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エステルと地下迷宮を行く

 大穴の深さは予想できない。

 他のみんなは落下の衝撃に耐えられるだろうか。

 アーシェは問題ないだろう。

 問題はクラトスさんだ。

 マリーさんが何とかしてくれることを祈るしかない。


「ひぃええええええええええっ!」

「ちょ、落ち着いてください。あんまり暴れると危ないので、しっかり俺にしがみついててください」

「ひぃいいいいいいいいいっ!」


 エステルさんは恐怖で叫ぶことしかできない。

 俺はバランスを崩さないよう、彼女を抱きしめるのに必死だった。


 どこまで落ちるんだろう?

 そう脳裏に浮かんだ時、下を見ると僅かに光が見えた。

 うっすらと床が確認できたので、俺は壁にわざと体を打ちつけて、落下の衝撃を少しでも和らげようと試みる。


「あわわわわわわわわわわわっ! 痛い、痛いですっ!」


 もちろん、エステルさんは壁に一切触れさせていないので、痛みなどあるはずがないのだが、俺の体から伝わる衝撃から傷を負ったと勘違いしてしまっているのだろう。


「大丈夫です。もうすぐ着地します。衝撃に備えて」

「あっ……! はひぃいいいいいいっ!」

「一旦、離しますが安心してください。ちゃんと受け止めます」

「へぇ!?」


 俺は床を目指して壁を蹴ると同時に、エステルさんから手を離した。


「み、見捨てちゃ嫌あああああああっ!」


 どうやら、見捨てられたと勘違いしているが、説明している暇はない。

 ドンッ、という衝撃音とともに、俺は床に着地した。


「つっ……!」


 受け身は取ったが、体中に激しい痛みが伝わってくる。

 しかし、すぐさまエステルさんの落下地点に向けて走り出す。


「きゃあああああああああっ!」


 そして、床とエステルさんの間に手を伸ばして滑り込んだ。

 衝撃はできる限り抑えている。

 彼女に怪我はないだろう。

 だが、俺の腕は今ので折れてしまったようだ。

 すぐに《ヒール》で癒やす。


「着きましたよ」

「あ…………。あ……」


 俺は放心状態のエステルさんを床に下ろした。

 エステルさんはぺたんと床にへたり込んだまま動こうとしない。

 怪我はしていないが、安心させる為に俺は気休めの《ヒール》をかける。

 エステルさんの体を淡い光が包み込んだ。


「《ヒール》したので、大丈夫ですよ。ほら、もう立てるはずです」

「あ……ほ、本当……ですね。はぁあああ、良かったああああっ!」


 気休めの効果は十分あったようだ。

 エステルさんは俺にしがみつきながら、何とか立ち上がった。


「さて、まずはみんなと合流したいですね。幸い灯りはあるようですし」


 地下深くということで、真っ暗な場所を想像していたが、魔法の光が壁際に灯されている。

 エステルさんの《ライティング》の効果は、落下中に切れていたが、これなら問題なさそうだ。


「ごめんなさい。あたしのせいです」

「何がです?」

「この穴が開く罠にかかったのはあたしなので……」

「いや、罠というかこれが下に続く入口だったんですから、どの道穴に飛び込むしかなかったですよ」

「でも、みんながはぐれてしまったのは……」


 確かにみんなで同じ穴に飛び込めば、同じ場所に落下できたかも知れない。

 今この小さな部屋にいるのは、俺とエステルさんの二人だけだ。

 彼女はそれが自分のせいだと言っているのだろう。


「まぁ、あまり気にせずに。とりあえず先に進んでみましょう」

「……わかりました」


 エステルさんは俯きながら返事をした。

 それから、


「あの、あたしに丁寧な話し方をしなくても大丈夫です。後、エステルと呼び捨てで構いませんよ」


 と言った。


「いや、でも……」

「年は私の方が上ですが、シスンさんの方がしっかりしてそうなので……」

「……そうですか」


 うん?

 頼られているのかな。

 まぁ、エステルさんがそう言うなら……。


「わかった。じゃあ、エステル。先に進もうか」

「はい! わかりましたシスン!」


 自分から提案しておいて、俺に対する口調は変わらなかった。

 だけど、シスンと呼び捨てにされて少し親近感が湧いたかも知れない。

 エステルは何故か嬉しそうだ。


 ――――ドドンッ、


 突然、壁が震えた。

 音の大きさから、離れた場所のようだ。

 何かあったのだろうか。

 耳を澄ますが、それ以降音は聞こえなくなる。


「な、何の音でしょうか?」

「わからない。だけど、あの壁の向こうから聞こえた気がする」


 俺は音のした壁を指した。

 位置的にはアーシェが飛び込んだ穴の真下辺りだろう。

 アーシェに何かあった?

 早く合流した方がよさそうだな。


「改めて……。行こう、エステル」

「は、はい!」


 俺とエステルは小さな部屋を抜けて通路に出た。

 真っ直ぐ前に進む通路と左に曲がる通路があった。


「いきなり、分かれ道か。何か有用なスキルってあるのか?」

「正しい道を示すようなスキルは持ち合わせていません。なので、さっきみたいに失敗しないよう、《罠感知》で確かめながら進むしかないです」

「そうか」


 エステルは二つの通路を交互に凝視する。

 スキルを使って確認しているのだろう。


「どちらも、近くには罠はありません。どうしましょう?」

「じゃあ、適当に選ぼう」


 と言いつつも俺は、アーシェがいた位置から、左に曲がる通路を迷わず選択する。

 先にアーシェと合流してから、マリーさん達を探す方がいいだろう。

 そうして、俺達は通路を進んでいった。


 しばらく進むと、魔物(モンスター)と遭遇した。

 剣を持った骸骨がガシャガシャと音を立てて前からやって来る。

 スケルトンだ。

 三体が横並びで向かってくる。


「邪魔だ」


 俺は《ソニックウェーブ》で蹴散らした。

 エステルさんによると、聖属性でないと倒しても時間経過で復活してしまうらしい。

 今の俺達にはスケルトンを完全に葬る術がないので、そのまま先に進むことにした。


「左には罠があるみたいです」

「じゃあ、右で」


 こうして、いくつかの分岐を過ぎ、スケルトンやゾンビをが現れては蹴散らすのを繰り返して進んでいく。

 辿り着いた先に少し広めの部屋に出た。

 部屋の真ん中には石像があった。


「ここで行き止まりみたいだが、あの像は何だろう?」

「……あれは!」


 頭には二本の角、背中には翼が生えている怪物を模したような石像だ。


「あれは……ガーゴイルです」

「ガーゴイル? 魔物(モンスター)なのか?」

「はい。ですが、近づかなければ襲ってはこないはずです。シスンさん一旦分岐まで戻って、違う道を進みましょう」


 エステルが踵を返そうとするが、俺はガーゴイルの後ろに何かがあるのが見えた。

 間違いない、あれは宝箱だ。


「エステル、待って。宝箱がある」

「え……! でも、ガーゴイルは危険な魔物(モンスター)です。わざわざ危険を冒さなくても……」

「俺がやる。後ろに下がってて」


 俺は剣を抜いて、ガーゴイルだという石像に近づいていく。

 すると、ガーゴイルの目が見開かれ、徐々に石化が解けていった。


「ギィエエエエエエエエッ!」


 甲高い咆哮を上げて、ガーゴイルが動き出した。

 翼を広げて宙に舞い、剣の届かない高さまで上昇する。


 俺に攻撃する時は近づいてくるはずだ。

 その瞬間を狙おう。

 俺はガーゴイルのを出方を待った。

 しかし、背後から嫌な音が聞こえてくる。

 ガシャガシャと骨を鳴らす音だ。


「もう、復活したのか!?」


 さっき倒したスケルトンが向かって来ているのだろう。

 おそらく、ゾンビもいるはずだ。

 エステルが心配で、俺は後方を確認する。


「ギィエエエエエエエエッ!」


 その隙を狙ってガーゴイルが急下降して、鋭い爪で攻撃してきた。

 キィン、と俺の剣とガーゴイルの爪がぶつかった。

 俺を仕留めるのに失敗したガーゴイルは、また天井近くまで上昇する。


「こ、来ないで! えいっ!」


 エステルはスケルトン相手に腰の短剣(ダガー)を抜いて応戦している。

 もうそこまで肉薄していたか。

 しかし、思ったより戦えている。


 俺はエステルを助ける為に彼女の方に向かって走り出した。

 ガーゴイルが背後に追走している気配はあるが、俺には追いつけない。


「はあああああああっ!」


 俺は振り向きざま、《ウィンドブラスト》を放つ。

 【希望の光(ホープ)】に教わった、風属性の中級魔法だ。

 《ウィンドブラスト》はガーゴイルの翼をズタズタに引き裂いた。

 浮力を失って落ちてくるガーゴイルを、俺のドラゴンブレードは逃さなかった。


 俺は剣を振り下ろして、ガーゴイルを真っ二つに両断した。

 すぐに振り返ってエステル救出に向かう。

 《ソニックウェーブ》だとエステルにも当たってしまう。


「おらああああああっ!」


 俺は走ってきた勢いそのままに、エステルと交戦していたスケルトンに体当たりを食らわせた。

 そして、他のスケルトンやゾンビを巻き込んで倒れる。

 すぐに立ち上がると、剣を一閃。

 床と平行に振るった剣は、スケルトンとゾンビの体を上下二つに分けた。


「エステル、無事か!」

「は、はい。かすり傷です!」


 俺は素早く周囲を確認する。

 今ので魔物(モンスター)は全滅したようだ。

 エステルに駆け寄って、左腕にできた傷を見る。


「無事で良かった。一応、《ヒール》をかけておく」

「ありがとうございます」


 エステルの傷は瞬く間に癒えた。


「スケルトンが復活する前に宝箱を回収しよう」

「はい!」


 エステルが罠はないと言って《解錠》スキルで、宝箱を開けた。

 そこには、手の平サイズの水晶体。

 教会にある転職用のクリスタルをそのまま小さくしたような形状……四日前に見たばかりのそれは、レアクリスタルだった。


「エステル、これがどの職業(ジョブ)に転職できるレアクリスタルか、鑑定できるか?」

「もちろん。これは《鑑定》では判別できませんが、あたしには《遺物鑑定》があります。それを使えば」

「頼む、やってくれ」

「はい」


 神妙な顔つきでエステルは、目を凝らしてレアクリスタルをあらゆる角度から調べている。

 そして、大きく息を吐くと鑑定が完了したことを告げた。


「シスン。これは……【拳聖(フィストマスター)】のレアクリスタルです」


 【拳聖(フィストマスター)】だって!?

 俺はとんでもないお宝を見つけてしまったかも知れない。

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