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台風が来た。
うちはピースが置いてくれてた米を食べに、みんなと工場へ来た。
次第に風が強まってきた。
ビニール袋や紙切れなんかが宙を舞っている。
いつもの電線があまりに揺れるので、屋根の辺りまで行こうと飛び上がったときだった。
いきなり大粒の雨が叩きつけ、突風がうちの身体をさらった。
目の前を小石が飛んでいく。必死に体勢を立て直そうとしたけど、背中から、全身に激しい衝撃が走った。
落ちてゆく。飛ばなきゃ。
翼が動かない。骨が折れたらしい。
地面が迫る。意識が遠のいてゆく。
ああ、うち死ぬんや。
薄れてゆく視界に、赤いお椀が見えた。
煙草の吸い殻。
ピース。
どれくらいの時間が経ったのだろう。曖昧な意識で、ただ感触だけがある。暖かい。
煙草の匂い?暖かい、雨?
わからないけど、うちは死んでしまったのだろうと思う。
しばらく声が聞こえていた。たぶんピースの声だと思う。そうだといいな。
この暖かさをもう少し感じていたい。
土の匂いがする。
冷たい。いや、暖かい。冷たいかもしれない。
わからない。ただ、今まで感じたことのない感触がうちを包んでいた。
ふと、ピースと初めて会ったときのことを思い出した。
「ええやろ。自慢やねん。」
うちはそう言って、くくっと笑ってみた。
うちは、誰かのぬくもりの中にいる気がした。