表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
We are EMESIS  作者: 凩
5/15

第五話 ヒエン

「おい」

「ああ、おはよう」

「そうじゃねぇよ」


 翌日の教室、俺と同じクラスのノッポことトウゴは、すっとぼけた挨拶を俺に送る。


「お前、俺のこと話したな」

「軽音部したいからな」

「ったく……」


 意外にも、トウゴは軽音部に執着があるようだ。

 メンバーが気に入ったのか、ただ部活をしてみたいだけなのかは知らんが。


「俺としてはゴメンなんが、マネージャーがやたら勧めるんだよ」

「ユズちゃんのことマネージャーって呼ぶのはやめろよ」


 どういう理由で勧めているかは知らんが、アイツがあそこまで推すから、気圧されて見学に行く約束をしてしまった。


 ていうか、見学も何も部活そのものがまだないじゃねぇか。 ラッキー。


「見学に来るか?」

「え? どっかでやってんの?」


 スタジオとか借りてんのか?

 金もかかるのにご苦労なこった。


「いや、第2音楽準備室でやろうってキョウスケが」

「ふざけんな!」


 第二音楽準備室は半ば……というか俺の部屋だ。

 なんて計画立てやがるんだキョウスケ。


「ともかく、メンバーの3人で行くからよろしくな」

「お前も人の話聞かないな……」


 ……観念するか。

 ユズにも勧められたことだし。


「もう一人はどんな奴だ?」

「背が低くい」

「……そんだけ?」


 ダメだこいつ……役に立たねぇな。


 まあ、キョウスケとノッポとかいうヤバめのやつが2人も来るんだから、あと一人増えたってどうってことねぇか。


「はぁ……。 気が重い」

「元気出せ」

「殴るぞ」



 ○



 やーっと放課後だ。

 退屈な授業が終わり、俺は伸びをしながら解放をよろこぶ。


「ホントにいくの?」

「ああ、多分トウゴが伝えてるだろうし」


 隣に来たユウキが、やれやれ顔で話しかけてくる。

 放課後に"ヒエン"のところへ押しかけると、昨日3人で決めたのだ。


「迷惑がられて入部してくれないんじゃない?」

「迷惑? どうして?」

「……おーう」


 わからないな。

 昨日も別に多分嫌がってなかったし、そもそも学校設備なんだから行ったって怒られる道理がない。


「……ま、いっか」



 ○



「よぉ、来たぞ」

「ホントに来やがったな」


 コーヒーを片手に、心底嫌そうな顔をしたヒエンが我々を出迎える。


 学校の一部とは思えない私物化された部屋には、電気ケトルやらエスプレッソマシーンやらが置いてある。

 どういうことだよ。


「で、何しに来たんだ」

「勧誘」


 ハァー、とため息を付いたヒエンは、難しそうな顔で話を始めた。


「俺のマネージャー、まあ妹なんだけどがさ──」

「いやまてまて」

「何?」

「昨日言ってたマネージャーって妹!?」


 コイツやべーな。

 妹にマネージャーやらせるとか正気か……?


 しかもコイツが同い年ってことは、妹はせいぜい中学生とかだろ?

 頭おかしいんじゃねぇのか。


「おう。 そんでその妹が、入ってみたら? って言うわけよ」

「何で妹にマネージャーさせてんだ」

「俺がおざなりだから、勝手にやるようになってた」


 えぇ……。

 疑問はあるが、これ以上聞いても無駄な気がするし追求はやめとこう。

 と心の中で思っていると、ヒエンは話しの続きを始めた。


「そんでまぁ、妹が”社会性が多少身につくかもしれないから”とか言って、入部を勧めてきたわけよ」

「妹がしっかりしてんのか、お前が一等やべぇのかどっちだろうな」


 どっちもだろうな、と隣のユウキが小声で呟いたのが聞こえた。


 しかし、妹ちゃんが勧めてくれたのならこちらとしてはラッキー。

 多少ヤバイやつでも腕が半端じゃないし、何より頭数が揃う。


「だから入部するのもやぶさかじゃあないんだが、お前らに俺と組む価値があるか知りたい」

「大丈夫かコイツ」


 さっきまで比較的おとなしくしていたユウキが、痺れを切らしてそう言った。


 しかしヒエンの不遜な態度は、それをするだけの理由と価値が、彼にあるからだ。


 幼少の頃よりコンクールを荒らし、若くしてオーケストラと共演。

 海外のファンも多く、動画サイトで彼の演奏は一千万再生を記録。


 しかしテレビには出ない、雑誌の取材も受けない。

 一見孤高のピアニストであるかのようだが、その実……。

 ”ピアノが上手いから生きるのを許されてる””人前に出しちゃいけないタイプの天才”

 これらの評価は、彼のアンチスレに書かれていた言葉……らしい。


 故に、自分に近づいてくる人間への警戒心が強いのも、まあわかる。

 ……妹にマネージャーしてもらってるのもホンの少し納得だ。


「と、いうわけでちょっと弾いてもらう」

「もう何も言うまい」


 俺たちは観念して、持ってきた楽器を取り出す。


 俺が持ってきたギターは24フレットのミドルクラス。

 家に何本かあるうちの1つだが、一番軽いからこれを持ってきた。


 トウゴもベースを取り出そうとしたのだが「お前は知ってる」、と言われて試験は免除されていた。


 ユウキは……ドラムセットここにないし、実質俺1人のオーディションか。


「どうぞ」





 リムスキー・コルサコフ作曲、 Flight of the Bumblebee。

 日本では”熊蜂の飛行”と呼ばれている曲だ。


 しばしばテクニックを示す場面で演奏されることがあり、エレキギターの速弾きギネスはこの曲で行われる。


 ……ので、俺はこの曲を披露することにした。

 あんまり頑張っても仕方ないので、BPMは160くらい。

 しかしこれでも結構早い。


「何でそのチョイスなの」

「コピーしようと思った理由が知りたい」


 何か無意味にディスられているが、弾いている間はちょっと集中するので「黙ってろ」以上のことを言い返せなかった。


 とりあえあず弾き終わって先程のギネスの件を説明すると、微妙に納得はしてくれた。


「どうだった?」

「……」


 頬杖を付いて聞いていたヒエンが、若干気難しそうな顔をしてこちらを見ている。

 気に食わなかっただろうか? 俺としては悪くなかったと思うのだが。


「俺ギターの良し悪しとかわかんねぇわ」

「ぶっ飛ばすぞ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ