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#7「神御剣」

「俺と、決闘してほしい」


「ほう……?」


「え……ちょ、ダイゴさん!」


 勝手に事を進めてしまうダイゴに、シーラは驚愕しながら口を挟んだ。


「そんな、勝手に……」


「大丈夫だから。ちょっと任せてくれないか」


「決闘ねえ……詳しく聞かせろ」


「1対1だ。もしお前が勝ったら、ここの売り物でもなんでもくれてやる」


「交渉になってねえな……俺たちは元々、その売り物を奪いに来たんだ。それを賭けて決闘しようったって、交渉材料になってねえんだよ。分かんだろ?」


「だったら、俺が所属する傭兵団の資金もお前にやるよ。それから……これも」


 ダイゴはポケットから、緑の液体が入った小瓶を取り出し、男に投げた。


「ああ?目薬……?」


「使ってみろ」


 しかし、男はその言葉に疑念を感じたのか、部下の一人を呼び、彼に目薬を渡した。


「お前使え」


「俺っすか……毒薬じゃないよな……」


 部下はためらいつつも、しぶしぶ目薬を右目に垂らした。


「……おお、すげえ!なんか数字が浮かんできた!5655、隣には5890……って、兄貴の頭の上に出てます!」


「何!?」


 部下の言葉に、男は驚きを露わにする。


「魔力、量……?ってのが分かりますよ!あと、推定最大魔力量も……相手の実力が測れるわけだ!雑魚を選んで狩ることができますよ、兄貴!あ、俺はたった2100……やっぱ凄えな、兄貴は」


「成人男性の水準は魔力量4500……盗賊の割に結構やるようだな。とにかく、その薬の小瓶が今、あと3つある。お前が勝ったら全部やる。悪い話じゃないだろ?」


「なるほどな、確かに貴重なブツだ……いいぜ、この決闘受けてやる」


 この薬に興味が湧いたのか、男は急に態度を変えて決闘を快諾した。そして、小瓶のコルク栓を閉めると、それをダイゴに投げ返す。


「あっ……兄貴、返しちゃっていいんすか?」


「構わねえ。どうせ俺が勝つからな。それより奴の魔力量をさっさと測れ。どうせ俺より下だがな」


「うい……んっ!?なんだァ!?」


「どうした?」


「兄貴、こいつ魔力量0っすよ!推定最大魔力量も!敵じゃないどころか、ゴミ中のゴミっす!きっと口だけの雑魚っすよ!」


「ゼロぉ?ククク、はははははっ!そんな奴に決闘を挑まれるとはなァ!」


 二人は完全にダイゴを侮り、嘲笑する。ほかの盗賊もくすくすと笑う。


(やっぱりボクの見間違いじゃない……ホントに魔力が無いんだ、ダイゴさん……!)


「先に言っておくぜ。俺はこれでも剣術の心得があるんでな……傭兵だろうと、魔力0のゴミごときは簡単に叩き潰せる。降参して俺らの奴隷にでもなるんなら、命だけは助けてやるぜ?」


「御託はいい。決闘、受けてくれるのか」


「ああ……いいぜ。どうせ俺の圧勝に終わるがな」


 茶髪の男は手元のナイフを投げ捨て、背中のに携えた柄から長剣を抜いた。よく手入れされ刀身が光っているその剣は、盗賊が使うものとは思えない。


「ああ、始まってしまう……どうして勝手にあれこれ決めてしまわれるのだ」


「大丈夫ですよ、ダイゴさんなら」


 怯えるリクに対し、シーラは諭すように言う。しかしシーラもまた、不安を抱えていた。彼の魔力切れは、明らかにハンデとなってしまう。そのことが心配だった。


(大丈夫ですよね……ダイゴさん?)






「準備いいかよ?」


「ああ。始めよう」


 若葉のしげる草原の上で、ダイゴと茶髪の男は向かい合って立つ。お互い利き手に剣を握り、構えた。


「後悔すんじゃねえぞ……後悔する暇も与えねえがな」


 戯言を並べる男に対し、ダイゴは無言の視線で答える。


「では……始めッ!」


 盗賊の一人の合図と共に、2人は同時に走り出した。


(まずは……受けてみるか)


「どらあっ!!」


 先に剣を振り上げたのは、茶髪の男だ。縦に強く振り下ろされた鋼鉄を、ダイゴは踏ん張り、自らの剣でがっちりと受け止める。二つの剣は鋭い音を立ててぶつかり、そしてひしひしとおたがいの刀身を擦り付け合う。


「そこそこやるようじゃねえか……だが、これでどうだ!」


 男は一歩引き、そこからすぐに2撃目を繰り出す。今度は横一直線。ダイゴはそれを斜めの剣撃で受け流した。


「おら!おらァッ!!」


 続けて、縦横2撃ずつの鋭い斬撃。ダイゴは首を狙う横の一撃をしゃがんでかわし、縦の一撃は先ほどと同じように斜めに受け流す。なかなか一撃を叩き込めない男の顔に、苛立ちが見え始めた。


「てめえ!さっきからご丁寧に防御ばっかしやがって……イライラすんだよ!」


「勝手だな……じゃあ、次はこっちから行くぞ」


 ダイゴは呆れながら言い、今度は自分の方から男に突っ込むと、目にも留まらぬ速さで右手の剣を振り上げた。


「ぐおっ……!?」


 ギリギリでどうにか剣を受け止めた男だったが、その顔には冷や汗が浮かんでいる。


 ダイゴは無言で一歩引くと、すぐさま次の一撃を繰り出す。腹めがけて突き刺されんとするダイゴの剣を、またしてもギリギリで、男は弾き返す。致命傷を食らう寸前に立ち続ける男とは対照的に、ダイゴの顔には汗一つ無く、ただ真剣な表情で敵を見つめている。


「やめにしないか?別におごっているわけじゃないが、それがあんたの実力だとしたら、多分俺には勝てない」


「なっ……」


「武器を捨てろ。早く」


「ぐっ……てめえら!」


 男は激昂しながら突然、自分の部下たちに叫んだ。


「何ポケっと見てんだ!さっさとこいつを殺せ!!」


「待て!1対1の決闘だって言っただろ!お前も承諾したはずだ!」


「知るかよ……文句を言うなら、この俺をここまでコケにしちまった自分自身に言うんだな!」


 男の部下たちは、その言葉を待ってましたと言わんばかりに剣を握り、ダイゴに近づいていく。全員馬車を離れ、ダイゴの周りを取り囲んだ。


「リクさん!この結界の外からなら、魔術は撃てますよね!?」


「ええ……ですが、結界の入り口ににたどり着いた時点で、魔術は消滅してしまう。それが、マニードルの平和を保っている"魔術不可侵"の地脈石の力なのです」


「そんな……」


 全員を一気に倒せる可能性のあるシーラの魔術も役に立たない。もちろんリクも彼らと同レベルの戦闘などできるはずもなく、2人は馬車の陰から見ていることしかできない。ダイゴは覆しようのない4対1の状況に追い込まれてしまったのだ。


「……分かった。だけど、俺もそれなりの対応をするからな」


「何?」


「本気を出す……ってことだ」


 この状況においても、ダイゴに焦りは見られない。彼は右足を後ろに引き、右手を握った剣ごと後ろに引く構えをとった。左手は照準を定めるように、自分の左を取り囲む盗賊に向ける。そして集中するように目を閉じた。


「へっ、なんだその構え方?スキだらけなんだよ!」


 ダイゴと向かい合った盗賊は、短剣を片手にダイゴに襲いかかる。そのままダイゴを斬り殺そうと、剣を振り上げたが__


「……な、なんだそれは!?」


 足がすくみ、彼の目の前で立ち止まる。それもそのはず__ダイゴの背後に、武装した侍のような姿の、亡霊にも似た半透明の人影が立っていたのだから。黒髪を後ろで縛った男の姿をした人影は、ダイゴよりも一回り大きく、人間とは思えない極めて威圧的なオーラを放っている。まるで神がそこに降臨しているかのように、輝かしかった。


神御剣(かみつるぎ)……"イザナギ"!!」


 言い放つと同時に、ダイゴは前方に鋭く剣を突き立てた。


「うああ……うわあああ!?」


 それと同時に、ダイゴの背後に立っていた人影が、自身の持つ光り輝く剣を盗賊に向けて突き刺した。


「ぐあああああああっ!!」


 刺されたと言うより、剣で殴られたかのような痛みと共に、衝撃で強く吹き飛ばされた盗賊は、そのまま顔面から地面に激突して気を失った。


「な、な、なんだ今の……!!」


「バケモンかよ……やべえ、やべえって!!」


 ダイゴの周りを囲んでいた盗賊たちは戦慄し、最早まともに戦うことなどできなくなってしまった。彼らが思わず落とした剣が地面に当たると同時に、リーダーの茶髪の男以外の全員が逃げ出した。


「おい、お前ら……!!」


「お前にも、罰が必要だな」


 ダイゴはそう言うと、再び先ほどの構えをとった。男は足がすくみ、逃げることもできない。


「まっ、待て!!待ってください!!」


 だが、悪人の必死な叫びに、ダイゴは一切耳を傾けない。そして、再び彼は言い放つ。


「……イザナギ!!」






「ダイゴさん、どうして魔術が……」


 リーダーの男を倒したダイゴを見ながら、シーラが言う。


「お嬢さん。あれは魔術ではありません」


「え?で、でも、あの感じは……」


 不思議なオーラを纏った、あの人影。何より、ダイゴが何者かを召喚してた時点で、あれは魔術以外の何者でもない__シーラはそう思っていたが。


「まさか、本当に使える人間がいるとは……"神御剣"を」


「かみ、つるぎ……?」


「神々の剣の型を完璧にコピーすることで、現世に神々を一時的に召喚し、その力を借りることができる剣術。あれは大洋の向こう、東の国に伝わる神、イザナギですな。見た目の派手さが魔術に似通っているが故に、"魔力を使わない魔術"と言われております。伝説上の力だと思っていましたが……」


「そんな力が……」


 ダイゴは倒した2人を引きずりながら、シーラたちの方へ戻ってきた。4人中2人には逃げられてしまったが、その2人も当分は悪事を働かないだろう。


「リクさん、縄はありませんか?とりあえず、こいつらを縛っておきたいから」


「ええ。売り物ですから、あとで彼らに代金を頂くとしましょう」


 リクはそう言って、荷台の木箱を漁り始めた。


「ダイゴさん、お疲れ様です。あの、魔力量が0なのって、もしかして……」


「ああ、生まれながらの特異体質……みたいなもんだ。体調に影響は無いから大丈夫だよ」


「良かったです。ボク、具合悪いのに無理してるんじゃって、心配で……」


「そりゃ、心配かけたな……ありがとう。シーラは優しいな」


「え……やや、そんなこと……」


 シーラはまたも顔を紅くする。これで何度目かも分からない。


「さてと……こいつらを逮捕しなきゃいけないし、リクさんの馬車も走れなくなっちまったし、騎士軍を呼んでくるしかないな……シーラ、騎士軍の知り合いと連絡とったり出来ないか?」


「えと……ごめんなさい。難しいです」


「だよな……それに連絡したくもないか。仕方ない、ギルベイスまで走って行ってくる」


「え……何キロもありますよ!?」


「大丈夫。30分で戻るから、そいつら見張っててくれ」


 ダイゴは踵を返し、すぐさま走り出した。先ほどまで激しい戦いをしていたとは思えないエネルギッシュさだ。


「行っちゃいましたね……」


「全く奇想天外です……ですが、とても()い方だ」


 当たり前です……ボクの恩人ですから。


 口に出すのはどこか気恥ずかしくて、シーラは心の中でそう答えた。


 夕日に照らされながらまっすぐに駆けるダイゴの姿は、まるで無垢な少年のようだった。

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