王子
マズい!
王子は焦っていた。
女神の前に自分も居た。
女神の言葉は全て聞いた。
女神が指名した『サーシャ・ダゾン』は自分の側室だ。今は『サーシャ・ダッベン』と改名させた。ダッベンは王族の側室に与えられる身分名。
3年前に東の僻地に避暑に行った際に見初めた娘。
とても清らかで美しく、魅力的な彼女に一目惚れした。
その時既に2人の婚約者が居たが、それよりも魅力的だった。
婚約者は所詮政略結婚だ。愛など無い。いや、少しはあるが。
サーシャに惚れた自分は滞在期間を数日延長してまで村で彼女の近くで過ごした。
サーシャには幼馴染の恋人が居ると言っていたが、この気持ちは収まらなかった。美しく清らかな笑顔は天使のようだ。質素な衣類は彼女の見事な身体を隠しきれない。こんな僻地にこんな美少女がいるとは!
仕方なく一旦聖都に帰ったが、ひと月後にまた行った。目的はサーシャ。
一度間を空けたのが良かったらしい。
再会にサーシャは喜んでくれた。
自分も喜んだ。
幼馴染の悔しそうな顔は忘れない。
彼の表情こそがサーシャの心の変化に違いなかったから。
関係を深めるのに何日もかけた。
自分の立場と生活振りを披露。好意も隠さない。
或は彼女の目線まで降りたり。
サーシャは完全に心を開いてくれた。
ある夜、サーシャに思いの全てを全身でぶつけてみた。
始めは嫌がっていたが、身体を開くのは時間の問題だった。
極上の時間だった。
サーシャの身体は芸術的であり自分の肉欲を大いに満たしてくれた。
実は童貞を捧げた相手はサーシャだ。
私は婚約者には指一本触れられない。婚約者とは、そう言う物だ。
下手に抱けない婚約者なんて者が居るが故に欲求不満だった。
全てサーシャに受け止めてもらった。そしてサーシャの全てを味わった。
至高の時間を貰った。
それから毎晩だった。
幼馴染君が密かに探りに来た。
部下にはよほどの事が無ければ見て見ぬ振りをしろと言っておいた。
そう、私の物となったサーシャを見せるつもりだった。
ふたりの裸を見せるなんて恥ずかしくて出来る筈が無いと思っていたが、一度見せてしまうと変わった。
どうやったら幼馴染君に絶望を与えられるかポーズを工夫した。目線は合わせない。そこまで神経は図太く無かった。サーシャには快感と私への賛美を唄わせた。幼馴染君に聞かせる為だ。
翌日、影から幼馴染君を見ると絶望に包まれていた。
勝利を確信した。サーシャをモノにした!恋人に勝った!
満足だった!最高だった!優越感!
田舎の冴えない男相手の優越感など価値は無い筈だが恐ろしいほどの快感!
聖都で似たような事をしたならば非難されることもある。ここは田舎だ、側近と部下しか居ない。やりたい放題!
『一緒に来て欲しい』
サーシャに言うと彼女は
『連れていってください。お願いします』
と言ってくれた。
判っている。
サーシャはあの後暗い顔を何度もしていた。
この場から連れ出してくれるのを待っていたのだろう。
もう、幼馴染君に合わせる顔が無いからだろう。
全ては上手くいった。
私もこのご馳走を手放す気はない。
サーシャが『カイ』と心と力を合わせてだと?
どう言う事だ?
2人の愛の力か?
何て事だ!
確かにあの頃サーシャには幼馴染の恋人が居た。
彼がカイか。
マズい・・
今更サーシャを返すなどという事は出来ない・・・と、思う。
わざと彼の心を立ち直れないように仕向けたのだから。もう私の愛情は冷めている。サーシャを渡すことは構わない。だが、あれだけ盛大に破壊した二人の仲は戻るのか?
彼になんて言えば良いのだ・・
私が世界の破滅を呼ぶのか?
どうにか丸く収まらないだろうか・・