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大田福さんに勇気付けられた翌朝。私は、働いている社員だけでなく研修中の社員や偶々来ていた馴染みの弁護士、協力していくれている自衛隊の人達を『第二百六十四番ダンジョン』の前の広場に呼び出した。自然と整列していて、何だか面白かった。
私は、彼らの前、ダンジョンの出入り口の方に木箱を起き、その上に立つ。不思議そうな顔をする彼らを前に、私は息を吸い、話し出した。
「大切な話をします」
「我々『合資会社原ダンジョン探索』は、現在造っている炭窯が出来上がれば、炭と木酢液だけで毎月三千万円の利益を出せるようになります」
「この会社を立ち上げた当初の『ダンジョンで稼げるようにする』という目標は、これで達成されます」
盛り上がろうとした社員達を、私は「しかし!」と黙らせる。
「そもそも、何故ダンジョンの探索をしているのでしょうか?」
一同を見回す。流石に自衛隊の方々は知っているようだったけれど、他の方々は分かっていないようだった。
「それは、ダンジョンは放っておくと、ダンジョン内のモンスターが増え、そしてダンジョンの外へ出てくるようになるからです」
驚き、ざわつく社員達。一応公開されている情報ではあるけれど、この情報は調べないと知り得ないものだ。右手を軽く上げて黙らせ、続ける。
「皆は一度はこのダンジョンに潜ったから知っていると思いますが、一般に公開されているダンジョンのモンスターは弱いです。ですが、子供相手なら十分殺せるだけの凶悪さがあります」
「そして、残念なことに、公開されていないダンジョンで、探索が進んでいないダンジョンは多くあり、また、公開されているダンジョンについても、いくつかは十分に探索が行われずモンスターが増加しています」
「このダンジョンに湧く『ウッドパペット』ですら、何百もダンジョンから溢れてきたら、十分この近辺を滅ぼせるでしょう。これは、実際に国がシミュレートした結果でもあります」
「この、十分にダンジョン探索が行われていない現状は、明確な人類の危機です」
しん、と一同は静まり返った。自衛隊の人達ですら、現状を甘く見ていたらしい。
「……そこで、私は提案します」
この危機をチャンスにしませんか? そう言うと、皆は顔を見合わせる。
「ダンジョン探索は、明らかに利益を出せます。それは、私たちが証明しました。なら、ダンジョン探索を活発に行えるようにすれば、もっと利益を、わが社だけでなく、全国、いや世界的に出すことが出来ます」
「私の提案は至ってシンプルです。ダンジョン探索を加速させ、利益を出すついでに人類の危機を回避する。私たちがそれのきっかけとなることで、それを実現します」
「皆さん、どう考えますか?」
すると、あちらこちらから声が上がる。
「やろう!」
「やってやろう!」
「俺達なら出来る!」
「それが出来たら、俺達は英雄だ!」
「ついでに稼ごう!」
それは、まさに熱狂だった。私は満足し、「よろしい!」と場を沈める。
「では、始めましょうか! 私たちの戦いを!」
この日から、『合資会社原ダンジョン探索』は新たな目的に向かって走り出すこととなった。