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同行者たち

 話を聞くと、なんとエステルさん達は依頼主の遺跡研究者とその同行者だった。

 まさか、この二人がそうだったとは……。


 パン代は経費で何とかなるからとマリーさんに言われ、その場は収まった。

 そして、改めて自己紹介をすることになった。


「えー……先ほどは見苦しいところを見せちゃいました。ごめんなさい……。遺跡研究者のエステルです」


 エステルさんは二十代前半くらいの女性だ。

 背は女性の平均くらいだから、マリーさんとほぼ同じだ。

 アーシェよりは高い。

 長めの黒髪を首の後ろで結んでいる。


 装備は革の鎧にスカートで、薄手のタイツと革のブーツを履いていた。

 腰には短剣(ダガー)が申し訳程度にぶら下がっているが、遺跡研究者という肩書きからして、戦闘職なのかは疑問だ。

 後で聞いてみよう。


 腰に巻かれたベルトには、分厚い紙の束もぶら下がっていた。

 その束の一番上にはぎっしりと文字が書かれている。

 研究熱心なんだろうか。


「同行者のクラトスだ。職業(ジョブ)は【高位神官(ハイプリースト)】だから、回復は任せてくれ」


 クラトスさんは聖職者らしい服を纏い、武器は鎚矛(メイス)を携えている。

 丁寧に手入れされた口ひげを蓄えていて、年は三十歳くらいに見える。


 肩には大きめの麻袋を背負っている。

 エステルさんが荷物を持っていないので、クラトスさんが二人分の荷物を持っているのだろう。

 膨らみ具合からして、中にはぎっしり物が詰まっていそうだ。

 さっき、お金を出すのにも一苦労していたしな。


「同じく同行者のマリーです。宜しくお願いしますね」


 マリーさんは普段と違う格好をしていた。

 上半身は布の服の上から革の胸当てを付け、下はスカートでロングブーツを履いている。

 その為、エルフ特有の透き通るような白い肌の太ももが露わになっていた。


 腰のベルトにナイフが二本と、背中には弓を背負っている。

 様になっているし、格好いいな。

 まるで、現役の冒険者みたいにしっくりくる。


「シスンです。宜しくお願いします」

「アーシェよ。宜しくねー」


 自己紹介が終わり、俺達はネスタの街を出発した。

 道中は会話をしながら、まずはバラフ山脈を目指す。


「マリーさんが同行するなんて、驚きましたよ。まさか、実は冒険者に復帰していたとか……ですか?」

「ふふっ。いえ、私は歴とした冒険者ギルドの職員ですよ。ただ、冒険者時代の習慣なんかは中々抜けなくて、今でも鍛錬は欠かしていないですけどね」

「へー、そうだったんですね」


 たまに、こうして冒険者に同行することもあるらしい。

 仕事の息抜きだと言っていた。

 マリーさんはSランクの冒険者だと昨日聞いている。

 Sランク冒険者の実力を見られるいい機会だ。

 楽しみにしておこう。


「エステルさん達は、パーティーを組んで長いのかしら?」

「あたし達はずっと一緒にいるわけじゃなくて、遺跡調査をする時だけ、このクラトスさんとパーティーを組んでいるんです」

「腐れ縁だな。この偉い先生がすぐ疲れたとかしんどいとか言うから、その都度《ヒール》をかけるのがオレの役目だ。オレは普段、ネスタの隣村で神父をしているんだ」


 心当たりがあるのか、エステルさんはあさっての方を向きながら頬を掻いた。


 なるほど。

 遺跡調査をする時だけの臨時パーティーってことか。

 腐れ縁と言うからには、何度も一緒に冒険しているのだろう。

 クラトスさんは、遺跡調査に行くときは、代理の人に教会の仕事を任せているようだ。


 それにしても、国内でも有名な遺跡研究者と聞いていたから、もっと年配の人が来ると思っていたけど、意外だな。

 やり手なのだろうか。


「あの、魔物(モンスター)と遭遇した時の、配置なんかはどうしましょうか?」

「私とシスンが前衛でいいんじゃないかしら。強い魔物(モンスター)は出ないって話だし、エステルさんを守りながら戦うより、速攻で終わらせた方が早いわよ」

「それはそうなんだけど。一応、確認をね」


 俺の問いに答えてくれたのは、クラトスさんだった。


「できれば、シスンくんとアーシェさんに前衛を任せたい。オレもエステルさんも一応戦闘はできるが、できれば無駄に魔力を使いたくない。申し訳ないが、頼めるか?」

「ええ、俺達は大丈夫です。元々そのつもりでしたから」


 申し訳なさそうに言うクラトスさんに、俺が返事を返すと、そのやり取りを見てマリーさんが深く頷いた。


「その為に私やシスンさんとアーシェさんが同行するんです。安心して、お二人は遺跡調査に集中してください」


 話をしていると、早速魔物(モンスター)が現れた。

 目の前の草むらにゴブリンが四匹と離れたところに二匹だ。


「片付けます」


 言うなり俺は、《ソニックウェーブ》を放つ。

 衝撃波となった刃が風を切るように、四匹のゴブリンを切り刻む。

 アーシェが出るまでもない。

 近づいてくる前に戦闘は終了だ。

 俺は残る二匹を射程に入れて、二発目を繰り出そうとする。


「シスンさん。あのゴブリンは私が」


 背後から声がしたと同時に、俺の顔のすぐ横を射出された矢が通り過ぎた。

 次の瞬間、その矢はゴブリンの首筋に命中して、それは息絶えた。

 マリーさんの射撃だった。


 間髪入れずに二射目が放たれる。

 その矢は見事にゴブリンの眉間を射貫いていた。


「流石ですね、シスンさん」

「いえ、マリーさんこそ」

「ありがとうございます」


 マリーさんは笑顔で言った。

 射るところは直接は見られなかったが、狙いといい速度といい申し分ない。

 Sランクは伊達じゃなさそうだ。


「お二人とも、凄いです! あっという間じゃないですか!」

「本当だな……。マリーさんの弓の腕前は知っていたが、シスンくんも頼りになるようだ。ということは、その相棒のアーシェさんも……?」


 クラトスさんは視線を俺からアーシェに移動した。

 アーシェはその視線に気づいて、腕を曲げて力こぶを作ってみせる。

 だが、力こぶと呼ぶにはあまりにも貧弱で、筋肉質ではないアーシェのそれは、女の子らしく可愛らしいふにふにした二の腕だった。

 しかし彼女が自信満々の顔をしていたので、クラトスさんには何となく伝わったようだった。


「エステルさん、今回の遺跡調査は少し楽できそうだ。あんたが、ドジさえ踏まなけりゃな」


 クラトスさんが気になることを、さらっと言った。

 ドジを踏まなけりゃ……か。

 エステルさんは、そういう人なのだろうか。


「うっ……。で、ですねー! あたしも頑張りますっ!」


 エステルさんは一瞬言葉に詰まりながら、苦笑した。


 それから、何度か魔物(モンスター)を撃退して、俺達はバラフ山脈の麓に辿り着いた。


 マリーさんが矢を射るのも見ることができた。

 弓に矢をつがえて弦を引き矢を放つ。

 次の瞬間には放たれた矢は、魔物(モンスター)に突き刺さっていた。


 連射というのだろうか、マリーさんはとにかく発射間隔が短いのだ。

 続けざまに二射目、三射目を放つ。

 狙いを定めていないのではないかと疑いたくなるが、全て命中しているのだから凄いの一言に尽きる。

 相当な練度であることが窺えた。


 ここで一旦、休憩だ。

 昼食を摂って、北に進んでいく。

 見えてきたのは、だだっ広いナタリヤ平原だ。


 目的地の遺跡はナタリヤ平原のど真ん中にあるが、今から遺跡に向かっては日が暮れてしまう。

 俺達は近くの村で、一泊することになった。


「宿は取りましたので、皆さん自由行動としましょう。ただし、明日の遺跡調査に支障がでないように、できれば今日は早めに休息を取ってくださいね」


 マリーさんが手際よく宿の受付を済ませてくれて、俺達はその場で解散した。

 その後、俺達は装備や所持品の点検をして体を休め、翌日遺跡へと向かったのだった。

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