。


「そう言えば、バジルさんの仲間ってどこにいるんだろ?」


 バジルさんの仲間が街へ入る手助けをしてくれる手筈になっていた。

 エイヴラさんが【魔物使い(テイマー)】のスキルを使って、足の速そうな獣型の魔物(モンスター)に手紙を持たせて連絡してくれるそうだ。

 その魔物(モンスター)は俺達より先に着いていたはずだった。

 問題は仲間の中から誰が来るかわからなく、彼らの見た目がそれぞれ違うので、俺達はどの魔族が仲間か知らない状態だ。


「これを見せればわかるって言われたけれど……。これ役にたつのかしら?」


 アーシェが首飾りを触りながら言った。

 その首飾りには円形で何かの模様が彫ってある。

 バジルさんに渡されたものだ。

 これを見せれば向こうはわかってくれるらしいのだが……。


「とりあえず、行ってみようではないか」

「そうね」

「よし、門に近づいてみよう」


 俺達は素知らぬ顔で街の門に近づいて行った、門の前には三人の魔族がいた。

 三人とも明らかに魔族の容姿だった。

 一人はオークのように豚の頭に体は人間の容姿だ。

 背中からガーゴイルのような黒い翼が生えていた。

 あとの二人は人間の容姿に近いが、額からは角が生えていた。

 それぞれ一本と二本だ。

 それを見て俺達が人間だとバレるんじゃないかと緊張する。


「ふわぁ……」


 横目で見るとティアが口元を押さえて呑気に欠伸をしていた。


「ティア、気を抜くなよ」

「主様よ、不自然な行動を取る方が怪しまれるぞ? エステルを見てみい。ガチガチに緊張してまるで挙動不審じゃ。何とか誤魔化さんと疑ってくれと言っているようなものじゃぞ」


 エステルは背筋を伸ばし顔は前方に固定したまま歩いていた。

 緊張からか息をするのを忘れているようで、口を閉じ頬を膨らませているが、苦しさからか段々青ざめてきた。


「アーシェ、少し速度を落として。エステルがマズい」

「え、うん。わかったわ」


 俺はエステルの隣に移動して、足並みを揃えた。


「エステル。動きが不自然で怪しまれるぞ」

「ん……。んー。んんーん」

「……エステル、一旦深呼吸しようか」

「ぷはっ! な、なんです?」

「いいから、深呼吸だ」

「は、はい。すーっ……はーっ、すーっ……はーっ」


 俺はエステルに深呼吸させて、一旦落ち着かせる。


「エステルの前を俺が歩くから、そのあとについてくればいいよ。無理に魔族の三人と目は合わせなくていいし、俺の後ろに隠れておけばいいから」

「わ、わかりました。ありがとうございます」


 アーシェを先頭に、ティア、俺、エステルと続いて歩く。

 三人の魔族の間を通って門の前まで進む。

 鉄の門は閉ざされたままだ。


「おい、お前達ぃ」


 オーク面の魔族に呼び止められた。


「何かしら?」


 アーシェが振り返って首を傾げた。


「見ない顔だな。怪しいヤツめ。どっから来た」


 もう怪しまれているな。

 こいつらは門番みたいなものか。

 オーク面の魔族は訝しむように鼻をひくつかせながら、アーシェの顔をじろりと睨む。


「私の顔を知らないのかしら? まぁ、いいけれど。早く中に入れて欲しいわ」


 アーシェは堂々と言い放った。

 オーク面が訝しむように俺達を一瞥した。


「街の者か? 見たことないな」


 オーク面は顎に手をやって考える素振りを見せる。

 一本角がその肩を叩いて前に出た。


「おい、豚。お前は記憶力がないんだから、考えても無駄だろうが」

「誰が豚だ!」

「お前だよ」


 仲間割れかと思ったがその顔は笑っていたので、彼らなりの冗談だとわかった。


「二人ともうるせぇぞ。まさかお前、人間じゃないだろうな。この街の領主、四天王のエドマンド様は大の人間嫌いだからな。もし人間だったらとんでもない目に遭うぞ?」


 言いながら二本角も俺達に近づいて来た。

 この街を仕切っているのは四天王のエドマンドというのか。

 街の名前と同じか。

 さて、あとはここをどう切り抜けたものか。

 

 しかし、この中にバジルさんの仲間がいるのか?

 もしかしたら別の場所で待機していたのかも……。

 すると、アーシェは腰に手をあてて、胸元の首飾りを露骨に見せびらかした。

 多少不自然だが、手に取って見せてこの三人が仲間じゃなかった時が最悪だ。

 もしこの三人の中にバジルさんの仲間がいるなら、気づいてもらえるだろう。


「何だ? 俺はガキには興味ねぇんだよ」


 オーク面はアーシェに色目を使われたと勘違いでもしたのか、悪態をついた。

 こいつは……違うな。

 あとの二人はどうだ?


「おい女、お前人間みたいな臭いがするな」

「おい、本当か? なら食っちまうか?」


 一本角がティアの髪の臭いを嗅いで言うと、オーク面が割り込んできた。

 ティアが笑みを返すが、目が笑っていない。

 すまない、ティア……今だけ我慢してくれ。

 もし戦闘になれば、この二人は一瞬で消し炭にされるに違いない。

 ……多分この一本角も違うかな。


 残った二本角はどうだろう。

 こいつがバジルさんの仲間なのか、それとも違うのか……。

 

「どこから来たんだ? 西の街ゲルビョルンか? それとも東の街バランか? 方角からして北の街ペイペイマンは違うな」


 二本角はどこから来たのか尋ねてきた。

 しかも、アーシェの首飾りをチラチラと見ている。

 ……こいつがそうなのか?

 さっきの言動を考えて見ても、エドマンドの名を喋ったのはこの二本角だ。

 そして今他の街の位置と名を言った。

 これは……俺達に情報を与えてくれたのか?

 いや、まだ確信は持てない。


「東のバランからよ。疲れているから早く街に入りたいのよ。扉を開けてちょうだい」


 オーク面と一本角が顔を見合わせて、にたりと嫌らしい笑みを浮かべた。

 アーシェの返答はマズかったのだろうか?


「おいおい、それはおかしいな。バラン様は女嫌いで有名な方だぞ?」


 オーク面が腰の剣に手をかけた。

 疑われているな。

 この三人の魔族はおそらく強くはない。

 いざとなったら気絶させて逃げるのも手だ。

 俺は三人の魔族の挙動を注視する。


「面倒だからここで殺してしまうか。適当に罪をでっちあげてしまえばいいだろう」

「そうだな。間違って人間を街へ入れてしまったら俺達がエドマンド様に殺されるからな」


 オーク面と一本角が同時に剣を抜いた。

 しかし、それを二本角が止める。


「いや、待て。女だからバラン様に追い出されたのではないか?」

「そうだとしても、もう面倒だから殺そうぜ」


 二本角が庇ってくれた……のか?

 やっぱりこいつがバジルさんの仲間なのか?

 だけど、オーク面と一本角はもう考えることを放棄して、手っ取り早く始末する気になっている。


「お前ら落ち着け。俺に考えがある。エドマンド様の指示があるまでこいつらを地下牢にぶち込んでおこう」


 地下牢にぶち込むだって……!?


「ちょっと! どうして私達が牢屋に入れられなきゃならないのよ!」


 アーシェが鼻息を荒くするが、すぐに二本角が動いた。


「抵抗するな。お前らがこの街に侵入を試みたところで、中は敵だらけだ。無駄死にしたくなかったら、大人しく地下牢に入るんだな。地下牢には魔王様復活に異を唱える抵抗派が捕えられている。そこへ入るんだ。エドマンド様の指示を仰いでから、お前らの処分は決める」


 二本角はまた情報を喋った。

 街に入っても敵だらけで、地下牢には抵抗派もいるのか。

 そこへ俺達を入れるのか……。

 何の為に?

 俺達を抵抗派に引き合わせる為……なのか?

 うん……まだ確信は持てないが、この二本角がバジルさんの言っていた仲間かも知れない。


「ちっ、お前が言うならわかったよ」

「そうだな。俺達で仲違いしていても仕方がない。お前の言うとおり地下牢へ連れて行こう」


 オーク面と一本角が賛同し、俺達は街の中に入ることができそうだ。

 ただし、行き先は地下牢だったが。

 俺達を拘束しようとするオーク面に、アーシェは抵抗しようとしたが、俺が背中に触れてそれを止めた。

 アーシェは俺の意図を理解して、大人しくオーク面に腕を縛られる。


 こうして、俺達四人は不審者として門番に拘束され、オーク面の案内の元、鉄の扉をくぐり地下牢へと連れて行かれたのだった。

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