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山を越えて

「もうそろそろ、山の麓だな」

「そうね。山を下りて道なりに進めば、エアの街が見えてくるはずよ」


 アーシェが地図を見ながら、遠くの方を指した。

 俺とアーシェは山を下っていた。

 ドラゴンの件で、二ヶ月も街道が封鎖されていた影響で、普段よりもバラフ山脈を越える行商や冒険者が多いらしい。

 さっき言葉を交した行商のおばさんが、そう教えてくれた。


「でも、どうしてドラゴンが出たんだろう。この辺じゃ珍しいって話だけど」

「そうらしいわね。この辺りの魔物(モンスター)は手応えがないのよね。ところで、シスンはレベル上がったの?」

「上がってない。1レベル上げるのも、経験値が莫大だから苦労してる。アーシェは上がったんだろ?」

「ええ。私はレベル183になったわ」

「二ヶ月間の依頼(クエスト)で、結構な経験値を稼いだもんな」

「でも、シスンと一緒にパーティーを組んでる限り、一向に差が埋まらないわ」

「じゃあ、たまには別行動でもするか?」

「えっ!? …………それは嫌」


 二人で会話しながら歩いていると、後ろの方から俺達の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「おーい! シスン、アーシェ!」

「あ、ミディールさん」


 後方からやって来たのは、知り合いのパーティーだった。

 先頭を歩いているのは、巨大な斧を担いだ二十代後半の筋肉質の男だ。

 短く刈った赤髪と、顔に刻まれた大きな傷が特徴だ。

 ネスタの街では一番有名な、Aランクパーティーの【蒼天の竜(ブルードラゴン)】。

 リーダーである【重戦士(ヘビーウォーリア)】のミディールさんだった。

 そのミディールを筆頭に【賢者(ワイズマン)】、【高位神官(ハイプリースト)】、【剣闘士(グラディエーター)】と全員が上級職に就いている。


 マリーさんが、ネスタの街を拠点に活動している、この街で一番の冒険者紹介してくれていたのだ。

 ちなみに、俺達がネスタの街に来てすぐに、冒険者ギルドから直々に緊急依頼(クエスト)を受けて、別の街に行っていたので、会うのはほぼ二ヶ月ぶりだ。 


 過去にドラゴン討伐を経験しているらしく、俺達がこのバラフ山脈のドラゴンを討伐してなかったら、彼らが倒していたかも知れない。

 一緒に戦ったことはないので、確かな実力はわからないが、同じAランクである【光輝ある剣(グリッターソード)】より遙かに上だろうとは、俺の目にも映った。

 何より、彼らを担当しているのもマリーさんで、彼女からの信頼も厚かったのだ。


「緊急依頼(クエスト)から帰ってたんですか?」

「ああ、昨日な。それより、マリーから聞いたぜ。ドラゴンを倒したんだってな。やるなぁ」

「まぐれですよ」

「そうかな? お前達の実力がランクどおりじゃないってことは、マリーからの話で聞いてるんだがな」


 マリーさんがどういう説明をしたかは知らないが、俺達がBランク以上の実力を持っていることは伝わっているようだ。


「お前たちレベルはいくつなんだ?」


 ミディールさんが尋ねてきた。

 彼らのレベルは100前後だと聞いていたので、俺達もそれに合わせるべくアーシェと視線を交す。

 事前に、もしレベルを聞かれたら、相手より少し下で答えておこうと決めていたのだ。

 どうせ、本当のレベルは信じてもらえないだろうし。


「俺は95です」

「私も同じだわ」


 ミディールさんは俺達のレベルを聞いて、少し意外そうな顔をした。


「……そうなのか? 俺達より少し上くらいだと思っていたんだが」


 流石はAランクの冒険者だな。

 俺達の実力に少しは気づいたのだろう。

 その予測は俺達の実力とは大きく乖離していたが、相手が自分より上かどうかを判断できる目は持っているようだ。


「まぁ、冒険者登録をしてないヤツなんて、たくさんいるからな。シスン達のレベルが高くても、そんなに驚くことはない。シスンやアーシェみたいに若いのに強いヤツもいれば、年老いた爺さんでもクソほど強いのがいるからな」

「そうなんですか?」


 爺ちゃんみたいに強い人が他にもいるのか。

 一度会ってみたいな。

 俺はミディールさんの話に興味を持った。

 ミディールさんも俺の反応に気を良くして、懐かしそうに語った。


「俺がシスンくらいの年の話だから、もう十年は前になるけどな。ボリルの街で毎年行われている闘技大会に出場したんだ」

「そんな大会があるんですね。知らなかった」

「それで、俺は優勝したんだけどよ。闘技場を出るときに、変な爺さんが絡んできてな」


 ボリルの街で行われた闘技大会に優勝したミディールさんに話しかけてきた老人は、戦いぶりについてあれこれ指南してきたらしい。


 初めは変な老人に捕まったと、顔を顰めていたミディールさんだったが、次々に指摘される言葉が的を射ていたために、途中からは真剣に聞いていたという。


 話が終わる頃には、老人が相当な達人だと気づいて、手合わせを願い出たというのだ。

 老人は穏やかな笑みを浮かべながら、快諾したらしい。

 街から出て広い場所で老人と戦ったミディールさんは、完膚なきまでに叩きのめされたそうだ。


 老人はミディールさんに見込みがあるから鍛錬を積むようにと告げて、人を待たせているからと地下迷宮(ダンジョン)の方へ向かったらしい。


 ボリルの街の地下迷宮(ダンジョン)か。

 俺には若干のトラウマがあるんだけど……。


「大会で優勝したミディールさんに勝つなんて、そのお爺さん凄く強いんですね。世の中には強い人がまだまだいるのか……。楽しみです」

「その爺さんの正体を聞いた時には納得できたんだけどな」

「そうなんですか?」


 ミディールさんは一呼吸間を置いて言った。 


「ああ。なんと、その爺さんは…………あの有名な【剣聖(ソードマスター)】だったんだ」

「…………え!?」


 なんと、ミディールさんを倒したのは俺の爺ちゃんだった。


「お前も、名前くらいは聞いたことがあるだろう? 俺はあの【剣聖(ソードマスター)】と手合わせできたんだ。こんな経験滅多にないぜ。ちょっと羨ましいだろ?」

「あ、そ……そうですね」


 滅多にどころか、毎日手合わせしてたんだが……。

 無駄に驚かすだけだし、黙っておこう。

 と言うか、ボリルの街って俺が子どもの時に、爺ちゃんに置いてけぼりにされた地下迷宮(ダンジョン)があったところじゃないか。

 爺ちゃんは、俺を待ってる間にそんなことをしていたのか。


「シスン達は、エアの街に行くんだって?」

「はい。知り合いの旅芸人が興行をするので、見に行くんです。あと、息抜きにアーシェと観光しようかなって」

「そうか。ひとつ忠告しといてやる」


 そう言って、ミディールさんは俺の肩に手を回すと、耳元で小さく囁いた。


「エアの街には良からぬ輩も多い。面倒ごとに巻き込まれないように気をつけろ。特に奴隷商人のアンドレイという男には近づくな。いいな?」

「はぁ……」


 どうやら、俺とアーシェを心配して気にかけてくれているようだ。

 奴隷商人のアンドレイには近づかない。

 よし、わかった。


 ミディールさんは冒険者ギルド直通の依頼(クエスト)を受けているようで、別の街に向かうのだそうだ。

 俺達は山を下りると、それぞれ別の方向へと歩を進めたのだった。

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