制限
なろう界を訪れて間もなかった頃、右も左も分からなかったので、ランキングを頼りにあれこれと探して読んだものである。ファンタジー、SF、パニックやアクション。どれもこれも新鮮だったので、結構楽しんでいたと思う。
しかしそれも、時が経つにつれて変わっていくことがあった。小説を読む時間よりも、小説を探す時間の方が長くなったのだ。最初のうちはどんなものでも楽しめていた。無双だろうがハーレムだろうが、なんでもだ。それがなぜ段々と楽しめなくなっていったのか。
それは、投稿される小説が、どれもこれも似たり寄ったりな内容のものが多数を占めるからに他ならない。主人公が異世界へと転移/転生する。その際に強すぎる力を貰ったり、幼少期からの特訓によって他の追随を許さない力を手に入れたり、あまつさえ、主人公にとって都合のいいことが必ず起こる展開だったりするからだ。
読み飽きた、というのもあるのだろう。
だが、飽きる、という事象にも明白な原因がある。
強すぎる力を手にした主人公の、幸せな終わりが確約された物語に、面白いと思える要素がどこにあるのか。冒険活劇といったジャンルなら尚更だ。山がなければ谷もない。主人公が必ず勝つように仕組まれた物語なんて、面白いはずがない。追放物やざまあものを見ると分かりやすいだろう。初めこそ主人公は惨めな扱いを受けるが、その後は主人公による一方的な展開しか待っていない。しかも小説の題名で全部分かるという親切設計だ。
面白いか? 私は面白いとは思わない。そもそも、読まなくても分かる内容の小説を読む行為が私には理解できないのだが。
ともかくとして、ではどのような形で話を作っていけば、面白くなるかもしれない物語を作ることができるのか。
手っ取り早い方法が一つある。
それは「制限」を設けることだ。
武器を例にしてみよう。
ありとあらゆるものを自由自在に切断できる、壊れない剣を持つ主人公。
切れ味は凄まじいが、耐久力に難のある剣を持つ主人公。
この二つを見比べたとき、どちらの物語が、より面白そうに見えるか。
多くの住人はおそらく、後者の方が面白そうだ、と思うに違いない。はずだ。
前者の場合、普通に無双物の物語にしかならない。苦労しなければ苦悩もしない。整備された道を淡々と歩くだけのつまらないものだ。一方後者はどうか。結論からいうと、展開に幅がありすぎて予測できない。切れ味は凄いが、すぐに壊れてしまう剣などポンポンと使えるはずがない。だから最初の時点ではその剣は取っておく、という選択がなされるはずだが、その先はどうなるか分からない。
先の展開が分からない。この先どうなるのか、という好奇心が刺激される。
それは読み手を惹きつける要素となり、引いては面白い! と思わせる材料となるはずだ。
とかなんとか語ってみたが、何かしらの制限(欠点ともいう)を主人公に持たせるなんて、物語を作る界隈では当たり前のことである。どこぞの野菜人は初期、しっぽを握られると力が抜けるという弱点があった。その後しっぽの弱点は克服したが、野菜人の性質からくる、戦闘を楽しむ癖から油断する、という弱点が追加されたが、それは物語が終わるまでついぞ治ることはなかった。
他にもあげればキリがないが、物語を盛り上げる為に何かしらの制限が必要なのは、誰が見ても明らかである。作家が作るどんな物語にも、なんでもできるチートな存在が存在しないことからもそれは証明されている。例外はなくもないが。
まとめると、チートな能力を主人公に付与する、というのは問題ない。
ただしそのチート能力に、何かしらの制限を設ける、という作業を行わなければいけない、ということである。でなければ、こんなの書き手のなんとか小説だろ、という非難を浴びることになるだろう。書き手が自身のためだけに書いた物語ほど、つまらないものはないからだ。
制限といえば、もう一つ。
これをきちんと意識して物語を作っている書き手はもちろん多数派なのだろう。が、それを全く意識せずに作っている書き手がいるのもまた事実。これやそれ、とは。
登場人物はもちろん、組織や団体。それに国家といったようなモノを作内で出してしまったのならば、それらに見合った制限をきちんと設けなければいけない、ということだ。いや、少し語弊があるか。人間や組織を作内で出したのなら、それらは書き手の意思とは無関係に、問答無用で様々な制限がかかる、といった方が正しいだろう。
例えば人間だ。
これは生き物であり、水と塩、それから肉や草などを定期的に摂取し、適度な睡眠を取らなければすぐに死ぬ、といった制限がある。
例えば国家。
王がいて、家臣がいて、貴族がいて、民がいる。一口には言えないくらいの膨大な制限がここでも強制的にかかっている。どんな制限なのか面倒なのでいちいち書かないが、普通は誰でも分かることばかりなので割愛する。が、それだと何なので一つ例を出しておこう。
とある物語のとある国家。
ある時このとある国家は、一人のイカレ野郎に宣戦布告され、襲撃されることとなった。イカレ野郎の力は強大で、国が有する兵士では歯が立たず、城や城下を好き勝手に蹂躙されてしまった。被害は甚大。たまたま来ていた隣国の王子も被害にあった。
しかしそこは物語の敵役である。隣国のとある施設に所属しているちょーつよい味方が現れてさくっと排除、事態は収束した。その後とある国家に引き渡されたイカレ野郎は紆余曲折を経ることもなく、件の施設へと強制労働の刑に処されることになった。
さて、国家というものにかかる制限を無視したことによって発生した矛盾が三つほどあるのだが……お分かりになるだろうか。やや説明足らずかもしれないが、一つも分からない、という住人はいないと思いたいところだ。
視点は極力固定し、語り口を考え、設定を練り、制限を設ける。
それだけで面白そうな物語になるはずだ。
……言う易しという言葉があるにはあるが、それはそれ。
読み専の私には何の関係もないことである。




