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初めての依頼

 マリーさんが何度も確認してくれたにも関わらず、エイルでの実績は皆無だった。

 そんなバカな話があるのか……?

 確かにBランクパーティー【光輝ある剣(グリッターソード)】の一員として、半年間戦ってきたはずだ。

 でも、記録上では俺はただの一度も依頼(クエスト)を受注していない。

 しかも、【光輝ある剣(グリッターソード)】にパーティー加入した履歴もないという。

 どういうことだ……?


 その時、俺の隣で強烈な殺気が放たれるのを感じた。


「シスン。こんなの許せないわ。人のいいシスンを騙すなんて」

「お、落ち着いてくれアーシェ! こんな場所で殺気を振りまいてどうする」


 周りの冒険者もアーシェの剣呑な雰囲気に、何事かと遠巻きながら眺めている。

 何とかアーシェを(なだ)(すか)す。


「アーシェ。マリーさんの話を聞いてみよう。な?」

「ふぅーっ……。ふぅーっ……」


 アーシェは胸を上下させて、深呼吸して気持ちを落ち着けようとしている。

 俺はマリーさんに【光輝ある剣(グリッターソード)】の一員として、半年間戦ってきたことを伝える。

 口に出すのも(はばか)られたが、パーティーをクビになった話も語った。


 マリーさんが口にした言葉は、到底信じられないものだった。


「これは、詐欺ですね」


 冒険者の中にはとんでもないクズもいるらしい。

 パーティーに加入させると口では言っておいて、実際には加入させずに同行だけさせ、戦力として利用だけするという手口だ。

 依頼(クエスト)達成時の実績は、依頼(クエスト)ごとに設定された点数を、パーティー人数で均等に割るという方法が採用されている。

 依頼(クエスト)達成の点数が4000点だった場合。

 パーティー人数が4人だと、ひとり当たり1000点の配当だ。

 これが5人だと、800点になる。

 つまり、俺の得るはずだった点数は、全て【光輝ある剣(グリッターソード)】に搾取されていたのだ。

 これには、流石の俺も怒りを覚えた。


 マリーさんが言った詐欺というのは、初心者を狙って上前を撥ねるこのような手口を指している。

 Bランクパーティーが受注する依頼(クエスト)の相場は5000点だから、毎日戦っていた【光輝ある剣(グリッターソード)】は一ヶ月で150000点、半年で900000点得たことになる。

 そうするとひとり当たりの配当は、180000点にもなる。

 180000点あれば、ランクFの冒険者はどのランクまで昇格できるのか、俺はマリーさんに尋ねた。


「その点数だと、ランクCまで昇格できます。本当にお気の毒としか言いようがありません。この手の詐欺は証拠がないので、深く追求できないのです。一応、エイルの冒険者ギルドには連絡はしておきますが、何も期待はできないでしょう」


 俺たちはマリーさんに御礼を言って、冒険者ギルドを出た。

 憤りと悲しみで俺の頭の中はグチャグチャだ。

 だけど、アーシェが俺以上に怒り心頭なので、それを宥めていると俺の溜飲はほんの僅かだが下がった。


 この件はさておき、野宿するわけにはいかないので、当面の宿を探す。

 いくつか宿を回って、安宿の割りに綺麗なところを見つけたので、三日分の宿代を前払いして、部屋へ案内された。


 ひとりずつ隣合わせの部屋を取った。

 部屋の扉を前にしても、アーシェはまだ頬をぷくっと膨らませていた。


「アーシェ。まだ怒っているのか? とりあえず気持ちを切り替えよう」

「凄く腹が立つけど……そのことだけじゃないわ」

「え?」


 アーシェは俺の部屋の扉と、自分の部屋の扉を交互に見てから、大きくため息をついた。

 俺はアーシェの言葉がわからなくて、首を傾げた。


 部屋に入ると、そこは窓がひとつとベッドがあるだけの、質素な感じだった。

 まぁ、宿代を考えたらこんなものだろう。


 夕食は宿の一階にある食堂兼酒場で摂る。

 料金は宿代とは別になっている。

 食事の内容は田舎の家で食べるものと、そう変わらなかったので、不満はなかった。

 食事を摂りながら、明日から予定を相談する。

 何故か、アーシェの機嫌は直っていた。


「ねぇ、シスン。あたしに良い考えがあるの」

「何だい?」

「明日から依頼(クエスト)を受けまくるってのは、どうかしら?」

「ん……」

「それも飛びっきり最高難度のヤツをね。そしたら、すぐにランクも上がるわ」

「ん……」

「そして、ランクBまで上げて、【光輝ある剣(グリッターソード)】に宣戦布告よ!」

「ぶ――――――――――――っ!」


 俺は口に含んでいた野菜スープを、盛大に噴き出した。


「きゃあ! ……もぅ、汚いわね」

「ご、ごめん……」


 唖然としている俺の口元を、アーシェがハンカチで拭ってくれる。

 そんなことを考えていたのか。

 アーシェは完全に復讐する気だ。


「でも、どうしてBランクまで上げるんだ?」

「そんなの決まっているわ。【光輝ある剣(グリッターソード)】より下のランクだと格好がつかないじゃない。それで、この冒険者カードを突きつけてやるのよ」


 アーシェはドヤ顔で、昼間に発行したばかりの冒険者カードを頭上に掲げた。

 あまりに大声でアーシェが宣言するものだがら、酔っ払った冒険者が「いいぞー、姉ちゃん!」などとはやし立てた。

 俺は少し恥ずかしかった。

 だが、面白い。

 俺はすっかりアーシェに乗せられていた。



 ***



 翌日、冒険者ギルドに行くと、アーシェは俺の手をグイグイ引っ張って、掲示板の前へと歩いて行く。


「ごめんなさーい。んしょ、ちょっと通してくださーい」


 依頼(クエスト)を吟味している、屈強な冒険者をかき分けて、俺たちは掲示板に辿り着いた。

 掲示板にはびっしりと依頼書が貼り付けてある。

 ざっと見ただけで、百枚以上はありそうだ。


「さあ、どれにしようかしら?」

「うーん。そうだなぁ……。これはどうだ?」


 俺は目に留まった依頼書を剥がして、アーシェに見せる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ■討伐依頼(クエスト)


 ネスタ郊外にある地下迷宮(ダンジョン)に巣くう、

 ミノタウロスの討伐。


 少なくとも五体の姿が確認されています。

 近隣の街に被害が出る前に、

 討伐をお願いします。


 6000点


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「これじゃあ、駄目よ」

「どうして? 6000点だぞ? ひとり3000点もらえるぞ」

「少なすぎるわ。……あ、これ見て」


 アーシェが剥がした依頼書に目をやる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ■討伐依頼(クエスト)


 バラフ山脈に現れた、ドラゴンの討伐。


 バラフ山脈の街道から外れた場所で、

 姿が確認されています。

 近隣の街に被害が出る前に、

 討伐をお願いします。


 900000点


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「900000点!? 俺たち二人で戦えば、450000点ももらえるぞ!」

「うん! これにしようよ!」


 ドラゴンか。

 戦ったことはないが、爺ちゃんへの土産話にいいかもな。

 俺もアーシェも、900000点という高得点に目がくらんだ。

 ちなみにこの点数に応じて、報酬として得られる金銭も多くなる。

 このお金があれば、宿じゃなく家を借りることも可能だろう。

 もちろん、当面の生活費込みで十分お釣りが出る金額だ。


 俺たちは意気揚々と、受付のマリーに依頼書を持っていった。

 しかし、盛り上がる俺たちに待ったをかけたのは、マリーさんだった。


「この依頼(クエスト)はAランク以上でないと、受けられません」

「そ、そんな……」

「あたし達なら大丈夫です。自信あります」

「ダメです。例え規則がなくたって、初心者Fランクのあなた達を、危険な依頼(クエスト)を送り出すことは私にはできません」


 そうか、マリーさんは俺たちのレベルを知らないから……。

 例えレベルを教えてところで、信じてもらえるかわからないだろう。

 おそらく俺たちのレベルは、この街のどの冒険者よりも高いだろう。

 仕方がない。

 今、受注できる範囲で地道に依頼(クエスト)をこなすしかないか。

 結局、俺達は最初に見つけたミノタウロス討伐の依頼(クエスト)さえ受けることができず、ゴブリン討伐の依頼(クエスト)を受注した。

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