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王都

 王都までの道のりは街道を馬車を乗り継いで、十日ほどかかった。

 幸い行く先々で乗合馬車があったので、詳しいエステルが案内してくれた。

 聞けばネスタの街に来る時も、こうやって馬車を乗り継いで来たらしい。


「わあ! 大きいー! 凄いわね、シスン!」

「そうだな。これは俺も驚いたよ」

「今通ってきた門は南門になります。この王都は四方にそれぞれ門があるんですよ」


 ネスタやエイルの街も大きかったが、王都は更に大きかった。

 ネスタとエイルを合わせても、その半分くらいの面積だとエステルが教えてくれた。

 ティアによると、リオネス王国はもっと大きかったらしい。


 シーヴァル王国の王都アルングリーム。

 ここから俺達【剣の試練(トライアル)】は始まる。


「人も多いな。前に進むのも大変そうだな」

「確かに走ったりするのは無理ですね。誰かとぶつかっちゃいますよ」

「シスン、まずはどうするの? 私達住むところも決めないといけないし」

「まずは冒険者ギルドへ行こう。神父様から預かった紹介状もあるし」

「そうね!」


 最初の行き先は冒険者ギルドに決まった。

 場所はエステルが知っているらしい。


「シスン。それではどこの冒険者ギルドにしますか?」

「え? どこって?」

「実はこの王都には四つも冒険者ギルドがあるんです」

「何だって!? それは本当か?」


 エステルは頷いた。

 王都アルングリームには四つの冒険者ギルドがあるらしい。

 何しろ王都は広い、その為他の街に比べても冒険者の数が圧倒的に多いのだという。

 なのでひとつでは賄いきれないらしく、四つの冒険者ギルドがあるというわけだ。


「四つもあるのか」

「はい。東西南北の四ヵ所にあります。それぞれに副ギルド長がいて、その四つをまとめているのがこの王都のギルド長なんです」

「へぇ、そうなんだ」


 この王都にある四つの冒険者ギルドを仕切っているのは、副ギルド長という立場の人達だが、他の街のギルド長と同等の権限を持っているのだそうだ。

 まぁ、これだけ大きな街なら納得だ。

 

 ちなみに、四つの冒険者ギルドをまとめ上げているのが、初代【剣の試練(トライアル)】の担当者だった人だ。

 神父様やマリーさんの話では、国中の冒険者ギルドの一番偉い人らしい。


「でもギルド長って人は、どこの冒険者ギルドにいるんだろう?」

「お爺ちゃんも言ってなかったわね。でも、冒険者ギルドの人に手紙を渡せば対応してくれるんじゃないかしら?」

「うん、そうだな。エステル、ここから一番近いのは?」

「南の冒険者ギルドです。すぐ近くですよ」

「よし、じゃあ行こう」


 俺達は南門からほど近い南の冒険者ギルドへと向かった。

 近いと言っても、ネスタの街の東門から中心部へ行くくらいの距離はあった。


「結構歩いたのぅ」

「そうだな」

「すみません……。あたしの感覚で言っちゃいました」


 エステルの【近い】と俺達のそれではかなり差があったが、俺達もこの王都を拠点にするならばその感覚に慣れておかなければならない。


「いいのよ、文句を言っているのはティアだけだし」

「妾は文句など言っておらん。思ったより距離があったなと独り言を言ったまでじゃ」

「はいはい」


 王都に来てもこの二人は相変わらずだ。

 その様子をエステルは苦笑いで見ている。

 そうこうしている内に、俺達は南の冒険者ギルドへ辿り着いた。


「これが冒険者ギルドか。思っていたより大きいな」


 これが俺の最初の感想だった。

 四つもあるのでネスタの街と同じ大きさのものが四つと考えていたのだが、予想を裏切られた。

 ぱっと見でも、ネスタの街のそれと比べて倍はある。

 建物の外観も小洒落ていて、壁はレンガ造りになっている。


「よし、みんな中に入るぞ」

「そうね」

「ふふっ、ここから主様の伝説が始まるのじゃな。妾は楽しみで仕方がないのぅ」

「ティア、くれぐれも変なこと口走らないでね」

「お主に言われんでもわかっておるわ。うるさいのぅ」


 中に入ると冒険者が長蛇の列を作っていた。

 受付の窓口はネスタの街では五ヵ所だったのに対して、十ヵ所もある。

 その全てが冒険者で埋まっていた。


「時間がかかりそうですね……」

「並んでないと順番は回って来ないけど、ここで時間を潰すのはちょっとな……」

「でしたら、あたしが並んでおきますので、シスン達は今日の宿を探してきていいですよ」


 エステルがひとりで並んでおくと言うが、それは流石にかわいそうだな。

 俺も一緒に残って、宿探しはアーシェとティアに任せようか。


「それなら、私とシスンが並んで手続きしておくわ」

「え、アーシェさん、あたしに気を遣わなくても大丈夫ですよ?」

「そうじゃないわ。だってエステルの方が王都に詳しいんだから、宿探しもスムーズでしょ?」

「それは……そうですね」

「妾が主様と一緒に並ぶというのはないのか?」

「それはないわね。ティアとシスンを二人にさせるのは、色んな意味で危険過ぎるもの」

「うぐぅ……」


 アーシェの言うことに一理あるので、彼女の提案どおりにすることにした。

 俺とアーシェが受付の列に並んで、ティアとエステルが宿を探す。

 まぁ、確かに誰かと話をするならば、アーシェかエステルが適任だからな。

 俺もティアも物事を知らなさすぎるし……。


 ティアは名残惜しそうに俺をちらちらと見ながら、エステルと一緒に冒険者ギルドを出ていった。


「さて、とは言ったものの待つのは退屈だな」

「私が並んでおくから、シスンはあそこの掲示板を見に行ってもいいわよ?」

「いいのか?」

「うん」

「じゃあ、ちょっとだけ」


 俺はアーシェを残して列から出た。

 そして、掲示板の前にできた人だかりに歩を進める。

 当然だけど、知らない冒険者ばかりだ。

 スコット達やミディールさん達のように今後仲良く付き合える冒険者がこの中にいるのだろうか。


 掲示板も他の街の冒険者ギルドと違って、二つもあった。

 ひとつはBランク以下の依頼(クエスト)で、もうひとつはAランク以上のものに分かれている。


「まだAランクじゃないけど、あっちを見てみようかな」


 俺はAランク以上の掲示板に向かった。

 他の冒険者の脇をすり抜けながら、何とか掲示板の前に立つことができた。

 ここにいるのはみんなAランク以上の冒険者なんだろうな。

 辺りを見回すと、年季が入っているが金のかかった装備に身を包んだ冒険者達がところ狭しと陣取っている。


 俺は彼らから視線を外すと、掲示板に見入った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ■討伐依頼(クエスト)


 街の墓地にある

 封印された死者の地下迷宮(ダンジョン)

 にいるアンデッドの殲滅。


 街に被害が出る前にお願いします。

 前回の依頼(クエスト)では最下層に

 守護者(ガーディアン)が出現。


 600,000点


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 封印された封印された死者の地下迷宮(ダンジョン)か。

 魔物はアンデッド系か。

 【剣聖(ソードマスター)】には相性のいい相手だな。

 600,000点ということは、俺達ならひとりあたり150,000点だな。

 でも、ドラゴン討伐より少ないんだな。

 ドラゴンよりは難度は低いのかな。


 俺はその隣に貼ってある依頼書に視線を移動した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ■護衛依頼(クエスト)


 地下迷宮(ダンジョン)に潜る、

 Sランクパーティーの護衛。


 Sランクパーティーが最下層まで

 体力と魔力を温存できるよう

 護衛をお願いします。


 1,000,000点


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 護衛依頼(クエスト)か。

 あれ、でもSランクパーティーの護衛って……。

 Sランク冒険者に護衛なんて必要なのか?

 いや、待てよ。

 文面から考えたら、最下層の魔物(モンスター)はSランク冒険者が倒すから、そこまでは依頼(クエスト)を受けた者が何とかするってことかな?


 後で担当者に聞いてみよう。

 それにしても、Aランク以上の依頼(クエスト)の冒険者ポイントの相場ってこのくらいなのか。

 Sランクに必要な冒険者ポイントってどのくらいなんだろう。


「アーシェも掲示板を見たいだろうし交代するか」


 俺は列に戻って、アーシェと交代した。

 やはり、アーシェも掲示板が気になっていたようで、小走りでそれに向かって行った。


 列は少しだけ前へ進んだようだ。

 それでも後十組ほどは並んでいる。

 やがて、掲示板を見終えたアーシェが戻って来て、俺達は二人で話しながら順番を待っていた。


 すると、前に並んでいた【戦士(ウォーリア)】風の男が声をかけてきた。

 中肉中背の男だ。


「相変わらず時間がかかるなぁ。この時間が無駄なんだよ。兄さんもそう思うだろ?」

「そうだな。でも、俺達王都に来たのが初めてで……。いつもこうなのか?」


 表情から同年代だと判断した俺は、相手に会わせて普通に話した。


「何だ、初めてなのか? 移籍……いや、出稼ぎか?」

「移籍の方だよ。ネスタの街から来たんだ」

「そうなのか。って言っても俺もまだ半年も経ってないんだけどな。そうだ、王都に来たばかりだったら、ひとつ忠告しておいてやるよ」

「え、何だい?」


 何だろう?

 この冒険者ギルドには暗黙のルールみたいなものがあるんだろうか。


「最近この王都に来た冒険者で、Aランク以上の冒険者に声をかけて勧誘しているヤツがいるんだ」

「それって別に普通じゃないかしら? どこの冒険者ギルドでも見る光景だもの」


 アーシェが会話に割り込むと、【戦士(ウォーリア)】風の男は意外そうな顔をした。


「え、この子は……? 兄さんの知り合いなのか?」

「ああ、彼女は俺のパーティーメンバーなんだ」

「本当か!? こんなかわいい子が!? 羨ましいヤツだな。俺のパーティーなんて全員むさい男ばかりだぞ」

「シスン聞いた? かわいいですって!」


 アーシェは【戦士(ウォーリア)】風の男に言われて、否定もせずに喜んだ。

 俺のパーティーが俺以外全員女だと言うことは、この男に言える雰囲気ではなかった……。


「それで? その勧誘に問題でもあったのか?」

「ああ、それがよ。えらく上から目線でよ。何て言うか高圧的な感じ? 俺のパーティーに入れてやってもいいなんて言いやがるんだ」

「へぇ、そういう人もいるんだな」

「それとな、そいつのパーティー名が【剣の試練(トライアル)】だとよ。お前が名乗るか? って感じなんだがよ。全くあの伝説のSランクパーティーと同名にするなんてな」


 …………え?

 【剣の試練(トライアル)】だって!?

 俺達以外にも名乗っているパーティーがいた?


「…………って」

「アーシェ?」

「何ですって!」

「アーシェ、とりあえず落ち着け。こんなところで騒いだら迷惑になるから」

「だって、こんなの許せないじゃない。そんな嫌そうなヤツが【剣の試練(トライアル)】を名乗るだなんて」


 まぁ、俺達にとって【剣の試練(トライアル)】は爺ちゃん達から受け継いだ名前だから、確かにそういう気持ちもあるが。

 冒険者ギルドのルールではパーティー名の被りはアリだし、誰がどんな名前を名乗ってもいいと決まっていたはずだ。

 俺はマリーさんから聞いた説明を思いだしていた。


「おい、大丈夫か兄さん達。何か気に障るようなこと言ってしまったならスマン」

「いや、違うよ。君は悪くないって」

「そうなのか?」

「ああ、だから気にしないでくれ」

「わかった。だったら兄さん達も気をつけろよ、確かそいつの職業(ジョブ)は【聖騎士(パラディン)】だったはずだ」

「ありがたく忠告を受け取っておくよ」


 俺は荒くなった息を整えるアーシェを宥めつつ、自分たちの順番を待つことにした。

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