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【剣聖】誕生 後編

 爺ちゃんは大怪我はしてないだろうが、気絶くらいはしているかも知れない。

 あっちには神父様やマグダレーナさんが行ったみたいだから、大丈夫だろう。 


 右手を見ると剣の柄を握っているが、剣身の半分から先はなかった。

 やっぱり、保たなかったか。

 確かアーシェが火竜の牙を持ち帰っていたはずだ。

 あれで、新しいドラゴンブレードを作ってもらうか。

 この剣より硬度がありそうだし。


「やったわね、シスン!」

「流石、主様じゃ」

「シスン、あたしはヒヤヒヤしました」

「シスンさんには驚かされてばかりです。リーダーは……大丈夫なようですね」


 視線を家の方に向けると、爺ちゃんを背負ったマグダレーナさんと、隣に立つ神父様が見える。

 神父様を先頭にこちらに歩いてきた。


「シスン、安心しなさい。気を失っているだけです。既に癒やしの魔法はかけてありますから大丈夫ですよ」

「あら、剣が折れちまったか? 別にあたしは素手でもいいよ」


 マグダレーナさんは本気で俺と戦いたいらしい。

 さっきの提案は凄く魅力的だが、素手では勝負にならないだろう。

 また機会があればその時は挑戦させてもらおう。


「……また今度でいいですか?」

「何だ、つまらん。アーシェ、嫁ぐのは先延ばしになったな」

「も、もぅ! お婆ちゃんったら!」


 俺が断りを入れると、マグダレーナさんは肩を竦めた。

 みんなは苦笑いしていた。

 爺ちゃんがこの状態なので、俺が【剣聖(ソードマスター)】に転職するのは、明日になりそうだ。


 家には穴が開いてしまったが、村の人にも手伝ってもらってひとまず穴は塞ぐことができた。

 村長を始め、村の人達は協力的で助かっている。

 その夜はみんなで教会に集まり食事することになった。

 俺の家では手狭だったからだ。


 見かけによらず料理が得意なマグダレーナさんが、ご馳走を作ってくれた。

 アーシェとマリーさんもそれを手伝ったようだ。

 料理のできないティアとエステルは、料理を運んだりその他の準備をしてくれたみたいだ。


 食卓を囲みながら向かいに座った爺ちゃんが、くいっと杯を傾ける。

 他のみんなは酒を飲まないので、俺達は水やお茶を飲んでいる。


「ぷはー。汗を流した後に飲む酒は美味いのぅ」

「いや、汗を流して気絶してた後だよ爺ちゃん」

「ふん、もう回復しておるわ。ほれ、この通りじゃ」

「それにしても、爺ちゃんが《真・星河剣聖(しん・せいがけんせい)》なんて使ってくるとは思わなかったよ」

「儂も鍛錬を怠っていなかったというわけじゃ」


 爺ちゃんは完全に回復していた。

 今も上機嫌に酒を飲んでいる。


「シスンよ、明日お前は【剣聖(ソードマスター)】になるじゃろう。その後はどうするか考えているのか?」

「えっと、しばらくはネスタの街で依頼(クエスト)を重ねて、Aランクを目指すつもりだけど。その後はまだ……。でも、爺ちゃん達と同じようにSランクには必ずなってみせるよ」

「ネスタでか?」

「え……? どうして?」


 爺ちゃんがマリーさんに視線をやった。


「マリーよ。シスン達の冒険者ポイントはどうなっておるんじゃ? Aランクまでは後どれくらいなんじゃ?」


 マリーさんはギルド職員が持つ手帳を取り出した。

 そして、パラパラとページを捲っていく。


「シスンさん達は後350,000点ほどでAランクに昇格できます」

「ふむ……そうか」


 順調にいけば一ヶ月くらい依頼(クエスト)を重ねれば、と俺も計算していた。

 だが爺ちゃんは逡巡した後、俺に向き直った。


「シスン。ならば王都へ行け。Aランクに昇格する前にじゃ」

「え、急にどうしたの?」

「シスンの反応からして、お前たちは冒険者ギルドや冒険者の仕組みをまだ理解しとらんじゃろ」


 俺とアーシェは顔を見合わせた。

 仕組み……って?

 二人して首を傾げてから、爺ちゃんとマリーさんを交互に見た。


「すみません。私からもきちんと説明をしていなかったです」

「どういうことですか?」

「Aランクになると、他のギルドに移籍するのに複雑な手続きが必要になるんじゃ。下手をすれば何ヶ月も待たされた挙げ句、移籍できないなんてこともザラじゃからな」

「ええっ!? そんなこと知らなかったわ」

「マリーさん、そうなんですか?」


 マリーさんは気まずそうに頷いた。

 詳しく聞くと、Aランクほどの冒険者は所属している冒険者ギルドが簡単に手放したくないからだそうだ。

 依頼(クエスト)の成否に関わる問題からだった。


 更にSランクにもなると、他国の冒険者ギルドに所属できなくなるのだそうだ。

 優秀な戦力を国外に放出するのは、国対国の武力関係を崩してしまうかららしい。


「そこでじゃ、シスンよ。お前たちは王都を拠点にしてみてはどうじゃ? そこで結果を出せば、おのずと活躍は国中に広がるじゃろう」

「でも、そしたら担当のマリーさんは……?」

「私はネスタの街のギルド職員なので、担当じゃなくなってしまいますね……。でも、リーダーの言うとおり上を目指すならば、王都の方がよいかも知れません」


 担当がマリーさんじゃなくなってしまうのか……。

 王都での担当者が彼女のような親身に接してくれる人とは限らないし。


 更に爺ちゃんとマリーさんの話を聞く。

 爺ちゃんの言うとおり王都に行けば、より難度の高い依頼(クエスト)があるらしい。

 それに王都にはSランクの冒険者もいるという。

 うーん……それは見てみたいけど。


「マリーよ。【拳聖(フィストマスター)】のレアクリスタルは王都に移送されるそうじゃの」

「はい。今まさに移送中だと思います」


 【拳聖(フィストマスター)】のレアクリスタルが王都に?

 そうだアーシェの為にそれも必要だった。

 親切なマリーさんや、仲良くなったスコット達やミディールさん達と別れて見知らぬ王都へか……。


 ちらりと仲間の反応を窺うと、


「王都かぁ、一度行ってみたかったのよねぇ」

「ふっ、王都とな? 妾が住むに相応しいところであろうな?」

「王都には私の家もありますし、国の中心だけあって何をするにも便利なところですよ」


 既に王都へ向かう気でいた。


「もしシスン達が王都へ行くなら、冒険者ギルドのギルド長に紹介状を書きますよ」

「何じゃ、王都のギルド長は神父の知り合いか?」

「あなたも知っている人物ですよ。何しろ、我々の担当だった男ですから」


 神父様に言われて、爺ちゃんが訝しげな目でマリーさんを見た。


「マリーも知っておったのか?」

「はい。逆にリーダーが知らなかったのが不思議です」

「まさか、あいつがギルド長に……それも王都のとはのぅ」

「彼もエルフですからね。今じゃ国中の冒険者ギルドを統括する立場です。もう私では気安く話せないほどの地位にいます」


 王都の冒険者ギルドのギルド長は爺ちゃん達の知り合いらしい。

 それも爺ちゃん達の担当者だったようだ。

 当時は冒険者ギルドの一担当者だったらしい。

 しかし、今では出世して国中の冒険者ギルドを統括する地位にいるようだ。

 その人宛に神父様が紹介状を書いてくれるそうだ。


 みんな賛成のようだし、俺達は王都に行くことになるのか。

 俺は王都に様々な思いを巡らせた。



 ***



 翌日みんなの見守る中、俺は【剣聖(ソードマスター)】に転職しようとしていた。

 まず、爺ちゃんが無職(ジョブなし)になった。

 これで、今俺の手に握られているレアクリスタルは本来の用途で使用できる状態になったわけだ。


 そして、俺はレアクリスタルを握りしめる。

 俺の体は輝かしい光に包まれた。

 やがて、輝きが収まり俺の転職は完了したようだ。

 【神官(プリースト)】や【剣士(フェンサー)】に転職した時のように、呆気なく終わった。


「あっ、レアクリスタルが!?」


 指の隙間から光が漏れ、手の中が熱くなったと思うと、レアクリスタルは砕けて光の塵となった。

 その中から一際輝く光の珠のようなものが、大空に向かって上昇していき、南の空へと飛んでいった。


「これは……?」

「どこかで新しいレアクリスタルとなって復活するのでしょう。もちろん、シスンさんが無職(ジョブなし)にならない限り、機能はしませんが」


 マリーさんが答えてくれる。

 アーシェとティアが俺の周りを歩き回りながら、目を凝らして見つめてくる。


「シスン、【剣聖(ソードマスター)】になった感想はどうなのかしら?」

「ふむ。見た目は変わっておらぬが」


 今までは爺ちゃんのスキルを模倣していたが、これで本来のスキルの性能を完全に発揮できる。

 

 《剣閃結界》

 あらゆる攻撃を防ぐ。

 ただし限度はあるし、スキル発動中は動けない。


 《朧月》

 変幻自在の剣。

 相手の死角から攻撃する。


 《地走り》

 地面を穿ち直線上に攻撃する。

 土属性。


 《疾風剣》

 風のように斬り裂く。

 風属性。


 《氷水剣》

 氷を纏って斬り裂く。

 氷属性。


 《残影剣》

 複数の残像を見せ感じさせ翻弄する。


 《乱れ斬り》

 八方からの連続攻撃。


 《煉獄炎剣》

 炎を纏って斬り裂く。

 火属性。


 《星河剣聖》

 剣聖最大の攻撃。大上段の構えからの振り下ろし。


 爺ちゃんが最後に使った《真・星河剣聖》は正確にはスキルではなく、《星河剣聖》を模倣した技を更に改良したオリジナルの技だ。

 新しいスキルを編み出すことは無理なことから、爺ちゃんが考えたやり方だった。

 爺ちゃんが若い頃に完成させていた奥の手だそうだ。


 爺ちゃんの話では、スキルを使わない俺の攻撃には聖属性が付与されているらしい。

 つまり、これまで倒せなかったアンデッド系を完全に消滅させることができる。


 三つ目の鍵まで開放したとはいえ、爺ちゃんに【剣聖(ソードマスター)】の全てのスキルを出させた上で勝てたのは大きな自信に繋がった。

 これからも精進しようと思った。

 その結果、ドラゴンブレードの破損という代償は残ったが。


「見た目は変わってないだろうが、俺自身力が漲っているのを感じるんだ。多くのスキルを身につけたことで、戦いの幅は大きく広がったし、今なら誰にも負ける気はしない」

「シスンよ。己の力を過信するでないぞ。過去にはそれで身を滅ぼした強者もいる。日々、精進するがよい」

「わかったよ、爺ちゃん」


 こうして俺は、【剣聖(ソードマスター)】になった。

 みんなは祝福してくれた。


「シスン。みんなも揃っていることじゃし。ここで発表してはどうじゃ?」

「……うん。そうだな」


 それから、ここでパーティー名を発表することにした。

 爺ちゃんからは事前に許可はもらってある。

 パーティー名は既に決めてあった。


「アーシェ、ティア、エステル。俺達のパーティー名は【剣の試練(トライアル)】だ!」


「やったわね、シスン! ついにこの日が来たのね!」

「ほぅ、【剣の試練(トライアル)】か。いいではないか」

「え……、その名前は……!」


 それは、かつて爺ちゃんがリーダーを務めていた、Sランクパーティーのものだ。

 先代の【剣の試練(トライアル)】は、爺ちゃんの冒険者引退とともに解散している。


 ここに、四十数年振りに二代目【剣の試練(トライアル)】が誕生した。

 かつてと同じく、【剣聖(ソードマスター)】がリーダーだ。


 俺達は【剣の試練(トライアル)】を襲名した。

 その様子を見守っていてくれた爺ちゃんや神父様も、何だか誇らしげだった。


 Bランクパーティー【剣の試練(トライアル)】。

 リーダーは【剣聖(ソードマスター)】の俺。

 メンバーは、

 【修道士(モンク)】のアーシェ。

 【魔法使い(ソーサラー)】のティア。

 【探索者(シーカー)】のエステル。


 自分で言うのもなんだが、中々凄そうなパーティーだ。

 俺とアーシェで近接戦闘を担当し、ティアの魔法は攻守ともに対応でき、癒やしの魔法も使える。

 エステルの知識やスキルは冒険に有用だ。


 そして、俺達【剣の試練(トライアル)】は、新たな冒険に旅立つのだった。

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