第1章 その1
「まさか晴くんがコスプレしているとは思わなかったよー。」
俺もまさかレイヤーさんを撮りに撮りまくってたとは思わなかったわ。
七月初め。俺はついにコスプレしていることがバレた。
この情報は瞬く間に校内中を流れわたるだろう。そう思って絶望感満載な状態の中数日間登校していたのだが…
学校中どころか、学年にもクラス内にも俺がコスプレすることは知られなかった。
知られているのは阿賀野由衣ただ1人だけだった。
「で、由衣。何枚撮ったんだ?」
「んーと。三十組ぐらいで二百枚ぐらいだったかな?」
流石だった。というか撮り過ぎだろ。
「ねー!はーるくーん!」
威勢のいい声の持ち主が教室に入ってきた。
赤髪でサイドツインテール。スラっとした体系でとても元気な女子が俺の席の真横にドンッと立った。
そして彼女は俺の耳元でこう囁いた。
「晴くんコスプレするんだって?」
「なっ!?」
「図星だ。まあ誰にも言わないようにしておくよ。」
――訂正しよう。俺がオタクでコスプレすることを知っているのは今のところ阿賀野由衣と長良由香の二人だ。
長良由香とは俺と由衣の友達で高校に入ってからの付き合い、双子で弟の結城がいる。学食で毎日俺と由衣。そして長良姉弟の四人で会って話しているので長良姉弟のことはよく知っている。
……まあこれ以上バレないように頑張ります。
「ところで由香。」
「ん?なになに~?」
「教室戻らないでいいのか?」
「……」
「……」
由香はちらっと前を見た。
教師が立っているのにようやく長良姉は気づいた。
教室内を無音が支配する。
「……す、すいません。」
そう言って長良姉はそそくさと教室を後にした。