人称
一人称、三人称。
なろう界で使われる人称というのは、主にこの二つになるだろう。
以前にも触れたが、私は基本的に三人称の方が好みではあるが、なろう界での人気具合を見ると一人称の方が多いようだ。理由は端的に考えて「分かりやすい」からだと思われる。多くの一人称作品では、主人公がそれはもう懇切丁寧に読み手へと説明してくれるものがほとんどだからだ。それと、感情移入しやすい、というのもあるだろう。
例えば目にとまった人間の服装や容姿の説明だ。
まず、よくある一人称の主人公がやる説明は大体こんな感じになっている。
ここはとりあえず、エルフを発見したことにしよう。
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おぉ! エルフだ!
金髪で碧眼。中性的な見た目で外見からは性別が分からないな。動きやすそうな革の鎧に厚手の服を着ていて、何か刺繍の入った手袋と編み上げブーツを履いている。背中にはエルフの象徴ともいえる弓に矢筒! あ、腰には短剣が差してあるな。くぅ~! 想像通りすぎてあれだが、それでも生のエルフを拝むことができるなんて、異世界最高だぜ!
って、まてよ。あれが男だったらやばいぞ。思わず凝視してしまったが、バレたら変態どころじゃないしそもそもいくら美形でも男を眺める趣味なんて持ってねえ!
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どうだろうか。
なろう界の毒気にやられている住人だと、これに何の違和感も持てないどころか、上記のように分かりやすくて読みやすい内容、ということになるはずだ。
だがしかし。
私にとってこれはありえない表現であり、メタ発言を連発する非常識な作品という認識でいる。これが中々理解されないことであるから説明のしようがないのだが、一応しよう。簡潔に。
あなたは、他人を見たとき、上記のような詳しい感想を、脳内で繰り広げるのか。
ということだ。後半はともかく、前半の描写だ。学校や職場。飲食店や娯楽施設。およそ他人と遭遇できる場所というのは無数に存在するが、そこでたまたま目に留まった気になる人間の容姿を、詳細に、脳内で、正確な文字として語ることが、できるだろうか。
できないだろう。というより、そんな面倒なことはしないはずだ。
例えば、トラ柄の服に金色のズボン。髪の根本が赤で毛先が紫でかつ、パンチパーマのふくよかなおばちゃんを見かけたとしよう。多数の人間はまず、こう思うのではないだろうか。
「すげえ恰好のおばちゃんだな……」
物書きなどの職に就いている人間ならともかく、ごく普通の一般人なら間違ってもトラ柄の服に金色の……などと解説風に脳内で思ったりはしないだろう。つまりだ。先のエルフの例でいうなら、一人称の場合だとこんな感じになっていなければおかしいのだ。
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おぉ! エルフだ!
すげえ美人! いや美形か? つか男か女かわかんねえよ! いやどっちでも今はいいや。空想の産物をこの目で見ることができたってのが大事だな。服もなんかザ・エルフって感じだしマジ異世界来れて良かった~……。おっと、ちょっと見すぎだな。バレたらやばいからここから離れよう。どっちに転んでもこれじゃ変態だ。
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主人公は作家ではない。どころか、一般人という設定のものが圧倒的に多い。一般人ということは私たちとなんら変わらないということであり、つまりは「すげえ恰好のおばちゃんだな」という感想しか思いつかない人種なのだ。
よって、何の変哲もない主人公が懇切丁寧にあれこれを、微に入り細を穿つような様子で地の文で語るのは、設定的に矛盾しているのだ。だから、面白くない。
ということを感想で述べたことが、実は何度かある。
といってもこのエッセイほど詳細にあれがどうだこれがどうだと説明したわけではないが、話の骨子はきちんと押さえて感想を送ったつもりだ。が、私の予想以上に私のいう「設定の矛盾」については理解されなかった。理解されないどころか、私にとっては意味不明な返答が多かったのが記憶に残っている。一例をあげるなら、このようなものだ。
「(主人公が)説明しないと分からないだろ」
違う、そうじゃない。いや、違ってはいないが、そうじゃないんだ。
と、思いつつもあぁこれはアカンやつかとも思ったので、最近はそういう感想は書いていない。そもそも感想の内容を的確に捉えてくれる書き手が多くはない、というのもあったりする。
少し逸れた。
総括すると、一人称というものは基本的に主人公の脳内の思考がだだ漏れている状態のことをいう。よって、特殊な事情でもない限り語録が豊かすぎる思考をする主人公、というのはありえないのだ。しかしそうなると、周囲の状況や景色などをうまく読み手に伝えられなくなる。だから「主人公に説明させて」いるのだろうが、そこを工夫して違和感なく描写することができないのであれば、一人称の小説は諦めた方がいいだろう。
とはいえその手の小説がランキングに載っていたりするので、私のような意見は黙殺されるだろう。だがこれだけは覚えておいた方がいい。それは、なろう界でしか通用しない手法だ。
例が分かりにくいか。
文才の無さに精神的打撃が凄まじい。




