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「よしよし」

 味噌汁にむせた翌日、私は青々と茂る田んぼににんまりしていた。

 家業を継ぎ、山あいの過疎化の進む集落の農家となった私だけれど、今まで通りの農業をしている訳では無い。確かに、米を中心として育てているけれど、その米は大山の牛の餌となる米だ。これだと、農薬や肥料、かける手間をかなり省けるので、集落の田の四分の一を占めていた我が家の田をひとりで面倒を見つつ自家用の畑もやり、ついでに『ムルス』のダンジョンにも潜ることが出来たのだ。それに、税金やら経費やらを取られても、補助金と合わせることで少しだけ収入が出来る。農薬については魔法で代用していることもあり、かなり楽をして儲けることに成功しているのだ。

「さて、と」

 谷間の田を見て回った後、軽トラを運転して急な斜面の段々畑へ行く。

「こっちも良い感じだねえ」

 こちらで育てているのは、今はサトイモだ。時期が来れば、隣の畑にタマネギも植える。これらが、私のメインの収入だ。魔法で品種改良した後、これまた魔法で土壌水分量やpHを調整し、肥料分についてもモニターしているので、こちらもあまり手がかかっていない。魔法本当便利。

 ここら辺の段々畑は、元々谷さんご夫婦の畑だったのだけれど、離農して街で暮らすということだったので十年程前に買い取ったのだ。これが大失敗。離農したいという集落のジジババや使い道の無い田畑を抱えて困っていた集落出身だけれど集落の外で暮らしている人達に田畑を押し付けられ、結果集落の過疎化が進んでしまったのだ。今では、この集落にいるのは私含めて十人。しかも、私以外は七十過ぎという超高齢化集落なのだ。

「はあ……」

 集落の田畑の七割、しかもほとんど段々畑なものをひとりで面倒見るとか、どうあがいても不可能だ。普段の生活で魔法を解禁するきっかけとなった事件である。

「こっちは、日当たり不足かなあ?」

 谷の上流の方のクリ畑のクリは、あんまり元気が無かった。ただでさえ日当たり不足気味の山陰で、今年は更にくもりが多いから仕方ない。こればかりは今使える魔法ではどうしようもないので諦め、集落に戻る。

「おーい! 原さーん!」

 ゆるゆる軽トラを走らせていると、集落手前の田んぼで呼び止められたので止まる。

「どうしました森さーん?」

 軽トラから降り、田んぼの真ん中から畦へと移動している森哲郎さんの下へ行く。

「トマト穫れすぎたんで、ウチの嫁さんから貰ってくれー!」

 森ご夫妻は、八十過ぎてもラブラブなのだ。独身としては羨ましい。

「ウチもジャガイモ余ってるから、交換しましょー!」

「助かるー!」

 軽トラに戻り、一旦自宅に戻る。私用倉庫からジャガイモを肥料の袋に半分入れ、歩いて森さんの家へ行く。そこでは、森桜さんと大田福さんがしゃべっていた。

「こんにちわー」

「あらフウカさん、こんにちわ」

「こんにちわ。良い天気ですねえ」

 なお、今日は薄曇りである。

「森さんの旦那さんから、トマト穫れすぎたって聞いて。ウチもジャガイモ穫れすぎてるんで、交換しません?」

「あら、まあ! 良いですよ! フクさん、ちょっと失礼しますね」

「いえいえ。フウカさん、ウチもキュウリが穫れすぎましてねえ。折角なんで、持って行って頂戴」

「なら、フクさんの分もジャガイモ持って来ますね!」

 そう言って自宅と一往復。すると、桜さんと福さんが私が置いていったジャガイモで盛り上がっていた。

「立派ねえ。原さんとこのジャガイモ、元からおいしかったけど、フウカさんの代になってからもっとおいしくなりましたよねえ」

「ですねえ。折角なんですから、売れば良いのにねえ」

「ただいまー。売れますかねえ?」

「それはもう!」

「絶対売れますよ!」

 「なら来年から増産しようかな?」と考える。とりあえず、道の駅で様子見かなあ?

「フウカさんが来る前までは、こんな山中で豊作なんて無かったのに、ここのところずっと豊作で困るなんてねえ」

「ですねえ。流石国立大行っただけのことはありますねえ」

「そ、そうかなあ?」

 私は照れてみせる。確かに、魔法を使ってずるはしているけれど、元となる知識は大学で勉強したし、その知識は集落の人達に惜しげもなく教えてきた。だけれど。

「でも、それは皆さんも頑張ったからじゃないですか?」

 すると、二人はケラケラ笑った。

「それでもよ」

「フウカさんが色々教えてくれなかったら、頑張りようも無いわよ」

「ねえ」

「それもそっか」

 私は、『ステータス』を上げて、ちゃんと勉強しておいて良かったと、心から思った。

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