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#24「少女よ、いざ」

「こっち、こっち」


 傭兵団の建物を囲う柵の向こうから、ミエラは手招きする。


「ミエラさん……?」


 彼女は働く時のウエイトレスの服のまま、外に立っていた。


「はやく。バレたら怒られる。労働増やされる」


「あ、はい」


 それに、"ミラージュ"の効果も消えつつある。ミエラに視認されたのがその証拠だ。さっさとここを離れた方がいいだろう。


 月が浮かぶ優しい西の空と、火炎が立ちのぼる地獄のような東の街。二つに挟まれながらシーラは柵を乗り越えると、ミエラに手を引かれるまま彼女について行く。


「もうちょっと遠くに行く」


 相変わらずの抑揚のない声で、ミエラはそう言う。民家と街道に挟まれながら、シーラの視界には、灰色の髪を風に揺らす彼女の後ろ姿だけが映る。4足の靴の足音が地面とデタラメに響きあう。


「あの、ミエラさん?どうしてこんなに手を貸してくれるんですか?」


「ミエラ、シーラのこと気に入った。だから助けてあげる。ふふーん」


 シーラの手を引き続けるミエラは、道を外れた狭い民家の裏に入り込むと、そこで立ち止まった。


「ミエラさん……?」


「シーラ。パンツ見えない格好してる?」


 彼女はシーラの方を振り向いて、突然言った。


「え……?」


 数秒間、質問の意味を理解できなかった。


「……はい!?」


「あっ、ズボン履いてるね。じゃあ大丈夫」


「あ、あの、なんでそんなこと……」


「えっとね」


 赤面するシーラと対照的に、ミエラは全く表情が変わらない。


「これからやることに関して重要。でも、まず聞きたいことがある」


「聞きたいこと……ですか?」


「うん。シーラは、街に行って何をするつもり?」


 決まっている。


「……苦しんでいる人たちを助けに行きます。魔物を倒します。出来るかわからないけど……敵の兵士も、倒さなきゃいけないなら……」


 徐々に自分の声が小さくなるのが分かった。正直に言えば、戦いたくはない。いくら決意したところで、覚悟を決めたところで、自分も死にたくないし、相手を殺してしまうのも嫌だ。


「……とにかく、誰かを助けるために戦います。ダイゴさんたちは許してくれないだろうけど……それでも、一人でもボクは戦いに行きます」


 シーラは言った。それが奪った命への償いであり、この時代を兵士として生きる覚悟の証であった。


「…………そっか」


 なぜか悩むように沈黙したミエラだったが、すぐに納得するようにそう呟くのだった。


「今から、シーラを向こうの方にワープさせる」


「え……ワープですか!?」


「うん。そのために、シーラの魔力を体に記憶しなきゃだった」


 だから、噛み付いて血、もとい魔力を吸った。そういうことだろう。


「今指を鳴らせば、一瞬で向こうに行ける。だから準備が出来たら言って」


「はい。もう大丈夫です。行けます」


 シーラはすぐに答えた。長く考えて、心に迷いを産みたくはなかった。すぐに行動を起こしたかった。


「わかった。じゃ、こっち来て」


 シーラは頷き、彼女に一歩近づいた。


 どうやってワープするのかと思いながらまっていると__


「……?」


 柔らかい感触と、いい匂いがした。


 ミエラは、シーラの体を強く抱いていた。


「死んじゃダメだよ。ミエラはシーラが好きだから助けるの。死んでほしくて送り届けるわけじゃない」


 彼女は初めて、感情がはっきりとともる声をこぼした。不安げな声色であった。


「……死にませんよ。生きて、叶えたい願いがありますから」


 生きて、英雄に__そうは明かさなかった。誰かに話さずともいい。"英雄"は、この胸の中に抱くだけでいい。


「帰ってきたら、もっとちゃんとお話がしたいです。だから待っててください」


「……うん」


 ミエラは頷き、シーラを抱く両腕を離した。燃える街から漂う焦げ臭い風が、シーラの頰を撫でた。


「いくよ」


「お願いします!」


 シーラは言い、そして両腕に力を集中し始めた。血とともに全身を巡る魔力。それを両腕に結集していく。その手には希望の光が灯る。


「……"テレスト"」


 ミエラはそう言い、右手で指を鳴らした。


「…………あれ?」


 空気の焦げ臭さが増し、周囲が赤くなった。


「……グァ?」


 そして、魔物が目の前にいた。


「…………いや、前触れとか無いんですかぁ!?」


 叫ぶシーラに向かって、黒い犬のような魔物が突進を仕掛けてきた。


「ガァァ!」


「おおぉぉぉぉぉ!?」


 寸前でとっさにしゃがみ、ギリギリで回避する。魔物は攻撃を外して着地すると、すぐに方向転換してシーラに向かい合い、睨むように鋭い牙を見せた。


(ミエラさん、流石に突然ここに飛ばすのは……)


 おそらく正確に場所の指定ができないのだろうが、流石に肝を冷やした。額を伝う嫌な汗を拭い、シーラはすでに魔力の溜まりきった両手を掲げた。


「ガラァァ!!」


「"セイント・ブレード"!」


 再び首筋に噛みつかんと飛び出してくる魔物を前に、シーラは手のひらの前に光の剣を作り出した。蓄積した魔力を一気に使って再生した剣は、濃く強い輝きを放っている。


「やああああっ!」


 シーラは飛び出してきた魔物の横をすり抜けるようにしてかわし、すれ違いざまにその頭に剣を叩きつけた。体を真っ二つに引き裂かれた魔物が血を噴き出し、断末魔も無く倒れる。


(よし……魔物ならまあ、ふつうに戦える。殺したいわけじゃないけど)


 そう思いながら見つめていた魔物の骸は、少しずつ粒子のようになって消えていく。体の構成物の多くを魔力が占める魔物のうち、あまり強くない個体は死ぬとこうして消滅するのだ。


(よし、次!)


 シーラは踵を返して走り出した。やることは二つ。行く先に魔物がい次第、倒す。襲われている人がいたら助ける。シーラが一人でできることは、きっとそれだけだ。だけど、きっとそれで沢山の人を救える。だから、彼女は走るのだ。


「………れか!」


「!?」


 走り抜ける彼女の耳元にすれ違う、叫び声。横を振り向くと、10歳ほどに見える幼い少年が、崩れ落ちて瓦礫となった家のそばで泣き叫んでいた。


「大丈夫!?」


 シーラは大声で呼びかけ、すぐに彼の元へ駆けつける。近づいて見てみると、少年がそこにいる理由がわかった。


「お母さんが……!」


 シーラに気づいた少年は声を絞り出し、訴えるように彼女にそう言った。


「………………」


 瓦礫の下に、気を失った女性が下敷きになっていた。きっと少年の母親だ。


「……大丈夫。今助けるから」


 シーラは少年に微笑みかけてそう言った。そして、右手に精神を集中させる。


「"エンジェル・フィスト"!」


 光り出した右手が、巨大な天使の神々しい拳に変わる。その大きな手で瓦礫を持ち上げると、彼女は思いっきり持ち上げた。


「ひっぱり出せる!?」


「う……うん!」


 少年は頷き、母親の腕を掴んで、必死に瓦礫から引きずり出す。足元までしっかり出てきたのを確認すると、シーラは手からこぼすように瓦礫を地面に落とした。同時に、天使の拳が消滅し、もとの白く細い手に戻った。


「お母さん……!」


 引きずり出した母親は、しかし意識がない。シーラはすぐさま、彼女の胸に耳を当てた。拍動は正常だ。浅いが呼吸もしている。


「大丈夫、気絶してるだけ……"ヒール"」


 血が流れている彼女の頭に手をかざし、シーラは治癒魔術を唱えた。少しずつ傷が塞がり、流れる血も止まっていく。


(騎士軍基地に運んで……いや、かえって危ないかな……)


 これが魔晶王国の攻撃だったら狙われているのはあの基地だろう。何より、燃える街の中枢に自ら近づくのはあまり賢い選択とは思えない。


 なるべく街の外側で、安全を確保できる場所。一つ心当たりがあった。


「街はずれに、"リバース"っていう傭兵団があるの。そこに__」


 少年に言いかけたその時。


「__!?」


 感じたのは、殺気だった。


「久しぶり。傭兵の女の子」


 シーラはゆっくりと振り返る。彼女の前に歩み寄ってきたのは、白いフードを被った人間。


「…………白蛇……!」

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