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元【光輝ある剣】 終焉 

 【光輝ある剣(グリッターソード)】を()()()()()()脱退した俺は、王都アルングリームに訪れていた。


 エイルの街ではもう冒険者はできない。

 オイゲン達が俺の不利になるような悪評を吹聴していたからだ。

 何でも新人冒険者をカモにして使い捨てた挙げ句、有り金を巻き上げてその金で豪遊していた俺を追放したと触れ回っているらしい。

 おかげで担当者だった男も軽蔑の眼差しで睨みつけてくる。


「新しくリーダーとなったオイゲンさんからの伝言で、冒険者資格の剥奪はしないでおくから心を入れ替えて出直すようにとのことです」


 担当者はオイゲンからの伝言を早口で伝えると、他の冒険者の受付業務があるので出ていってくださいと、鬱陶しそうな表情で俺を厄介者のように追い払った。

 けっ、オイゲンのヤツめ。

 真っ当なことを言いやがって、どの口が言うんだ。


 そこで俺はネスタの街に見切りをつけて、この王都までやって来たのだ。

 なぁに、俺はAランクの冒険者だ。

 俺がパーティーの募集をかければ、向こうから入れてくれというやつはいくらでもいるだろう。

 ここから俺は出直してやる。


「エイルからアルングリームに移籍したい。手続きをしてくれ」

「かしこまりました」


 俺はアルングリームの冒険者ギルドで、移籍の手続きを申請した。

 本来ならAランクの移籍は手続きが非常に複雑だ。

 だが、俺の悪評を信じたエイルの冒険者ギルドは、あっさりと承諾した。

 あいつらもいずれ痛い目を見せてやる。

 あの担当者も俺のおかげで出世できたのに、あとになって後悔しても知らないぞ。


 窓口の男は俺の移籍の書類を見て一瞬怪訝な顔をしたものの、すぐに爽やかな笑顔に戻し手続きに取りかかった。

 どうせ書類にはよくないことが書かれているのだろう。

 しかし、俺がこの王都でSランクになれば周りの目も変わる。

 しばしの我慢だ。


「パーティー名はどうされますか?」

「ん……そうだな……」


 パーティー名は考えていなかったな。

 俺の再起に相応しい名は……。

 俺はかつて存在した超有名パーティーの名を使うことにした。

 本人達は今はもう引退しているから、俺が名乗ろうが自由だ。


「では、【剣の試練(トライアル)】にしてくれ」

「……え? その名前は!?」


 男は口をぽかんと開けて、不思議そうな顔で俺を見つめた。


「何だ、駄目なのか? Aランク冒険者の俺に相応しい名だろう」

「は、はぁ……」

「おい、お前。たかが冒険者ギルドの職員風情が、いちいち俺の言動に口を挟むな」


 黙って手続きを進めればいいんだ。

 ちっ、気に障るヤツだ。

 しかし男の方は、俺の言葉にムッとした表情になった。


「仕事の遅いヤツだな、Aランク冒険者の俺を待たせるんじゃない! このノロマが!」


 俺はカウンター越しに男の胸ぐらを掴んで叱責した。


「は、はい!」


 男はビビって声がうわずっていた。

 だが、男では判断できないということで、上司だという頭の弱そうな女が出てきたが、パーティー名は一旦保留にされた。

 エイルからの移籍の書類に何か書かれていたのだなと俺は察したが、今更文句を言っても仕方がない。

 エイルの街に凱旋する機会があれば、あの担当者に思い知らせてやるだけだ。


 上司の女は俺の言葉をのらりくらりと躱し、話は一向に進まない。

 周りにいる冒険者達も俺を見ていた。

 これ以上ここで話していても、俺の印象が悪くなるだけだ。

 今日のところは出直すか。


「おい、女。お前、ここの副ギルド長だと言ったな。保留にしたそのパーティー名をきちんと検討しろよ。明日、また来る」


 女が何か言っていたが、俺は無視して背を向けると南の冒険者ギルドを後にした。

 保留だか何だか知らないが、俺は勝手に名乗らせてもらう。

 俺が【剣の試練(トライアル)】のベルナルドだ。



 ***



 それから、俺は数日間冒険者を勧誘し続けたが思うような結果は得られなかった。

 何故だ?

 俺はAランクだぞ?

 王都の冒険者どもは俺の凄さがわかっていないのか?


「お前も光栄に思えよ、本来ならDランクごときが入れるパーティーじゃないんだからな?」


 Aランク以上の冒険者に勧誘を断られ続けた俺は、田舎から出てきたような素人に声をかけた。

 下級職の【剣士(フェンサー)】の男で、ついさっきの話だ。

 最初が肝心だ。

 俺はこいつに上下関係をしっかり叩き込むことにした。

 だが、


「あの、やっぱり僕止めておきます。冒険者ギルドで探してみようと思います」


 男は気まずそうな顔で言った。


「はぁ? おいおいおい、今さっき入ったばかりだろう。ふざけるなよ?」

「だって、ベルナルドさんみたいな言い方だと、強い人は入ってくれませんよ? 何でそんな、入れてやろう的な言い方なんですか? 僕みたいなDランクならともかく、Aランクの人は絶対入ってくれませんよ」


 男をパーティーに加入させたあと、五人の冒険者に声をかけたが、そのことを言っているのだろう。

 勧誘の苦労も知らないクソが何を偉そうに。

 俺は男を手で追い払う仕草をした。

 もう行っていいぞ。

 お前なんかいらない。

 どこかで野垂れ死ねばいい。


「……え、はい。わかりました。こちらこそ、一度は入ると言ったのにすみませんでした。では、勧誘頑張ってください」


 男は頭を下げると、俺に背を向けて人混みに消えていった。

 やっぱり妥協せずにAランク以上の冒険者を探すか。

 その後も俺は勧誘を続けた。



 ***



 とは思ったものの、俺は焦っていた。

 妥協の何が悪い。


「どうだ? Aランク冒険者である俺のパーティーに入りたくはないか?」

「ん、何だ勧誘か? 悪いが今のパーティーに所属したばかりなんだ」

「どうせ、三流のパーティーだろう? Aランク冒険者のおこぼれに預かりたくはないのか?」

「は? お前、馬鹿にしているのか?」


 【神官(プリースト)】風の男は怒って行ってしまった。

 ふん、雑魚が。

 いつまでもひとりはマズいから雑魚に声をかけ始めたが、中々上手くいかなかった。

 王都だけあって雑魚の割にプライドが高い冒険者が多い。


 俺が次の冒険者を探して振り返ると、目の前に銀髪褐色のメイド姿の少女がいた。


「……メイド? ……お嬢さん、どうしたのかな?」


 俺は少女の上から下までを舐めるように見た。

 ほう……こいつは王都に来てから一番の上物だ。

 ふっ、たまには息抜きもいいだろう。

 俺はその少女の肩に手を触れようした。


「ベルナルド……じゃな?」

「あ?」


 しかし、少女はすっと躱すと、耳触りのいい声で言った。

 だが、どうして俺の名前を知っている?


「少し話したいことがあるゆえ、そこの路地に来てもらえんかのぅ。ここじゃ、あまりに人が多いのでな」


 何だ?

 俺を誘ってんのか?


「なら、俺の宿に来ないか? 安宿じゃないから安心してくれ」

「…………何やらとてつもなく低俗な勘違いをしているようじゃの。いいからついて参れ」


 少女はスタスタと路地に向かって歩いて行く。

 俺は人目を気にしながら、少女について行った。


「おい、こんな狭苦しい路地で一体何を」


 言いながら、俺は少女のスカートから除く太ももと、女らしさを強調する胸を凝視していた。


「お主、あまりにも堂々と見過ぎじゃろう。それだけ妾に魅力があるのじゃな。しかし、妾の全ては主様のもの」

「主様? ふん、今日から俺が主様とやらになってやろうか?」


 俺は少女に手を伸ばそうとしたが、直前で何かに弾かれた。

 右手に鋭い痛みが走った。


「うっ……!」


 俺は右手を押さえた。

 何だ……?

 魔法か?


「愚か者、触れるでない。言ったであろう? 妾の全ては主様のものだと」

「主……だと?」

「知っておるであろう? ネスタの街で冒険者をしていたシスンのことじゃ」

「…………は?」


 俺は一瞬呆けた。

 この少女は何を言っているんだ?

 シスン?

 俺の知っているシスンと言えば、あの憎たらしいあいつだけだ。

 まさかシスンって、あのシスンなのか?


「もしかして……君はシスンの知り合いなのか?」


 俺の問いに答えずに、少女は妖艶な笑みで佇んでいる。

 アーシェといい、この少女といい、何であいつにこんないい女ばっかり……!

 最近忘れていたシスンに対する苛立ちが、また膨らみ始めた。


「今日中に王都から出ていくがよい。そして、二度と主様の前に姿を見せぬと約束せい」

「は? 何だそれは?」


 何で俺がそんな命令を聞かなきゃならないんだ。

 さっきの魔法か何かは気になるが、見た目は弱そうなこの少女なら力ずくで言うことを聞かせられると考えた俺は、足を一歩踏み出した。

 しかし、そこで異変が起こった。

 これ以上前に進めなくなった。


「なっ……!?」

「今ので妾の忠告に従う気はないと判断したぞ」


 瞬間、メイド少女は恐ろしいまでの殺気を放った。

 俺の体が震える。

 恐怖が場を支配し、俺はすくみ上がった。


「あ……あ……!」


 な、何だこの少女は!?

 恐い……、今すぐ逃げ出したい!

 ドラゴンよりも、アンドレイよりも、目の前の少女が放つ殺気は上だ!

 こ、殺される!

 だが、足は地面に張りついたように動かないっ!


「主様に仇なす者は妾が許さぬ」


 少女は右手を広げて、俺に向けた。

 その手に武器は持っていない。

 やはり魔法を使うのか。

 今の身動きの取れない俺には防ぐ術がない。

 どうする……!?


 しかし、少女は視線を俺の背後に向けると、眉間に皺を寄せた。

 俺は動けないので、少女が何を見たのかはわからない。

 恐怖と緊張で、俺の体中から止めどなく汗が流れる。


「むぅ。人が来たか……ならば、これで我慢しておくかのぅ」


 少女の右手から猛烈な風が吹き荒れた。

 気づいたら、俺は宙を舞っていた。

 そのまま路地からふっ飛ばされた俺は、大通りにべちゃんと落ちる。


「げほっ! くっ……!」


 俺は地面に背中をしこたま打ちつけた。

 た、助かった…………のか?

 すぐに路地に目を向けるが少女が出てくる気配はない。

 ほっと胸を撫で下ろす。


「シスンの仲間か……!? あの野郎、俺に復讐でもするつもりなのか……!」


 シスンに対する怒りが込み上げた。

 ひとまず立ち上がろうとするが、腰が抜けたように俺はその場で膝をついた。

 な、何だ……!?

 魔法に大した威力はなかった。

 むしろ地面に叩きつけられた痛みの方が強い。

 だが、力が急に抜けていく。


 そこへ聞こえてきたのは複数の足音だった。

 地面に映る影が、俺を取り囲んでいると教えてくれる。


「まさか、王都で会えるとは思ってなかったよ……!」

「本当だ!? ベルナルドだ!」

「間違いない! この顔、忘れるものか!」

「なんて幸運だ! きっと神が、俺達を導いてくれたんだぜ!」


 何だ、こいつらは……?

 こいつらも俺の名前を知っているのか?

 いくら俺が有名だからと言っても、エイルから遠く離れたこの王都で立て続けに名前を呼ばれるのはおかし過ぎる……。


 俺の目の前には五人の冒険者がいる。

 そのどれもが驚きの表情で、俺を見下ろしていた。

 職業(ジョブ)はバラバラだ。

 パーティーなのかどうかもわからない。

 そして、その顔は驚きから怒りへと変化していく。


「ん……? まさか、俺達を忘れたってのか?」

「いや、あり得るぞ。こいつは俺達みたいなランクの低い冒険者なんぞ覚えてねぇよ」

「確かにそうだな。こいつにとって俺達はただの養分だったんだから」


 五人の顔に見覚えがあることに気づいた。

 そうだ、こいつら【光輝ある剣(グリッターソード)】が嵌めた連中だ。

 名前までは思い出せない。

 この街にいたのか!?


「おい、何だかこいつ弱ってないか?」


 冒険者のひとりが俺を足蹴にする。

 しかし、俺は避けることができずに、顔面で受けてひっくり返った。


「こいつ……こんなに弱かったのか?」

「こりゃいいぜ。よし、あそこの路地に連れて行こうぜ」

「ま、待て、話し合おう! いきなり暴力で訴えるのは魔物(モンスター)と同じだぞ!」


 こいつら、俺に仕返しする気か!?

 俺が本調子であれば、こんなヤツら軽くボコボコにできるんだが、何故か今は力が抜けたような感じで体がだるい。


「お前さ、俺達に何をしたか忘れたんじゃないだろうな? 【光輝ある剣(グリッターソード)】にカモられた冒険者で作ったパーティーだって、俺らだけじゃないんだぞ?」

「そうだ。お前がどれだけ恨みを買っているか、その体に刻んでやる」

「ちょ、ちょっと待て! 話を聞いてくれ! 俺はもう【光輝ある剣(グリッターソード)】を抜けたんだ!」


 俺だけがこんな目に遭うのは間違っている。

 オイゲン、エマ、ソフィアも同罪だ。

 クソッ、何で俺だけがっ……!


 俺は五人の冒険者に薄暗い路地に連れて行かれ、殴る蹴るの暴行を受けた。

 普段なら簡単に躱せるはずの攻撃だ。

 しかし、俺の体が言うことを聞かない。


「ま、待って……く……! ぶはあぁああっ……!」


 冒険者の放った蹴りが、俺の腹に命中した。


「えっ! 何で避けないんだ!?」

「知らねぇよ! おい、これ死んじまうんじゃないか?」


 た、助けて……くれ!

 金で済むなら……払う……から!


「そうなっても俺達には関係ない。こいつにカモにされた冒険者は俺達だけじゃないんだぞ? こいつは殺されても文句は言えないくらいの恨みを買っているんだ」

「やばいって! 痙攣しだしたぞ! 傷口の血が止まらねぇ」

「おい、さっさとずらかるぞ。もうそいつは手遅れだ」

「わ、わかった! おい、待ってくれ!」


 五人が遠ざかって行くようだ。

 だが、そんなことはもうどうでもいい。

 俺はわかってしまったから。 

 もう、死ぬんだなと……。


 ああ……、目の前が暗くなってきた。

 体中の痛みから声を発することもできない。


 そうして、俺の意識はプツンと途絶えた。

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