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【光輝ある剣】 追放

「はっきり言うぞ。ベルナルド、お前にはこのパーティーを抜けてもらう」


 俺の目の前に座っているオイゲンの言ったことが、突然すぎて理解できなかった。

 最近、俺に対する当たりがキツイと思ったら、こんなことを考えていたのか。


「おい、オイゲン。【光輝ある剣(グリッターソード)】のリーダーは誰だ?」

「たった今、俺が二代目のリーダーになった」

「あぁ? ふざけるのも大概にしろよ? この木偶の坊がっ! 誰がここまでパーティーを有名にしたと思っているんだ!」

「それは、お前以外の俺達三人だろ?」


 そう言うオイゲンは両隣にエマとソフィアを侍らせていた。

 エマとソフィアはオイゲンに心酔しきった表情で、しなだれかかっている。


 おかしい。

 エアの街を出てから、俺達は噛み合わなくなった。

 どうしてだ。

 俺は記憶を遡った。



 ***



 幸か不幸かシスンのおかげでアンドレイから開放された俺達は、エアの街から逃げるように出て来た。

 変化の兆しは、このエイルの街まで戻る旅の中で起こった。


「ベルナルド。さっさと魔物(モンスター)にトドメを刺せ」

「お前に言われなくても、わかっている!」

「いくら俺が盾役として仕事をしても、お前がちんたらやっていたんじゃこっちはやってられないぞ」

「はぁ!?」


 俺は目を吊り上げる。

 クソがっ!

 戦闘中に嫌味を言いやがって!

 俺はヤケクソ気味に【聖騎士(パラディン)】の最強スキル、《グランドクロス》をぶちかました。


「あー、こんな雑魚相手に普通それ使う?」

「ペース配分大事……です」


 あぁ!?

 お前らがちんたらするなって言ったんだろうが!

 オイゲンなんか露骨に舌打ちしやがった。


 エアの街を出てからというもの、オイゲンがやたらと仕切るようになった。

 挙げ句の果てには、俺に攻撃役の実力がないなどとのたまいやがるっ!


 エマとソフィアまで俺と目を合わせようとはしない。

 一体どうなっているんだ!

 ソフィアのヤツは今夜しっかり仕置きする必要があるな。


 俺達は幾度かの戦闘を終え、近くの村に辿り着いた。

 次の街までは少し距離があるので、今夜はここで一泊だ。

 オイゲンが仕切って宿を取る。


「メシの時間までまだ時間があるから、それまで自由行動にしよう。部屋はふたつ取ってある。ベルナルドはそっちの部屋だ」

「ああ。というか、俺に指図するな。リーダーは俺だろう」


 俺はあてがわれた部屋に向かおうとするが、他の三人はそれを見ていた。


「ん? おい、ソフィア何突っ立ってんだ。来いよ」


 俺が睨みつけると、ソフィアはベルナルドの後ろに隠れてしまう。

 何だぁ?

 ちっ。

 今日の部屋割りは男と女か。


 俺達が宿に泊まる時の部屋割りは二パターンある。

 ひとつは、俺とオイゲン、そしてエマとソフィアという風に男部屋と女部屋にわける。

 二つ目は、俺とソフィア、もう一方はオイゲンとエマという具合だ。


「今日は、オイゲンの部屋で寝る……です」

「はぁあああああ?」


 オイゲンは両手をエマとソフィアの腰に回して、もうひとつの部屋に向かおうとする。

 どういうことだ?

 それは……つまり、そういうことなのか?

 え?

 いやいやいや、ちょっと待て!


「ちょ、ちょっと待て! 何でそうなるんだ!」

「ふっ。何でって……。それくらい考えたらわかるだろ? 今、パーティーで一番活躍してるのは誰だ?」

「俺だ!」


 俺は胸を張って即答した。

 パーティーで一番活躍して、リーダーなのは俺なんだ。

 今日だって《グランドクロス》で魔物(モンスター)を一掃したのは俺だ。

 ったく、こいつらは本当に俺を怒らせたいらしい。


「本気でそう思っているのか?」


 オイゲンが苛立ったように舌打ちをし、近づいて俺の胸ぐらを掴んだ。

 その勢いで、俺は背中を壁に打ちつけた。


「お前がスキルをポンポン放てるのは、俺達の援護があってこそだ。それがなけりゃ、スキルの出だしに攻撃受けてやられてた場面もあったぞ」

「くっ……! 離せ! 俺を……怒らせたい……のか!」


 す、凄い力だ!

 全く抵抗できないっ!

 オイゲンは俺の鼻先に自らの顔を近づけた。

 そして、口を大きく開いた。


「本当に面倒臭い人ですね。もっと扱いやすいと思っていましたが、私も見る目がない」

「……え?」


 俺は目を疑った。

 オイゲンの口は開かれたまま動いていない。

 たった今、オイゲンが発した声は、その喉奥から聞こえてきた。

 目を凝らすと、口の中で何かが動いている。

 舌じゃない……、こ、これは……!


 オイゲンの口から急に飛び出した触手のようなものが、俺の顔面に直撃した。

 俺の意識はそこで途絶えた。




 気がつくと俺はベッドに寝かされていた。

 飛び起きて部屋を出ると、三人がもう旅支度を終えている。


「……え? どういうことだ?」

「まだ寝ぼけているのか? 昨日はメシも食わずに寝ちまいやがって」

「そ、そうなのか……?」


 あれは夢だったのか……?



 ***



 ようやくエイルの街に辿り着いた俺達だったが、道中は最悪だった。

 オイゲンの仕切りっぷりは板についてきてしまっているし、俺は自分でもわかるくらい活躍できなくなっていた。


 パーティーで借りた家にも、俺以外誰も帰って来なくなった。

 噂ではオイゲン達は三人で新しい家を購入したらしい。

 ふざけやがって……!


 依頼(クエスト)は失敗続きだった少し前が嘘のように、連日達成していた。

 だが、俺は活躍していない。

 他の三人、特にオイゲンが攻守をこなし、指示まで飛ばす有様だ。


 俺の居場所はどんどんなくなっていった。

 そして、今日。

 依頼(クエスト)を済ませて、酒場で食事をしていると、オイゲンがとんでもないことを言い出した。


「ベルナルド。お前、ただ攻撃に徹してりゃあいいってもんじゃないぞ? もっと周りを見て臨機応変に戦え」

「いや、俺の役割は攻撃役だろ……」

「言い訳をするな!」


 他のメンバーもうんうんと頷いている。

 何を知った風に……こいつら!


「もっと精進しろ。それから、明日からは荷物持ちも兼任だぞ。いいな?」

「…………は?」


 何だこの言われようは……。

 ここまでの一連の流れは、俺達が冒険者になりたてのカモを使い捨てるまでの定石だ。

 俺が編み出した手段で、今まさに俺が追い詰められていた。


 クソがっ!

 ……もういい。

 こいつら全員辞めさせてやる。

 全員まとめてクビだ! 


「あー、もう我慢の限界だ! お前らは金輪際、俺と関わるんじゃないっ! 全員クビだ!」


 エマとソフィアが俺の宣告に動じることなく冷たい目で睨み返してくる。

 俺の正面に座ったオイゲンが、険しい顔で口を開いた。

 

「はっきり言うぞ。ベルナルド、お前にはこのパーティーを抜けてもらう」


 全員クビだと口走ったが、まさか逆にクビを宣告されるとは夢にも思わなかった。

 しかも、リーダーはオイゲンが引き継ぐという。

 全くふざけた話だ。

 俺は納得できなかったので、体でわからせようと考えた。


「痛い目に遭わないとわからないようだな。表へ出ろ、オイゲン」

「そこまで言うのならいいだろう。お前に引導を渡してやる。エマとソフィアはここでメシ食っててくれ。すぐに戻る」


 へっ、たいした余裕だ。

 もう、パーティーは終わりだ。

 こいつらとは二度と組むことはないだろう。

 だが、俺に逆らったことは一生後悔させてやる。


 少なくともオイゲン、お前には冒険者としては再起不能になってもらう。

 ガキの頃から一度として俺に勝ったことのないくせに。

 まぁ、馬鹿力だけはあるようだが、俺のスキルで痛めつけてやる。

 その時に後悔しても俺の知ったことじゃない。


 俺達は酒場を出て少し歩いた。

 着いたのは俺の家の裏庭だ。

 場所はオイゲンが指定した。


「ここでか?」

「ここなら邪魔が入ることはない。それとも誰かに止めて欲しかったのか?」

「そうか。オイゲン、お前とはもう絶交だ」

「ああ、それで構わん」

「なっ……!」


 オイゲンは盾を持って剣を構えている。

 俺は【聖騎士(パラディン)】のスキルで勝負をかけるつもりだ。

 先手必勝!


「これが、俺の実力だああああっ! 《グランドクロス》!」


 俺の最大の攻撃だ。

 剣が光り輝きながら、オイゲンの盾にめり込んでいく。

 《グランドクロス》の前では、防御など無意味。

 死んでも文句を言うんじゃないぞ。

 じゃあな、オイゲン。


 だが、次の瞬間。

 地面に転がっていたのは俺の方だった。


「……あ……あ……!」


 俺の左肩にはオイゲンの剣が刺さっている。

 馬鹿なっ!?

 どうして、こいつが俺の《グランドクロス》に反撃できた!?


「レベル100以下の雑魚が、俺に勝てるわけないだろう」


 オイゲンがわけのわからないことを言う。

 お前もレベル100を越えていないだろうが!

 動けない俺に、オイゲンは殴る蹴るのやりたい放題だ。


 やがて、俺は死を覚悟する。

 このままでは殺される!


 そこで、オイゲンは攻撃を止めて、立ち上がった。

 極めつきはオイゲンの一言だった。


「持ち金は餞別としてくれてやる。明日の朝までに荷物をまとめてこの街から出て行け」

「…………くっ!」


 くっそぉおおおおおおおおおおっ!

 腹立たしいが体中が痛くて、声を張り上げるのもままならない。

 ソフィア……《ヒール》を……。

 前ならいつも《ヒール》してくれたソフィアが、もうここにいないのを痛感して、俺は自分で癒やしの魔法を唱える。


 そうして、去って行くオイゲンの背中を睨みながら、地面を何度も叩きつけた。


 俺は自ら立ち上げた【光輝ある剣(グリッターソード)】をクビになった。

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