第六話 オーディション
「じゃあ、チビ。 次はお前な」
「ユウキだ。 次言ったら殴る」
見た目に反してバイオレンスな男、ユウキは背が低い。
特にコンプレックスを抱いているわけじゃなさそうだが、でもまあ……ムカついたんだろうな。
「ドラム、あるのか?」
「この部屋一応は音楽準備室だからな」
ヒエンは壁際まで歩いて、コートハンガーを横にずらす。
するとその奥からドアが現れた。
「私物化がすごい」
「俺の部屋を音楽準備室として使ってるが正解」
この自信、というか豪胆さはどこからくるんだろうか。
ドアを開けた先には、使われなくなって久しい楽器たちが眠っていた。
イガラシが言っていたとおりに、元軽音部の備品らしきアンプやドラムもある。
「うわー、ひでぇチューニングだ」
「そりゃあ、何年もここで眠ってるわけだからな」
昔誰かが勝手に叩いた痕跡なのか、殆どセットされた状態のドラムを軽く叩くと、ユウキはドラムのチューニングを始めた。
鞄からスティックを取り出し、椅子を調整し、金物の位置を少しずらすと、一呼吸置いて演奏が始まる。
シャッフルビート、16ビート、フィルを入れてドラムソロ。
「ほぉ……」
興味深そうに腕を組んで、ヒエンは演奏を聞いている。
俺のときと態度が違わないか? ぶっ飛ばすぞ。
○
一通り演奏を終えると、ユウキはスティックを回しながらドラムセットを一瞥しこう言った。
「学校の備品って意外といいモン使ってるんだな」
「確かに」
俺が使ったアンプも、まあまあいい値段する物だし、他にもまだいろいろ転がっている。
かつての軽音部が、かなり学校から搾り取ってくれていたのだろうか。
俺たちが触るまで眠ってただなんて勿体ねえ。
「俺ドラムソロの必要性がわからんのだが」
「いい度胸してるなお前」
俺たちが備品に目を移していると、ヒエンがそう言って視線を戻した。
……思ってても普通ドラマーの前で言うか?
「わからんのだが、今のはよかったんじゃねーかな。 多分」
「ホントかよ」
「世辞を言えるタイプじゃないだろ」
俺がそう言うと、ユウキは「それもそうか」と、素直に評価を受け入れた。
評価と言っていいのかこれは。
というか、ピアノ以外の楽器に造詣深いわけでもないのに、このオーディションは意味があったのだろうか?
「ま、入るつもりではいたから、ぶっちゃけオーディションは余興なんだけどな」
「「殴っていいか?」」
俺とユウキを宥めるトウゴのポジションは、この時不動のものとなった。