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「「行ってきます」」
「「行ってらっしゃーい」」
『合資会社原ダンジョン探索』の朝の儀式と化している、探索組の見送りが終わると、残された私達も動き出す。
「一号窯からの炭の取り出しは昨日終わって、今日は二号窯の火入れ。予定通りだね」
炭窯が稼働を始めてからはやひと月。会社の滑り出しはかなり順調だった。
「先月の生産量は炭三トン、木酢液六百キロ。木酢液の方は、細ネギとジャガイモ、ホウレンソウの適量の割り出し完了」
大学の恩師に頼んで来て貰った社員さんが張り切っているので、野菜が元気に育つ『ダンジョン木酢液』の適量は順調に割り出せている。ネット等で宣伝した効果もあったのか、早速北海道の農家さんから注文があり、木酢液の方の売り上げも順調に増えている。
ただ、問題もある。
「木タールが二百キロ貯まってるんだよねえ……」
『錬金術』が使えれば、副産物である木タールもすぐに消費出来るのだけれど、肝心の『錬金術師』がいない。
「私がやってもいいけどねえ……」
知識も技術もあるので、やろうと思えば私も『錬金術』を扱える。ただ、それをすると、国から色々疑われそうだ。
「……ちょっと聞いてみるかあ」
そう決め、元々自宅だったものを簡単に改装しただけの事務所の社長室兼応接室を出て、『第二百六十四番ダンジョン』の前へ。
「東さーん、今いいですかー?」
「いいですよ」
緊急時のために常駐している四人の自衛官の一人である、東二等陸曹に色々聞くことにしたのだ。
「ニュースで、ダンジョンから帰って来た探索者が超人的な力を身に付けていた、ってやってたんですけど、本当ですか?」
「ええ。ダンジョンのモンスターを倒すと、極々稀に『オーブ』というものが落ちるのですが、それに触れると変わった力を扱えるようになるようです。それがどうかしましたか?」
「いや、炭作ると木酢液の他にも木タールが出るんですけど、これが薬とかニスとかに使われてたみたいなんですよ。で、折角なんで、何か、こう、魔法? みたいな力を持った人に加工してもらったら、面白いものが出来るんじゃないかな、って考えたんですよ」
我ながら話の持って行き方が強引だな、と思いつつ、東さんの返事を待つ。
「……なるほど。ですが、現時点ではそういった変わった力を持った人は国の管理下にあります。何せ、その力が人体にどういった影響を与えるのか分からないので」
顔を引きつらせる。確かに、この世界の人達は魔法とか『スキル』とかとは無縁だった。なら、真っ当な組織ならその影響を調べるのは当たり前のことだ。
何故思い当たらなかったのだろう。自分に呆れつつ、残念そうに、顔を引きつらせたまま言う。
「あー。なら、そっち方面は諦めた方が良さそうですねえ」
「……一応聞いてみましょうか?」
「へ?」
「ですから、そういった変わった力を持った人をこちらに派遣出来ないか、上に聞きましょうか?」
思いもしなかった言葉に、私は「お願いします!」と頭を下げた。